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[2016年6月:公表]

名義人の娘による預金払い戻しに応じた金融機関に、注意義務違反はないとした事例

 本件は、預金名義人の娘が名義人の預金通帳、届出印、キャッシュカードと暗証番号を使って預金の払い戻しを請求し、銀行が払い戻しに応じたことについて、名義人が、銀行の注意義務違反による債務不履行責任を主張して損害賠償請求をした事例である。

 裁判所は、銀行に金融機関として業務上合理的に要求される注意義務を尽くさなかった過失があるとした第一審判決を取り消し、払い戻しは名義人の承諾に基づいて行われたもので、銀行に債務不履行責任は認められないとした(東京高裁平成27年7月16日判決)

  • 『金融・商事判例』1475号40ページ

事案の概要

原告:
X(被控訴人、消費者)
被告:
Y(控訴人、銀行)
関係者:
A(Xの娘でYの補助参加人、一審時は行方不明)
B(Yの窓口担当者)
C(Yの窓口払い戻しの検閲事務担当者)

 Xは、1941年生まれで2001年に勤務先を定年退職した。Xと娘のAは同居していたが、2012年3月に自宅が火事にあって借家住まいとなり、別居した。Aは、週に1回程度X宅を訪問し、XはAの要望に応じて本件口座から生活費を送金していた。

 Xは、Yの甲支店に普通預金口座があり(以下、本件口座)、預金通帳、印鑑、キャッシュカード等は寝室の押し入れ内の鍵のかかるキャビネットに入れて保管していた。しかし、鍵は力を入れて引くと壊れて開いてしまう状態であった。

 Xは、同年8月14日、知人の法事に出席するため、Aに犬の世話を頼んで外泊した。Aは、その14日と翌15日にコンビニエンスストアのキャッシュディスペンサー(以下、CD機。現金などの引き出しは可能だが振込や通帳記入はできない)から12回に分けて合計100万円を引き出した。加えて、15日にYの乙支店を訪れ(Xは一度も乙支店を利用したことがなかった)、約2100万円の残高があったXの本件口座からほぼ全額を払い戻した。

 Xは同月17日、通帳等がなくなっていることに気づき、警察に通報するとともに口座を開設しているYの丙支店に赴いて説明を受けた。数日後、Xは乙支店に行き、手続きどおりに支払いをしたと説明された。

 Aは、同月30日にX宅を訪れ、払い戻し金はすべてなくなったと告げ、その後所在不明となった。

 そこでXは、Aは盗んだ通帳等を利用して払い戻しを受けており、BやCには注意義務を尽くさなかった過失があるとして、Yに対して債務不履行を主張して、払い戻した金額の返還を請求した。

 これに対し、Yは、民法478条(債権の準占有者に対する弁済は、弁済をしたものが善意無過失の場合に有効だとする)および免責特約により払い戻しは有効であると主張した。Xは、一般社団法人全国銀行協会にあっせん手続きを申し立てたが決裂したため、訴えを提起した。

 第一審判決(以下、原判決)(参考判例[1])は、本件では、AがXの真正な通帳等を持っていたなどXがAに払い戻しの権限を付与していたことをうかがわせる事実はあり、これらを確認してなされた払い戻しは預金債権の準占有者に対する払い戻しに当たるものと思われるとしつつも、AがXの預金払い戻しを請求する正当な権限者ではないと疑うべき特段の事情があると言え、B・Cが金融機関として業務上合理的に要求される程度の注意義務を尽くしたとは認めがたく、Yには過失があるとして、Xの請求を認容した。これに対してYが控訴した。

 控訴審では、原審(第一審)では所在不明であったAが、Yのために補助参加した。そして、Aは、コンビニエンスストアのCD機からの引き出しを含め、Xから指示されたとおりに本件口座から現金を引き出したと証人尋問において供述をした。



理由

 本件控訴審判決(以下、本判決)は、原判決を変更し、Xの請求を棄却した。

1.Xの払い戻しの承諾について

 Aは、2012年8月14日より前に、Xから本件口座の預金全額を引き出すよう依頼され、次の2点を指示された。

  1. (1)窓口に行く前にさまざまな場所のATMから合計100万円を引き出すこと
  2. (2)窓口で払い戻しを受けるときはYの乙支店に行くこと。そして、通帳等はXの自宅に置いておくので、Xが留守にしている間に、Aが自宅に入って受け取ること

