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[2015年11月:公表]

貴金属地金の分割払い取引を違法と認めた事例

 本件は、金(きん)地金(じがね)の販売会社が82歳の高齢者に対し、金地金の300回分割購入契約を8本結ばせたことについて、高齢者が販売会社らに対して損害賠償を求めた事例である。

 裁判所は、商品先物取引法で禁じられた私設市場を開設していることになり公序良俗に反する違法行為であるうえ、賭博行為にも該当するとして、不法行為に基づき損害額全額と弁護士費用を併せて、総額約1100万円の支払いを命じた(東京地裁平成25年12月12日判決)。

  • 『消費者法ニュース』99号290ページ
  • 『先物取引裁判例集』70巻226ページ

事案の概要

原告:
X(消費者、当時82歳)
被告:
Y1(金地金の販売会社)
Y2(Y1の代表取締役)
Y3(Y1の販売員)

 Xは事件当時82歳の高齢者である。Y3は、X宅に浄水器の点検をするなどと偽って上がり込み「金、買ったことある?お金を積んである程度経てば延べ棒をもらえるから。金は上がるんだよ。金だけは絶対に下がらない。良い思いをさせてあげたい」「金がどんどん上がっているから。こんなに上がることないからもうちょっと買ってくれませんか。悪いようにはしないので。いつか喜んでもらえるようにするから」などと勧誘した。Y3は2012年6月6日から2013年5月13日までの約1年の間に合計8回にわたり訪問してXに金地金1kgを300回の分割払いで購入させ、契約手数料を支払わせる契約を8本締結させ、分割払金と契約手数料の名目で合計約1300万円を支払わせた(なお、このうち契約手数料はおよそ600万円。契約手数料は支払金額の半額に当たる)。

 同契約には、中途解約できる定めがあり、中途解約した場合の清算方法は「消費者が既に支払った分割金の合計額」に、購入価格と解約日の買取価格の差額のプラスマイナス分を計算して算出するというものであった。また、価格が20%下落した場合に自動的に取引を解約するロスカット制度が設けられていた。

 Y1からXに支払われた金銭は、約300万円であったので、Xの損失合計額はその差額金約1000万円となる。そこで、Xは同額と弁護士費用100万円の損害賠償を求めて提訴した。Xは主に、本件取引は私的差金決済取引(私的な市場で売りと買いの差額で決済する取引)であり、かつ賭博であるから、取引のしくみ自体が民法709条による不法行為や公序良俗違反だと主張した。勧誘行為に関しては、勧誘したY3の民法709条による不法行為責任だけでなく、Y1やY2にも民法719条1項の共同不法行為による賠償責任があるとも主張した。



理由

1.取引の違法性について

 本件取引は、商品先物取引法2条3項1号(定義)の規定に照らし、当事者が、将来の一定の時期(契約の25年後)において、商品(金または白金)およびその対価(代金の一部である300回目の分割支払金。最後の分割支払金を支払うと同時に商品の受け渡しを行う)の授受を約する売買取引であって、当該売買契約の目的物となっている商品の買戻し(中途解約は、買戻しに当たる)をしたときは差金の授受により決済することができる取引に当たるといえる。

 したがって、Y1がパンフレットを作成して広く顧客を勧誘している「ロイヤルセービング」と称する金・白金地金売買取引(本件も同じである)は、当事者が将来の一定時期において商品およびその対価の授受を約する売買取引であって、売買の目的物である商品を買い戻したときは差金の授受によって決済することができる取引に当たるから、商品先物取引法2条3項1号に定める取引と同一の性質を有する取引であり、商品先物取引法6条1項(商品市場類似施設の開設の禁止)にいう「先物取引に類似する取引」に当たる。

 したがって、Y1が、会社組織を設けて「ロイヤルセービング」と称する金・白金地金売買契約を勧誘していることは、商品先物取引法6条1項に反して、商品について先物取引に類似する取引をするための施設を開設していることになり、公の秩序に反する違法行為である。

