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[2014年8月:公表]

社会的相当の範囲を逸脱した宗教団体による献金勧誘行為

 本件は、うつ状態もしくは統合失調症を患っていた教会の信者が、ほぼ全財産に当たる額を教会に献金したのは、牧師らにより不安をあおられ恐怖心を抱いたことによるもので、その献金勧誘行為は社会的相当性を逸脱するとして、牧師らに対し、不法行為に基づく損害賠償等を請求した事案である。

 裁判所は、本件における献金勧誘行為は、社会的相当の範囲を逸脱していると判断した。(東京高裁平成22年2月17日判決)

  • 判決文未登載

事案の概要

被控訴人・一審原告:
X(消費者)
控訴人・一審被告:
Y1教会
控訴人・一審被告:
Y2(Y1教会の牧師)
控訴人・一審被告:
Y3(教会員)

 Xは1959(昭和34)年生まれの女性であり、大学卒業後は1999年まで金融関連会社において、トレーディング等の業務に従事していた。1991年頃、軽いうつ状態と診断され、薬を服用するようになった。その後、ロンドンで勤務していた1994年にY1教会(法人登録はアメリカ)の信者となり、1997年からは日本国内で行われるY1教会の集会に参加していた。日本で行われる集会はY3が中心となって、アメリカにあるY1教会においてY2が行った説教のテープを聞くなどという内容であった。

 その後、Xは1998年に父親を亡くしたが、Y2らの助言により葬儀には出席しなかった。その翌月アメリカのY1教会で洗礼を受けた。

 2002年1月、Y2はXに対し数時間にわたって、「お金を愛するのが一番の悪の根っこであり、地獄のルートである、地獄は永遠の世界だから二度と戻って来れない」などの話をし、献金をするよう迫った(Xは1999年に失職している)。これを受けて、恐怖心を抱いたXは、2002年1月24日から3月27日にかけて、Y1教会に対し合計約6870万円を献金し、これは自身のほぼ全財産に当たる額であった。しばらくして、XはY3から、教えに従っていないとして教会から追放する旨を告げられた。

 2005年末に至り、XはY2らにだまされたと思い、Y1教会およびY2らに対し不法行為に基づき約8600万円(献金額相当損害約6900万円、慰謝料1000万円、弁護士費用約780万円 の合計)と遅延損害金の支払いを請求した。

 Xは、この訴訟で(1)Y2とY3は、聖書の言葉は絶対であり、教えに従わないと地獄に落ちるなどと述べ、聖書を引用してY2に従うようにと繰り返し説き、また、統合失調症であったにもかかわらず薬の服用の禁止を促し、精神的に不安定な状態にあったXに対し、執拗(しつよう)に献金を迫り、Xのほぼ全財産を献金させた(2)Xは、Y2らに「頭はいらない」と何度も考えることを否定されたことから失職したうえ、本件献金により全財産を失い、極めて困窮した生活を強いられるなどの精神的苦痛を受けたなどと主張した。

 これに対し、Y1教会らは(1)Xの請求の当否を判断するためには、Y1教会の教義の解釈が不可欠であり、法律上の争訟とはいえないから不適法却下されるべきである(2)Xはその信仰に基づいて献金したものである(3)仮に、Xに請求権があるとしても消滅時効が完成しているなどと主張した。

 原審(東京地裁平成21年8月28日判決『消費者法ニュース』82号297ページ)は、以下の理由(「理由」欄に記載)で、Y2およびY3の民法709条、719条の不法行為責任を認め、またY1教会については民法715条の使用者責任を認め、約7890万円(献金額相当額のほか慰謝料300万円、弁護士費用720万円)の損害賠償を認めた。

 これに対して、Y1教会およびY2、Y3が控訴したのが本件事案である。



理由

 控訴審は原判決を支持し、その判断理由を引用して、控訴を棄却した。

1.訴えの適法性

 本件訴えは、XがY2らの詐欺的・強迫的言辞によって献金させられたとして不法行為に基づき、献金相当額の返還等を求めるものであって、その当否についての判断をするために、宗教上の教義そのものについて判断する必要はなく、法律上の争訟に当たる。

2.本件献金の勧誘の違法性

 特定の宗教を信じる者が、信者に対し、献金を勧誘することは、その方法が社会的に相当なものと認められる範囲を逸脱するものでない限り、違法ではない。

 しかし、献金勧誘行為が、相手方の不安をあおり困惑させ、または恐怖心を抱かせるなどしたうえ、そのような心理状態のなかで献金を決意させるようなものであるときは、そのような献金は自由意思に基づくものということができないから、上記範囲を逸脱するものとして違法であり、不法行為が成立する。

