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[2017年9月:公表]

未成年後見人に対するリスクの高い投資商品の勧誘

 本件は、証券会社の担当者が未成年後見人を勧誘して、当時、未成年であった消費者名義でリスクの高い不動産投資ファンドを購入させた結果、損失が生じたことから、適合性原則違反、説明義務違反を理由に、成年となった消費者が損害賠償を請求した事例である。

 裁判所は、未成年者にとって非常に大きなリスクのある取引であったと認定したうえで、原審同様に証券会社に適合性原則違反を認め、過失相殺なしで不法行為に基づく損害賠償責任を認めた。

 後見人の金融取引における証券会社の適合性原則違反と過失相殺の考え方を明確にしたものとして、重要な意味を持つ判決である。(東京高裁平成28年11月30日判決<確定>)

  • 『消費者法ニュース』111号295ページ
  • 『証券取引被害判例セレクト』52号249ページ

事案の概要

原告:
X(消費者、未成年者)
被告:
Y(証券会社)
関係者:
A(Xの未成年後見人であった者)
B(Xの祖父、当初の未成年後見人)
C(YのX担当従業員)

 (1)Xは、1989年生まれで、父は1988年に、母は2000年に死去した。2001年、Xの祖父であるBがXの未成年後見人に選任された。Bは、2003年2月、YにX名義の取引口座を開設し、4回にわたって後述の不動産投資ファンド(以下、本件ファンド)に出資していたが、2005年9月に死去した。

 (2)同年10月31日、AがXの未成年後見人に選任された。Aは、Cの勧誘により、Xの未成年後見人としてX名義で、2007年3月から同年11月にかけて、Bの行った投資の償還金を原資とするものに加え、新たに600万円を出資して、合計約1238万円を本件ファンド合計5本に出資した。

 (3)2009年、Xが成人に達し、未成年後見は終了した。2010年5月から2011年1月にかけて順次償還期限を迎えたが、償還金と配当金の合計は約135万円に過ぎず、約1103万円が元本割れの損失となった。

 (4)本件ファンドは、不動産証券化によって投資を募集する手法で、Yがその出資の勧誘を担当していた。出資者は、居住用不動産を信託財産とする信託受益権*に投資する。一口100万円、設定期間は3年で、中途解約はできない。半年ごとに分配金が支払われ、期間終了時に出資金が償還されるが、それらは不動産の賃料収入と売却代金に依存している。そしてこのファンドは、出資金のほかにその数倍の銀行借り入れをすることによって運用資金を拡大し、高利回りをめざすことを特徴としている。償還時には銀行借り入れの返済が優先されるため、投資金額だけを運用するよりも不動産の価格下落の影響が大きくなる(レバレッジリスク)。

 このため、有利で安全性が高いとして勧誘していたYに対して、集団訴訟が提起されたような金融商品である。

 (5)Xは、未成年後見人にリスクの高い金融商品を勧誘するのは適合性原則に違反するとして提訴した。

 原審(参考判例[2])は、本件勧誘について適合性原則違反を認めるとともに、Yが過失相殺すべきであると主張したのに対して、「未成年後見人の落ち度を原因として未成年被後見人に不利益が転嫁されるいわれはない」として損失全額と弁護士費用の合計1213万円余りと最後の買付日である2007年11月16日からの遅延損害金の請求を認容した。Yは、これを不服として控訴した。

  • *信託銀行等に、財産を信託し、その財産から生まれる収益と元本を受け取ることのできる権利。


理由

 裁判所は、次のように判断してYの控訴を棄却した。

 本件ファンドは、不動産価格の下落によって元本割れをするリスクがあるだけではなく、レバレッジ効果により、不動産価格の下落幅以上に出資金が大幅に毀損(きそん)するリスクがある。元本をすべて失うおそれもあり、いったん契約をすると3年間は損失の拡大を防ぐための運用方法の変更ができないから相当にリスクの大きい商品であった。

 未成年後見人は、未成年被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表するものとされており(民法859条1項)、その後見事務の処理に当たっては、後見の本旨に従って、善良な管理者の注意をもって行うべき義務を負う(同法869条、644条)。

