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[2013年4月:公表]

携帯電話利用契約における通信料金に関する事業者の説明義務

 本件は、携帯電話の通信契約(3Gサービス契約)を締結した消費者が携帯電話端末をモデムとしてインターネットを利用し、その利用分として高額な通信料金を請求されたことから、通信料金を定める契約条項の一部が消費者契約法10条に違反するとして事業者に対し不当利得返還等を、また、事業者が本件サービスを使用する際の説明義務を怠ったとして債務不履行による損害賠償等を請求した事案である。

 裁判所は、消費者契約法10条には該当しないが、事業者は利用料金が高額になった時点での説明義務を怠ったとして、債務不履行に基づく損害賠償(過失相殺3割)を命じた(京都地裁平成24年1月12日判決)

  • 『消費者法ニュース』91号252ページ
  • 『判例時報』2165号106ページ

事案の概要

原告:
X(消費者)
被告:
Y(電気通信事業者)

 当時医学生であったXは、2007年9月29日、Yとの間で携帯電話端末を利用する電気通信役務提供契約(3Gサービス契約)を締結し、パケット単位で課金されるシステムにより利用を開始した。

 Xは2008年3月下旬ころ京都市内に転居したが、転居先はインターネットの接続環境になかったことから、3月26日から4月1日までの間、自ら調達したUSBケーブルを携帯電話に直接接続し、携帯電話をモデムとして用いることにより、パソコン画面で転居先周辺地域に関する情報や通信販売のウェブサイト等のPCサイトを閲覧した。このときXは、楽曲や動画等の容量の大きいファイルをダウンロードすることはなかった。また、上記期間にXが携帯電話をモデムとして利用したのは合計で約10時間程度である。

 Xが利用した接続方式は、データ送受信の量に応じて料金が発生する従量制のパケット通信方式であった。

 同年3月30日午後8時の時点において、Xの3月分の累積パケット通信料金が5万円を超え、翌31日の午後10時の時点で10万円を超えていた。

 同年4月1日午後6時ごろ、Xは、パケット通信料が10万円を超過した旨のYからのメールを確認し、携帯電話をモデムとして利用しPCサイトを閲覧したことで予想外にパケット通信料が高額になったと思い、以後はその利用をやめた。なお、Xは、上記メールを閲覧するまで、パケット利用状況確認機能や、利用料金照会等のサービスを利用するなどで累積パケット通信料金の額を確認していない。

 その後、Xは、Yより本件通信に係る通信料金として請求を受けた合計約20万円余を支払った。

 Xは、Yの1契約あたりの月間平均売上収入からみれば、一般消費者は1カ月1万円を超える通信料金が発生することは予測できないというべきであるところ、本件契約におけるパケット料金条項が消費者の予測できない極めて高額なパケット料を課金する不当な内容であることから、本件パケット料金条項のうち、消費者が通常予測する額である1万円を超える部分については消費者契約法10条により無効であるとして、不当利得返還の請求をした。

 また選択的に、本件契約締結に際し、Yには、携帯電話とPCを直接接続し使用する際の通信料金を具体的に説明する義務、もしくは通信料金高額化についての防止措置をとる義務があったにもかかわらずこれを怠ったとして、債務不履行による損害賠償を請求した。



理由

1.パケット料金条項の消費者契約法10条該当性について

 双務契約における対価または対価の決定方法を定める明文規定又は一般法理は存在しないから、対価に関する条項について任意規定の適用による場合と当該条項による場合を比較することはできない。さらに、単価が一義的かつ具体的に記載され、当事者間で明確な合意がなされた場合、単価額の当否は基本的に市場の評価に委ねるべきであり、これを規律する明文規定および一般法理は存在しないといえることから、法10条前段要件に該当しないと判断した。

2.Yの債務不履行について

 Yには契約上の義務としてパケット通信料金について分かりやすく説明する義務および高額な料金が発生する可能性に関する情報提供義務があるとしたうえで、以下のように述べた。

