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[2018年11月:公表]

土地の所有権放棄が権利濫用等に当たると判断された事例

 本件は、土地の所有権を放棄した結果、国が所有権を取得したと主張して、消費者が国に対して所有権の移転登記を求めた事例である。

 裁判所は、不動産の所有権放棄を一般論としては認めたものの、本件での消費者による所有権放棄は、財産的価値の乏しい土地の管理費用や責任を国に押し付けようとするもので、権利濫用(らんよう)等に当たり無効であると判断して、消費者の請求を棄却した。

 一般論として不動産の所有権放棄を認めた点、権利濫用等により規制されることを示した点において、参考となる判決である。(広島高裁松江支部平成28年12月21日判決、LEX/DB掲載)


事案の概要

原告・控訴人:
X(土地所有者)
被告・被控訴人:
Y(国)
関係者:
A(Xの曾祖母)、B(Xの父親)

1 事案の経緯

 「本件土地1」および「本件土地2」(両土地をまとめて「本件各土地」という)は、1935年3月22日当時、Xの曾祖母であるAが所有していた。Xの父親であるBは、相続によって本件各土地の所有権を取得し、2014年9月18日、本件各土地の相続登記を行った。Xは、本件各土地を将来的に相続する可能性が高くなったと考え、よく分からない土地を将来的に延々と保有し続けることについて釈然としないものを感じ、Bに対し「このまま置いておくと、本件各土地は将来的に自分が相続することになるが、今のうちに自分の責任で処分したいので、本件各土地を贈与してもらいたい」旨を申し出た。Bはこれに応じ、2014年10月1日、Xに対し、本件各土地を贈与した。Xは、同年10月17日、贈与を原因とする所有権移転登記をし、同年10月23日、本件訴訟を提起し、「本件訴訟提起をもって本件各土地の所有権を放棄する旨の単独の意思表示をしたことにより、その所有権を喪失し、本件各土地は所有者のない不動産となった結果、民法239条2項*1により、国であるYが本件各土地の所有権を取得した」と主張して、Yに対し、本件各土地について、本件訴訟提起の日である2014年10月23日放棄を原因とするXからYへの所有権移転登記手続をすることを求めた。

2 本件土地(山林)について

 本件土地1は、2014年度の固定資産税評価額が47万3,083円、年税額が7,569円の山林である。本件土地2は、2014年度の固定資産税評価額が6,763円、年税額が108円の山林である。

 本件土地1は23,084m2の山林であり、本件土地2は330m2の山林であるが、いずれも民家や県道、鉄道の線路に近接している。本件各土地は、いずれも、いまだ隣地との境界が確定していない。XとBは、本件各土地について、これまでに、固定資産税の支払いを除き、何ら管理を行ったことがなく、本件各土地はいずれも地上に樹木が生い茂った状態である。

3 国が土地を取得したならば生じる負担

 本件各土地の境界確定作業を行う場合、それに要する費用は、本件土地1につき495,482円、本件土地2につき25,194円を下らない。本件各土地について巡回警備を行う場合、それに要する費用は、1回当たり3,320円を下らない。本件各土地に単管柵を設置する場合、それに要する費用は、10m当たり31,479円を下らない。また、本件土地1につき、第三者が侵入可能で単管柵を設置する必要のある境界の距離は、約320m程度である。本件各土地の草刈りを行う場合、それに要する費用は、1m2当たり20円を下らない。また、本件各土地を適切に管理するために草刈りが必要となる面積は、本件各土地のうち約1,631m2である。本件各土地の枝打ち(枝の切り落とし)を行う場合、その費用は、樹木1本当たり899円を下らない。

4 第1審判決

 第1審判決は、「財産的価値の乏しい本件各土地について、その管理に係る多額の経済的負担を余儀なくされることとなるものであることを併せ考慮すれば、本件各土地の負担ないし責任をYに押し付けようとするものに他ならず、不動産の所有者に認められる権利の本来の目的を逸脱し、社会の倫理観念に反する不当な結果をもたらすものであると評価せざるを得ないのであって、権利濫用に当たり許されない」「Xによる本件所有権放棄は権利濫用に当たり無効であり、Yは本件各土地の所有権を取得していないから、Xの請求は理由がない」として、Xの請求を棄却した。そこでXが控訴した。

