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[2017年5月:公表]

ワンセグ機能付き携帯電話所有者のNHKとの放送受信契約締結義務

 本件は、ワンセグ機能付き携帯電話の所有者が、同携帯電話は、一定の場所に設置しておらず携帯しているに過ぎないから、放送法64条1項本文の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当しない等と主張して、NHKとの間に放送受信契約締結義務が存在しないことの確認を求めた事例である。

 裁判所は、放送法では「設置」と「携帯」が区別されていることから、「設置」には「携帯」を含まないと解して、携帯電話を携帯するに過ぎない者は「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当しないと判断し、請求を認容した。(さいたま地裁平成28年8月26日判決〈控訴〉、LEX/DB掲載)


事案の概要

原告:
X(ワンセグ機能付き携帯電話の所有者)
被告:
Y(NHK〈日本放送協会〉)

 Xは、ワンセグ機能付き携帯電話を所有している。通常のテレビジョン受信機はX住所地に設置されていない。X住所地では、本件携帯電話は、ワンセグ機能が正常に機能していればNHKの放送を受信することができる。

 Xは、(1)ワンセグ機能付き携帯電話を一定の場所に設置しておらず、携帯しているに過ぎず、Xは放送法64条1項本文の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当しない、(2)仮に、該当するとしても、Xは本件携帯電話をNHKの放送を視聴する目的で所有してはいないから、本件携帯電話は同項ただし書きの「放送の受信を目的としない受信設備」に該当すると主張して、NHK(Y)に対して、NHKとの放送法64条1項の放送受信契約締結義務が存在しないことの確認を求めた。

 争点になったのは、ワンセグ機能付き携帯電話を携帯することが、[1]放送法64条1項本文のNHKとの放送受信契約の締結義務の要件である「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した」ということに該当するか、また、[2]仮に該当するとしても、同項ただし書きは、「放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(中略)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない」と規定しており、その「放送の受信を目的としない受信設備」に該当するか、という点である。

理由

 裁判所は、前記争点[1]について該当性を否定し、争点[2]については判断せず、Xの請求を認容した。

(1)「協会の放送を受信することのできる受信設備」該当性について

 本件携帯電話は、ワンセグ機能が正常に機能していればNHKの放送を受信することができるものであるから「協会の放送を受信することのできる受信設備」に該当するものである。

(2)受信料の性格

 放送法64条1項の規定によれば、NHKの放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、実際に放送を受信し、視聴するか否かにかかわらず、NHKと受信契約を締結する義務を負うから、受信料は必ずしも放送の視聴に対する対価とはいえず、NHKの維持運営のために特殊法人であるNHKに徴収権が認められた特殊な負担金と解するのが相当である。受信料の徴収権を有するNHKは、国家機関に準じた性格を有するといえるから、受信料は国権に基づく課徴金等ないしこれに準ずるものと解するのが相当であり、その要件が明確に定められていることを要する。

(3)「設置」に該当するか

 放送法2条14号は、「設置」と「携帯」を区別しており、「設置」が「携帯」を含む旨のNHKの主張には、文理解釈上、相当の無理がある。同一の法律において、同一の文言が使用されている場合には、同一の意味に解するのが原則であり、課税要件明確主義の立場からは、いっそう、同一文言の解釈について一貫性が要求される。したがって、放送法64条1項の「設置」は、同法2条14号の「設置」と同様、「携帯」の意味を含まないと解するのが相当である。

 放送法の改正がされた1952年当時、ワンセグ放送のような移動体機器を受信機とするテレビジョン放送が想定されていたとは考えられず、一定の場所に設け置く通常のテレビジョン受信機またはラジオが念頭に置かれていたと解される。2009年改正および2010年改正の際、「移動受信用地上放送」や「移動受信用地上基幹放送」の定義として「携帯」という文言が放送法に取り入れられることになったにもかかわらず、受信契約および受信料について定める放送法64条1項の「設置」という文言との関係について、国会で説明がされたり、議論がされたりしたことはなかった。よって、同項の「設置」の意義については、従前のとおり変更しないという扱いがされたものと解するのが相当である。

 以上のように、放送法64条1項の「設置」を、受信設備を使用できる状態に置くことと解することはできず、本件携帯電話を携帯するに過ぎないXは「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に該当しないというべきである。

解説

 地上デジタル放送で1つのチャンネルに割り当てられた周波数の帯域を13のセグメントに分割して、その中で移動体用の帯域として割り当てられた1つのセグメントを利用して行われている放送を「ワンセグ」という。ワンセグ放送はデータサイズが小さいので、電波の弱い地域でも受信しやすく、移動体機器の画面が通常のテレビジョン受信機に比べて小さいため、低画質・低音質でも十分に視聴でき、移動しながらでも映像が乱れずに受信できるとされている。そのため、ワンセグ受信機能付き携帯電話もNHKの放送が受信可能な設備となる。

 したがって、受信機の「設置」に該当するかどうかの問題は次のようになる。本判決は受信料を租税に準じた「特殊な負担金」と理解して租税法律主義の趣旨(憲法84条)を適用し、条文を厳格に解釈すべきものとしたうえで、立法経緯なども踏まえてこれに該当しないものとした。常識に合致する解釈である。

 本判決に従えば、解約をするまでもなく契約は無効である。この点につき参考判例[1]が参考になる。テレビが設置された家具付き賃貸住宅の居住者(会社が借り上げて従業員に住まわせている)がNHKと締結した受信契約につき、受信契約締結義務がない者となされた契約であり公序に反し無効であるとして、既払受信料の返還請求が認められている。参考判例[1]に従えば、ワンセグ事例においても、契約が無効と判断されれば契約者は支払い済みの受信料を返還請求できることになる。

 ところで、受信機をめぐっては、近時もう1つ注目される判決として参考判例[2]が出されている。NHKを受信できなくする装置(フィルター)を設置すれば、「協会の放送を受信することのできる受信設備」に該当しなくなり、既に締結された受信契約を解約できるか、が問題とされた事例である。

 参考判例[2]は、契約後にこのような装置を設置したことが契約の解約事由である廃止に該当するかが問題とされ、「設置」同様に外形的事実を基準として判断すべきであり、「消費者の自宅にNHKの行う地上系によるテレビジョン放送を受信する機能を有するデジタル放送対応テレビが設置されているという外形的事実に変わりはなく、消費者が本件工事の施工を依頼した者に復元工事を依頼するなどして本件フィルターを取り外せば、本件受信機でNHKの放送を視聴することができるのであるから、(中略)消費者が『受信機を廃止すること等により、放送受信契約を要しないこととなった』ということはできない」とした。この論理でいえば、受信機の購入と同時にこの装置を取り付けても、受信契約締結義務を免れないことになる。この事件も控訴中である。

参考判例

  1. [1]東京地裁平成28年10月27日判決(LEX/DB)
  2. [2]東京地裁平成28年7月20日判決(LEX/DB)