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[2019年3月:公表]

マンスリーマンションの入居者に公共放送の受信契約締結義務を認めた事例

 本件は、マンスリーマンションに入居してNHK(日本放送協会)の放送受信料を支払った消費者が、放送法64条1項の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に当たらないから、本件受信契約は公序に反して無効であると主張して、1カ月分の放送受信料1,310円を請求した事例である。

 裁判所は、「『協会の放送を受信することのできる設備を設置した者』とは、受信設備を物理的に設置した者だけでなく、その者から権利の譲渡を受けたり承諾を得たりして、受信設備を占有使用して放送を受信することができる状態にある者も含まれる」と判断して、受信契約締結義務を認め、消費者の請求を棄却した。

 マンスリーマンションにおけるNHKの受信料支払い義務について、参考になる判決である。(東京高裁平成29年5月31日判決<上告不受理により確定>、裁判所ウェブサイト掲載)


事案の概要

原告:
X(消費者)
被告:
Y(NHK:日本放送協会)
関係者:
A(Xの勤務先会社)、B(不動産会社)、C(Yから受信料の契約締結・収納業務を委託されている会社)、D(Cの従業員)

 Xは、A(勤務先会社)の指定により、2015年10月19日、Bが提供する部屋(以下、本件物件)に入居した。なお、本件物件は建物の所有者からBが賃借したものであり、Xの退去予定日は同年11月27日とされていた。本件物件にはXの入居時、Bにより既にYのテレビジョン放送を受信することができる受信機(以下、本件受信機)が設置されていた。

 同年10月28日、Cの従業員Dは本件物件を訪問し、Xに対しYとの間で受信契約を締結する旨の法律上の義務があると説明して、同契約の締結を求めた。Xは、放送受信契約書に署名し、Yに対して同年10月分および11月分の受信料2,620円を支払った。Xは同年11月20日に本件物件から退去し、Yは2016年8月23日にXに対し、Xが支払った受信料のうち、2015年11月分である1,310円の受信料を返金した。

 その後Xは、本件物件に受信機を設置したのは自分ではなく、本件物件のオーナーであるから、Xは放送法64条1項所定の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に当たらない、Xには受信契約を締結する法律上の義務はなく、受信料の支払い義務もない、したがって、本件受信契約は、放送法64条1項所定の受信契約の締結義務者でないXが締結したものであり、強行規定である放送法64条1項という公序に反して無効であると主張して、10月分の受信料1,310円の返還を求めた。これに対してYは、「Xは放送法64条1項所定の『協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者』に当たるというべきである」と主張して、これを争った。

 第1審判決は「本件物件に本件受信機を据え付ける私法上の権原を有すると考えられる本件物件のオーナー又はBであることが推認されるところであり、少なくとも本件物件に本件受信機を据え付けたのはXでないことは明らかである」と判示して、Xの請求を認容した。

 これに対して、Yが控訴した。

理由

 裁判所は、以下のように判断して、第1審判決を変更し、Xの請求を棄却した。

 放送法64条1項の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」とは、受信設備を物理的に設置した者だけでなく、その者から権利の譲渡を受けたり承諾を得たりして、受信設備を占有使用して放送を受信することができる状態にある者も含まれる。Yが直接費用負担を求めるだけの実質的な関係を有する者、すなわち受信設備により放送を受信することができる状態にある者であることを要し、かつ、それで足りる。

 仮に「受信設備を設置した者」に受信設備を物理的に設置した者以外は含まれないと解した場合には、住居がテレビ付きで売却される場合のように、物理的・客観的な状態が変わらないけれども放送受信契約を負う者が交代する事態の説明に窮する。また、上記解釈では、いったんテレビが据え付けられたからには、物理的・客観的にテレビが撤去されない限り、最初に放送受信契約締結義務を負った者がいつまでも義務を負うこととなるが、これでは直接費用負担を求めるだけの実質的な関係がなくなった者にまで受信料の負担を負わせることになって、同項の趣旨に反し、相当でない。

