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[2018年6月:公表]

CO2排出権取引の違法性を認めた事例

 本件は、CO2排出権取引業者と取引を行った消費者が、当該商法は詐欺的であり、証拠金を名目に金銭を支払わされたと主張して、CO2排出権取引業者と勧誘を行った担当者らに対して、損害賠償を請求した事例である。

 裁判所は、CO2排出権取引は賭博行為に該当し、公序良俗に反する違法なものであると判断し、CO2排出権取引業者とその代表者、担当者に共同不法行為責任を認め、弁護士費用を含め1705万円の支払いを命じた。

 CO2排出権取引を公序良俗に反するものと判断した点、損益相殺を否定した点において参考になる判決である。(東京地裁平成26年12月4日判決、先物取引裁判例集72巻132ページ掲載)


事案の概要

原告:
X(消費者)
被告:
Y1(CO2排出権取引業者)、Y2(Y1の代表取締役)、Y3(Y1のXの担当者)

 Xは当時77歳の女性で、2012年10月にY3からCO2排出権取引の勧誘を受けて取引を始め、取引の証拠金として同月15日から2013年5月17日までの間に合計1550万円をY1に支払い、配当金名目で合計192万1500円を受領した。

 CO2排出権取引は、CO2排出権の売買を証拠金取引で行う。証拠金取引は、取引総代金の一部を証拠金として預託して行う取引なので、商品先物取引等と同様にレバレッジ(*1)がかかっているリスクの高い取引であり、デリバティブ(金融派生商品)の一種である。ところが、デリバティブを規制している金融商品取引法と商品先物取引法は、いずれも適用対象を政令指定制にしている。そして、CO2排出権は、どちらの法律でも適用対象とされていない。いわば業法の隙間にある領域であり、それを利用して詐欺的商法を展開しているのがCO2排出権取引の実情である。

 CO2排出権取引は、ヨーロッパ等の海外の取引所では公認の取引として行われている。そこで、海外の取引所へ取り次ぐと称して勧誘する類型と、海外の取引所では正規取引として行われていることを強調して(信頼性のある取引であるように装って)相対取引として行う類型がある。相対取引は、店頭取引とも言われ、業者と顧客が1対1で行う取引である(これに対して取引所取引は、取引所で多数の参加で取引が行われるもので、顧客は業者にそこでの取引を委託するという関係になる)。

 この事案の場合、判決では、顧客とY1との間でCO2排出権の売買をして差金決済(*2)を行う相対取引であることが認定されている。このような取引の場合、価格がどう決まるのかが問題となる。本判決は、取引レートについて、ECX(欧州気候取引所)の取引レート等を基準にしてY1が決定するに過ぎない等と認定している。

 Xは、CO2排出権取引は詐欺的商法であり、証拠金名目で金銭を支払わされたと主張して、Yらに対し、1550万円と弁護士費用相当額の損害金155万円の損害賠償を請求して訴えを提起した。

 なお、Y2はY1の設立から2013年8月20日まではY1の従業員として顧客に取引を勧誘していた者で、それ以降はY1の代表取締役であった。Y3はY1の従業員としてXを勧誘していた者である。

  1. * 1 預けている資金以上の取引をすること。
  2. * 2 通貨や有価証券など現物の受け渡しをせずに、売りと買いの差額の授受により決済すること。

理由

 本判決は、次のように述べてCO2排出権取引の違法性を認定した。

1.本件取引の違法性

 本件取引は、Y1が提示する取引レートを差金決済の指標とする私的な差金決済契約である。売買差金の額は、顧客が買ったあるいは売ったとされる「CO2排出権の価格」を「ユーロ円為替レート」によって換算した額と、顧客がその後に売ったあるいは買ったとされる「CO2排出権の価格」を同レートによって換算した額との差額によって算出される。そうであれば、Y1から提示される「CO2排出権の価格」や「ユーロ円為替レート」の基準とされる為替レートは、Y1にもXにも予見することができず、また、その意思によって自由に支配することができないものであるから、本件取引は、偶然の事情によって利益の得喪(*3)を争うものというべきであり、賭博行為に該当して違法であり、公序良俗にも反するものというべきである。そして、本件取引が賭博行為として違法であることを否定する事実の主張も立証もない。

