[本文へ] 消費生活・消費者問題に関する事例や対処方法を紹介しています。

現在の位置 : トップページ > 相談事例・判例 > 消費者問題の判例集 > クロレラチラシ配布差止めと消費者契約法12条の「勧誘」の意味

[2017年6月:公表]

クロレラチラシ配布差止めと消費者契約法12条の「勧誘」の意味

 本件は、適格消費者団体が、クロレラ食品の販売会社に対して、クロレラの効用等を記載した新聞折り込みチラシを配布することが不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)上の優良誤認表示、消費者契約法上の不実告知に該当するとして、新聞折り込みチラシに上記の記載をすることの差止め等を求めた事例である。

 裁判所は、チラシの配布について、消費者契約法12条1項および2項の「現に行い」または「行うおそれ」があるとはいえないとして、原審同様に適格消費者団体の請求を棄却した。しかし、「勧誘」については、事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたもので、1対1で働きかけたものでなくても、それだけで直ちにその働きかけが法にいう「勧誘」に当たらないということはできない、という判断を示した。(最高裁平成29年1月24日判決)

  • 裁判所ウェブサイト
  • 『金融・商事判例』1510号30ページ
  • 『裁判所時報』1668号1ページ
  • LEX/DB掲載

事案の概要

原告・被控訴人・上告人:
X(適格消費者団体・京都消費者契約ネットワーク)
被告・控訴人・被上告人:
Y(クロレラ販売会社)
関係者:
A研究会(法人格のない団体)

 Yはクロレラ成分等を原料とした製品など(いずれも旧薬事法上の「医薬品」ではなく、承認を受けていない)を製造販売していた。一方、A研究会は、クロレラには免疫力を整え細胞の働きを活発にするなどの効用があり、クロレラの摂取により高血圧、腰痛、糖尿病等のさまざまな疾病が回復した旨の体験談などの記載がある新聞折り込みチラシを配布した。このチラシにはYやYの商品の記載はないが、A研究会へ問い合わせるとYの商品のカタログが送付されて購入を勧められ、他社のものは紹介されなかった。Yは、A研究会がYとは別団体であると主張したが、A研究会の当時の状況から、第1審はチラシ配布主体をYと認定し、原審も2014年6月頃までの配布主体はYと認定している。

 適格消費者団体XはA研究会の上記チラシが景品表示法(以下、景表法)4条1号(現在5条)の優良誤認表示、消費者契約法4条1項1号の不実告知に該当するとして、景表法10条1号(現在30条)または消費者契約法12条1項および2項に基づき、Yに対してクロレラ等が薬効のある食品である旨、体験談形式によるクロレラの摂取で疾病が快癒した旨の表示の差止め、指定内容の広告(Yが優良誤認表示を今後行わないことを周知する広告)の配布を求めた。

 第1審(平成27(2015)年1月21日判決)は景表法に基づきこれらの請求をすべて認めた。しかし原審(平成28(2016)年2月25日判決)は上記認定事実の他に、A研究会が第1審で審理対象となった内容のチラシを2015年1月22日以後配布していないこと、他方で2015年6月29日以降にYがY名義で配布しているチラシにはYの商品名が大きく記載され、目立つ文字で「クロレラは医薬品ではありません」と記載されているうえ、第1審で差止め対象となった表示が一切なく、体験談も健康習慣や生活習慣が記載されているのみであること、Yが第1審で問題となった内容のA研究会のチラシを今後配布することはないと明言していることを認定した。そしてこの2015年以後の状況をもとに、「現段階では、Yが適格消費者団体Xの主張するところの優良誤認表示を行うおそれがあるとは認められない」として景表法に基づく差止請求の必要性を認めなかった。さらに消費者契約法についても、「規制の対象となる同法12条1項および2項にいう『勧誘』には、事業者が不特定多数の消費者に向けて広く行う働きかけは含まれず、個別の消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度の働きかけを指す」「特定の者に向けた勧誘方法であれば規制すべき勧誘に含まれるが、不特定多数向けのもの等、客観的に見て特定の消費者に働きかけ、個別の契約締結の意思の形成に直接影響を与えているとは考えられないものについては、勧誘に含まれない」とし、本件チラシの配布は「新聞を購読する一般消費者に向けたチラシの配布であり、特定の消費者に働きかけたものではなく、個別の消費者の契約締結の意思の形成に直接影響を与える程度の働きかけとはいうことができない」として「勧誘行為」性を否定し請求を棄却した(チラシを見て、A研究会への問い合わせをきっかけとしてYから商品購入の勧誘を受けた時点で、上記各項の「勧誘」を受けたものと判断した)。

