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[2017年12月:公表]

女性専用車両の違法性を否定した事例

 本件は、女性専用車両に反対する任意団体の構成員とともに、事前に予告したうえで女性専用車両に4人で乗車した男性が、鉄道会社に対して、女性専用車両は本来誰でも自由に乗車できるものであるにもかかわらず、健常な成人男性の乗車を事実上禁止しており、その行為は憲法に違反し不法行為に該当するなどと主張して、損害賠償・謝罪広告・女性専用車両の表示をしないこと等を求めた事例である。

 裁判所は、鉄道会社が女性専用車両を設定した目的、時間帯などから、鉄道会社が女性専用車両を設置したのは正当であり、その旨表示することも正当である等と判断し、男性の請求をすべて棄却した。

 女性専用車両の位置づけに関して裁判所が判断を示したという点において参考になる判決である。(東京地裁平成23年7月12日判決)

  • ウエストロージャパン

事案の概要

原告:
X(男性)
被告:
Y(鉄道会社)
関係者:
A(女性専用車両に反対する任意団体)

 Yは、2005年9月1日より、自社の鉄道において、6両編成車両のうち、平日の始発から午前9時までの上り列車の最後部車両1両および午後6時以降a駅を発車する下り列車の先頭車両1両を、女性および小学生以下または身体の不自由な人(その介助者を含む)が乗車するための専用車両(以下、女性専用車両)と設定し、その旨を当該車両および駅のプラットホーム内に掲示した。女性専用車両は、鉄道営業法3条に基づく運送条件の実施措置ではなく、あくまで乗客による任意の協力を得て、設定・運営されているものである。Xは、Aと称する会の構成員が2008年6月27日に女性専用車両に乗車するとの事前予告を受け、同日、a駅に赴き、他の4名の男性客(以下、Xら)とともに、午後8時24分発b駅行き区間電車に設定された女性専用車両に乗車した。上記予告を受けて、同日Yのa駅駅長は、鉄道警察隊に連絡を取って事前に待機し、Xらに対し、上記女性専用車両に乗車しないよう説得を試みたが、不調となり、鉄道警察隊4名、警備員2名とともに、同車両に乗車した。同車両は定刻に発車し、午後8時30分頃にc駅に停車するとXらは鉄道警察隊員らとともに女性専用車両から下車した。

 Xは、(1)女性専用車両は、本来誰でも自由に乗車できるものであるにもかかわらず、Yは健常な成人男性の乗車を事実上禁止しており、当該行為は憲法で保障された居住・移転の自由を侵害するとともに法の下の平等に反し、不法行為に該当する、(2)同車両に乗車したXを強制的に排除したYの行為は不法行為に該当すると主張した。

 そして、事実上乗車したい列車・車両を利用して目的地まで乗車することができなかったうえに、公衆の面前であたかも犯罪者のように扱われ、その名誉が毀損(きそん)されるなどの著しい精神的苦痛を被ったとして、Yに対して損害賠償(慰謝料300万円)と謝罪広告の掲載等を求めた。

 本件訴訟の主な争点は、Yが女性専用車両を設定し、誰でも同車両に乗車することができるとの表示をしなかったことが、不法行為上の違法性を有するか否かである。



理由

Yが女性専用車両を設けたことについて

 Xら男性について、憲法上、上記各基本的人権が保障されることは当然としても、しかし、他方で、Yには、法人として、憲法上、営業の自由(22条1項)が保障されていることもまた否定できないものであるから、Yにおいても、事業の遂行ないし営業に関する自由な裁量権を有しているというべきである。そして、現在、Yを始めとする多くの鉄道運行事業者が実施している女性専用車両の設定は、平日の通勤通学の時間帯に相当な混雑をする首都圏等大都市圏の通勤電車において、痴漢犯罪の被害を受けるおそれのある女性の乗客に対し、少しでも安心、快適な通勤通学環境等を提供するために行われていると解せられ、これは目的において正当というべきである。しかも、本件鉄道において、女性専用車両が設定されるのは、平日の通勤時間帯の一部電車、しかも、同車両が設定されるのは6両編成の車両のうちわずか1両のみに過ぎず、これは健常な成人男性の乗客をして他の車両を利用して目的地まで乗車することを困難ならしめるものではないから、健常な成人男性の乗客に対し格別の不利益を与えるものでもない。さらに、上記のような女性専用車両の設定目的に鑑みると、その実効性の確保は重要であり、これを男性を含む本件鉄道の利用客に周知させる必要があることは論を待たないというべきである。本件鉄道の利用者は不特定多数に及ぶものであることからすれば、かかる不特定多数の利用者に対し、女性専用車両の存在を周知させるためには、その表示も相当程度簡明であることが必要であると考えられる。かかる状況に鑑みると、Yが女性専用車両について、健常な成人男性も乗車することができる旨をあえて掲示せず、これを「女性専用車」であり、女性および小学生以下または身体の不自由な人(その介助者を含む)が乗車するための専用車両であると掲示したことをもって、女性専用車両の表示に関するYの裁量権を逸脱した違法なものと評価することは相当でないし、これが社会的相当性を欠いた、男性の乗客に対する不法行為を構成するということもできない。