 そして、未成年被後見人の財産については、未成年者が成人に達するまでの必要な費用に充てて、その生活を維持し、成人に達したときにはこれを引き渡して生活の補助とすベきものである。よって、相当な経費の支払いを除いては、これを保全し、その確保を図ることが大切であって、資産運用をして増殖する必要はなく、元本割れのリスクがある商品を購入するのは相当でないし、リスクの大きい商品に投資をすることは許されないというべきである。

 以上によれば、本件取引は、未成年者の意向と実情に反する明らかに過大な危険を伴う取引といわざるを得ないところ、AがXの未成年後見人として本件取引を行おうとしていることを認識しながら、CがAに対して本件ファンドの購入を勧誘し、本件取引をさせたことは上記認定のとおりである。当該担当者の行為は、適合性の原則に違反するものとして不法行為に該当し、その使用者であるYも使用者責任を免れないというべきである。

 Yは、未成年者の財産保護は、権限のある未成年後見人が本件取引をした事実によって既に図られており、Yは、行為能力のある未成年後見人との間で、通常の態様で取引をすることができるとも主張する。しかし、未成年後見人がリスクの大きい商品に投資をしてはならないとの責務を負うものであることは判断したとおりであり、未成年後見人と取引をする相手方も、取引の効果の帰属主体が未成年者であり、未成年後見人の責務が上記のとおりであることは容易に認識し得るものである。このことに鑑みると、未成年後見人がリスクの大きい商品に投資することを了承したことをもって、取引の相手方が免責されると解するのは相当でない。

 Yは、本件において被害者側の過失が一切認められないのは不公平であり、損害の公平な分担を図る不法行為法において過失相殺が認められている趣旨に反するとも主張する。しかし、本件取引の勧誘自体が許されない本件においては、未成年者であったXの財産保護が図られるべきであって、被害者側の過失相殺を理由に損害の一部をXに負担させることは、かえって公平の理念に反するというべきであり、Yの上記主張は採用できない。



解説

 本判決は、証券会社の勧誘によって、後見人が被後見人名義で証券取引を行う場合の適合性原則違反・過失相殺について明快に判断したという意味で重要である。なお、本件で問題となった不動産投資ファンドは、その特殊な商品性から多くの被害が顕在化して判決が出されてきている。

 本判決が判示しているとおり、後見人には善管注意義務がある(民法869条が644条を準用している)。これは未成年後見でも成年後見でも同じである。そこで、後見人は投機的な取引はできないことが実務書では指摘されている。しかし、具体的にどのような取引が善管注意義務違反となるのかについて判断した裁判例は少ない。

 本判決は、財産の保全・確保を図ることが大切であるとして、「資産運用をして増殖する必要はなく、元本割れのリスクがある商品を購入するのは相当でないし、リスクの大きい商品に投資をすることは許されない」としている。

 そうすると、適合性原則との関係では、そもそも本件のようなリスクの大きな商品への投資を勧誘することは、許されないことになる。適合性原則の考え方については諸説があるが、本件のような場合、どの説によっても適合性原則違反となると考えられる。

 一般論としては、本人の代理人による取引の場合、適合性原則は本人との関係で判断すべきか、それとも代理人との関係で判断すべきかという論点がある(Yの主張は、そのような観点から展開されている)。しかし、代理人にそのような取引を行うべきでないという義務が課されている以上、適合性原則違反と考えられる。

 後見人の注意義務違反ということになると、後見人の被後見人に対する責任も問題となり得る。Yの過失相殺の主張は、そのような観点から展開されている。しかし、この点について本判決は、「本件取引の勧誘自体が許されない本件においては…被害者側の過失相殺を理由に損害の一部をXに負担させることは、かえって公平の理念に反する」として、Yの主張を否定している。

 以上のとおり、本判決は、後見人の金融取引における証券会社の適合性原則違反と過失相殺の考え方を明確にしたものとして、重要な意味を持つ。



参考判例

  1. [1]大阪地裁平成22年10月28日判決(『金融法務事情』1911号56ページ、『金融・商事判例』1356号28ページ、『証券取引被害判例セレクト』39巻21ページ)
  2. [2]東京地裁平成28年6月28日判決(『証券取引被害判例セレクト』51巻1ページ、『消費者法ニュース』109号315ページ)(本件の原審判決)
  3. [3]最高裁平成17年7月14日判決(『判例時報』1909号30ページ、『判例タイムズ』1189号163ページ、『金融法務事情』1762号41ページ、『金融・商事判例』1228号27ページ)


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