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[2018年8月:公表]

認可外保育施設での乳児の窒息死亡事故における施設等の責任

 本件は、認可外保育施設に預けられた乳児(事故時生後4カ月)がうつ伏せ寝の体位で急死した事故について、その両親が保育従事者や運営会社、経営者、また市に対して損害賠償を請求した事例の控訴審判決である。

 裁判所は、乳児の死因はSIDS*1(乳幼児突然死症候群。以下、SIDS)によるものではなく、うつ伏せ寝による窒息死であると判断して保育従事者の過失を認定し、施設経営者らの共同不法行為責任を認めた。

 認可外保育施設での乳児の死亡事故について、事実を詳細に検討したうえで死因を窒息死と判断した点において、参考となる判決である。(大阪高裁平成27年11月25日判決、『判例時報』2297号58ページ掲載)

  • *1 主に1歳未満の乳幼児の突然死のうち、それまでの病歴や健康状態から予知できず、精密な解剖検査等によっても死亡の原因が特定できないもの。

事案の概要

原告・控訴人:
X1・X2(被害者Aの両親)
被告・被控訴人:
会社Y1(会社Y3から営業譲渡を受けた認可外保育施設の設置運営株式会社)、Y2(会社Y1の代表取締役)、会社Y3(同施設を設置し会社Y1に営業譲渡した有限会社)、Y4(会社Y3代表取締役で同施設の実質的経営者)、Y5(保育施設の園長)、Y6・7(保育従事者)
関係者:
A(Xらの子で本件事故により死亡した乳児)、B(Xらの子でAの姉)、C医師(窒息死とする鑑定書および意見書の作成者で証人)

1.Xらは、2009年11月初め頃のお試し保育を経て、自身の子どもである乳児Aと姉のBの月極保育サービスの入会申し込みをし、会社Y1が設置運営していた認可外保育施設(以下、本件施設)に、同年11月10日からAとBを預け始めた。

 X2は、同月17日午前8時30分頃、AとBを本件施設に預けた。その際、X2はAらの体温を測ったが、Aに熱はなく、それまでの間の健康状態にも問題はなかった。当日、本件施設で預かっていた乳幼児数は17名であり、同日の保育従事者はY6とY7のみであった。両名はいずれも保育士資格ないし看護師資格を有しておらず、Y6は本件施設での勤務が1カ月余、Y7は6カ月弱であった。

 本件施設内の保育ルームとベビールームは間仕切りにより仕切られ、保育ルーム側からベビールームを見ることはできなかった。

2.Y6は、午前10時30分頃から、ベビールーム内にいたAが泣いていたため、姉のBのいる保育ルームに連れてきて、床の上に寝かせていた。Y7は、午前10時30分頃から午後0時30分頃まで、本件施設の調理室内で、昼食作りとこれを乳幼児に順次食べさせる作業をしていた。Y7は、午前11時50分から午後0時頃、Aが保育ルームの床の上でうつ伏せ寝の体位で甲高い声で泣いていたことから、Aを保育ルームからベビールームに連れて行き、ベビーベッドに仰向けに寝かせた。その後、Y6は、ベビーベッド上でうつ伏せ寝の体位のまま呼吸をしていないAを発見し、抱き上げて、Y7を呼び、同人とともに、Aを叩いたり、水をかけたり、人工呼吸をしたりし、Y7は、Aの「鼻水みたいな鼻血みたいな」ものをふき取るなどし、午後1時3分に119番通報をした。Aは駆け付けた救急車により病院に搬送されたが、午後2時13分に死亡した(本件事故)。

3.Aの両親であるXらは、2011年5月、本件事故はY6とY7に過失があったとして、保育従事者や本件施設経営者であるYらに対し、共同不法行為を理由として、損害賠償を請求する訴えを大阪地裁に提起した。

 原審は、Aの死因はSIDSと認めるのが相当であり、鼻口閉塞による窒息死であると認めることはできないから、外因の窒息死を前提とするYらの責任を認めることはできないとして、Xらの請求を棄却した。本件は、この判決を不服としたXらの控訴による控訴審判決である。最大の争点は、Aの死因が鼻口閉塞による窒息死であったかSIDSであったかである。