Xに対する鉄道警察隊等の行為の違法性について

 Xらは本件当日、電車の運行を妨害したり、他の乗客に迷惑を掛けたりする意図はなかったにもかかわらず、Yまたは鉄道警察隊によって、Y女性専用車両から強制的に排除されたと主張する。しかし、本件当日のように、Xら等健常な成人男性が集団で同車両に乗車するとなれば、現に同車両に乗車する他の乗客に対し少なからぬ不安感を与えるであろうことは容易に想像ができる。そうすると、公共交通機関である本件鉄道を運行する会社であり、かつ自ら同車両を設定したYには、現に同車両に乗車する乗客の不安感を払拭(ふっしょく)するため最大限の行為を行うことがむしろ期待されているというべきであって、そのためにはXらに対しある程度強い説得行為が行われたとしても、これをもって直ちに社会的相当性を逸脱した行為と断ずることはできない。そして、一部の鉄道警察隊員が、女性専用車両に乗車中のXらに対して、「駅長さんの要請があれば、あなた方を逮捕しますからね」などとXらにとって必ずしも穏当とはいえない発言をした事実は認められるが、上記のとおりの状況下において、この事実から直ちに鉄道警察隊の行為が不法行為上の違法性を有するものと認めることはできないし、他にYの従業員や鉄道警察隊員が有形力を行使して、Xらをc駅で下車させたと認めるに足りる証拠はない。また、Yまたは鉄道警察隊において、Xを犯罪者として扱ったと認めるべき証拠もないから、かかる事実を前提とするXの主張も採用することはできない。



解説

 近年、首都圏を中心として多くの鉄道会社が平日の通勤通学時間帯に女性専用車両を設定するようになっている。事情としては、平日の通勤通学の時間帯等に痴漢事件が発生している事実があり、相当な混雑をする首都圏等大都市圏の通勤電車においては、痴漢犯罪の被害を受けるおそれのある女性の乗客に対して安心で快適な通勤通学環境等を提供することを目的としたものであると考えられる。ところが、女性専用車両の設置に反対するグループが、計画的に特定の日時を指定し女性専用車両に反対する旨のプラカードなどを持参して示威行動として女性専用車両に集団で乗り込む行動をすることを呼び掛け実施するケースがある。

 本件事件は、こうした事前の呼び掛けにより男性らが女性専用車両に乗り込んだのに対して、事前に呼び掛けを把握した鉄道会社が、グループの行為に対する対策として鉄道警察隊に要請して、当日、女性専用車両には乗らないようにと説得を続けた鉄道会社と鉄道警察隊の行為を契機に提訴された事件である。男性らは、女性専用車両の設置自体が憲法上の法の下の平等や移動の自由に対する権利侵害であるとして損害賠償、女性専用車両の掲示の取りやめなどを求めた。判決では、女性専用車両を設置した目的、時間帯、6両中の1両のみであること(男性はほかの5両に乗車することは自由である)、などを理由に、設置は正当なものであると判断した。また、その表示についても、正当なものであると判断した。

 女性専用車両の設置に反対するグループが、反対の示威行動として複数名で女性専用車両に乗り込んだ際の警察官の行為が違法なものであったとして国家賠償法に基づき東京都に対して損害賠償を求めた事件として、参考判例がある。判決では、女性専用車両の設置について「近年都市部の鉄道の相当部分において混雑時間帯に女性専用車両が設定され、社会一般にその存在が相当程度認知されている状況にあること(公知の事実)」との指摘をしている(請求は棄却)。

 なお、本件訴訟では、Xは、Yは女性専用車両において、主として女性を対象とする広告物を掲示するなどの営業的行為を行って不当に利益を得ているなどとも主張したが、判決では、「そもそもYが同車両を設定した目的は正当であることは上記に説示したとおりであるから、仮に、Yが同車両を利用して副次的に広告収入を得ていたとしても、直ちにこれを不当と評価するのは相当でない」と判断した。

 以上の判断はいずれも妥当なものであり類似の事例の参考となる。



参考判例

  1. 東京地裁平成24年6月13日判決(ウエストロージャパン)


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