 これに対して適格消費者団体X側が上告し、本件チラシの配布が消費者契約法12条1項および2項にいう「勧誘」に該当するかどうかに関してのみ上告受理された。



理由

 上告審は原審の判断を是認することができないとし、以下のとおり判断した。

 「法は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、消費者の利益の擁護を図ること等を目的として(1条)、事業者等が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、重要事項について事実と異なることを告げるなど消費者の意思形成に不当な影響を与える一定の行為をしたことにより、消費者が誤認するなどして消費者契約の申込み又は承諾の意思表示をした場合には、当該消費者はこれを取り消すことができるとしている(4条1項〜3項、5条)。そして、法は、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため、事業者等が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、上記行為を現に行い又は行うおそれがあるなどの一定の要件を満たす場合には、適格消費者団体が事業者等に対し上記行為の差止め等を求めることができるとしている(12条1項及び2項)。

 ところで、上記各規定にいう『勧誘』について法に定義規定は置かれていないところ、例えば、事業者が、その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは、当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得るから、事業者等が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合を上記各規定にいう『勧誘』に当たらないとしてその適用対象から一律に除外することは、上記の法の趣旨目的に照らし相当とは言い難い。

 したがって、事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしても、そのことから直ちにその働きかけが法12条1項及び2項にいう『勧誘』に当たらないということはできないというべきである(イタリック体部分原文のとおり)。

 以上によれば、本件チラシの配布が不特定多数の消費者に向けて行う働きかけであることを理由に法12条1項及び2項にいう『勧誘』に当たるとは認められないとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある」。

 (ただし、本件チラシの配布の差止めについては「現に行い又は行うおそれがある」とはいえないとして、適格消費者団体Xの請求を棄却した原審の判断を肯定した。)



解説

 本件は消費者契約法12条の「勧誘」についての最高裁の初めての判断であり、消費者にとって大きな意義のある最高裁判決である。同法は「勧誘」の定義を置いておらず、本最高裁判決も積極的に定義をしてはいない。しかし、原審が同法の「勧誘」を特定の消費者に働きかけたものに限定し、不特定多数の消費者に向けて広く行う働きかけは同法の「勧誘」に含まれないとして新聞折り込みチラシを差止め対象から外したことは明らかに不当であり、その点を明示したことには大きな意義がある。そもそも同法12条1項は「…消費者契約の締結について勧誘をするに際し、不特定かつ多数の消費者に対して第4条第1項から第3項までに規定する行為…を現に行い又は行うおそれがあるとき」を要件としており、「勧誘」が特定消費者を対象としなければならないとすれば条文上の「不特定かつ多数の消費者」の表現と矛盾を来しかねない。条項が「不特定かつ多数の消費者」を要件とする理由は、「少額でありながら高度な法的問題を孕(はら)む紛争が拡散的に多発するという消費者取引の特性に鑑み、同種紛争の未然防止・拡大防止を図って消費者の利益を擁護することを目的」とする条文の趣旨から「差止めの対象となる事業者の行為としては、拡散する蓋然(がいぜん)性を有することが必要と考えられるから、差止めの要件としても、当該行為が特定又は少数の消費者に対して行われているだけでは足り」ない(消費者庁ホームページの消費者契約法逐条解説。ルビは筆者)と考えたためである。したがって新聞折り込みチラシであることだけで適用を排除することはまさに条文の趣旨に反するものである。「勧誘」の判断において重要な点は、最高裁も指摘するとおり、事業者の「当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えること」である。なお、第1審が景表法の差止めを認めたのにもかかわらず控訴審、上告審がそれを否定したのは、第1審の判断が誤っていたからではない。第1審判決後に事業者が差止請求の対象となった行為をやめ、また今後も行わないと明言し、今後行う可能性はないと裁判所が認定したので、景表法30条(控訴審)および消費者契約法12条(上告審)の「現に行い又は行うおそれがある」に該当しないと判断されたためである。差止請求という訴訟の限界であり、所期の目的は達成したと言えるかもしれない。しかし、これで当該事業者に対する再発の抑止になるのかについては疑義が残る。



参考判例

  1. (1)京都地裁平成27年1月21日判決(『判例時報』2267号83ページ、『金融・商事判例』1467号54ページ)(本件の第1審判決)
  2. (2)大阪高裁平成28年2月25日判決(『判例時報』2296号81ページ、『金融・商事判例』1490号34ぺージ)(本件の原審判決)
  3. (3)福岡高裁平成27年7月28日判決(『金融・商事判例』1477号45ページ)


消費者問題の判例集トップページへ

ページトップへ