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[2018年4月:公表]

NHKとの放送受信契約の成立時期、受信料支払義務の発生時期と消滅時効の起算点

 本件は、テレビ受信設備を設置していながら放送受信契約(以下、受信契約)を締結しない個人に対して、NHKが裁判を起こして受信料の支払いを請求した事例である。

 裁判所は、受信契約の成立時期は消費者に対して承諾の意思表示を命ずる判決が確定した時であるが、受信料支払義務は受信設備設置時に遡(さかのぼ)って認められる、また、消滅時効は、契約が成立した時から起算される等と判断し、消費者に未払い受信料の支払いを命じた原審判決を維持し、双方の上告を棄却した。

 NHKの受信契約の成立時期、受信料支払債務の発生時期、消滅時効の起算点について、最高裁が初めて判断を示した判決である。(最高裁平成29年12月6日判決、裁判所ウェブサイト掲載)


事案の概要

原告・上告人兼被上告人:
X(NHK:日本放送協会)
被告・上告人兼被上告人:
Y(消費者)

 Yは、2006年3月22日以降、その住居に、Xの衛星放送が受信可能なテレビ受信設備を設置している。Xは、2011年9月21日到達の書面により、Yに対してXの受信契約の申込みをしたが、Yは承諾をしなかった。

 そのためXはYに対し、以下の請求を行った。

  1. (1)放送法64条1項により、Xによる受信契約の申込みがYに到達した時点で受信契約が成立し、放送受信規約に基づいて、受信設備設置時から受信料支払義務が認められると主張して、受信設備設置の月の翌月から2014年1月分までの受信料合計約22万円の支払い(主位的請求)
  2. (2)Yは同項に基づいて負う受信契約の締結義務の履行を遅滞しており、債務不履行に基づく損害賠償(予備的請求1)
  3. (3)YはXからの受信契約の申込みを承諾する義務があるため、当該承諾の意思表示をするよう求めるとともに、受信料支払義務が受信設備設置時に遡ることは(1)と同じとして、これにより成立する受信契約に基づく受信料の支払い(予備的請求2)
  4. (4)Yは受信契約を締結しないことで、法律上の原因なく受信料相当額を利得しており不当利得返還請求として同額の支払い(予備的請求3)

 これに対してYは、放送法64条1項は訓示規定に過ぎないと主張して契約締結義務を争うとともに、もしこれが認められないとしても、承諾の意思表示を命ずる判決により初めて契約は成立し、その時点で受信料支払義務は成立すると主張した。また、仮に受信設備設置から受信料支払義務が成立するとしても、既に5年を経過した分については消滅時効が完成しているとしてこれを援用した。

 第1審判決(東京地裁平成25年10月10日判決)および原審判決(東京高裁平成26年4月23日判決)は、Xの主位的請求を退け予備的請求2を認容し、Yの時効の抗弁等を排斥した。そのため、XとY双方から上告がなされた。

理由

 最高裁は、次のように判断し、原審の判断は是認できるものとして各上告を棄却した。

放送法64条1項の法的拘束力

 放送法64条1項は、Xの財政的基盤を確保するための法的に実効性のある手段として設けられたものと解され、法的強制力を持たない規定として定められたとみるのは困難である。

受信契約の成立方法・時期

 放送法は、受信料の支払義務を、受信設備を設置することのみによって発生させたり、Xから受信設備設置者への一方的な申込みによって発生させたりするものではない。放送法64条1項は、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定である。Xからの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には、Xがその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決が確定することによって受信契約が成立する。

受信料相当額の損害賠償請求等の可否

 放送受信規約によって受信契約の成立により受信設備の設置の月からの受信料債権が発生すると認められる。したがって、受信契約の締結を遅滞することによりXに受信料相当額の損害が発生するとはいえない。放送法が受信契約の締結によって受信料の支払義務を発生させることとした以上、Xが受信設備設置者との間で受信契約を締結することを要しないで受信料を徴収することができるのに等しい結果となることを認めるのは相当でない。

受信料債務の発生時期

 受信料は、受信設備設置者から広く公平に徴収されるべきものである。同じ時期に受信設備を設置しながら、放送法64条1項に従い設置後速やかに受信契約を締結した者と、その締結を遅延した者との間で、支払うべき受信料の範囲に差異が生ずるのは公平とは言えないから、受信契約の成立によって受信設備の設置の月からの受信料債権が生ずるものとする放送受信規約5条は、受信設備設置者間の公平を図るうえで必要かつ合理的であり、放送法の目的に沿う。受信契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合、同契約に基づき、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生する。

