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[2017年3月:公表]

ファウルボールによる観客の傷害に対する球団等の損害賠償責任

 本件は、プロ野球の試合観戦に招待された子どもに付き添った保護者が、観戦中に顔面にファウルボールの直撃を受けて傷害を負い、試合を主催した球団、ドーム球場、ドーム球場を所有する自治体に対して損害賠償を求めた事例の控訴審である。

 裁判所は、ドーム球場と自治体の責任を否定した一方で、小学生の招待試合を企画した球団には、よりいっそう安全に配慮した対策を講じるべき安全配慮義務があり、それが尽くされていなかったとして、2割を過失相殺したうえで、約3400万円の支払いを命じた(札幌高裁平成28年5月20日判決)。

  • 『判例地方自治』410号70ページ
  • 裁判所ウェブサイト
  • LEX/DB

事案の概要

原告・被控訴人:
X(観客・31歳女性、招待された小学生の保護者)
被告・控訴人:
Y1(試合を主催した球団)
Y2(ドーム球場の運営管理会社)
Y3(ドーム球場を所有する自治体)

 Y1は、2010年に本件ドームで行われるプロ野球の試合に小学生を招待する企画を実施した。Xの長男(10歳)および長女(7歳)の通う小学校にも、案内する文書を配布した。Xは長男および長女が観戦を希望したため、夫とともに長男、長女および次男(4歳)を連れて本件試合を観戦することにした。2010年8月21日の試合当日、Xらは内野席の前方の座席を確保した。

 本件試合の3回裏、初球がファウルボールとなり、打球が若干の弧を描きつつも低い弾道でかつ軽くスライドしながら本件座席に到達し、Xの顔面に衝突した。その間の時間は、約2秒であり、本件打球が通過するときのグラウンド面からの高さは、6m程度であった。このとき、夫と長男は離席していた。Xは、本件打球の行方を見ておらず、隣の席の次男のようすをうかがおうとわずかに下に顔を向け、視線を上げたときに打球がXの右顔面に衝突した。Xは、本件事故により、右顔面骨骨折および右眼球破裂の傷害を負った。

 Xは、(1)Y1に対し、工作物責任(民法717条1項)、不法行為(民法709条)、債務不履行(野球観戦契約上の安全配慮義務違反)に基づき、(2)Y2に対し、工作物責任、不法行為に基づき、(3)Y3に対し、営造物責任(国家賠償法2条1項)、不法行為に基づき、それぞれ連帯して約4700万円の損害賠償等の支払いを求めた。

 原審は、本件ドームにおける安全設備等の内容は通常有すべき安全性を欠いており、本件ドームには工作物責任ないし営造物責任上の瑕疵(かし)があったと認めて、Yら全員に約4200万円と遅延損害金の連帯支払いを求める限度でXの請求を認容した。これに対し、Yらが各敗訴部分を不服として控訴した。



理由

1.本件ドームの瑕疵の有無

 プロ野球の球場の所有者および管理者は、ファウルボール等の飛来により観客に生じ得る危険を防止するため、その危険の程度等に応じて、グラウンドと観客席との間にフェンスや防球ネット等の安全設備を設けるなどの安全対策を講じる必要がある。他方、観客の側にも、基本的にボールを注視し、ボールが観客席に飛来した場合には自ら回避措置を講じることや、それが困難となりそうな事情(幼い子どもを同伴していること等)が観客側にある場合には、あらかじめ前記危険性が相対的に低い座席に座ることなどの相応の注意をすることが求められる。

 本件ドームの内野フェンスは、本件ドームで実施されていた他の前記安全対策を考慮すれば、通常の観客を前提とした場合に、観客の安全性を確保するための相応の合理性を有しており、社会通念上プロ野球の球場が通常有すべき安全性を欠いていたとは言えない。安全性の確保のみを重視し、臨場感を犠牲にして徹底した安全設備を設けることは、プロ野球観戦の魅力を減殺させ、ひいては国民的娯楽の1つであるプロ野球の健全な発展を阻害する要因ともなりかねない。

 観客らの中には、野球に関する知識や経験が乏しいことや年齢等の理由により、前記の危険性をあまり認識していない者や自ら回避措置を講じることを期待し難い者も含まれるが、そのような者に対する前記危険性の具体的な告知や追加の安全対策等は、プロ野球の試合を主催する球団による興業の具体的な運営方法の問題であり、通常の観客を前提として通常有すべき安全性を欠いているか否かを判断すべき前記「瑕疵」の有無を左右する事情とは言えない。

