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[2017年7月:公表]

冠婚葬祭互助会の解約返戻金条項と消費者契約法9条1号

 本件は、冠婚葬祭互助会の解約返戻金を定める条項が、消費者契約法上の「平均的な損害」を超える違約金を定めており無効であるなどとして、適格消費者団体が、同法に基づく差止めを請求した事例の控訴審判決である。

 「平均的な損害」の考え方には、逸失利益(契約が履行されたならば得られたであろう利益)を含む、というものと、原則として原状回復であり解約までにかかった費用に限られる、というものがある。

 今回裁判所は、後者の考え方をとり、適格消費者団体の差止請求を認めた。これは、消費者にとって非常に意義のある判断である(大阪高裁平成25年1月25日判決)(平成27年1月20日の最高裁上告不受理決定により確定)。

  • 『判例時報』2187号30ページ
  • 『消費者法ニュース』103号269ページ掲載

事案の概要

原告・被控訴人・附帯控訴人:
X(適格消費者団体・京都消費者契約ネットワーク)
被告・控訴人・附帯被控訴人:
Y1(冠婚葬祭互助会)、Y2(Y1の系列会社)

 Y1は割賦販売法による許可を受けて冠婚葬祭互助会を経営していた。Y2は、Y1と連携して、Y1の互助会加入者と積立契約を締結し、国内の特別企画旅行や指定の互助会での葬儀の際の送迎、人間ドック医療機関の紹介などのサービスを提供していた。

 Y1およびY2(以下、Yら)は、消費者との間で締結している冠婚葬祭の互助契約(以下、本件互助契約)または積立契約において、それぞれ契約解約時に支払済金額から「所定の手数料」などの名目で解約金を差し引くとの条項(以下、本件解約金条項)を設けていた。

 適格消費者団体Xは、本件解約金条項は消費者契約法9条1号にいう「平均的な損害」を超える違約金を定めるもので無効である、また、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものである(同法10条)と主張して、(1)消費者に対し解約金を差し引くことを内容とする意思表示を行わないこと、(2)(1)が記載された契約書ひな形が印刷された契約書を破棄すること、(3)従業員らに対し、(1)の意思表示を行うための事務を行わないことおよび(2)の契約書の破棄を指示することを求めた。

 原審は、Y1については、「月掛金を振り替えるごとにY1が負担する振替費用(1回当たり58円)が9条1号の平均的な損害に当たる」として、Y1の本件解約金条項はこれを超える部分について無効であると判断した。

 Y2については、「積立金の振替費用等の費用は会員から徴収する事務手数料で賄われており、平均的な損害は生じていない」として、Y2の本件解約金条項は全部無効であると判断した。

 Yらが、これらを不服として控訴し、適格消費者団体Xが附帯控訴*1した。

  1. *1 被控訴人が、原判決の中で自分が不利な部分の変更を求めてする控訴。


理由

 裁判所は、原判決中、Y1に関する部分を以下のとおり変更し、Y2の控訴およびXの附帯控訴を棄却した。

 本件互助契約は、消費者が将来行う冠婚葬祭に先立って、所定の月掛金を前払いで積み立てることにより、消費者は冠婚葬祭の施行を受ける権利を取得し、Y1は、消費者の請求により冠婚葬祭の施行をする義務を負う役務提供契約である。Y1は、消費者から冠婚葬祭の施行の請求を受けて初めて、当該消費者のために冠婚葬祭の施行に向けた具体的な準備等を始める。

 すると、具体的な冠婚葬祭の施行の請求がされる前に本件互助契約が解約された場合には、損害賠償の範囲は原状回復を内容とするものに限定されるべきであり、具体的には契約の締結及び履行のために通常要する平均的な費用の額が、消費者契約法9条1号の「平均的な損害」となると解される。そして、その平均的な費用(経費)の額というのは、現実に生じた費用の額ではなく、同種契約において通常要する必要経費の額を指すものというべきである。必要経費とは、契約の相手方である消費者に負担させることが正当化されるもの、すなわち、性質上個々の契約(消費者契約)との間に関連性が認められるものを意味すると解するのが相当である。

