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[2019年6月21日:更新]
[2019年3月14日:公表]

あなたの歯科インプラントは大丈夫ですか−なくならない歯科インプラントにかかわる相談−

*詳細な内容につきましては、本ページの最後にある「報告書本文[PDF形式]」をご覧ください。

 歯科インプラント治療(以下、「インプラント治療」という)とは、歯が抜けたところの顎(あご)の骨に人工の歯の根(インプラント体)を埋め込み、その上に人工の歯を作るものです。長期間の機能と審美性の回復が図れることで、自身の生活の質(QOL:Quality of life)の向上が期待される治療法で、ブリッジや入れ歯のように残っている歯に負担をかけずにしっかりと人工の歯を固定できることが特徴です。

 2011年12月、当センターは「歯科インプラント治療に係る問題−身体的トラブルを中心に−」を公表し、その後、関係歯科医学会・行政機関において、適切なインプラント治療の推進のため、治療指針が策定される等の対策が行われています。

 一方、PIO-NET(注1)には、インプラント治療に関する危害情報(注2)が、2011年の公表直後も毎年度60〜80件程度寄せられています。内容を見ると、手術直後から痺(しび)れがとれない、治療前に患者の身体状態を確認せず施術されたなどインプラント治療指針に沿っていないと思われる事例のほか、歯科医師が治療を断念して、どのように治療を継続したら良いかわからないなどの事例もみられます。

 そこで、相談情報を分析するほか、インプラント治療の経験者に対しインターネットアンケートを実施し、あらためて消費者に対し情報提供するとともに、消費者トラブルの未然防止・再発防止のため、関係機関へ要望及び情報提供を行います。

  • (注1)PIO-NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム)とは、国民生活センターと全国の消費生活センター等をオンラインネットワークで結び、消費生活に関する相談情報を蓄積しているデータベースのことです。
  • (注2)PIO-NETにおける危害とは、商品・役務・設備に関連して、身体にけが、病気等の疾病(危害)を生じた相談を指します。

危害を生じたという相談の概要

  • 2013年度以降の約5年間に409件(2018年12月31日迄の登録分)寄せられており、毎年60〜80件程度寄せられています。
  • 契約購入金額の回答があった相談240件のうち70.4%(169件)は50万円以上の契約であり、46.3%(111件)は100万円以上の契約でした。
  • 部位のほとんどは「口・口腔(こうくう)・歯」であり、その内容を分析したところ、痛み、インプラントのぐらつき・脱落・要撤去、腫れ、化膿(かのう)等が多くみられました。
  • 身体症状が継続した期間について記載があった相談211件のうち、身体症状が1年以上継続したという相談は48.3%(102件)で、さらに20.9%(44件)は3年を超えて身体症状が継続したという相談でした。91.9%(194件)は、相談受付時に痛み等の身体症状若しくは身体症状に対する治療が継続しているというものでした。

主な相談事例

【事例1】
インプラント治療の相談に行った次の予約日にいきなり手術され、出血が止まらず入院した。
【事例2】
インプラント治療のリスクが上がる骨粗しょう症の薬を服用していたが治療された。
【事例3】
手術直後から痛みや痺れが生じたが経過観察とされた。

インプラント治療の経験者へのアンケート調査

  • インプラントは入れ歯、ブリッジよりも満足度は高い。
  • インプラント治療の満足な点は「よく噛める」。不満な点は治療費の負担が高額なことや破損、ぐらつきも。
  • 手術を受けた歯科医療機関を選んだ理由は「かかりつけの歯科医」が最も多い。
  • 手術中や手術後のリスクについて説明もしくは書面を渡された人は4人に1人。
  • 手術前にCT検査を受けた人は6割程度、特に検査も質問もなかった人は2割程度。
  • 4割程度の人がメインテナンスを受けていない。

問題点

  1. 治療前の全身状態が把握されていないことがある。
  2. 歯科医師のスキル、知識が十分でないことがある。
  3. 治療後の不具合への対応方法が不適切なことがある。
  4. 日頃の口腔清掃や定期検診が重要な理由を知らせていないことがある。
  5. インプラント治療に関する専門的知識や技能を有する歯科医師が必要。

消費者へのアドバイス

  1. インプラント治療を受ける場合は情報を収集し、治療前には歯科医師に口腔内及び全身の状況、治療方法や費用、リスク等に関する説明を求めましょう。
  2. インプラント治療で不具合が生じた場合は、他の医療機関への相談も検討しましょう。
  3. 歯科インプラントを長持ちさせるには、自分自身での適切な口腔清掃と定期検診やメインテナンスが欠かせません。

歯科医師会及び関係学会等への要望

インプラント治療指針のより一層の周知及び、消費者がインプラント治療の専門的知識や技能を修得した歯科医師や歯科医療機関を選べるための取組みを要望します。

要望先

  • 公益社団法人日本歯科医師会(法人番号2010005004051)
  • 日本歯科医学会(法人番号なし)
  • 一般社団法人日本歯科医学会連合(法人番号5010005025185)
  • 一般社団法人日本歯科専門医機構(法人番号5010005028337)
  • 公益社団法人日本口腔インプラント学会(法人番号2010405009154)
  • 公益社団法人日本顎顔面インプラント学会(法人番号3010405009293)

