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[2018年9月:公表]

冠婚葬祭互助会契約における解約金条項と消費者契約法9条1号

 本件は、冠婚葬祭互助会契約における解除時の手数料差引条項について、消費者契約法9条1号の「平均的損害」を超える違約金を定めるものであるとして、適格消費者団体が差止めを請求した事例の控訴審判決である。

 裁判所は、原審で「平均的損害」に含まないとされた会員募集の際の人件費等も「平均的損害」に含まれるとしたうえで、本件の解約手数料は「平均的損害」を超えないと判断して適格消費者団体の請求を棄却した。しかしながら、逸失利益は「平均的損害」に含まないと判断された点については参考になる判決である。(福岡高裁平成27年11月5日判決<最高裁平成28年10月18日上告不受理決定により確定>、『判例時報』2229号106ページ掲載)


事案の概要

原告・控訴人兼被控訴人:
X(適格消費者団体)
被告・被控訴人兼控訴人:
Y(冠婚葬祭互助会の運営業者)

 適格消費者団体であるXが、冠婚葬祭の互助会を運営するYに対し、Yが消費者との間で締結している冠婚葬祭互助会契約(以下、本件互助会契約)において、契約の解約時に払戻金から所定の手数料が差し引かれるとの条項(以下、本件解約金条項)を使用していることに関して、本件解約金条項は、消費者契約法9条1号に規定する「平均的な損害」の額を超える違約金を定めるものに当たり、また、同法10条に規定する信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものにも当たると主張して、解約時に支払済金額から解約手数料を差し引いて消費者に対し返金する旨を内容とする意思表示等の差止めを求めた。

 原審が、本件解約金条項は同法9条1号により無効となる部分を含むとして、Xの請求を一部認容し、その他は理由がないとして棄却したため、XとYの双方が、それぞれの敗訴部分を不服として控訴した。



理由

 控訴審は、以下のように判断したうえで、本件解約金条項は消費者契約法9条1号により無効となる部分を含むものとは言えないとして、Xの請求を棄却した。

1.本件互助会契約における「平均的な損害」とは、契約が解除されることによってYに生ずる損失のうち、契約締結に要する費用、当該契約を締結したことによって生ずる費用および役務履行のための準備としてなされる当該会員の管理に要する費用が含まれると認められる。

 他方、役務提供に必要な費用や役務提供ができなくなったことによる逸失利益は損害に含まれないと解するのが相当である。本件互助会契約における月掛金は、本来的には、Yによる具体的な冠婚葬祭等の役務提供を受けるための対価であって、役務の提供の請求前に本件互助会契約の解除をした当該会員との関係において、その支払った月掛金から結婚式場および葬儀場の建設資金、冠婚葬祭の役務の提供に必要な什器(じゅうき)、備品および付属品等の購入資金、ならびに結婚式場や葬儀場で具体的役務を執り行う従業員の確保および教育のための費用のような具体的な冠婚葬祭等の役務の提供のための人的物的設備に要する費用を回収することは正当化されないというべきである。

2.Xは、会員募集に要する人件費は、個々の契約の解除の有無にかかわらずYが負担すべきものであるから「平均的な損害」の基礎にならないと主張する。

 そこで検討するに、Yは、会員の募集をして募集に応じた当該会員との間で役務利用契約を締結するのであるから、当該会員から役務の提供の請求を受ける前であっても、Yには、会員の募集に要する人件費が損害として生じているとみるのが相当である。本件のような互助会契約では、互助会を構成する会員が一定数確保されることが全体のシステムを維持するうえで不可欠であり、会員の募集にはある程度の費用をかけざるを得ないところであり、費用をかけて募集した会員が契約を解除した場合、当該会員を募集するために使用された費用は無駄なものとなるから、Yの損害となるというべきである。この費用について人件費を除外すべき理由はない。

 また、会員の募集に要する人件費は、結果的に役務利用契約の締結に至らなかった者について生じた費用も含め、その全体が役務利用契約を締結した当該会員を獲得するために必要な費用であるというべきであるから、性質上個々の本件互助会契約との間における関連性が認められるものというべきである。したがって、会員募集に要する人件費は、本件において、「平均的な損害」に含まれるものと解される。

3.Xは、営業用建物の使用にかかわる費用は個々の契約の解除の有無にかかわらずYが負担すべきものであり、「平均的な損害」の基礎とならないと主張する。

 そこで検討するに、証拠および弁論の全趣旨によれば、営業用建物では、会員の募集および役務履行のための準備として、来訪した顧客との契約締結、加入者証、小冊子等の送付事務、月掛金の集金・督促事務、会員からの問い合わせに対する回答、営業所長等管理職による会員募集事務担当者に対する教育等が行われていること、他方、会員の募集および役務履行のための準備とはかかわりが認め難い事務である本社との打ち合わせ、Y従業員の業績の査定の業務等のためにも使用されていること、Yの営業所長等の管理職は、その仕事のうち40%は会員募集に関する部下の指導、教育等の業務であり、また、30%が成約後の会員管理を行う者への指導、教育等の業務であり、残りの30%は本社との打ち合わせや部下の業績の査定等の業務であることが認められる。