 それに加えて、本件取引においては、差金決済の指標となる取引レートがY1において一方的、恣意(しい)的に決定され、それに基づいてXの損益が確定されていた高度の蓋然(がいぜん)性がある。そうであれば、本件取引は、そのような本件取引における構造的な利益相反状況や顧客に不利益になる事情を隠して行われた詐欺的な取引というべきである。

2.Y1〜Y3の責任

 本判決は、「違法な賭博行為又は詐欺的取引である本件取引に顧客を勧誘する行為は、不法行為を構成するものというべきである」とし、Yらの責任について次のように判示した。

 Y1の規模や営業の実態からすると、Y1の役員、従業員は、全員が共謀して、組織的に顧客を本件取引に勧誘していたものと認めるのが相当である。そうすると、Y2が仮に直接本件取引をXに勧誘していないとしても、Y2もY1の役員やY3その他の従業員の共同不法行為者として、Y3のXに対する勧誘行為によってXに生じた損害を賠償する責任があるというべきである。

3.損益相殺

 損害について本判決は、参考判例[1]を引用して次のように判示した。

 Xが配当金という名目でY1から支払いを受けた金銭は、不法原因給付(*4)によって生じたものというべきである。本件損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害金の額から控除することは許されない。

  1. * 3 利益を得ることと失うこと。
  2. * 4 不法な原因に基づいて行われた給付。民法708条によって、給付者はその返還を請求することができないとされている。

解説

 CO2排出権取引については、本判決以前から違法性を認定する判決が出されている。参考判例[2]は、CO2排出権取引は業者と顧客の相対売買であることを重視し、本来的に事業者と顧客の利害が対立するという構造がある(業者が得するような価格を設定すると、必然的に顧客は損になる)ため、事業者が顧客の犠牲の下に利得を図る危険性がある取引であると述べ、取引レートを事業者が任意に決定する場合、その危険性がいっそう大きいことが明らかだとして、そのような理解を欠く取引は違法性を帯びると判示している。

 本判決は、CO2排出権取引について、賭博行為(*5)に該当する違法なものとしたばかりでなく、公序良俗違反と判示している。

 賭博行為に該当するとの部分は、かつてロコ・ロンドン貴金属取引(*6)についても同様の判断が示された。参考判例[3]は、その一つである。CO2排出権取引は、ロコ・ロンドン貴金属取引の金価格指標をCO2排出権取引の価格指標に置き換えただけの構造といえるので、取引の違法性も共通するところが多い。

 本判決は、過失相殺しないだけでなく、損益相殺も否定している。この点について本判決は、参考判例[1]を引用して、Yらの取引について「その実態は、詐欺的な犯罪行為そのものであって、反倫理的行為に該当することは明らかであるところ、Y1は本件取引を正常な取引のように装い、Xに対し、前記金員を配当金という名目で交付したというのであるから、その交付は、もっぱら、XをしてY1が本件取引を正常なものと誤信させることにより、本件取引を実行し、その発覚を防ぐための手段にほかならないというべきである。そうすると、Xが配当金という名目でY1から支払いを受けた金銭は、不法原因給付によって生じたものというべきである。本件損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害金の額から控除することは許されないものというべきである」としている。

 なお、関連事件として、Y1の営業員らを訴えた事案について、責任を認めた参考判例[4]がある。

  1. * 5 もともと賭博行為は刑法上も違法であり、金融分野の法律等で認められていない限り、適法な取引とはならない。
  2. * 6 ロンドン渡しの金現物価格と「ドル円為替変動」を指標とする差金決済取引。詳しくは参考判例[3]を参照。

参考判例

  1. [1]最高裁平成20年6月24日判決(裁判所ウェブサイト)
  2. [2]東京高裁平成25年4月11日判決(先物取引裁判例集68号361ページ)
  3. [3]東京高裁平成20年10月30日判決(先物取引裁判例集53号377ページ、ロコ・ロンドン貴金属取引の違法性
  4. [4]東京地裁平成28年12月26日判決(先物取引裁判例集76号95ページ)