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[2015年6月:公表]

いわゆるネズミ講により利益を受けた者に対する破産管財人の返還請求

 本件は、破産した無限連鎖講(いわゆるネズミ講)運営会社の破産管財人が、今まで配当金を受け取っていた上位会員に対し、配当金の返還を請求した事案である。

 原審では、「会社が上位会員に払っていた配当金は、もともと不法な契約によって得たものであるから、民法708条により、返還を請求することができない」と判断された。

 しかし、最高裁は「この事業のしくみ上、多くの会員の損失により上位会員が利益を得ているのであるから、上位会員への配当金が不法な原因によるものであったからといってその返還を拒むことは信義則上許されない」と判断して、破産管財人の請求を認めた(最高裁平成26年10月28日判決)。


事案の概要

原告・控訴人・上告人:
X(破産管財人)
被告・被控訴人・被上告人:
Y(配当を受けた上位会員)
関係者:
A(ネズミ講を運営し破産した会社)

 Aは、2010年2月頃から、金銭の出資および配当に係(かか)る事業(以下、本件事業)を開始した。

 本件事業は、もっぱら新規の会員から集めた出資金を先に会員となった者への配当金の支払いに充てることを内容とする、金銭の配当組織によるものであり、無限連鎖講の防止に関する法律2条に規定する無限連鎖講に該当するものであった。

 2010年3月に、Aと本件事業の会員になる旨の契約を締結したYは、同年12月までの間に、上記契約に基づき、Aに対して約820万円を出資金として支払い、Aから約2950万円の配当金の給付を受けた。Aは、本件事業において、少なくとも、4,035名の会員を集め、会員から総額およそ25億6130万円の出資金の支払いを受けた。Aは、2011年2月に破産し、Xが破産管財人に選任された。破産手続きにおいては、本件事業によって損失を受けた者が破産債権者の多数を占めている。

 Aの破産管財人Xは、YとAとの本件事業に関する契約は、違法なため無効であること、一般の契約当事者間とは異なり、破産管財人が破産者に代わって債権を請求する場合には、不法な契約により給付されたものについて返還請求を認めないとする民法708条は問題にならないことを主張し、Yに対して出資金と配当金の差額約2150万円の支払いを求めた。

 第1審判決は、「本件における配当金の給付は民法708条に当たり、返還請求できない性質を有している、破産管財人であるXが破産会社の代わりに返還を請求する場合であっても、Yに返還を請求することができない」として、Xの請求を棄却した。

 控訴審判決も、「仮に破産管財人が配当金の返還を請求する場合に民法708条を適用せず、上位会員から返還された配当金により下位会員の損害を補てんできるとすれば、本件事業を主導した破産会社の債務を減額させることになる。

 そうすると、結局、違法な事業を行っていた破産会社に法律上の保護を与えることとなり、民法708条の趣旨に反し相当ではない」として、Xの請求を棄却した。

 これに対し、Xが上告し、本件配当金のような不法な原因による給付であっても、破産管財人による返還請求の場合については、民法708条を適用すべきでないと主張した。

理由

 「本件配当金は、関与することが禁止された無限連鎖講に該当する事業によってYに給付されたものであって、そのしくみ上、他の会員が支払った金銭を原資とするものである。そして、本件事業の会員の多くの者は、支払った金銭の額に相当する金銭を受領することができないまま、破産会社の破綻(はたん)により損失を受け、被害の救済を受けることもできずにいる。

 このような事実関係の下で、破産会社の破産管財人であるXが、Yに対して本件配当金の返還を求め、これにより損失を受けた会員らを含む破産債権者への配当を行って、適正かつ公平な清算を図ろうとすることは、衡平にかなう(釣合いが取れてバランスが良くなる)というべきである。

 仮に、Yが破産管財人に対して本件配当金の返還を拒むことができるとするならば、被害者である他の会員の損失の下にYが不当な利益を保持し続けることを認めることになって、およそ相当であるとはいい難い。

