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[2013年10月:公表]

振り込め詐欺において、他の詐欺グループにノウハウを指導したリーダーの不法行為責任を認めた事例

 本件は、(1)Aが組織した詐欺グループの構成員であるYが、だまし役として振り込め詐欺を行い、組織内グループのリーダーとしてだまし役の人選や管理、分け前の分配を行い、だまし取った金銭から、自己の分け前を受け取っていた。

 また、(2)Yは、組織内の他のグループに、振り込め詐欺の手口等の指導を行っていたことから、(1)と(2)の振り込め詐欺の被害者Xらに対し、民法709条、719条により不法行為責任を免れないとして、損害賠償と慰謝料の支払いが命ぜられた事例である。(東京地裁平成22年9月24日判決)

  • 『判例時報』2105号33ページ

事案の概要

原告:
Xら(被害者)
被告:
Y(詐欺グループYリーダー)
関係者:
詐欺グループ統括者:A
詐欺グループBリーダー:B
詐欺グループCリーダー:C
詐欺グループY+Dリーダー:YとDの2人

詐欺グループの相関図。 AにはY、B、C、D+Y(DとYの2人がリーダー)と他3グループがある。YはBとCを指導。

 Aは、2005年1月頃から2007年9月頃まで振り込め詐欺集団(以下、「本件詐欺組織」という)を統括および指揮していた。

 本件詐欺組織は7グループで構成され、各グループにはそれぞれ、だまし役、下ろし役*1、書類メール役の担当が存在している。

 Yは、2005年7月頃、本件詐欺組織に加入し、Aの下でYグループのリーダーを務め、Y+Dグループの指南役を務めてきた。Yは、Yグループの誰がだまし役を担当したかにかかわらず、Aから一定割合の分け前を得ていた。

 また、Aは、成功率の低いBグループのリーダーBに振り込め詐欺の方法を勉強させるため、 BをYグループに配属した。

 Yは、1週間程度、Bと一緒に振り込め詐欺を行い、Bに振り込め詐欺の方法を指導した。さらに、Aは、CがCグループを立ち上げる際、Cらに振り込め詐欺の経験がなかったことから、Cの双子の兄であったYに、Cグループに振り込め詐欺の手口を指導するよう指示した。

 Yは、Cグループのメンバーに対し、Xらにどのような虚偽の事実を告げるか、どのような手順で振込先の口座番号を伝えて金を振り込ませるかなど、振り込め詐欺の手口や注意点の指導を行い、その報酬として、Aから50万円を受け取った。

 Xらは、振り込め詐欺の手口で金銭を振り込ませられ詐取された金銭、および弁護士費用相当額の財産的損害、ならびに精神的損害を被ったと主張し、Yに対し、民法709条、719条に基づき、損害金(詐取された金銭相当額の損害金、その3割に相当する金額の慰謝料およびそれらの1割の弁護士費用相当金)ならびにこれに対する不法行為の日である振り込みの日から支払い済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた。

 対して、YはY・Y+Dグループにおける振り込め詐欺についての実行責任者であったが、他のグループによる振り込め詐欺の被害者については、客観的、主観的に何らの関連共同性がないから、不法行為責任を負わないと争った。

  1. *1 ATM等からお金を引き出す役割。出し子。


理由

1.Yの不法行為責任

 Yは、Y・Y+Dグループにおいて、だまし役として振り込め詐欺を行ったり、だまし役のリーダーとして、だまし役の人選や管理、分け前の分配などの役割を果たしたりして、上記2組が行った振り込め詐欺により、振り込ませた金銭の中から、自己の分け前を得ていた。また、BグループのBとCグループにそれぞれ振り込め詐欺の手口等の指導を行い、詐欺の手口、ノウハウ共有に直接関与していた。

