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[2018年10月:公表]

認知症の高齢者に対する仕組債の勧誘と適合性原則・説明義務違反

 本件は、認知症により要支援の認定を受けていた高齢者(取引開始当時77歳)が、勧誘を受けて購入した仕組債*1によって損失を被ったとして、証券会社と銀行に対して損害賠償を請求した事例である。

 裁判所は、証券会社の勧誘を行った者に適合性原則違反と説明義務違反を認め、その使用者である証券会社に対して、3割の過失相殺を行ったうえで、損害賠償の支払いを命じた。

 一定程度の投資経験があり、高額な資産を保有していた認知症の高齢者に対する金融商品の勧誘について、適合性原則・説明義務違反を認めた点において、参考になる判決である。(東京地裁平成28年6月17日判決<確定>、『証券取引被害判例セレクト』51巻53ページ、『金融商事判例』1499号46ページ掲載)

  1. *1 複雑な金融派生商品を組み合わせた債権のこと。

事案の概要

原告:
X(消費者)
被告:
Y1(銀行)、Y2(証券会社)
関係者:
A(Y1のX担当者)、B(Y2のX担当者)

1.Xは、1930年生まれで、夫を亡くして自宅等を相続し、一人暮らしをしていた。2006年3月までに「要支援1」の認定を受けており、その後、介護保険の主治医から2006年5月を発症日とした認知症の診断を受けている。本件取引当時は、独立した長男とヘルパーの援助をそれぞれ週1回程度ずつ受けながら生活していた。

2.Xは、Y1(銀行)で国債と定期預金を保有していたが、2007年にはAの勧誘で変額年金保険を契約した。その後Xは、2008年4月15日にY1に外貨預金口座を開設し、他行の外貨預金を解約して約20万ドル(約2100万円)を預けた。その際、Aは外貨の運用についてXと相談し、XにY2(証券会社)を紹介することにした。その結果、同月22日、Bが担当してXとY2との総合取引申込書が作成された。この時のXの年齢は77歳であった。その後、Bの勧誘によってXは、次の仕組債を順次購入した。

商品1
2008年4月30日を約定日とするエクイティリンク債*2(2銘柄を参照銘柄*3とするバスケット型*4株価連動債*5)を20万ドル。
商品2
同年5月26日を約定日とするエクイティリンク債を20万ドル。
商品3
同年6月9日を約定日とする他社株転換条項付社債(3銘柄を参照銘柄とするバスケット型EB*6)を2000万円。
商品4
同年9月24日を約定日とする他社株転換条項付社債(3銘柄を参照銘柄とするバスケット型EB)を1000万円。

3.上記商品1と商品2の元本償還額は、3年の期間中、参照銘柄の株価が一度もノックイン価格*7に達しない場合は100%であるが、一度でも(商品1については2銘柄のうちいずれかが)ノックイン価格以下となった場合には、満期時の評価時点の価格の当初価格からの値下がり率に応じて元本が減少する(3割下がっていると元本が3割目減りする。商品1については値下がりの大きいほうを基準にする)。また、外貨建てであるから、償還された外貨は円換算の際、円高であれば為替差損が生じる。

 商品3と商品4の場合は、参照銘柄のうちどれかが1度でもノックイン価格以下になると、最も値下がりした株式で償還される(このため、ワーストEBともいわれる)。

 上記仕組債は、2008年10月から11月にかけてノックイン価格を下回り、いずれもノックアウト価格*8以上とならなかったため、商品2についてはドルで償還され、商品3と商品4については株式償還となった。商品1については中途売却している。この結果、Xは約4000万円の損失を被った。

4.Xは、A・Bの勧誘には適合性原則違反、説明義務違反があるとして、民法709条、715条、719条に基づいてY1・Y2に損害賠償を請求した。

  1. *2 仕組債の一種で、株式取得のオプションが付随した債権の総称。例として、転換社債(債権を株式に変換可能なもの)がある。
  2. *3 *7にて後述。
  3. *4 複数の銘柄を一括で売買する取引のこと
  4. *5 日経平均株価などと連動して時価が変動するもの。
  5. *6 EB=エクスチェンジャブル・ボンド。転換対象銘柄の株価があらかじめ定められた価格以下になった場合、償還が現金ではなく所定の銘柄の株券でなされるという条項付きの債券のこと。
  6. *7 償還条件の変更が発生することになる価格。この価格と等しくなるかこれを超えることを「ノックイン」といい、*8「ノックアウト」とともに、参照銘柄の値がこの判定の基準となる。
  7. *8 償還条件の変更が発生しないことが確定する価格。この価格と等しくなるかこれを超えることを「ノックアウト」という。

