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[2018年2月:公表]

美容医療における医師の説明義務

 本件は、医療センターで医師による「若返り」療法を受けた消費者が、効果はまったくなかったとして、医療センターを開設する医療法人に対して、検査義務違反、説明義務違反を理由に、治療費等の損害賠償を請求した事例である。

 裁判所は、この療法の効果が必ずしも確実ではなく、場合によっては客観的な効果が得られないことがあるのにもかかわらず、担当医師はその旨の説明をせず、かえって誤解を深める説明をしたとして、説明義務違反を認め、医療法人に対して施術費用相当額等約203万円の損害賠償を命じた。

 判決では、医療センターのホームページでの広告、美容医療の性質や料金等の事情を踏まえ、医師は厳しい説明義務を負うとしている。美容医療に関する相談が多く寄せられている消費生活相談の現場において、非常に参考になる判決である。(大阪地裁平成27年7月8日判決)

  • 『判例時報』2305号132ページ掲載

事案の概要

原告:
X(消費者・1964年生まれの女性)
被告:
Y(医療センターを開設する医療法人)
関係者:
A(医療センターの院長でXに施術した医師)

 医療センターを開設するYは、口腔内から採取した細胞を培養し、これを対象部位に注入することによって、皮膚のしわ、たるみ等を除去・改善する美容療法(以下、a療法)、より高濃度の細胞を注入する美容療法(以下、b療法)を実施し、ホームページに広告していた。

 Xは、2012年1月、Yのホームページを見て、初めて本件医療センターを訪れ、当時の同センター院長を務めていたA医師からカウンセリングを受けた。その結果、Xは、Yの実施する美容療法のうち、b療法を受けることに同意し、当日、血液検査のための採血を受けた。Xは、約1カ月後の同年2月、本件医療センターにおいて、A医師により口腔内から歯肉を切除されたうえ、培養細胞の元となる細胞を採取され、患者自身の血清を治療基本部位に注入する術前措置を受けた。その後、同年3月と翌年4月の間に、A医師により3回にわたり、培養した自己の細胞を眉間(みけん)や下眼瞼部(かがんけんぶ)に注入する施術(本件施術)を受けた。Xが3回目の施術を受ける際に、A医師に治療効果が感じられない旨を訴えたところ、A医師は6カ月ほど待てば効果が現れるなどと述べた。しかし、約6カ月が経過した10月中旬になっても、Xは本件施術の効果を感じることができず、家族からはむしろしわが深くなった箇所もあるなどと言われた。

 XはYに対して、以下のように主張し、債務不履行または不法行為に基づいて損害賠償(治療費等約356万円)を請求した。

(1)医師は、特に美容医療の施術に当たっては、患者の体質、患部の状態等について十分に事前検査を行い、専門的知見に基づき、当該手術の時期、方法等を十分に検討して、実施するべき義務がある。Yは本件施術ごとの反応を十分チェックすることなく、逆に細胞の注入量を増やして合計4回もの施術を実施した。さらに、Xには何の効果もなく、逆に外出できないほどの副作用が生じたことを把握し、施術を取りやめるか、効果がない可能性をXに告知すべきであったのにこの義務に違反した(事前の適用検査義務違反)。

(2)医師は、患者に対して、事前に効果だけではなく副作用発現可能性などについて説明する義務がある。特に、美容医療は、疾病に対する治療ではなく、一定の美容効果自体を目的としてされるものであるから、患者に対して効果の有無やその可能性について、正確な情報を告知しなければならない。Yは、この義務に反し、「効果がある、科学的根拠がある、痛みがない、副作用がない」という説明しかしなかった(説明義務違反)。



理由

 美容診療は、生命身体の健康を維持ないし回復させるために実施されるものではなく、医学的にみて必要性および緊急性に乏しいものでもある。その一方で、美容という目的が明確で、しかも、ほとんどの場合が自由診療に基づく決して安価とはいえない費用をもって行われるものであることを考えると、当該美容診療による客観的な効果の大小、確実性の程度等の情報は、当該美容診療を受けるか否かの意思決定をするに当たって特に重要と考えられる。

 そして、美容診療を受けることを決定した者とすれば、医師から特段の説明のない限り、主観的な満足度はともかく、客観的には当該美容診療に基づく効果が得られるものと考えているのが通常というべきである。そうすると、仮に、当該美容診療を実施したとしても、その効果が客観的に現れることが必ずしも確実ではなく、場合によっては客観的な効果が得られないこともあるというのであれば、医師は、当該美容診療を実施するに当たり、その旨の情報を正しく提供して適切な説明をすることが診療契約に付随する法的義務として要求されているというべきである。