 Aが、本件各詐欺グループを形成し、統括したこと、本件各詐欺グループには、だまし役、下ろし役および書類メール役などが存在し、それぞれが、Aの指示の下、Aが準備した名簿、携帯電話、銀行口座、キャッシュカード、アジト等を利用し、各自の役割を果たすことにより、継続して振り込め詐欺を行っていた。Yは、その役割を通じ、B・CグループもAの指示の下、一体の組織として振り込め詐欺を行っていたことを認識していたものと認められる。したがって、Yは、Yが所属していたY・Y+Dグループによる振り込め詐欺被害を受けた者に対してはもちろん、B・Cグループによる振り込め詐欺被害を受けた者に対しても、行われた振り込め詐欺について、民法709条、719条に基づく不法行為責任を負うものというべきである。

2.損害

(1)財産的損害
 Xらは、4グループによる詐欺行為によって、金銭を振り込み、財産的損害を被ったものと認められる。

(2)慰謝料について
 本件において、Xらはそれぞれ、本件詐欺組織により、家族に示談金や修理代等が発生しているなどの虚偽の事実を告げられ、これにより生じた不安な心理状態を利用され、金銭を詐取されたものであり、Yの不法行為により相当の精神的苦痛を被ったものと認められる。

 本件詐欺組織による犯行が組織的かつ計画的なものであり、家族を心配する心理につけ込む著しく反道徳的な方法によるものであることなど、本件不法行為の態様の特殊性を考慮すると、Xらの被った精神的苦痛は、財産的損害の賠償をもってしても慰謝されるものということはできない(慰謝料肯定。最高額135万円)。

(3)弁護士費用
 Yの不法行為と相当の因果関係があるとして、請求を認めた。



解説

 本件詐欺組織を立ち上げ、管理していたAが、本件組織により行われた一切の振り込め詐欺行為について責任があることは疑いない。

 暴力団の組長に、ピラミッド的組織の末端組織に属する組員の行為について使用者責任(民法715条1項)が肯定されているので(最高裁平成16年11月12日判決、民集*2 58巻8号2078ページ)、本件Aについても使用者責任を問題にできるであろう。

 末端の振り込め詐欺の実行犯については、それぞれだまし役、下ろし役、書類メール役の各担当がいるが、全員が共同していわゆる振り込め詐欺を行っているので、民法719条1項前段の共同不法行為責任を免れない。

 しかし、個人責任主義が民法の書かれざる原則であり、民法709条の原則規定の故意または過失は、「自己の」故意または過失ということが必要であり、他人の故意または過失について責任を負わされるためには、特別規定が必要になる。そのため、組織に属しているからといって、民法719条の要件を満たさない以上、他のグループによる振り込め詐欺行為についてまで責任は認められない。

 本件Yについては、その属する実行犯たるY・Y+Dグループについて、自ら各振り込め詐欺行為に加担しているため、同グループの詐欺による被害者に対しては、民法719条1項前段で責任を負うことは疑いない。

 しかし、個々具体的な振り込め詐欺行為に加担はしていなくても、他のグループのリーダーらに対し、詐欺のノウハウを指導している場合、詐欺行為の実行を助けているので責任を免れな い。

 そのため、Aのように使用者責任を問題にすることはできないが、民法719条2項の幇助者(ほうじょしゃ)としての責任を認めることはできる。本判決は、民法719条を根拠とするのみであるが、いずれにせよ責任を肯定した結論は妥当なものであろう。

 学説にも異論はないと思われ、判例上も構成は別として支持できるであろう(参考判例参照)。

 損害賠償の内容については、だまし取られた金銭の額が損害であることは疑いないが、本判決は慰謝料まで認めていることが注目される。

 組織的で悪質な詐欺行為であり、その抑止という必要性を考えれば、実質的には制裁的慰謝料として機能する。財産損害でも、詐欺といった特別な事情がある場合には被害者に慰謝料が認められる傾向があり、本事例も判例の一般的傾向に沿ったものである。

  1. *2 最高裁判所民事判例集


参考判例

  1. (1)東京地裁平成21年3月25日判決
    (『判例時報』2041号72ページ)
  2. (2)東京地裁平成4年9月29日判決
    (『判例時報』1471号104ページ)
  3. (3)東京地裁平成13年3月28日判決
    (『判例タイムズ』1140号183ページ)
  4. (4)大阪高裁平成2年9月25日判決
    (『判例タイムズ』742号122ページ)


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