 したがって、このような事情の下においては、Yが、Xに対し、本件配当金の給付が不法な原因による給付であることを理由としてその返還を拒むことは、信義則上許されないと解するのが相当である。

 以上によれば、本件配当金に相当する約2150万円およびこれに対する遅延損害金の支払いを求めるXの請求には理由がある」と判断した。

解説

(1)民法708条の考え方とその問題点

 不法な契約などによる給付がなされた場合には、給付を受けた者に「不当利得」(民法703条、704条)が成立するにもかかわらず、「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない」ものとされている(民法708条本文)。これはいわゆるクリーンハンズの原則を規定したものであり、不法に手を染めた者に国家は力を貸さず、それをもって不法な行為を抑止することにもなることを期待したものである。

 しかし、この原則は不法な給付をした者に対しての保護をしない反面、不法な利益を得た者が事実上守られてしまう面がある。被告が不法な利益を得ているのを認めながら、一方で原告の請求を棄却することにより、被告の不法な利益を認めることになり、結果として正義に反することになる。そのため、給付者そのものについては民法708条を適用してよいとしても、第三者の犠牲の下に不法な利益を受けることを認めるのは、もはや正義の観点から容認することは難しい。この点について、これまでの判例は分かれている。

(2)当事者に代わって請求することは認められない

 参考判例(1)は、財産隠匿がなされ旧刑法388条の犯罪になる事例で、「民法第423条が定める「代位訴権」は、債権者がその債務者に属する第三者への権利を、債務者に代わって行うものである。したがって、債務者が第三者に対して請求することができないものは、債権者も請求することができない」とする。本件判決の第1審判決はこれと同じ考え方である。

 しかし、債権者が債務者に代わって請求する代位行使の場合でも、不法な契約について第三者である債権者の犠牲の下に不法な利得者の利益が守られるのは正義に反する。さらに、第三者である被害者の財産を原資として利得者が不法な利得を得ていて、その損失と利得との間に密接なつながりがある場合には、なおさらである。なお、代位権については参考判例(1)を変更する判決は今のところ出ていない。

(3)破産管財人による権利行使

 破産管財人による権利行使も同様に考えられるが、破産管財人による請求の事例(参考判例(2))では、「民法第708条に該当し、法律がその返還請求を許さないものについては、破産法上の否認権の行使(160条以下)によっても返還を請求することができない。」と、否認権の行使の場合には民法708条の制限を否定している。

(4)不法な利得と被害者の損失との間に密接なつながりがある場合

 参考判例(3)は豊田商事の破産管財人の請求であり、被害者の財産を原資として不当な利得を得たという密接な関係があった点で本判決の事例と似ており、(民法708条を適用せず返還を認めることは)「被害者である破産債権者の損害の一部を回復する結果にこそなれ、立法趣旨に照らし許容できないとする事情はまったくない」として返還請求を認めた。

 また、参考判例(4)は本判決も「破産管財人が破産者の請求を行使する場合には、民法708条の趣旨は当てはまらないというべきである」と、破産法78条1項の破産管財人の権利の位置づけを根拠として、破産管財人による返還請求を認めている。

 参考判例(5)は本判決と被告を異にする同一事例であり、参考判例(4)と同様の根拠でもって返還請求を認めている。

(5)本判決の意義

 「被害者の財産と利得者の利得との間に密接な結び付きがある場合には、破産管財人による権利行使には不法原因給付による制限を受けない」ものとした先例として、以後同様の事例の参考となるものである。

参考判例

  1. (1)大審院大正5年11月21日判決
    (『民事判決録』22輯(しゅう)2250ページ(代位行使))
  2. (2)大審院昭和6年5月15日判決
    (『民事判例集』10巻327ページ(否認権行使))
  3. (3)大阪地裁昭和62年4月30日判決
    (『労働関係民事裁判例集』38巻2号166ページ(密接不可分事例))
  4. (4)東京地裁平成18年5月23日判決
    (『判例時報』1937号102ページ(密接不可分事例))
  5. (5)東京高裁平成24年5月31日判決
    (『金融法務事情』1981号97ページ(密接不可分事例・本判決の別件))