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[2018年1月:公表]

出会い系サイト事業者による「訴訟詐欺」

 利用した覚えがないのに出会い系サイト登録料等の請求を受けたという相談が、消費生活センターに寄せられている。このような架空請求を受けても、支払い義務はないため、消費生活センターでは消費者に請求をそのまま放置するようアドバイスしている。

 ところが、消費者が「そのまま放置」することに付け込み、本当に提訴し、欠席裁判で勝訴してしまおうとする事業者がいた。しかし、本件の消費者は放置しなかった。消費生活センターや弁護士会のアドバイスを受け、反訴したのである。消費者のために18名もの消費者問題に精通した弁護士による弁護団が結成された。事業者は、訴訟を取り下げようとしたが、消費者は同意せず裁判所もこの事業者の一連のやり方を「訴訟詐欺」と断じて事業者の請求を棄却し、逆に事業者に慰謝料30万円の支払いを命じた。本判決は2005年のものであるが、これ以降10年以上にわたり、このように裁判を脅しのために使い実際に提訴する出会い系サイトの事案は見られない。

 本判決により、訴訟を悪用する出会い系サイト事業者はいなくなったともいえ、その契機となった意味のある判決である。(東京地裁平成17年3月22日判決〈確定〉)

  • 『判例時報』1916号46ページ掲載

事案の概要

原告・反訴被告:
X(出会い系サイト事業者)
被告・反訴原告:
Y(消費者)
関係者:
A(Xの従業員と思われる者・許可代理人)

 Xは携帯電話有料サイト(出会い系サイト、以下、本件サイト)を運営する事業者と称している者、Yは22歳の男性である。

 2004年3月1日頃、Yは2003年5月24日に本件サイトに登録したとして、Xから登録料・事務手数料・調査費用合計約26万円の支払いを求める督促(とくそく)状の送付を受け、同月10日、上記金額を同月17日までに支払うよう求める「通告書」を受け取った。これらの書面には「連日報道されている架空請求と勘違いして放置されている方もいらっしゃるかもしれませんが、…貴殿の当サイト利用に基づくものです」「悪質な踏み倒しとみなす」「さらなる調査を請求する」「法的措置を取る」「延滞手数料を加算する」「給料差押えなど強制執行に入る」「刑事告訴に入る」「詐欺罪での訴訟をする」といった記載が並んでいた。

 またXからYに送付された「調査結果書面」には、Yのプライバシー情報が多数記載されており、今後さらに「家族」や「銀行口座」といった情報にまで調査が及ぶことを示唆する内容であった。Xに情報提供を行ったことがないYにとっては、Xがいかなる方法によりこれらの情報を入手したのかが不明であり、大きな不安を抱いた。

 このような状況の下で、Yは身に覚えがなかったため、すぐに警察や消費生活センターに相談し「無視しておくのがよい」とのアドバイスを受け、放置していた。ところが、Xが少額訴訟を提起し、Yに対して本件サイトへの登録料3万円、規約に違反してメールアドレスおよび電話番号を無断で変更したことによる違約金5万円、Yに連絡するために調査会社に依頼した際の調査費用6万3000円、計14万3000円の支払いを求めた(本訴)。

 Yは驚いて消費生活センターや弁護士会の法律相談に出向き「放っておくと敗訴になってしまう」とのアドバイスを受けて「本件サイトを利用した覚えはない」との答弁書を裁判所に提出した。そのうえで、Xにプライバシー情報を不正に入手され、架空請求を受け提訴までされたことによって精神的苦痛を被ったとして、Xに対して慰謝料100万円および弁護士費用10万円の支払いを求めた(反訴)。

 少額訴訟の第一回口頭弁論には、XはAを許可代理人として出頭させたが、Yに多数の訴訟代理人が就任し、本件が地方裁判所に移送される決定がなされた途端、本件訴訟を取り下げようとした。しかし、Yの同意がなかったため取り下げは成立しなかった。

 Yから反訴の提起がされたにもかかわらず、Xは第二回口頭弁論期日以降、一度も審理に出頭しなかった。Xは訴訟において「営業所」の住所としてAの住所を送達場所として届け出ており、従前は問題なく送達できていた。しかし、第二回口頭弁論期日直前以降は送達文書が「転居先不明」で返送されたうえ、送達場所変更の届け出もされないままであったため、届け出のあった送達場所に書留郵便に付する送達とせざるを得ない事態となっていた。



