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[2015年10月:更新]
[2015年10月:公表]

盗難カードでATMから預金が払い戻された際の銀行の補てん責任

 本件は、銀行に普通預金口座を開設していた預金者が、自己のキャッシュカードを盗まれ、ATMから不正な払い出しをされたとして、銀行に対し、預金者保護法に基づく補てん金等を求めた事案である。

 裁判所は本件払い戻しが盗まれたカードを用いて行われた不正なものとして、銀行に預金者保護法の補てん責任を認め、同補てん金と遅延損害金の支払いを命じた。(東京地裁平成24年1月25日判決)

  • 『判例時報』2147号63ページ

事案の概要

原告:
X(預金者、男性)
被告:
Y(銀行)
関係者:
A(Xの同居人、女性)

 Xは、Y銀行に普通預金口座(以下、本件口座)を開設していた者である。2008年2月15日時点における本件口座の預金残高は約2000万円であった。Xは当時、本件口座のキャッシュカード(以下、本件カード)を、Xが当時居住していた東京都内のマンションの自宅居室(以下、本件居室)に保管していた。2008年2月16日から23日にかけて、Yが設置管理する東京都内の現金自動預払機(以下、ATM)から22回に分けて全額の払い戻しがされた(以下、本件払い戻し)。

 Xは、2008年2月25日午後3時頃、本件カード、クレジットカードおよび現金並びに同居者Aの貯金証書、印鑑および現金が盗まれた旨の110番通報をし、その直後にYに電話をして本件カードの使用を差し止めた。110番通報後、地元の警察署警部補が本件居室を訪れ、現場検証を行ったが、侵入跡を採取することはできなかった。2008年2月26日、Xの盗難届が地元の警察署に受理された。

 Xは、2008年2月15日深夜頃、本件居室に保管していた本件カードを盗取され(以下、本件盗取)、同カードが用いられて本件口座から合計約2000万円の不正な払い戻しが行われたと主張した。XはYに対し、偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律(以下、預金者保護法)5条1項・2項(盗難カード等を用いて行われた不正な機械式預貯金払戻し等の額に相当する金額の補てんに関する規定)に基づき、約2000万円と遅延損害金の支払い等を求めた。

 これに対しYは、主に以下の点を主張して争った。

  1. (1)警察の現場検証では、本件盗取を裏づける証拠が発見されていない。
  2. (2)2008年2月16日にAが帰宅した際には、玄関は施錠されていた。
  3. (3)本件払い戻しの際、正確な暗証番号が入力されている。
  4. (4)Xは、本件払い戻しの約1カ月前に引出限度額を50万円から300万円に変更している。
  5. (5)本件払い戻しの払戻者(以下、本件払戻者)は、連日、引出限度額300万円を引き下ろしている。
  6. (6)本件払い戻しの都度Xのメールアドレスにアラートメールが送信されていたにもかかわらず、Xは同月25日まで本件盗取に対する対策を講じていない。
  7. (7)Xの本件カードの置き場について供述が変遷している。
  8. (8)以上のことから、本件払い戻しを行ったのはX自身か、Xから権限を付与された者によるものであると考えるのが自然であるから、本件盗取の事実はなく、本件払い出しは、盗難カードを用いて行われた不正なものではない。


理由

 Yの主張(1)(事案の概要参照)については、本件居室に侵入跡が残っていなかったとしても、本件払戻者ないしその共犯者が侵入跡を残すことなく本件居室に侵入した可能性がある。(2)については、本件払戻者ないしその共犯者が本件カード等の盗難の発覚を防ぐため、人目につかないようにして本件居室の玄関を施錠して引き揚げた可能性も否定できない。(3)については、Xは、2008年2月6日、安全のため本件カードの暗証番号を「9×××」に変更したが、2008年2月15日当時、本件居室には、Xのクレジットカードの暗証番号「1×××」の記載された通知書が置かれており、本件払戻者がこの通知書に記載された暗証番号を参考にするなどして正しい暗証番号にたどりついた可能性も否定できない。(4)については、Xはその当時、証券会社に口座を開設してその口座へ本件口座の預金を移すため本件口座の引出限度額を50万円から引出限度額の上限額である300万円に引き上げたものである。(5)については、引出限度額の上限金額が300万円であったことは被告のホームページなどで知り得る事実であるし、本件払戻者が偶然に引出限度額の上限額を引き出すことに成功した可能性もある。また、本件払戻者が、連続して払い戻しを行っているのは、本件払戻者が本件居室に侵入跡を残さなかったことから本件盗取の事実がしばらく発覚しないと想像したためであるとも考えられる。(6)については、Xは、当時、アラートメールの送り先として登録したメールアドレスを変更していたため、アラートメールを受信していなかったこと、また、本件口座を日常的に使用していなかったことから、本件払戻しに直ちに気がつかなかったとしても不自然・不合理とまではいえない。以上のことが認められる((7)については、認める証拠がないとして否定)。

