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[2016年8月:公表]

こんにゃく入りゼリーによる死亡事故に関する製造物責任

 本件は、こんにゃく入りゼリーを食べた幼児(当時1歳9カ月)がのどに詰まらせ窒息死した事故について、その両親らが、食品に危険性があり、食品の警告表示が不十分だったとして、製造会社に対しては製造物責任法3条および不法行為責任、会社取締役に対しては、会社法に基づき損害賠償を請求した事例である。

 裁判所は、原告の請求を棄却した原審の判断を維持し、食品自体に危険性は無く、本件警告表示も不十分ではないとして控訴を棄却した。(大阪高裁平成24年5月25日判決〈確定〉、LEX/DB)


事案の概要

原告:
X1(被害者Aの父親)
X2(被害者Aの母親)
被告:
Y1(事業者)
Y2、Y3(Y1の代表取締役)
関係者:
A(死亡した幼児、当時1歳9カ月)
B(Aの祖母)
C(Aの祖父、Bの夫)
D(Aの兄)
E(Aの伯母、X1の姉)
F・G(Aのいとこ、Eの子)

 2008年7月29日、祖父母であるB・Cの自宅にA(本人)、D(Aの兄)、X1の姉Eとその子F・Gが遊びに来ていた。昼食後BはAらに、冷凍庫に保管後2時間ほど冷蔵庫で解凍していたY1製造・販売のミニカップ容器入りのこんにゃく入りゼリー(以下、本件こんにゃく入りゼリー)を与えた。Aらは、本件こんにゃく入りゼリーのミニカップ容器を外袋から1つずつ取り出し、Aは、上ふたを剥がしてもらい、自分で食べた。なお、Aが食べている間、家にはBのほかC、Eがいたが、Aが食べるところを注意して見ていた者はいなかった。Aがなかなか食べ終わらず、様子がおかしかったので、Bがまだ食べ終わらないのかと思い、注意してAを見たところ、Aは意識を失って、頭をがっくりと下に垂らした状態であった。BやCがのどに詰まった本件こんにゃく入りゼリーを取り出そうとしたが取り出せず、救急車で心肺停止の状態で病院に運ばれたがAは意識を回復することなく、同年9月20日、窒息による多臓器不全により死亡した。

 X1らは、Aが死亡したのは、Y1らが本件こんにゃく入りゼリーの設計上の致命的な欠陥を放置して漫然と製造・販売したためだとして、Y1らを被告として、Y1に対しては民法715条の製造物責任および不法行為責任に基づき、また、Y2およびY3に対しては会社法429条の取締役の第三者に対する責任に基づき、総額約6200万円の損害賠償等を求めた。

 原審(第一審)は、本件こんにゃく入りゼリーが硬く破砕されにくい、水に溶解しにくい、冷温では硬さ・付着性が増すといったことはこんにゃく自体の特性であって、これのみでは設計上の欠陥とは言えないとした。また、仮に形状から吸い込み食べが誘発されたり、ゼリーという商品名から前述のような商品特性を意識しにくいことへの対策が不十分で商品特性に気づかず誤嚥(ごえん)事故を誘発したりすれば、設計上の欠陥を基礎づける事情ともなるが、本件に関しては、当時の誤嚥事故報道により本件こんにゃく入りゼリーの認知度が相当高かったことや、ミニカップの形状は吸い込み食べの必要がないようにできていたことなどから、Aの誤嚥は保護者の不注意によるものだとして、設計や警告表示の欠陥を否定し、X1らの請求を否定した。

 X1らは、第一審判決(以下、原判決)を不服として控訴した。

理由

 本判決は、原判決の一部に追加修正をしたうえで、以下のように判断し、X1らの請求を棄却した。

1.製品の安全性について

 硬さが強く破砕されにくい、水に溶解しにくい、冷温では硬さ・付着性が増すといった、こんにゃく入りゼリーの各特性による窒息事故の危険性は、発がん物質などの有害物質が含まれているような食品自体の危険性ではなく、食べ方に起因して発生する危険性である。

 本件こんにゃく入りゼリーと同様の商品が市場に多数流通し、その大多数は、窒息事故を起こしていない。食品事故の発生件数は、餅による窒息事故のほうが断然多く、発生頻度も飴による窒息事故と同程度である。そのため、本件こんにゃく入りゼリーを食した際に窒息事故が発生したからといって直ちにその物性自体や食品自体の安全性に問題があるとまでは言えない。ただし、食べ方の留意事項についての配慮やミニカップの形状や大きさによっては、上向きで食べたり吸い込んで食べたりする可能性が出てくる点について、Y1が講じる対策によっては本件こんにゃく入りゼリーの欠陥も基礎づけられることもある。