理由

 本判決は、Y1については、AはY2を紹介しただけであり、本件仕組債の勧誘はもっぱらBによって行われたとして、請求を棄却している。しかし、Y2については、次のように判断して適合性原則違反と説明義務違反を認めた。

適合性原則違反について

 「本件各商品の含むリスクは相当程度大きく、Xは本件取引によってその抱えるリスクを過大に負担することになったものであり、かつ、そのリスクの大きさおよびしくみの難解さに鑑みれば本件各商品の購入による損得を適切に判断するためには相当程度高度の投資判断能力が要求されるものであったと認められる。これに対し、Xの年齢や認知症の程度に加え、その投資意向、財産状態および投資経験等の諸要素を総合的に考慮すると、BがXに対して本件各商品の購入を勧誘したことは、適合性の原則から著しく逸脱したものであるというほかなく、これによって本件取引を行わせたことは、不法行為法上も違法と評価することができる」として、説明義務違反について検討するまでもなくY2は使用者責任を負うとした。

説明義務違反について

 過失相殺の判断に影響すると考えられるので検討しておくこととするとしたうえで、商品内容や投資リスクについて形式的には一応の説明があったことが認められるとしつつ、「Xの投資取引に関する知識、経験、財産状況等に照らすと、(中略)、Xにおいて本件各商品の取引に伴う危険性を具体的に理解できるような情報が、必要な時間をかけて十分に提供されたとは認め難い」として、説明義務違反があるとした。なお、商品4の仕組債の購入に際しては、その直前のリーマン・ブラザースの破たんについての情報提供も行われていなかったことがうかがわれるとしている。

過失相殺について

 「Xは元本割れのリスクを含む金融商品に投資を行う余裕があり、かつ、リスクのある商品に投資する意図が一切なかったとは認められない。本件各仕組債が元本割れのリスクを含むものであることの限度では理解している。Bは形式的には一応の説明をしており、虚偽の説明をしたとの事実やリスクの説明を著しく怠った事実はうかがわれないことなどに照らすと、Xは理解できないのであれば説明の補完を求め、又は長男に相談することなどによって本件取引を回避することができたと考えられるから、Xにも相応の落ち度があるというべきである」などとして3割の過失相殺をした。

解説

 適合性原則については最高裁判例(参考判例[1])があり、「証券会社の担当者が、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である」としたうえで、適合性の判断は「具体的な商品特性を踏まえて、これとの相関関係において、顧客の投資経験、証券取引の知識、投資意向、財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要がある」としている。

 本判決は、この判断枠組みに従い、各仕組債の商品特性を認定したうえで、4つの仕組債のうち、3つはバスケット型で対象銘柄が1つの場合よりリスクが大きいこと、2つは外貨建てであり為替変動リスクを含んでいることなどを指摘し、「本件各商品は、上場株式の現物等その他の金融資産と比べても相当程度リスクの高い商品であり、積極的にリスクを取って利得の拡大を志向する投資者に適した商品であったと評価できる」とした。

 他方、顧客の属性に関しては、認知症の程度などを踏まえたうえで、一定程度は元本割れのリスクを含む金融商品に投資を行う財産的余裕を有していたが、保有する金融資産の半額を大きく上回る約7000万円もの資金を高いリスクのある商品に投資するのが相当といえるほどの余裕があるとまでは認め難いし、積極的に望んでいたとまでは認め難いと認定した。また、一定程度の投資経験があったとしつつ、本件各商品のような複雑で難解なリスクを含み、高度な投資判断能力が要求されるような商品への投資経験があったとはうかがわれないなどとした。その他の諸要素も総合考慮し適合性原則違反とした。

 本判決は、説明義務違反にも該当するとして前記理由のとおり判断したが、3割の過失相殺をしている点には問題がある。適合性原則違反の勧誘であるのに過失相殺している点に加え、本件はXがY2との取引を希望したわけではなく、もともとY1に外貨を預けていたところAからの案内で本件仕組債の勧誘となった経緯もある。

 本件訴訟の前に、XはY1を相手方として銀行ADRにあっせんの申し立てをしているが、これはXに「銀行を信用していたのにだまされた」という意識が強いためである(あっせんは、Y1が勧誘していないと主張して、不成立に終わっている)。控訴審での判断が期待されたが、双方控訴せず、本判決が確定した。

参考判例

  1. [1]最高裁平成17年7月14日判決(『判例時報』1909号30ページ)
  2. [2]大阪高裁平成27年12月10日判決(『金融・商事判例』1483号26ページ)、EB債の勧誘について、金融商品販売法違反により過失相殺なしで損害賠償請求を認めた事例。