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[2013年5月:公表]

銀行員による投資信託の勧誘行為に不法行為を認めた事例

 本件は、高齢者に投資信託の商品を販売した銀行の従業員の勧誘に、適合性原則違反および説明義務違反があったとして、銀行に対し、使用者責任に基づく損害賠償を請求した事案である。

 裁判所は、従業員の勧誘行為は適合性原則違反および説明義務違反のいずれもが認められるとしたうえで、顧客側の過失は認められないとして、原告の損害賠償請求を全部認容した。(大阪地裁平成25年2月20日判決(確定))

  • 判決文未登載

事案の概要

原告:
X(消費者)
被告:
Y(銀行)
関係者:
AおよびB(Xを担当したYの従業員)

 X(取引当時77歳の女性)は、一人暮らしの年金生活者であった。証券取引の経験はなく、2003年に夫を亡くし、相続した預貯金等を含め3,000万円程度の預金があった。また、1999年頃から補聴器を装用し、2004年頃には難聴と診断を受けていた。

 2007年7月、AとBはX宅を訪問し、定期預金を解約して投資信託(ノックイン型投資信託*)を買うように勧誘した。

 この商品は、日経平均株価の値動きによって償還条件が決定されるしくみのユーロ円債に投資し、銘柄組み換えを行わないことを原則としている。

 この商品の特性の1つとして、3年の償還期間中、日経平均株価の終値がスタート株価に対し、一度も30%以上下落しなければ投資元本全額が償還され、かつ一定の分配金が入るが、一度でも30%以上下落したことがあると、エンド株価がスタート株価を下回る場合、償還時の下落割合に応じた元本割れの損失が生じる、というものであった。

 購入者は、解約によって本件商品の価格変動リスクを回避することができるが、解約を申し込むことができるのは、解約可能期間(約2年9カ月間)における銀行営業日の約15%という限られた日数に過ぎないため、事実上適時にリスクを回避する方法は大きく制限されていた。

 Xは証券取引の知識や経験がなかったが、AおよびBが熱心に勧めるので、これに応じ、Xが保有する金融資産の約3分の2に該当する定期預金2,100万円分を解約、これを本件商品の購入資金に充てた。

 その後、株価が下落。XはAから本件商品の評価額が約半分になっていると知らされたため、2009年10月26日に解約し、解約返戻金として約1,180万円を受領した。

 Xは、Yの従業員AおよびBが行った本件勧誘は適合性原則違反であり、かつ説明義務違反であるとして、不法行為に基づく損害賠償請求をした。損害額は、購入代金から、上記の解約返戻金、受領した分配金、解約時までのキャッシュバックを控除した額に、定期預金を満期まで預けていたらもらえたはずの利息額から中途解約利息を控除した額と弁護士費用を加えた額として、約900万円であると主張した。

 Yは、本件投資信託のしくみは単純であり、XもAおよびBの説明で理解したうえ、定期預金の金利が低いために購入することにしたのであるし、保有する金融資産も4,200万円以上あると申告しており、自宅も所有していたことから、適合性は十分に有していた、説明は販売資料の記載内容に沿って行われており、説明義務違反もないなどと主張し、争った。

  • *株価指数など対象となる資産の価格が、一定の水準を超えて下落しなければ、一定の利回りが支払われるといった、特殊な条件が定められた債券(仕組債)を投資対象とする投資信託。一定の範囲を超えて下落した場合(これを「ノックイン」という)、その下落分に連動して投資家の損失が生じるというリスクがある。


理由

(1)適合性原則違反について

 購入者が本件商品を購入するか否か、購入額をいくらにするか、途中解約をするか否かなどの投資判断を的確に行うためには、購入者は本件商品の特性を認識および理解できるだけの能力、日経平均株価の推移や動向をある程度把握・理解できる能力が必要といえる。