情報提供先

  • 消費者庁 消費者安全課(法人番号5000012010024)
  • 内閣府 消費者委員会事務局(法人番号2000012010019)
  • 厚生労働省 医政局 歯科保健課(法人番号6000012070001)
  • 厚生労働省 医政局 総務課(法人番号6000012070001)
  • 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(法人番号3010005007409)
  • 公益社団法人日本口腔外科学会(法人番号3010405002884)
  • 公益社団法人日本補綴歯科学会(法人番号3013305001031)
  • 一般社団法人日本歯科医療管理学会(法人番号7013305002793)
  • 特定非営利活動法人日本歯周病学会(法人番号5013305000857)

要望への回答 ※2019年6月21日 追加

「公益社団法人日本口腔インプラント学会」より

 貴センターよりご要望のありました標記のことにつきまして、本学会から以下のとおり回答いたします。

 インプラント治療指針のより一層の周知及び、消費者がインプラント治療の専門的知識や技能を修得した歯科医師や歯科医療機関を選べるための取組みを要望します。

要望1

 インプラント治療は、消費者のQOL向上が期待される治療法ですが、PIO-NETには、インプラント治療自体を行うべきではなかったと思われる事例など、治療指針に沿っていないと思われる治療が行われた事例がみられます。また、トラブルの対処方法についても治療指針に沿っていないと思われる事例がみられます。治療指針が浸透していないことが伺えることから、さらなる周知を要望します。

回答

 インプラント治療を患者のQOL向上に正しく役立てるには、患者の主訴を十分に理解し、患者の全身状態、局所状態を検査し、その状態と治療法について十分なインフォームドコンセントを行うことが重要である。またこのインフォームドコンセントの中には治療法、治療期間、残存率、回復後の状態、治療に対するリスク、合併症、費用などがすべからく含まれる。これらは医療安全の点からも医療者の熟知が求められる事項であり、日本口腔インプラント学会はインプラントを行う歯科医師が備えるべき知識の整理、対応すべき治療技術の要覧を口腔インプラント治療指針として2012年に刊行した。この治療指針は2016年に改訂され、現在さらに改訂作業が進められている。また治療安全に焦点を当てた口腔インプラント治療とリスクマネジメントが2015年に刊行され、こちらも治療指針と並行して改訂が進められている。両刊行物ともに学会ホームページに掲載されており、万人が閲覧可能である。PIO-NETに寄せられた事例から、治療指針に沿っていない例が見られることは日本口腔インプラント学会にとって不本意であり、早急な対応が肝要である。

 日本口腔インプラント学会では、全会員に向けたメールマガジンの配信を行っており、このようなメディアを用いた治療指針等の情報の送達を徹底する。併せて学術集会、講演会、研修会等の機会に情報の発信を行い、情報の重層的な認知を促す。また、貴センターの報道発表の例にあるように国民目線の貴重な課題に関して、臨床エビデンスに基づいた最適な治療法の提示ならびに意思決定ができるよう、口腔インプラント治療を施術する歯科医師やそれを受ける国民に対して世界的なコンセンサスの得られた推奨を発信し続ける必要があると認識している。このために、研究推進委員会を中心として診療ガイドラインの作成に取り組んでおり、これらの成果の即座の公開を行い診療での応用を図ることとする。

要望2

 また、歯科医師養成機関の歯科大学や大学の歯学部では、インプラント治療がカリキュラムにも盛り込まれつつあり、また、学会では、歯科医師向けに技術向上のための講座も実施されているところですが、歯科医師のインプラント治療を行うスキル、知識には差があることが伺えます。消費者がインプラント治療の専門的知識や技能を十分に修得した歯科医師や歯科医療機関を選べるための取組みを要望します。

回答

 インプラント治療には口腔外科学、歯科補綴学、歯周病学、臨床検査学等の専門的、且つ包括的な知識と治療技術が必要である。日本口腔インプラント学会では、このようなインプラント治療を通して国民生活の質の向上を図るべく、学術集会、講演会、研修会、シンポジウム等の開催を行うことにより学会会員の口腔インプラント治療に関する知識レベルや技術レベルの向上を図っている。しかしながら、治療経験の違いや間断なく登場する新手法、新材料受容の相違などが歯科医師各々の治療水準の画一性を欠くことにさせていることは否めず、それが患者の歯科医師や歯科治療機関の選択を惑わすことに繋がっていると考えられる。そこで日本口腔インプラント学会は、何よりも国民の福祉に貢献することを目的として、インプラント学に関わる更なる学識と高度な専門的技能を有する歯科医師の養成を図るために専門医制度を整備した。日本口腔インプラント学会専門医制度は認定委員会、試験委員会、教育研修委員会が中心となって運営管理が為されており、専門医の取得と更新は適切かつ公正に行われている。

 今後の対策として、日本口腔インプラント学会では前述のように「治療指針」「リスクマネジメント」等を整備し、学術大会、講演会、研修会、セミナー等のあらゆる機会を通じて会員への医療モラルの周知を徹底し、さらに非会員に対してもホームページでの公開により学習可能な体制を一層充実させる。本会はこのように「誘引広告」の排除に取り組んでおり会員への指導も行っているが、非会員への指導を行うことは困難である。「誘引広告」の排除には厚生労働省、日本歯科医師会を中心にインプラント治療に関連する学会と共同して法律の遵守を指導し、推進する必要がある。


本件連絡先 商品テスト部
電話 042-758-3165

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