2.野球観戦契約上の安全配慮義務違反の有無

 保護者の同伴を前提として本件試合に小学生を招待する企画(本件企画)を実施したY1は、本件企画に応じて本件ドームに来場する保護者らの中には、Xのように前記危険性をほとんど認識していない者や、小学生やその兄弟である幼児らを同伴している結果として、ボールを注視して自ら回避措置を講じることが事実上困難である者が含まれていることを十分に予見できた。Y1は、少なくとも前記保護者らとの関係では、野球観戦契約に信義則上付随する安全配慮義務として、本件企画において前記危険性が相対的に低い座席のみを選択し得るようにするか、または保護者らに危険があることおよび相対的にその危険性が高い席と低い席があること等を具体的に告知して、当該保護者らがその危険を引き受けるか否かおよび引き受ける範囲を選択する機会を実質的に保障するなど、招待した小学生およびその保護者らの安全によりいっそう配慮した安全対策を講じるべき義務を負っていた。Y1は、前記安全配慮義務を十分に尽くしていたとは認められず、Xに対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う(なお、Y1へのその他の請求およびY2・Y3への請求は棄却した)。

3.過失相殺の当否

 本件座席およびその付近の席を選択したのはXの夫であり、Xは夫の選択をそのまま受け入れて本件座席に座っていたこと、本件事故の際、Xの夫は、長男とともに離席していたこと、本件ドームにおいては、ファウルボールに対して放送や警笛による注意喚起が行われていたこと、それにもかかわらず、本件事故の際、Xは、本件打球の行方を見ておらず、隣の席の次男のようすをうかがおうとしてわずかに下に顔を向け、視線を上げた時には、衝突の直前であった。上記各事実によれば、本件当時、Xは、野球に関する知識や関心がほとんどなく、ファウルボールに関する具体的な危険性を十分認識していなかったことを考慮しても、本件事故の発生については、X側(Xの夫を含む)にも過失があったものと認められる(Y1が8割、X側が2割)。



解説

 プロ野球の観客が、試合中や試合前打撃練習中に観客席に飛来したファウルボールなどにより負傷する事故については、これまで本判決を含めて6つの判決が出されており、参考判例[1]〜[4]が責任を否定するのに対して、本件は原審判決も本判決も責任を肯定する。ただし、原審判決が球場の瑕疵を認め球場の所有者(Y3)および管理者(Y2)にも責任を認め、また過失相殺を否定したのに対して、本判決は施設の瑕疵を否定し、球団(Y1)に試合運営の安全配慮義務違反のみを認め、かつ、過失相殺を認めている。

 参考判例[1]は、ネットの施されていない内野席でのファウルボールによる事故の事例(ビールを購入し、座席前のコップホルダーに置いて顔を上げた瞬間に直撃)で、プロ野球の球場として通常備えるべき安全性に欠けることはなく、また、安全配慮義務にも違反していないものとして、土地工作物責任も不法行為責任も否定している。参考判例[2]はその控訴審であり、同様に瑕疵および過失(安全確保のための義務違反)を否定している。参考判例[4]も、内野席に折れたバットが飛んできて観客が負傷した事例につき、フェンス上にネットはなかったが、プロ野球の球場として通常備えるべき安全性に欠けることはなく、また、注意喚起義務を怠ったものともいえないとして、土地工作物責任と不法行為責任のいずれも否定している。参考判例[3]は、試合前の練習中に外野にいた観客に打球が衝突した事例であり、被告が球場において実施していた警備態勢は、打撃練習時の球場における警備上の注意義務を果たすものであったと認められている。

 本件の特殊性は、「初めて球場にきた野球についての知識も興味もない幼児を連れた母親」が被害者であるという点にある。参考判例[1]〜[4]は通常の観客に対する設備の安全性、安全対策を問題にして責任を否定したが、このようないわば”観戦不適格者”への特別の配慮をどちらがどう行うべきかという課題が問題提起されたのである。

 原審判決(参考判例[5])は、通常の観客だけでなく観戦不適格者に対する対策までを施設として要求したが、本判決は施設の安全性は通常の観客を基準として客観的に判断されるべきものであるとして、瑕疵を否定した。そのうえで、主催者に観戦契約上の信義則上の義務として観戦不適格者への安全配慮義務を認め、その具体的内容を示した意義は大きい。ただ、2点疑問が残る。まず、「本件企画において」と断っていることから、本件企画とは関係なく幼児連れで家族で入場する場合には当てはまらないのかという点である。次に、夫が席を選択し、また事故当時席を外していたことを、X側の過失として考慮した点である。幼児連れで夫もそばにいるから安全ということで危険な席を選択した自己責任をXの家族全体に負わせたかたちになる。夫が席を外している間は、Xによりいっそう注意する義務を認め、Xの過失とする可能性もあった。



参考判例

  1. [1]仙台地裁平成23年2月24日判決(裁判所ウェブサイト)
  2. [2]仙台高裁平成23年10月14日判決(LEX/DB)
  3. [3]千葉地裁平成23年10月28日判決(LEX/DB)
  4. [4]神戸地裁尼崎支部平成26年1月30日判決(LEX/DB)
  5. [5]札幌地裁平成27年3月26日判決(裁判所ウェブサイト、LEX/DB、本判決の原審判決)


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