 これに加えて、本件払戻者が初回の払い戻しを行った2月16日午前1時頃、Xは福岡におり、Xが本件払い戻しに関与していたとすれば共犯者が必要であるが、共犯者の存在をうかがわせる証拠はまったく存在しないこと、Xは、2007年2月以降本件払い戻し時まで本件口座に1400万円以上の預金残高を有していたもので、本件盗取を装う動機も認め難いことが認められる。これを併せて考慮すれば、被告の主張する(1)から(6)の各事実を総合勘案しても、本件盗取がなかったとまでは推認することはできない。したがって、本件払い戻しが不正なものではないと認めることはできない。



解説

 近年、偽造や盗取されたキャッシュカードを用いて、ATMから不正に預貯金が払い戻される事件が多発しているが、2006年2月に預金者保護法が施行されるまでは、この種の事件による損害は、民法478条(債権の準占有者に対する弁済)や銀行取引契約の免責約款により、預貯金者の負担とされてきた。しかし、この約款等のもとで金融機関は長年にわたり安全なシステム構築を怠ってきたものと批判され、預貯金者保護と預貯金の信頼を図る目的のもと、強行規定(契約や約款で合意による変更ができない規定)である預金者保護法が制定施行された。

 本件では、個人預金者であるXから取引銀行であるYに対し、主に預金者保護法5条1項により、盗取されたキャッシュカードが使用され機械式預貯金払い戻し(以下、ATMによる預金の払い戻し)の額の補てんを請求した。一方で、銀行側が、キャッシュカードの盗取の事実はなく、ATMによる預金の払い戻しが盗難カードを用いた不正なものではないと金融機関が証明すると補てん義務が発生しない例外(預金者保護法5条2項)に当たるとの主張が認められるかが争われた事案である。

 Yは、本件カードは盗取されたものではなく、したがって本件カードを不正に使用した払い戻しではないとして、事案の概要の(1)から(7)の各事実を主張した。

 本判決は、これらの事実の一部(1)から(6)を認めることができるとしながらも、これらの事実だけでは、盗取や不正利用の可能性を否定することができないとしたうえ、これに加えて、共犯者の存在をうかがわせる証拠がまったくないことや本件口座の預金額の推移から盗取を装う動機も認められないとして、Yの主張を否定し、Yの補てん責任を認めた。

 本件では、預金者保護法5条2項により「カードが盗まれたのではないので不正使用はない」と立証する責任が銀行であるYに転換されたが、その立証をYがしていないとして棄却されたものである。特に、Xが安全のため暗証番号を本件盗難の直前(2008年2月6日)にも変更しているのに、一度暗証番号の入力を間違えたものの直ちに正確な暗証番号を入力している事実(本件カードの暗証番号「9×××」と変更後の「1×××」の×は同じ番号か)などの複数の間接事実をYは主張した。しかし裁判所はそうでない可能性を指摘し、盗取されていないとの証明はなされていないとした。その認定判断は微妙なものであるが、まさに預金者保護法があることにより、預金者であるXの請求が認められた判例といえよう。



参考判例

  1. (1)名古屋高裁平成21年7月23日判決
    (偽造の印による預金の払い戻しについての銀行の免責を否定し、預金者保護法による補てんが認められた事例、『金融法務判例』1899号102ページ)
  2. (2)大阪地裁平成20年4月17日判決
    (再発行され郵送途中に郵便局で詐取されたカードを使用して預金が払い戻された事案につき銀行の補てん責任を認めた事例、『金融・商事判例』1336号202ページ)
  3. (3)東京地裁平成22年12月28日判決
    (補てん義務は認めたものの預金者保護法5条2項ただし書の適用を認め、補てん対象額を4分の3の限度で認めた事例、『金融法務事情』1924号113ページ)


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