 この点、本件互助契約において、「平均的な損害」に含まれるものは、個々の契約との関連性が認められ、会員の管理に要する費用として同業他社でも通常支出しているものと考えられる、月掛金を1回振り替える度にY1が負担する振替手数料58円と振替不能となった場合の通知の送付費用2円を合わせた60円、並びに年2回のニュースレター及び年1回の入金状況通知の作成・送付費用14.27円(1件月当たりの金額)ということになる。

 したがって、Y1は、消費者と冠婚葬祭の互助会契約を締結するのに際し、消費者が冠婚葬祭の施行を請求するまでに解約する場合、解約時に支払済み金額から「所定の手数料」などの名目で、60円に第1回目を除く払い込みの回数を掛けた金額及び14.27円に契約月数を掛けた金額を超える解約金を差し引いて消費者に対し返金する旨を内容とする意思表示を行ってはならない。



解説

 消費者契約法9条1号の「平均的な損害」の考え方について、学説には、(a)民法理論に基づくとするものと、(b)特定商取引法や割賦販売法における損害賠償額等の制限に関する考え方に基づくとするものがある。

 (a)は、「平均的な損害」が、民法416条の「通常生ずべき損害」と同じであると考える立場で、消費者契約法9条1号はそれを消費者契約に関して強行法規*2化したものであるとする。この立場によれば、民法の一般原則が適用され、「平均的な損害」には、逸失利益(契約が履行されたならば得られたであろう利益を失ったという消極的損害)も含まれることになる。

 また、基本的にこの立場に立ちつつ、「中途解約時点までに事業者がどれだけ準備作業を行ったか」「解除後に通常の営業努力で他の契約を獲得できる可能性があるか、もしくは用意した材料等を転用することは可能か」(損害回避可能性)などの程度を検討して、「平均的な損害」に逸失利益が含まれるかどうかを判断する考え方もある。

 これに対して、(b)は、「平均的な損害」について、特定商取引法や割賦販売法で採られていた賠償額を制限する考え方をすべての消費者契約に一般化したものであるとする。契約の履行前の解除に伴う損害賠償請求は「契約の締結及び履行のために通常要する費用」、すなわち、仮に事業者が当該契約を締結していなかったとすれば通常支出することはなかったであろう費用に限定されるというものである。これは、契約解除の場合に求められる損害賠償は、その契約が締結されなかったのと同様の状態に戻す原状回復賠償までに限られる、という考え方に基づく。

 ただし、例外として、契約の目的に代替性がない取引で、その契約の締結によって他と契約する機会を失ったことによる営業上の逸失利益が生ずる場合には、原状回復を考える際に、このような機会の喪失による逸失利益を考えることができることから、逸失利益を「平均的な損害」に含めることができるとする。

 裁判例では、(a)の民法理論に基づく立場に立つものが多いが(参考判例[1]〜[3]など)、本判決は、(b)の特定商取引法・割賦販売法の考え方に基づく立場に立つ。

 消費者契約法9条1号に定める「平均的な損害の額」の解釈について見解の一致をみないなかで、契約履行前には「平均的な損害」を割賦販売法や特定商取引法と同様に「契約の締結及び履行のために通常要する平均的な費用の額」であると判断し、逸失利益について一切考慮しなかった高裁判決として、消費者にとって本判決の意義は大きい。

  1. *2 法令の規定のうち、それに反する当事者間の合意を無効とするもの。


参考判例

  1. [1]東京地裁平成14年3月25日判決(『金融・商事判例』1152号36ページ〈パーティー予約の解約〉)
  2. [2]京都地裁平成26年8月7日判決(結婚式場キャンセル料条項)
    京都消費者契約ネットワークと株式会社Plan・Do・Seeの判決について[PDF形式](消費者庁)
  3. [3]東京地裁平成23年11月17日判決(『判例時報』2150号49ページ〈宿泊予約の解約〉)
    権利能力なき社団が消費者契約法にいう「消費者」に該当するとした事例
  4. [4]福岡高裁平成27年11月5日判決(冠婚葬祭互助会の解約)
    消費者支援機構福岡と株式会社日本セレモニーの控訴審判決について[PDF形式](消費者庁)
  5. [5]京都地裁平成23年12月13日判決(『判例時報』2140号42ページ〈本件の原審判決〉)


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