 以上のとおりであるから、同項の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」とは、「受信設備を物理的に設置した者だけでなく、その者から権利の譲渡を受けたり承諾を得たりして、受信設備を占有使用して放送を受信することができる状態にある者も含まれる」。このように解することは、同項の趣旨に合致した合理的な解釈であるうえ、文言解釈としても可能であって、文言解釈からかけ離れた恣意(しい)的な解釈ではない。「受信設備を設置した者」は、テレビジョン受信機の所有関係とは直接の関係がないものである。

 本件において、本件物件には所有者またはBによってテレビジョン受信機を据え付けられているところ、Bはテレビジョン受信機付き本件物件をAに賃貸したものであること、Xは、Aの指定により、2015年10月19日に本件物件に入居し、同年11月20日に退去したが、この間本件物件に居住し、同所に据え付けられたテレビジョン受信機を現実に占有・管理して、Yの放送を受信し得る状況を享受していたこと、Xが同年10月28日に本件受信契約を締結したことは前認定のとおりである。Xは、所有者またはBによって設置されたテレビジョン受信機付きの本件物件を、Bから借りたAの指定を受けて、これを占有使用して、Yの放送を受信し得る状況を享受する者であるから、設置者の承諾を得て受信設備を占有使用して放送を受信することができる状態にある者であり、放送法64条1項の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当する。Xが本件放送受信契約に基づき受信料として支払った1,310円は法律上の原因があるから不当利得は成立しない。

解説

1.第1審判決

 本件は、テレビ受信機が既にBにより設置された短期の賃貸マンションにおいて、放送法64条1項本文のNHKとの受信契約締結義務を負う(したがって受信料支払義務を負う)「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」(以下、設置者)の該当性が争われた事例である。

 第1審判決は、設置者を「本件物件に本件受信機を据え付ける私法上の権原を有する」者とし、設置者をBと推認して、Xについてはこれを否定した。Yの主張は「受信することができる状態を作出した行為者を問題とすることなく、法64条1項が専らYの放送が受信可能な受信設備の占有・管理を基準とするしくみを採用している」というものであり、「失当である」と判示していた。

2.本判決

 ところが、本判決は、受信設備設置者を「受信設備を物理的に設置した者だけでなく、その者から権利の譲渡を受けたり承諾を得たりして、受信設備を占有使用して放送を受信することができる状態にある者」も含むとした。Bが設置者かどうかは認定されていないが、二重の義務負担を認めるわけにはいかないのでBは設置者ではないことになる。

3.検討

 受信契約締結義務は私人が決められるものではなく(この点は租税と同じ)、契約書は決め手にはならない。また、ホテルと異なり実費負担というのは、電気、ガス、水道の契約者とは別の内部関係の問題である。固定電話が設置してある場合には、通信契約についても問題になる。賃貸人がこれらの実費を請求できるに過ぎず、水道等について短期の入居者が入居のつど契約をすることは予定されていない。

 受信料も賃貸人・賃借人間で期間に応じて実費「負担」するという契約になっているだけであり、そのつど賃借人が受信契約をすることを要求しているとは思われない。ホテルとは、内部的な負担のしくみが異なるだけのように思われる。すなわち、Bが設置者であり、居住者の有無を問わず、賃貸経営を行っている限り、入居者の有無を問わず受信料支払い義務を免れないと考えられる。第1審判決のほうが市民感覚に合致しているように思われる。

 本判決後も、参考判例[5]および[7]が、本判決と同旨の判断を示している。また、本件は上告されたが、上告不受理となっており、最高裁の判断は示されていないものの、本判決の結論が容認されている(参考判例[6])。

参考判例

  1. [1]東京地裁平成28年7月20日判決(LEX/DB)NHKを受信できなくする装置(フィルター)に関する訴訟(消費者側敗訴)
  2. [2]さいたま地裁平成28年8月26日判決(LEX/DB)ワンセグ訴訟
  3. [3]東京地裁平成28年10月27日判決(LEX/DB)本件第1審(消費者側勝訴)
  4. [4]水戸地裁平成29年5月25日判決(LEX/DB)ワンセグ訴訟(消費者側敗訴)
  5. [5]熊本地裁平成30年3月5日判決(LEX/DB)
  6. [6]最高裁平成30年8月29日決定(LEX/DB)本判決の上告審
  7. [7]福岡高裁平成30年9月18日判決(LEX/DB)[5]の控訴審判決