 AがXの自宅に入ると、机の上に封筒があり、その中に、通帳、届出印、キャッシュカード、暗証番号を書いた付箋(ふせん)紙が入っていた。

 Aは、上記(1)(2)の指示通りに預金を引き出し、乙支店では、自分の身分証明書として運転免許証を示し、父親Xは出張で来店できないので代わりに来たこと、払い戻す資金は火災にあった家屋の建て直しに使うこと等の説明を行い、払い戻し手続きを行った。

 本判決は、Xの「Aが通帳等を盗んだ」「Xが依頼したのなら、Aが乙支店の来店前に深夜、短期間に複数回の引き出しをするはずがない」との主張に対し、盗んだものであれば引き出し行為時の不正発覚の危険を避けるために1回の引き出しで限度額まで現金を引き出そうとするはずで、短期間に複数回の引き出しをすることはかえって不自然であり、Xの指示によるものだとのAの供述は信用できるとして、Xの主張を退けた。

2.Yの注意義務違反について

 免責特約では、持参した印鑑の印影と印鑑届が相違しないこと、または届け出られた暗証番号と入力した暗証番号が一致することのいずれかがあればYの免責が認められる。本件では、印鑑・暗証番号のいずれについても一致が認められ、それ以外の事実を検討してもYの注意義務違反を認めるに足りる証拠はないから、民法478条の弁済として有効となる要件を備えている。したがって、Xが主張するYの注意義務違反による債務不履行の事実は認められないとした。



解説

 本件は、原判決(参考判例[1])と本判決で結論が異なる判断となった。判断の前提となる事実関係の大きな違いとして、原審の審理過程ではAが所在不明であったのに対して、控訴審の審理ではAがYに補助参加(訴訟の結果について利害関係を有する第三者が、当事者の一方を補助するため、訴訟に参加すること)したうえ、Xの指示に基づいて行動したと述べている点がある。このような背景の下で、原判決がAによる本件預金の払い戻しはXの意に反するものであったことを前提としているのに対して、本判決はAの供述を信用しAはXの指示どおりに行動したという認定となっている。

 これは、事実認定の違いであるが、原判決も本判決も認定事実はごく簡略なものであるため事実関係の詳細は不明である。例えば、Aは、本件預金払い戻しの前日、コンビニのCD機から4回に分けて計46万円のほか、1万円を4回に分けて計4万円(合計50万円)、払い戻しの当日に4回に分けて計50万円を引き出している。

 本判決によれば、このAの行為はXの指示によるものだとされているが、不自然さが残る。また、XがAにお盆休みの最中に工事代金の支払いのため預金の引き出しを指示したとするならば、請負業者との間の代金支払い日や支払代金がどうであったのかが重要であるが、その点に関する事実関係はまったく認定がない。

 親族が代理人として預金の払い戻し請求の手続きをする場合は少なくないと思われるが、本件はそのようなケースにおいて原審と控訴審で判断が分かれた微妙な事案として参考になる。

 原審ではAが所在不明であったという事実関係を前提に、Aが預金払い戻しを請求する正当な権限者ではないと疑うべき特段の事情があると判断されたのに対して、本判決ではAがYのために補助参加したという新たな事実関係を前提にして、Yに注意義務違反はないとされた。その意味で、本判決も、単に「免責約款では印鑑による印影と届出印が相違しないこと又は暗証が一致することのいずれかがあれば免責される」ということだけで結論を下しているわけではない。



参考判例

  1. [1]東京地裁平成26年8月21日判決
    (『金融・商事判例』1453号56ページ)
  2. [2]釧路地裁平成24年10月4日判決
    (『金融・商事判例』1407号28ページ、同じ日に預金者の妻が同じ銀行の別支店で2度預金を払い戻したことについて、2度目は銀行に過失があると認定した)
  3. [3]東京地裁平成24年1月25日判決
    (『判例時報』2147号63ページ、盗難されたキャッシュカードのATMでの払い戻しについて、銀行に預金者保護法の補てん責任を認めた)


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