理由

1.認定事実等によれば、以下のとおり、Aの死因は、鼻口閉塞による窒息死であると推認できる。

  1. ア.Aは、ベビールームに運ばれた後、仰向けに寝かされたが、寝返りによりうつ伏せになった。その後Aに対する呼吸確認等のチェックはなされていなかった。
  2. イ.Aの発見時の体位はうつ伏せであった。
  3. ウ.Aが寝ていたベビーベッドに敷かれたマットレスは、Aの頭部・顔面の重さに匹敵する重量約2.4kgのバーベル用プレートを置くと、約2.5cmの凹みが生じるものであった。
  4. エ.Aは、血液混じりの分泌物等を鼻や口から出しており、三重構造で厚さ6cmのマットレスにおいて、一層目の綿製カバー表面の約6cm×約5.5cmの血痕様の染みが、二層目の防水シートを突き抜けて、三層目のマットレス表面にまで染み込み、三層目の染みも約4cm×約2cmの大きさに及んでいる。この点について、C医師は、原審尋問において、「上記分泌物は、4カ月の乳児から出た分量としては多いと考えられ、一部吐物も混ざっている可能性があって、さらさらの液体ではなく粘性度がある程度あることからすれば、上からぐっと押しつけたと考えた方が、このような分泌物等が下まで染み込んだ状況を説明しやすく、どちらかといえばフェイスダウン(柔らかな寝具の上にうつ伏せで顔面を真下にした状態)であったと考えられる」と証言している。以上からすると、Aは、フェイスダウンの状態にあったと推認することができる。
  5. オ.Aは、本件事故当時、生後4カ月で、うつ伏せ寝の体位により鼻口部が閉塞されて低酸素状態になるまでの間に、顔面を横にするなどの危険回避行動をとることができるほどの学習能力がなかった。

2.Y6およびY7は、Aの呼吸確認等をすることなく放置し、仰向けに戻さなくても大丈夫であると軽信し、これにより、Aを鼻口閉塞により窒息死させたものと認められる。乳幼児は、うつ伏せ寝の体位により窒息死する危険があるから、保育従事者は、就寝中の乳幼児をうつ伏せ寝の体位のまま放置することなく、常に監視し、うつ伏せ寝の体位であることを発見したときは、仰向けに戻さなければならない注意義務があるのに、Aをうつ伏せ寝の体位のまま放置し、鼻口閉塞により窒息死させたといえる。Y6およびY7には前記注意義務違反がある。その余のYら本件施設経営者らは、保育従事者の使用者として民法715条に基づく損害賠償責任を負う。

解説

1.本件は、認可外保育施設に預けた生後4カ月の乳児がうつ伏せ寝の体位で急死した事故について、死亡の原因が外因の窒息死によるものかSIDSによるものかが争われた事案である。第一審の大阪地裁は、死亡の原因はSIDSによるもので、外因の窒息死によるものではないとしてXらの請求を棄却したが、本件控訴審である大阪高裁は、乳児はうつ伏せ寝によりフェイスダウンの状態にあったとし、鼻口閉塞による窒息死と認定した。

 本判決は、保育ルームとベビールームの仕切りにより、保育ルームからベビールームを見ることができず、また、調理室からベビールーム内を見ることもできない状況であること、本件事故日は、勤務歴が浅く保育士資格を持たないY6とY7の2名で17名の乳幼児を預かり、Y7は調理室に入ったまま、昼食作りとこれを17名の乳幼児に順次食べさせる作業に追われており、Y6は一人で保育ルームでの保育、ベビールームでの呼吸確認等のチェック、受付カウンターでの来訪者の対応、電話対応、掃除、布団を出すなどの昼寝の準備をしていたこと、Aの死戦期(死に至る直前の状態)における気道からの血液混じりの分泌物のマットレスの染みの状況や紙おむつに大量の脱糞があったことからAが分泌物等を出したままある程度長い間放置されたと認められること、Y6やY7のAの確認状況の供述が採用できないことなどを詳細に認定している。なお、本件施設には、再三にわたり市からの立ち入り検査が行われ、有資格者不足が指摘されていた。また、本件では、Xらから市に対しても、規制権限の不行使が違法であるとして、国家賠償法1条1項の損害賠償請求もなされていたが、市の規制権限の不行使が違法とまでは言えないとして市に対する控訴は棄却されている(第一審も請求棄却)。

2.保育園等での乳幼児の急死について保育園の経営者らの責任が追及される事例は少なくないが、これらの事件では、乳幼児の死亡原因が争われる。乳幼児の死因がSIDSである場合には、責任が否定され(参考判例[1]〜[5])、SIDSではなく、保育士等に過失がある場合には責任が肯定される(参考判例[6]〜[8])。

 本件は、認可外保育施設についての判決であるが、事実の詳細な検討をしたうえ、窒息死と認定したもので参考になろう。

参考判例

乳幼児の死因がSIDSであるとして施設等の責任を否定したもの

  1. [1]京都地裁平成6年9月22日判決(『判例時報』1537号149ページ)
  2. [2]東京高裁平成7年2月3日判決(『判例時報』1591号37ページ)
  3. [3]神戸地裁平成7年6月9日判決(『判例時報』1564号84ページ)
  4. [4]横浜地裁川崎支部平成26年3月4日判決(『判例時報』2220号84ページ)
  5. [5]大阪地裁平成26年9月24日判決(LLI/BD、本判決の原審)

保育士等の過失を認めたもの

  1. [6]東京地裁平成10年3月23日判決(『判例時報』1657号72ページ)
  2. [7]福岡高裁平成18年5月26日判決(『判例タイムズ』1227号279ページ)
  3. [8]仙台高裁平成27年12月9日判決(『判例時報』2296号86ページ)