 したがって、医師が、上記のような説明をすることなく、美容診療を実施することは、診療対象者の期待および合理的意思に反する診療行為に該当するものとして、説明義務違反に基づく不法行為ないし債務不履行責任を免れない。

 本件においてもa療法等を実施するに先立ち、上記のような情報の提供とそれを理解するために適切な説明を行うべき義務があった。そこで検討するに、Yのホームページを見て本件医療センターを訪れた者は、Yの実施するa療法等が確実に客観的に効果の得られる美容法であると誤解している可能性が高く、少なくとも初診時のカウンセリング等において、そのような誤解を解くための説明を行い、その理解を得る義務があった。

 しかし、A医師は、主観的満足が得られないことや、客観的に結果が変わらないことがあるといった趣旨の説明をせず、また、上記のような誤解を解く説明をするどころか、b療法はa療法よりも個人差が生じることなく高い効果が得られるものであって、細胞の注入後はすぐに効果が実感できるなどと、かえって誤解を深める説明をした。したがって、A医師は施術の実施に当たり、必要かつ適切な説明義務を果たしていない。

 裁判所は、以上のように判断して、Yの説明義務違反を認め、不法行為に該当するとして、約203万円の損害賠償(施術費用相当額約134万円、基礎化粧品代約9万円、慰謝料30万円、弁護士費用30万円)を認容した。なお、逸失利益は否定している。



解説

 本件は、医療行為のうち、再生医療技術を使った美容外科(美容療法)の施術の効果がまったくなかったことから、同医療行為を行っている医療センターを開設している医療法人に対して、消費者が損害賠償を請求した事例である。Yの事前の適用検査義務違反および説明義務違反による債務不履行または不法行為の成否等が問題となった。Yは、ホームページやパンフレットで、b療法を、「自分の細胞を使ってしわを取り除く究極のアンチエイジング」であり、「世界初、究極の美容・再生医療技術」であるa療法に改良を加えた美容療法として紹介していたが、客観的効果が得られない場合があるとか、効果には個人差があることの注意事項は記載していなかった。

 Xは、Yのホームページを見て初めて本件医療センターを訪れ、上記パンフレットを受け取り、同医療センターの院長であるA医師のカウンセリングを受けた。Xはこのカウンセリングにおいて、客観的に効果が得られない場合があることなどの説明は何ら受けなかったどころか、b療法はa療法よりも個人差が生じることなく高い効果が得られる等と説明されて、b療法の施術を受けることにしたのである。

 一般に医療行為を行うに当たり、医師は患者に対して説明義務を負い、適切な説明をしない場合には損害賠償が認められる。美容医療は、通常の医療とは異なり病気や疾病の治療ではなく、医学的な必要性および緊急性に乏しく、また、美容という目的が明確で自由診療に基づく安価でない費用で行われる。そのため、美容医療を受けるか否かの意思決定をするに当たって、客観的効果の大小や確実性の程度等の情報は、特に重要であり、医師にはより厳格な説明義務が求められる。本判決もこのような立場に立ったものである。

 さらに本判決は、Yはホームページで細胞培養治療という再生医療技術を使用した安心・安全な最新医療であることを強調しており、確実に客観的な効果が得られる美容療法であるとの誤解を解くことの説明義務も負うとしている。

 なお、本判決は、Xの主張する事前の適用検査義務については、Xが具体的にどのような検査を実施すべきかを主張しなかったことから、実施すべき検査が不明であるとして否定している。



参考判例 美容医療で説明義務違反が問題となった判例

説明義務を認めた判例

  1. [1]東京地裁平成25年9月19日判決LLI/DB
  2. [2]東京地裁平成25年7月19日判決LLI/DB
  3. [3]熊本地裁平成27年3月25日判決LLI/DB
  4. [4]東京地裁平成24年9月20日判決『判例時報』2169号37ページ

説明義務を認めなかった判例

  1. [5]大阪地裁平成28年3月15日判決『判例タイムズ』1424号218ページ
  2. [6]東京地裁平成17年4月25日判決LLI/DB
  3. [7]福岡高裁平成16年10月27日判決『判例タイムズ』1185号246ページ


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