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[2013年11月:公表]

定期借家契約締結には、契約書とは別個独立の定期借家に関する書面の交付が必要と判断した事例

 借地借家法(以下、法)38条2項では、定期建物賃貸借(いわゆる定期借家、以下、同)契約を締結するとき、賃貸人は、あらかじめ賃借人に対して、契約更新がなく、期間満了により当該建物の賃貸借が終了することについて、その旨を記した書面を交付して説明すると定めている。

 本件は、この書面につき契約書と別個独立の書面である必要性を認め、契約締結に至る経緯や、賃借人の認識の有無・程度といった個別具体的事情を考慮することなく、形式的、具体的に取り扱うことが相当として、賃借人が定期借家と認識していても、かかる書面交付がないことを理由に、定期借家に当たらないとした事例である。(最高裁平成24年9月13日判決)

  • 『最高裁判所民事判例集』第66巻9号3263ページ
  • 『金融・商事判例』1417号8ページ

事案の概要

上告人:
X(賃借人(借り手)、第一審被告・控訴人)
被上告人:
Y(賃貸人(貸し手)、第一審原告・被控訴人)

 本件は、YがXに対し、賃貸建物の明け渡し等を求めた事案である。Yは不動産賃貸等を業とし、Xは外国人向けに居室の短期滞在型宿泊施設の経営を業としている。

 Yは、本件建物賃貸借は、法38条1項の定期借家で、期間満了により終了したと主張する。

 これに対しXは、同条2項所定の書面交付と説明がないので、本件賃貸借は定期借家ではないと主張している。

 法38条1項の定期借家とは、期間の定めがあり、かつ契約更新がない旨を定める建物賃貸借である。

 通常の建物賃貸借(以下、普通借家)は、法により、期間の定めのある契約であっても賃借人が契約更新を望む場合、賃貸人に正当事由がない限り契約が更新される(法26〜29条)。しかも正当事由として認められることはほとんどないため、賃貸人の都合による更新拒絶は非常に困難である。

 一方、定期借家は更新がないため、期間満了により、賃貸借契約が必ず終了するのが特徴である。普通借家と異なり、期間満了の際に賃借人の継続利用の期待が保護されないので、法38条1項により、定期借家は公正証書等の書面で契約を締結する必要がある。同条2項は賃貸人があらかじめ賃借人に対し、契約更新がなく、期間満了で建物賃貸借が終了することについて、書面を交付し説明することを求めている。そして、同条3項で同条2項の説明がない場合には契約更新がないとの定めを無効とする(つまり普通借家となる)と定めている。Xはこの同条2項および3項を問題としている。

 事実関係は以下のとおり。2003年7月18日、XとYの間で「定期建物賃貸借契約書」と題する書面(以下、本件契約書)を取り交わし、期間が同日から2008年7月17日まで、賃料月額90万円の賃貸借契約を締結した。

 本件契約書には、契約の更新がなく期間満了で終了する旨の条項(以下、本件定期借家条項)がある。契約締結に先立つ2003年7月上旬頃、Yは、賃貸借期間を5年とし、本件定期借家条項と同内容の記載をした契約書原案をXに送付し、Xはこれを検討した。その後、2007年7月24日にYはXに、本件賃貸借は期間満了により終了する旨を通知したが、Xはこれに取り合わず期間満了後も営業を続けた。

 原審では、Xは本件契約書に、定期借家であり、契約更新がない旨明記されていることを認識し、事前にYから本件契約書の原案を送付され、内容を検討していたこと等に照らし、さらに別個の書面が交付されていたとしても、本件賃貸借が定期借家であることについて、Xの基本的な認識に差が生ずるとはいえないから、本件契約書とは、別個独立の書面を交付する必要性が極めて低く、本件定期借家条項を無効とすることは相当でないとして、Yの請求を認容し、第一審を維持した。Xは、本件では、法38条2項の定める契約書とは別個独立の書面を交付しての説明がないとして、上告した。

理由

 期間の定めがある建物の賃貸借について、契約更新がないとする旨の定めは、公正証書等の書面によって契約をする場合に限りすることができ(法38条1項)、そのような賃貸借をしようとするとき、賃貸人は、あらかじめ、賃借人に対し、当該賃貸借は契約更新がなく、期間満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付し説明しなければならず(同条2項)、賃貸人が当該説明をしなかったときは、契約更新がないとする旨の定めは無効となる(同条3項)。