理由

 裁判所は、Xの登録料等の支払い請求について、Yの各供述の信用性が高い一方で、Xが第二回口頭弁論期日以降一度も審理に出頭していなかったこと等の理由から、Yによる本件サイトの利用を認めるに足りる証拠はなく、登録を前提としたXの請求には理由がないとして棄却したうえで、反訴について次のように判断した。

 Xの行為は、Yを畏怖(いふ)させ、金員を支払わせるための恐喝行為に当たるものといえる。さらにいえば、Xの行為は詐欺行為とも評価し得るものである。すなわち、Yが本件サイトを利用したことが一度もないことは認定したとおりであるが、本件サイトの運営業者を名乗る以上、Xとしてもそのことは十分承知しているはずであり、にもかかわらず、本件督促状、本件通告書を送付しているのは、利用したものと誤信して支払いに及ぶ可能性を見込んだものであるとの推認ができる。また、実際に提訴に及んでいることについては、いわゆる架空請求について、一般的に「相手にしないで放置するべき」と報道されていることに便乗し、提訴後も応訴することなく弁論期日に欠席させることで勝訴判決を取得できるとの計算のもとで提訴に及んでいるのではないか、あえて少額訴訟を選んだのはYが応訴してきた場合でも第一回期日での終結を押し切ろうとしたのではないか、との推認もでき、被害予防のための報道や裁判制度をも悪用する極めて悪質ないわゆる訴訟詐欺に該当する可能性が高いものといわざるを得ない。こうしたXによる一連のプライバシー侵害、恐喝行為等によってYが精神的苦痛を被ったことは明らかであるけれども、その一方で、結果として本訴が棄却されることでXの恐喝行為ないし詐欺行為が未遂で終わること、かつ、本件の審理を経る過程でYの受けた精神的苦痛は相当程度慰藉(いしゃ)されているものと評価されることをも総合して斟酌(しんしゃく)すれば、Yの慰謝料額は30万円と思料する。



解説

 本件は出会い系サイト利用を口実としたいわゆる「架空請求」に関する事例である。出会い系サイトやアダルトサイトに関する架空請求はいまだに増加し続けている。

 架空請求に対する対策は、「無視する」「相手に対して決して連絡しない(連絡をすれば、メールアドレスだけではなく、電話番号、住所、氏名、職業や職場、家族に関する情報等さまざまな個人情報を相手業者に知られてしまう危険がある)」ことである。無視をすれば、メールによる請求の場合にはメールアドレスしか知らないことが通常であるので、それ以上の被害に発展することはないと考えられる。郵便等による請求であっても、訴訟等の法的手続きを取る場合には「契約の成立」を事業者側で証明する責任があるため、通常は訴訟まで提起してこないからである。ところが、本件事案では、消費者は事業者の運営するサイトを利用したことがなく、事業者に情報提供をしたこともなかったにもかかわらず、事業者から郵便による督促を受け、無視したところ提訴までされている。

 本件は「架空請求」は無視しても事業者が提訴してくる場合がないわけではないことを示す事例である。提訴されたにもかかわらず無視して応訴しなければ、原告である事業者の言い分どおりの欠席判決となるため消費者には取り返しのつかない不利益となる。消費生活相談ではこのような事態が起こる場合もあり得ることを配慮して助言することが重要であることが分かる。

 また、架空請求被害で頻繁に行われているさまざまな恫喝(どうかつ)的な督促行為が恐喝や詐欺に該当する不法行為であると判断している点は、消費生活相談業務の参考となる。

 さらに、少額訴訟を架空請求の手段として利用した点について、裁判所が「訴訟詐欺」ともいえると指摘した点は評価することができる。判例では、不当な訴訟の提起が不法行為を構成するためには「訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合」であるとし、具体的には「提訴者の主張した権利または法律関係が事実的・法律的根拠を欠くものであり」かつ「提訴者がそのことを知っていたか、または通常人であれば知り得たのにあえて提訴した場合」に限っている(参考判例[1])。本件では、裁判制度を悪用する「訴訟詐欺」に該当するとして違法性を認めたものと解することができる。



参考判例

  1. [1]最高裁第三小法廷昭和63年1月26日判決(民集42巻1号1ページ、裁判所ウェブサイト。不当訴訟が不法行為を構成するための要件について判断した事例)
  2. [2]東京地裁平成11年2月25日判決(『判例タイムズ』1054号235ページ。医師による診療費の架空請求が不法行為に当たり、医療に対する信頼を揺るがす行為であること等も考慮して、患者の慰謝料請求について30万円の慰謝料を認めた事例)


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