 Xの投資経験、投資取引の知識・能力からすると、本件商品の特性を理解できる能力は備えていなかったと推認できる。

 また、本件パンフレットには太字で「元本確保」と記載されていたこと、YがXおよび亡夫の長年の預金の預け入れ先である銀行であることも併せ鑑みれば、Xにおいては本件商品が元本の確保された高い利回りの預金あるいは預金類似の金融商品と誤解する危険性が高いと考えられる。

 さらに、Xの投資意向は、元本の安定性を重視するものであったし、本件の投資額2,100万円はXが保有する金融資産の7割以上に当たる。以上からすると、AおよびBの本件勧誘は、Xの実情と意向に反し、明らかに過大な危険を伴う取引を勧誘したもので、適合性原則から著しく逸脱した違法な行為である。

(2)説明義務違反について

 AおよびBは、販売用資料の記載内容に沿って、一応の説明を行ったことは認められる。しかし、Xの年齢、経歴、難聴等からすると、それらの内容をすべて理解できたとは考えがたく、本件商品の特性およびリスクを理解できたとも考え難い。

 AおよびBは、Xが独自の判断として「今後3年間は日経平均株価が30%以上下落することはないだろう」と述べたというが、そのような事実は認められない。したがって、AおよびBの本件取引に関する勧誘行為には説明義務違反があったというべきである。

(3)過失相殺

 Xは、AおよびBの勧誘に応じて本件商品を購入したと推認でき、その勧誘は、適合性に欠けるXに十分な説明をせず本件商品を購入させたものであるから、適合性原則違反および説明義務違反のどちらの関係でも過失相殺を行うのは相当であるとは認められない。

 以上のように判断し、Xの請求額が全部認容された。



解説

 ノックイン型投資信託は、日経平均連動債などの特定の仕組債に集中投資をする投資信託である。

 そのため、分散投資の機能はなく、投資対象の仕組債と同様のリスク構造をもっている。このような商品は、証券会社だけでなく銀行でも扱われているが、高齢者の場合、預金をしている銀行から、この商品を勧誘されると、商品の特性について誤解を招きやすいものといえる。

 ノックイン型投資信託の勧誘販売の事案で、銀行に損害賠償責任を認めた判決としては、参考判例(1)がある。

 その後、本件と同様に、銀行の行員によるノックイン型投資信託の勧誘事案で(説明義務違反には言及せず)適合性原則違反を認めた参考判例(2)が出ている(この判決も本判決と同様に控訴なしで確定している)。

 また、銀行子会社の証券会社によるノックイン型投資信託の勧誘が説明義務違反とされたものとして、参考判例(3)がある。

 過失相殺について、参考判例(1)は、適合性原則違反と説明義務違反を認めたが、2割の過失相殺をしていた。参考判例(2)は、原告が当時79歳であったが、説明によって不十分ながらも一定の理解をしていたことや、同居していた孫が購入手続きの一部に関与しており、同居家族に相談する機会も十分にあったなどとして、8割の過失相殺をしている。この事案では、ノックイン型投資信託のほか、追加型株式投資信託を買っていたが、それについての勧誘の違法性は否定されている。

 これに対して本判決は、AおよびBの供述の信用性を否定したうえで、適合性原則違反と説明義務違反を認め、過失相殺は相当でないとして請求を全部認容しており、重要な先例といえる。

 この種の事案では、2010年10月から金融ADR法が施行されており、一般社団法人全国銀行協会のあっせん委員会や特定非営利活動法人証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)に申し立てられるものもある。

 しかし、銀行や証券会社側にはADRでの解決に柔軟性を欠く姿勢がみられ、あっせん案が出てもそれを受け入れずに不成立に終わる例も少なくないようである。その意味でも、判決の蓄積が待たれる状況にあるといえる。



参考判例

  1. (1)大阪地裁平成22年8月26日判決(『金融法務事情』1907号101ページ、『金融・商事判例』1350号14ページ)
  2. (2)東京地裁平成23年8月2日判決(『証券取引被害判例セレクト』41号1ページ)
  3. (3)東京地裁平成23年2月28日判決(『金融・商事判例』1369号59ページ)


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