 法38条1項の規定に加え、同条2項が置かれた趣旨は、定期借家にかかる契約締結に先立って、賃借人になろうとする者に対し、定期借家は契約更新がなく期間満了により終了することを理解させ、当該契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供することのみならず、説明においても、さらに書面の交付を要求することで契約更新の有無に関する紛争を未然に防止することにあるものと解される。

 法38条の規定の構造および趣旨に照らすと、同条2項は、定期借家にかかる契約の締結に先立って、賃貸人において、契約書とは別個に、定期借家は契約更新がなく、期間満了により終了することについて記載した書面を交付したうえ、その旨を説明すべきものとしたことが明らかである。そして、紛争発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると、上記書面の交付を要するか否かについて、個別具体的事情を考慮することなく、形式的、画一的に取り扱うのが相当である。

 したがって、法38条2項所定の書面は、賃借人が、当該契約にかかる賃貸借は契約更新がなく、期間満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個の書面の交付を要するというべきである。

 本件についてみると、前記事実関係によれば、本件契約書の原案が本件契約書とは別個独立の書面であるということはできず、他にYがXに書面を交付して説明したこともうかがわれない。

 Xによる本件定期借家条項の無効の主張が、信義則に反するとまで評価し得るような事情があるともうかがわれない。

 そうすると、本件定期借家条項は無効というべきであるから、本件賃貸借は、定期借家に当たらず、約定期間経過後、期間の定めがない賃貸借として更新されたこととなる(法26条1項)。

解説

 本件は、定期借家について定めた法38条2項の書面を、契約書とは別個の書面で交付する必要があるか判断した初めての最高裁判決である。

 本件と非常に類似した参考判例(1)は、株式会社間の賃貸借で、定期借家で更新がないとの説明はあったが、契約書以外の書面交付がなかった(契約書案は事前に交付されていた)事案で、法38条2項の書面が契約書とは別個独立の書面を要すると解したとしても、少なくとも賃借人が契約書において当該賃貸借が定期借家で更新がないことを具体的に認識していた場合この限りでないとして、定期借家であると認めていた。

 しかし最高裁は、この参考判例(1)と類似した本件で(ただし説明すらなかったとみているようである)、法38条2項の趣旨を契約締結の意思決定のための十分な情報を提供することのほか、契約更新の有無に関する紛争防止ととらえ、契約書と別個の書面を交付し、説明する必要を認め、かつ書面交付については、契約締結に至る経緯や賃借人の認識の有無等といった個別具体的事情を考慮せず、形式的、画一的に取り扱うことを求めた。事前に交付された契約書案についても法38条2項の書面と認めていない。

 本判決の前に示された参考判例(2)が、法38条2項の書面を「賃貸借契約の締結に先立ち契約書とは別に交付するものとされている」とのみ判じた点から進んで、立法趣旨にまで踏み込んでいる。

 本件は事業者間の定期借家契約であるが、その場合でさえ法38条2項について厳格な解釈を求めている以上、消費者が賃借人の場合も、当然、契約書と別個の書面が交付されることが求められよう。

 本件判決を詳細にみると、法38条2項の書面につき、契約書とは別個独立の書面で、必ず交付されなければならない、という2点が示されていることが分かる。もちろんこれらが契約に先立って交付されることも求められる。

 下級審ではあるが、参考判例(3)は、説明書の送付のみでは説明ではないとし、参考判例(4)は法38条2項の説明について、交付した説明書の条項を読み上げただけで、条項の内容について尋ねられたとしても、六法全書を読んでほしいと対応する程度のものであった場合、賃借人は定期借家の制度概要を理解できないとして、説明があったと認めていない。これらのことから、定期借家の内容を理解できる説明も、あわせて当然求められている。

参考判例

  1. (1)東京地裁平成19年11月29日判決
    (『判例タイムズ』1275号206ページ)
  2. (2)最高裁平成22年7月16日判決
    (『判例タイムズ』1333号111ページ他)
  3. (3)東京地裁平成18年1月23日判決
    (『LEX/DB』No.25500094)
  4. (4)東京地裁平成24年3月23日判決
    (『判例時報』2152号52ページ)
  • ※なお参考判例(2)は、契約書(公正証書)には説明書面の交付があったことを確認する旨の条項と、賃借人が公正証書の内容を承認した旨の記載があり、契約締結時に定期借家である旨の説明を受け公正証書を読み聞かされ閲覧したというが、それ以外に法38条2項の書面交付と説明があったとの主張立証がないとして、説明書面があったとした原審認定は、経験則または採証法則に反するとして破棄差し戻した事案である。