 本件では(1)Xは、1994年にY1教会の信者となり、1997年から日本で行われる集会に参加するようになったこと(2)Y1教会では、イエス・キリストに従わなければ地獄に行くと教えられていたこと(3)XはY2に指示されて、イエスに従わなければ地獄に落ちるというビデオと書籍を何度も見たり読んだりしたこと(4)Y2・Y3は、「頭はいらない」としてXが考えることを否定し、Y2に従うように繰り返し説いたこと(5)XはY2からの薬に対する否定的な発言の繰り返しにより軽いうつ状態と診断され、続けてきた抗うつ剤等の服用をやめたこと(6)Xがマンションを買おうとしたことなどについてY2・Y3から叱責(しっせき)され、イエスに従っていなかったという罪悪感にとらわれたことなどの事実が認められる。

 このような状況の中で、2002年1月2日、Y2は数時間にわたって「戒め」と称して、お金を愛することは地獄へのルートであり、地獄からは二度と戻ってこられないので、一番の悪の根っこであるお金を愛することを切れば祝福の道に入れるなどと話し、献金を迫った。Xはこれにより恐怖心を抱き本件献金をしたこと、献金総額は多額でXのほぼ全財産に当たること、2002年11月には、Xは統合失調症と診断されたことなどからすれば、本件献金の勧誘は、社会的相当の範囲を逸脱し違法なものであり、不法行為が成立する。



解説

 裁判所が扱う事件は「法律上の争訟」でなければならず(裁判所法3条)、学問上、宗教上、審美上の争いは法律を適用して解決できるものではないため裁判にはなじまない。しかし、本件において、Y1教会らは、法律上の争訟とはいえないので却下されるべきであると主張したが、本判決は、原審判断を引用し、本請求の当否を判断するために宗教上の教義そのものについて判断する必要はなく、法律上の争訟に当たるとし、本件訴訟を適法とした。

 宗教問題に関する裁判所の審問権については、最高裁判例の集積があり、法律上の争訟に当たらず訴えが却下される場合として、次のような基準があるということができる。(1)まず、宗教上の地位それ自体が訴訟物(審判の対象)となっている場合(参考判例(1))、そして(2)宗教問題が訴訟物自体ではないが、請求の当否を決定するのに必要な前提問題であり、宗教上の教義、信仰の内容に立ち入ることなくしてはその問題の結論を下すことができない場合である。なお(3)前提問題ではあるが、教義等の判断を要しない場合には「法律上の争訟」に当たり、適法性を認めている(参考判例(2))。

 本判決は、原判決を引用し信者に対する献金勧誘の方法が「社会的に相当なものと認められる範囲を逸脱するものでない限り、違法なものということはできない。しかし、献金を勧誘する行為が、勧誘の相手方に対し、その不安をあおり、困惑させ、または恐怖心を抱かせるなどしたうえ、献金を決意させるようなものであるときは、そのような勧誘行為に基づいてされた献金は、自由な意思に基づくものということができないから、上記範囲を逸脱するものとして、違法なものであり、不法行為が成立する」としている。そのうえで、本件献金の勧誘は、うつ状態・統合失調症であった原告に対し、不安をあおり、恐怖心を抱かせるなどしたうえ、献金を決意させたもので、このことに、献金額が極めて高額(ほぼ全財産)であったことをも総合すれば社会的に相当なものと認められる範囲を逸脱するものである、と判断した。

 近時の判例(参考判例(7)、(8))をみても、勧誘行為が社会的に相当な範囲を逸脱している場合に違法と判断している。



参考判例

  1. (1)最高裁昭和55年1月11日判決
    (『判例時報』956号55ページ(種徳寺事件))
  2. (2)最高裁昭和55年4月10日判決
    (『判例時報』973号85ページ(本門寺事件))
  3. (3)最高裁昭和56年4月7日判決
    (『判例時報』814号2ページ(板まんだら事件))
  4. (4)最高裁平成元年9月8日判決
    (『判例時報』1011号1ページ(蓮華寺事件))
  5. (5)最高裁平成5年9月7日判決
    (『判例時報』1503号90ページ(日蓮正宗管長事件))
  6. (6)最高裁平成11年9月28日判決
    (『判例時報』1689号78ページ(仏世寺事件))
  7. (7)福岡高裁平成24年3月16日判決
    (『消費者法ニュース』92号336ページ)
  8. (8)東京地裁平成23年8月22日判決
    (『消費者法ニュース』89号236ページ)


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