 そうすると、営業用建物の使用に要する費用のうち、会員の募集および役務履行のための準備として支出されたものについては、当該会員から役務の提供の請求を受ける前であっても発生しており、本件互助会契約が解除されることにより、Yにとって回収不能の支出となるものであるから、「平均的な損害」に含まれる必要経費に当たるというべきである。



解説

 消費者契約法9条1号の「平均的な損害」の考え方について、学説には、(a)民法理論に基づくとするものと、(b)特定商取引法や割賦販売法における損害賠償額等の制限に関する考え方に基づくとするものがある。

 (a)は、「平均的な損害」が、民法416条の「通常生ずべき損害」と同じであると考える立場で、消費者契約法9条1号はそれを消費者契約に関して強行法規*化したものであるとする。この立場によれば、民法の一般原則が適用され、「平均的な損害」には、逸失利益(契約が履行されたならば得られたであろう利益を失ったという消極的損害)も含まれる。

 これに対して、(b)は、「平均的な損害」について、特定商取引法や割賦販売法で採られていた賠償額を制限する考え方をすべての消費者契約に一般化したものであるとする。契約の履行前の解除に伴う損害賠償請求は「契約の締結および履行のために通常要する費用」、すなわち、仮に事業者が当該契約を締結していなかったとすれば通常支出することはなかったであろう費用に限定される。これは、契約解除の場合に求められる損害賠償は、その契約が締結されなかったのと同様の状態に戻す原状回復賠償に限られる、という考え方に基づく。ただし、例外として、契約の目的に代替性がない取引で、その契約の締結によって他と契約する機会を失ったことによる営業上の逸失利益が生ずる場合には、原状回復を考える際に、このような機会の喪失による逸失利益を考えることができることから、逸失利益を「平均的な損害」に含めることができるとする。

 裁判例では、(a)の立場に立つものが多いが(参考判例[1]、[2]など)、(b)の立場に立つものもある(参考判例[3]、[4]など)。

 本件の原審は、(b)の立場に立ったうえで、本件互助会契約にかかる各種費用の項目について検討し、Yの「平均的な損害」の額は、425円(会員募集に要する費用の合計額)に当該会員の入会期間1年につき408円(会員管理に要する費用の合計額)を加えた額とし、これを超える解約手数料を月掛金の返金額から差し引くことを内容とする部分について無効となるとして、Xの請求を一部認容し、その他の請求は棄却した。

 これに対して、本判決は、逸失利益が「平均的な損害」に含まれないとして、原審と同じく(b)の立場に立ったが、具体的な各種費用の計算では、原審で「平均的な損害」に該当しないとされた以下のⅠ、Ⅱの費用も該当するとして、Yに生じる「平均的な損害」の額は3万4,712円に当該会員の入会期間1月につき195円を加えた額であると算定し、本件解約金条項に定める解約手数料は「平均的な損害」を超えているとは認められないと判示した。

Ⅰ会員募集に要する費用のうち人件費、営業用建物の使用に要する費用の70%

Ⅱ会員管理に要する費用のうち人件費、前受金の保全に要する費用、会報誌の企画および制作に要する費用、パンフレットの作成費用

 どのような損害が「平均的な損害」に含まれるかについての判断は微妙かつ困難であるが、本判決が上記Ⅰ、Ⅱの費用も含まれると判断した点は注目される。

 本判決が、逸失利益が「平均的な損害」に含まれないとした点は注目すべき判断であるが、契約締結時には業者が抽象的な役務提供義務を負うにすぎないという互助会契約の特殊性によるものとも考えられ、本判決を「平均的な損害」の考え方一般の中でどう位置づけるかは、なお検討の余地がある。

  • * 法令の規定のうち、それに反する当事者間の合意を無効とするもの


参考判例

  1. [1]東京地裁平成14年3月25日判決(『金融・商事判例』1152号36ページ)
  2. [2]京都地裁平成26年8月7日判決(『判例時報』2242号107ページ)
  3. [3]福岡地裁平成26年11月19日判決(『判例時報』2299号113ページ、本件原審判決)
  4. [4]大阪高裁平成25年1月25日判決(『判例時報』2187号30ページ(最高裁平成27年1月20日上告不受理決定により確定。冠婚葬祭互助会の解約返戻金条項と消費者契約法9条1号(2017年7月))


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