 しかし、こんにゃくと表示されていること、商品の認知度、本件こんにゃく入りゼリーを食用する理由、事故報道の認知率(2008年3月時点で86.6%)から、本件こんにゃく入りゼリーが商品特性を意識しにくい状態にあったとは言い難い。また、本件こんにゃく入りゼリーのミニカップの容器が、その形状から上向き食べや吸い込み食べを誘発するものとは認め難い。以上のように、本件こんにゃく入りゼリーに設計上の欠陥は認められないと判断した。

2.警告表示について

 本件こんにゃく入りゼリーの警告表示は、子どもや高齢者がのどを詰まらせる危険性があることがピクトグラム(情報や注意を示すために使われる絵文字)で外袋表面に、警告文が外袋裏面に明確に赤字で表示されており、通常のゼリー菓子ではなく、こんにゃく入りであることも外袋の表にも裏にも記載され、特に、子どもや高齢者は食べないで下さいという明確な表示は表裏の両面に記載されていた。また、ミニカップの形状や大きさにも危険性があるとは言えない。一般消費者のこんにゃく入りゼリーの認知度等に照らすと、本件警告表示で不十分とは言えないとした。

3.Y1らの注意義務違反

 Y1は、窒息事故に対し、商品の安全性について相応の対応をしており、Y1らに具体的注意義務違反があったとは言えないとした。

4.事故当時の状況について

 Bは、本件こんにゃく入りゼリーの食感を十分知っていたのに、自分から離れたところでAに食べさせたまま放置しており、通常予想される食べ方とは言い難いとした。

解説

 本件は、こんにゃく入りゼリーをめぐる死傷事故に関する初めての原判決に対する控訴審判決(以下、本判決)である。こんにゃく入りゼリーをのどに詰まらせた窒息による死亡事故は、本件発生前までに1995年7月から24件起きており、ひとつの社会問題ともなっていたものであり、原判決、本判決を含めその司法判断が注目されていた。

 原判決も本判決も、こんにゃく入りゼリーの食製品としての設計上の欠陥について、同製品の持つ、硬さが強く破砕されにくいなどの特性は、こんにゃく自体の特性なので、これのみで欠陥の特性を基礎づけることはできないとし、この特性による窒息事故の発生の危険性は食べ方の問題であるとした。

 そのうえで、メーカーがこの食べ方に対する留意事項について配慮していたかを問題とし、本件事故発生当時、誤嚥事故に関する報道を含めこんにゃく入りゼリーの認知度が相当高かったこと、ミニカップ容器の形状等はむしろ上向き食べや吸い込み食べの必要がないようにできていたこと、乳幼児に対しては、保護者等が切り分けるなどして与えるべきであり、乳幼児の誤嚥は設計上の欠陥を意味するものではないなどとしている。

 さらに本判決は、食品による窒息事故の発生件数や発生頻度を問題としており、餅による発生件数のほうが断然に多いことや発生頻度も飴による窒息事故と同程度である点も本件こんにゃく入りゼリーの設計上の欠陥を認めなかった理由のひとつとしている。

 製造物責任で問題となる「欠陥」には、「製造上の欠陥」「設計上の欠陥」「指示・警告上の欠陥」があるとされる。製造上の欠陥とは、製造過程で一部の製品に不具合品が生じる場合の欠陥である。設計上の欠陥とは、商品設計そのものが安全性を欠く場合で、この設計により製造された商品は皆、欠陥となる。指示・警告上の欠陥とは製品の使用方法によっては事故が起こる危険性がある場合に、事故が起きない適切な使用方法等を指示・警告していない欠陥のことである。

 本件では、こんにゃく入りゼリーの設計上の欠陥と指示・警告上の欠陥が問題となった。また、「欠陥」の判断基準には、標準逸脱基準(製造物がその標準となる設計や仕様から逸脱しているかどうか)、危険効用基準(製造物に内在する危険性とその有用性を比べて、危険性が有用性を上回るかどうか)および消費者期待基準(「通常の消費者」が予期する以上に当該製造物が危険なものか)があるが、本件では製造物責任法3条の「欠陥」とは製品に「通常有すべき安全性を欠いていることをいう。」とされ(同法2条2項)、どの基準によるかは、明確にはされなかった。

 本判決は、製品自体の危険性とその使用方法による危険性を分けて判断しているが、以下のように疑問が残る。

  1. (1)BおよびAの使用方法は、通常の使用方法ではないか。BがAに一人で食べさせたこと、Eが、その時寝ていたことなどは、判決のとおり予想される使用方法とは言えず、予想できない誤使用なのか。
  2. (2)伝統型製品については、危険が周知されているから欠陥の問題とされないが、新しく製品化された製品について事故が多く発生しても、これらの製品との比較により欠陥ではないとしてよいのか。

参考判例

  1. 神戸地裁平成22年11月17日判決(『判例時報』2096号116ページ(原判決))