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[2016年9月:公表]

行政書士の業務と弁護士法違反

 本件は、行政書士が交通事故の被害者から自賠責保険の申請手続、書類作成およびこれに付随する業務に関する依頼を受け、報酬の支払いを求めた事例の控訴審である。

 裁判所は、行政書士の請求を棄却した原審の判断を維持し、本件契約が法律事務に当たり弁護士法72条に違反する非弁行為*1に該当するため、公序良俗に反して無効であるとして、行政書士の請求を棄却した。(大阪高裁平成26年6月12日判決<上告受理申立不受理、確定>)

  • 『判例時報』2252号61ページ
  • *1 弁護士法72条に違反する行為。報酬を得る目的で非弁護士が法律事務を取り扱うこと。

事案の概要

原告:
X(行政書士)
被告:
Y1・Y2(交通事故の被害者Aの両親)
Y3(Aの妻、交通事故の被害者)
関係者:
A(交通事故の被害者、原審の提訴後に死亡)

 行政書士のXは、交通事故の被害者A(本件事件の一審(原審)提訴後死亡。両親Y1Y2らが同訴訟を承継した)およびY3が受けた交通事故の被害に関し、本件事故に関する保険金手続の請求書類および付随業務を受任し、報酬を受け取る契約をした。本件各契約の内容は、(1)Xが作成した根拠書類等の提示により保険会社等から支払われる保険金(示談金額)が増額された場合には、増加した経済的利益の10.5%ないし5.25%の報酬を、(2)後遺障害申請、異議申立書作成に関し、被害者請求、異議申立手続による認定額の10.5%の報酬を、(3)付き添い、医師面談等の出張が必要な場合、半日につき10,000円以上15,000円以下、往復4時間を超える場合は1日につき15,000円以上30,000円以下の日当をXに支払い、(4)事件が訴訟等に移行した場合、Aらの希望によりXが司法書士・弁護士を紹介し、Aらが司法書士に訴訟等の委任をした場合には経済的利益の5.25%を(1)(2)の報酬と共に支払う、というものであった。

 Y1らが契約に基づいた報酬等の支払いをしなかったため、Xは本件訴訟を提起した。これに対し、Y1らはXの行為は弁護士法違反で無効などと主張して争った。

 原審は、次のように判断し、Xの請求をいずれも認めなかった。

 Aらは本件事故による傷害に係(かか)る損害賠償や後遺障害別等級認定、症状固定時期などに強い関心を抱いており、Xが保険会社との示談交渉に当たることを前提に、つぶさにXに相談していたこと、XはAらの受任者として自己名義で自賠責保険の被害者請求のための支払請求書兼支払指図書を保険会社に提出したことなどから本件は損害賠償の算定、過失割合をめぐる法律上の争点を踏まえた解決が求められる事案であり、このような本件事件の性質に照らすと、本件各契約は、全体として弁護士法72条にいう「報酬を得る目的で」「その他一般の法律事件を取り扱い、又はこれらの斡旋(あっせん)をする」ものに該当し、かつ、Xは、報酬を得る目的で、保険会社等との間の示談代行等の事務や、弁護士等訴訟代理人となるべき者を紹介することを業として行っていたと言える。したがって、本件各契約は公序良俗に反して無効である。

 そこで、Xは原判決を不服として控訴した。

理由

1.結論

 裁判所は以下のように述べて、Xが本件各契約に基づいてした行為は弁護士法72条に違反するものであり、本件各契約は公序良俗に反して無効であるとした。

2.行政書士法に定める「権利義務又は事実証明に関する書類」の該当性

 Xは、亡AおよびY3が、加害者との間で将来法的争いが発生することがほぼ不可避である状況を認識しながら、整形外科宛ての上申書や保険会社宛ての保険金請求に関する書類等を作成し提出しているが、これらの書類には亡Aらに有利な等級認定を得させるために必要な事実や法的判断を含む意見が記載されていたことが認められる。そうすると、これらの書類は、弁護士法72条で弁護士・弁護士法人以外が行うことを禁止されている一般の法律事件に関しての法律事務(非弁行為)を取り扱う過程で作成されたものであって、行政書士法1条の2第1項(行政書士の業務範囲を定めている)にいう「権利義務又は事実証明に関する書類」とはいえない。

3.弁護士法72条の禁止行為との関係について

 将来法的な争いの発生が予測される状況においてXが行った書類の作成や相談に応じての指導助言は、いずれもそもそも行政書士の業務(行政書士法1条の2第1項)に当たらない。また、弁護士法72条により禁止される一般の法律事件に関する法律事務に当たることが明らかであり、非弁行為の禁止についての例外を定めた弁護士法72条ただし書の適用もないため、Xの行為は行政書士が取り扱うことが制限されている、とした。

4.書類作成費用の請求について

 本件事故に関する書類の作成自体が法律事務に当たり、行政書士法1条の2の対象外というべきであるから、本件各契約に基づくXが行った業務は全体として弁護士法72条違反と言える。契約書の記載等から書類作成に関する費用のみを計算することは不可能ではないとしても、不可分である本件各契約の一部分についてのみ報酬請求権の発生を認めるのは相当でない。

解説

 弁護士法72条は「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない」と定め、非弁護士の法律事務の取り扱い等を禁止している。違反した場合には、刑事罰の対象となる(弁護士法77条、2年以下の懲役または300万円以下の罰金)。弁護士法72条に違反する契約は、公序良俗に反して無効とされる。

 一方で、行政書士法1条の2は、「1 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(…略…)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない」と定めている。本件は、交通事故の自賠責保険の保険会社に対する請求等に関して、行政書士が相談対応、申請書類等の書類の作成・助言等を行ったことが、行政書士法に定める「権利義務又は事実証明に関する書類」に該当するかどうかが争われた事例である。本判決は参考判例[1]の「『その他一般の法律事件』とは法的な争いが生ずることがほぼ不可避であるものを指す」とする判断を踏襲したものである。消費生活相談では、消費者被害にあった消費者に行政書士が事件を解決するための文書作成や交渉を有料で行うことを持ちかけるケースがある。本件は、そのような相談の際の参考になる。

 なお、全国の消費生活センターに寄せられた行政書士に関する消費生活相談は、2013年度までは年間百数十件前後であったが、本判決が出された2014年度に約700件と急増した(2015年度は約400件、2016年7月1日時点のPIO−NET<パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム>の登録分)。相談の内容はアダルトサイトからの不当請求の解約交渉に関するものが多くを占めている。そこで、国民生活センターは2015年5月14日に行政書士が「返金請求」や「解約交渉」等を行うことは、弁護士法に違反している可能性が高く、行政書士に解約交渉等を行うことは認められていないことについて報道発表している。

参考判例

  1. [1]最高裁平成22年7月20日判決
    (『判例時報』2093号161ページ、『刑集』64巻5号793ページ(弁護士法72条違反が問題となった刑事事件において「その他一般の法律事務」とは法的紛議が生ずることがほぼ不可避であるものを指す旨の判断を示した))
  2. [2]東京地裁平成5年4月22日判決
    (『判例タイムズ』829号227ページ(遺産分割について紛争が生じ紛争性を帯びているにもかかわらず他の相続人と折衝することは行政書士の業務の範囲外であると判断した))

参考:「アダルトサイトとの解約交渉を行政書士はできません」(2015年5月14日 国民生活センター公表)