 そして、25年後の決済時または中途解約時における金価格は、契約締結時には確定できない偶然の事情により定まるものであるから、Y1が、商品先物取引法6条1項に違反して商品市場類似施設を開設し、取引を勧誘して、契約時に分割支払金として代金の一部を受領し、かつ代金の10%相当の契約手数料を受領することは、何ら正当な理由もなく賭博行為を勧誘しているにすぎず、刑法186条2項(常習賭博及び賭博場開張等図利)に反し賭博場を開帳して利益を図っているものと認められる。

 したがって、このような違法な商品市場類似施設における取引であり、かつ違法な賭博行為にも当たる本件取引を勧誘してXに契約を締結させたY1の行為は、民法709条の不法行為としての違法性を有する。

2.Y1らの責任について

 Y1、Y2はそれぞれ会社、代表取締役として故意に1.で述べた不法行為を行っており、民法709条により不法行為責任に基づいた損害賠償責任を負う。販売員だったY3は、高額な手数料をXに求めたうえで82歳の高齢者に25年にわたる分割払いという極めて異常な取引を契約させている。また、金や白金の先物取引が正規の取引所で行われていることは常識といえ、商品先物取引法6条1項や刑法186条に反していることをY3も認識できた。そのため、Y3にも勧誘の際の過失が認められ、民法709条によりXへの損害賠償責任を負う。



解説

 訪問勧誘や電話勧誘などで高齢者をねらういわゆる詐欺的金融商品取引被害は、実体のないファンド、未公開株、怪しい社債、ダイヤモンド、外国の通貨や不動産投資、お墓や有料老人ホームの利用権など多種多様なものがあり、口実に用いられる投資の内容が次々と変化している。2012年頃から金地金を300回の分割払い、完済後引渡との契約条件で高齢者に金地金の売買契約を締結させる被害が多発した。国民生活センターは、2012年5月に「見守り新鮮情報」136号*1で注意を呼び掛けており、2012年11月1日には「受け取りは105歳になってから!?金地金の分割前払い取引のトラブルが増加−訪問販売や電話による現物積立まがいの勧誘にご注意−」*2と題して報道発表を行っている。300回の分割払いを完済するのは25年後になる。したがって、80歳代の高齢者が完済して引き渡しを受けるときには100歳を超えていることになる。

 老後資金としての蓄えを資産運用に充てようとするものであるから、到底合理的な契約内容とはいえない。また、勧誘に当たっても、取引内容やリスクについての説明はされていないことが通常であると想像される。本件でも、「浄水器の点検」と偽って高齢者宅に上がり込んだり、「損はさせない」と損失を被るおそれがある取引であるにも関わらず、事実と異なる断定的なことを述べたりするなど勧誘方法に極めて大きな問題がある。

 本件は、このような取引である金地金の長期分割払いの売買契約に関する判決である。本件判決のポイントは、事業者の勧誘方法の問題点に着目するのではなく、取引の実態が「差金決済取引」であり、「商品先物取引類似の取引」であると、取引の法的性質を正面から認定したうえで、

商品先物取引法
第6条 何人も、商品又は商品指数(これに類似する指数を含む。)について先物取引に類似する取引をするための施設(取引所金融商品市場を除く。)を開設してはならない。
2 何人も、前項の施設において先物取引に類似する取引をしてはならない。

との規定に違反しており、賭博開帳罪にも該当するとして、違法な不法行為に該当するものであると判断した点にある。

 この判決の理由によれば、個別の勧誘の内容は問題にするまでもなく、この種の取引はすべて一律に不法行為に該当するものと判断することができることになり、高齢者被害では勧誘時の記憶が十分ではないなどの事情に苦労している消費生活相談の実務においても活用しやすいもので、高く評価することができよう。

 本件は、金の分割販売については初めての判決である。

  1. *1 「金の購入契約、受け取りは25年後!?」(2012年5月29日 国民生活センター公表)
  2. *2 「受け取りは105歳になってから!?金(きん)地金(じがね)の分割前払い取引のトラブルが増加−訪問販売や電話による現物積立まがいの勧誘にご注意−」(2012年11月1日 国民生活センター公表)


参考判例

  1. 東京地裁平成26年6月18日判決
    (『判例タイムズ』1409号355ページ(訪問販売による金地金の前払い式割賦契約を中途解約した場合の契約手数料不返還約定が特商法違反で無効とされた事例))


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