  1. (1)契約締結時における義務違反について

     契約締結時に交付されたカタログ等にはパケット通信料金が明記され、一定額に達するとメールで通知するサービス等も紹介されていた。また、携帯電話に同梱されていたリーフレットには、携帯電話とPCを直接接続する場合の通信料金が高額になるおそれがある旨の注意書きがあった。これらのことから、Yは、契約締結時においては、説明・情報提供義務を果たしていたと認められる。

  2. (2)通信料金が高額になった段階の義務違反について

     一方、利用開始後、Xの利用料金が高額化した段階におけるYの義務違反については、利用者に生じる予測外の財産的負担の拡大の防止という観点から、情報提供の必要性の程度が高まるため別途検討する必要がある。

     Xの利用方法により、高額なパケット通信料金が発生しており、それがXの誤解や不注意に基づくものであることが、Yにおいて容易に認識しうる場合には、Yは、本件契約上の付随義務として、Xの予測外の通信料金の発生拡大を防止するため、高額なパケット通信料金が発生した事実をメールその他の手段によりXに告知して注意喚起をする義務を負うと解するのが相当である。

     本件では、YがXに発生したパケット通信料金を把握し、通知をするために要する時間を考慮しても、遅くとも2008年3月31日午後7時までには、Yは、Xに対し、パケット通信料金が5万円を超過していることをメールその他の方法により通知し、注意喚起をする義務があった。にもかかわらず、Yには、これを怠った注意義務違反があるとして、31日午後7時以降に発生した通信料金がYの債務不履行による損害であると認めた。

  3. (3)過失相殺について

     Xは、パケット通信量に従い通信料金が発生すること、携帯サイトの閲覧よりPCからサイト等を閲覧したほうが情報量の大きいことを認識していたのであるから、携帯電話をモデムとして利用しPCサイト等の閲覧をするに当たっては、料金照会制度等を利用するなどして、通信料金の高額化については十分な注意を払うべきであったのに、これらを一切行わなかった点で過失があったとし、3割の過失相殺を認めた。



解説

 携帯電話のパケット通信料金のシステムは、閲覧・送受信・ダウンロードなどの情報量によっては短時間の利用でも高額に上るおそれのあるものである。そのうえ、サイトの情報量を消費者が客観的に認識することは困難であるため、パケット通信料金を予想することは難しい。そのため、パケット料金を定額にするプランの商品が用意されている。

 しかし、携帯電話をモデムとして使用する場合や、国際ローミングサービス*1は、パケット通信料金を定額化するシステムの対象ではないことが多く、消費者が、予測外の高額な料金を請求されるというトラブルは少なくない。本件は、予測外の高額請求を受けたというケースに関する事案である。

 本件判決では、本件システムが消費者の損害を拡大させるおそれがあるものであることから、利用開始後に利用者の通信料金が高額化した段階に至っては、事業者には消費者の被害拡大を防止する義務および、危険の拡大可能性についての説明義務・情報提供義務があるとした点が重要である。

 また、本件判決は、本件システムが消費者の損害を拡大させる危険性の高いものと認定する根拠として国民生活センターの報道発表*2を指摘しており、国民生活センターの役割が消費者被害の防止や救済のうえで重要であることを示すものである。

 なお、高額化した場合の通知について、Yが2008年2月からは10万円になると利用者に知らせるシステムを導入し、5月には通知の基準値を5万円に引き下げていたことが考慮されている。

  1. *1 契約している通信事業者のサービスを海外の提携事業者の設備を利用して受けられるようにするサービスのこと。インターネットサービスや携帯電話などで提供されている。
  2. *2 「パケット料金にご注意!予想以上に高額になることも」−携帯電話のパケット通信関連相談をめぐるトラブル−[PDF形式](192KB)


参考判例

  1. (1)最高裁平成23年4月22日判決(契約締結に先立ち信義則上の説明義務を尽くさなかった場合には不法行為に該当する可能性があるとした事例 『判例タイムズ』1348号87ページ)
  2. (2)大阪地裁平成21年9月30日判決(保険契約と説明義務違反 『日証券取引被害判例セレクト』36巻119ページ)
  3. (3)東京地裁平成15年4月9日判決(社債の勧誘と説明義務違反 『判例時報』1846号76ページ)


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