消滅時効の起算点

 通常は、受信設備設置者がXに対し受信設備を設置した旨を通知しない限り、Xが受信設備設置者の存在を速やかに把握することは困難であると考えられる。他方、受信設備設置者は放送法64条1項により受信契約を締結する義務を負うのであるから、受信契約を締結していない者について、これを締結した者と異なり、受信料債権が時効消滅する余地がないのもやむを得ない。したがって、受信契約に基づき発生する受信設備の設置の月以降の分の受信料債権(受信契約成立後に履行期が到来するものを除く)の消滅時効は、受信契約成立時から進行する。

解説

 本判決は、理由の1〜5の点について最高裁の判断を示した初めての判決であるとともに、放送法64条1項について憲法判断を下した注目される判決である。憲法判断については、「放送法64条1項は、同法に定められたXの目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものとして、憲法13条、21条、29条に違反するものではない」と判断している。

 放送法64条1項については、訓示規定と考える学説もあるが、これまでの下級審判決はすべて法的義務と認め、その強制による契約の成立を認めてきた。本判決はこれを最高裁が確認したものである(強制できないという反対意見が1名出された)。そのため、実質的に争点は3つであった。

 まず、Xが一方的に契約を成立させることができるかという点であるが、Xによる申込みから相当期間の経過により受信契約が成立することを認める判決もあったが(参考判例[5])、それ以外の下級審判決は必ず消費者に対して承諾を命ずる判決が必要であるとしていた。本判決はこの多数判決を容認した。

 次に、受信料支払義務が、放送受信規約4条1項、5条により受信設備設置時に遡って成立するかどうかも問題とされたが、これまでの下級審判決は遡及(そきゅう)を認めており、この点も、本判決はこれまでの判決を容認した。

 最後に、過去の受信料の消滅時効(以下、時効という)の起算点が問題とされた。受信料債権が民法169条により5年の時効期間に服することは参考判例[10]が既に明らかにしているところである。その事例は、いわゆる「滞納者」に関するもので、既に受信契約が締結されていたので、支払期日から5年を経過した受信料債務の時効完成が認められた。これに対して本判決は、「受信契約を締結していなかった場合」に契約成立前に遡って成立が認められた過去の受信料債務の時効が問題にされた点で事案が異なっている。

 本判決は、第1審また原審判決を容認し、契約が成立するまでは受信料債務は成立していないので、承諾に代わる判決により受信契約が成立して初めて受信料債権がひとまとめに成立し請求できるようになり、その時点から時効が起算されるとした。これに対して、X側は、受信設備設置時に直ちに受信契約の承諾を請求でき、それにより受信料債権を成立させることができるのであり、受信設備設置と同時に受信料請求ができるに等しいと主張したが、これは一貫して受け入れられなかった。

 もし本判決のように、契約の成立まで時効が一切進行しないとすると、過去に受信設備を設置したが受信契約をしていない者は、何十年分でもいきなり全額請求がされることになる。民法166条1項*について、権利行使の期待可能性を考慮するとしても、受信設備設置を認識して承諾を求めることが期待できるようになった時点から時効を起算する余地もあるように思われる。

 最後の時効の起算点の判断が市民社会に与えた影響は大きい。確かに租税であれば「逃げ得」を許さないというのは正義にかなう。しかし、租税とて消滅時効制度があり、今後新たな解釈が出される可能性は残されている。

  • * 消滅時効は、権利を行使できるところから進行する

参考判例

  1. [1]横浜地裁相模原支部平成25年6月27日判決『判例時報』2200号120ページ
  2. [2]東京地裁平成25年7月17日判決『判例時報』2210号56ページ
  3. [3]横浜地裁川崎支部平成25年9月20日判決LEX/DB
  4. [4]東京地裁平成25年9月20日判決LEX/DB
  5. [5]東京高裁平成25年10月30日判決『判例時報』2203号34ページ
  6. [6]東京高裁平成25年12月18日判決『判例時報』2210号50ページ
  7. [7]東京地裁平成26年1月29日判決LEX/DB
  8. [8]東京地裁平成26年3月3日判決LEX/DB
  9. [9]東京地裁平成26年10月9日判決LEX/DB
  10. [10]最高裁平成26年9月5日判決『判例時報』2240号60ページ