  • *1 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。

理由

 Yが本件各土地の所有権を取得した場合、Yにおいて、直ちに隣地との境界を確定させ、本件各土地の範囲を明らかにする必要があるから、そのために測量費用の支出を余儀なくされるものと認められる。また、巡回警備、単管柵設置、草刈りおよび枝打ちについても、これらが本件各土地の「良好な状態での維持及び保存」のために必要であることは明らかであるから、そのための費用の支出も国有財産法9条の5*2の規定から直ちに要請されるといわざるを得ない。

 以上によれば、不動産について所有権放棄が一般論として認められるとしても、Xによる本件所有権放棄は権利濫用等に当たり無効であり、Yは本件各土地の所有権を取得していないから、Xの請求はいずれも理由がない。これらを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却する。

  • *2 各省各庁の長は、その所管に属する国有財産について、良好な状態での維持及び保存、用途又は目的に応じた効率的な運用その他の適正な方法による管理及び処分を行わなければならない。

解説

1 所有権放棄の一般的可能性

 規定はないが、権利は権利者が自由に放棄できると考えられており、所有権も同様である。ただし、他人の土地に廃棄物を捨てるなど、他人に迷惑をかけるかたちでの所有権放棄は許されず、法令に従った処分が求められる。家庭ごみは、ごみの回収手続きに従う必要があり、粗大ごみは各地の条例に則って回収されることになる。家電などの処分についても家電リサイクル法による規制があり、ペットについても動物愛護法による規制がされている―自分の所有物でも自由に処分ができない―。この意味で、所有者には責任が伴い、自由に所有権放棄ができるわけではなく、他人に迷惑をかけるかたちでの所有権放棄がされても、それは無効と考えられる。

2 所有権放棄が無効になるための法的構成

 所有権放棄の無効原因であるが、国は権利濫用または公序良俗違反ということを主張し、第1審判決は権利濫用と構成した。本件判決は、「権利濫用等」と国の両方の主張を容認するような表現に変更している。ただし、第1審判決が権利濫用を問題にしたため、控訴審では権利濫用が議論されており、もっぱら権利濫用の判断がなされている。

3 「負動産」問題

 不動産については、明治時代になされた登記のままになっている所有者不明の不動産、空き家のように、所有者は分かっているが、所有者が相続により取得した不動産につき価値を認めずその管理を行っていない不動産―いわば「負動産」―が、現在社会問題になっている。2014年11月には、いわゆる空き家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)が制定され、従来代執行*3ができなかった所有者不明の場合にも代執行が可能になった。相続登記の義務化など権利関係を正確に登記に反映するしくみも作ることが検討されており、2020年までに不動産登記法や民法などが改正予定である。

4 土地所有権の放棄

 土地所有権の放棄についてルールを設けている国もあるが、日本には、この点の特別規定は置かれていない。では、Xが主張するように、無主の不動産は国の所有になるので、不動産の所有者が自由にその所有権を放棄―国に対する意思表示(単独行為)―でき、所有権を取得した国に対して所有権移転登記への協力を求めることができるのであろうか。

(1)無制限に認めるのは問題―立法が必要

 倒壊のおそれのある廃屋について撤去費用が惜しいので、その所有権を放棄するのは、廃棄物を他人の土地に投棄するのと同様に許されるべきではない。放棄がされるのは、通常は価値のない不動産であり、寄付や物納とは事例が異なり、立法により要件や手続きを明記することが好ましい。これがない現在、民法の解釈としてどう考えるべきか、議論があり、学説には放棄を認める主張もある。

(2)現行民法解釈

 本判決は、初めての高裁判決であり、[1]まず、「不動産について所有権放棄が一般論として認められる」ということを傍論として認めた点が注目される。権利濫用にならなければ、要件や手続きを定めた規定がなくても放棄が可能なことになる。[2]次に、権利濫用により規制されること、無価値な土地でその管理等に相当の費用がかかり、それを国に押しつけることを目的としている場合に、権利濫用になることを認める1つの先例を残したことには大きな意味がある。この先例を当てはめれば、ほとんどの山林の放棄は許されないことになる。被災地などの例外を認めるかは、解釈の課題として残された問題である。ただし、被災地については行政法上の救済が第一次的には問題になる。

  • *3 行政機関の命令に従わない人がいた場合に、法律に基づいて行政機関が代わって撤去や排除を行うこと。

参考判例

  • 松江地裁平成28年5月23日判決訟務月報62巻10号1671ページ(本件の原審判決)