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[2013年2月:公表]

権利能力なき社団が消費者契約法にいう「消費者」に該当するとした事例

 本件は、権利能力なき社団*である大学生のスポーツクラブチームが、合宿を行うために宿泊予約をしていた旅館に対し、合宿の前夜に部員の新型インフルエンザ罹患(りかん)が発覚したことを理由に宿泊予約を取り消したところ、その際支払った取消料が消費者契約法9条1号の「平均的な損害」を超えるものであり、取消料条項は無効であるとして、不当利得の返還等を請求した事例である。

 裁判所は、権利能力なき社団でも消費者契約法上の「消費者」に該当するとし、法9条1号を適用して、平均的損害を超える既払い取消料の返還請求を認めた。(東京地裁平成23年11月17日判決)

  • *一定の目的をもって結合した団体で、個々の構成員とは別個に団体としての活動を行っており、法人格をもたないもの。例として町内会、サークル、PTAなど。
  • 『判例時報』2150号49ページ
  • 『消費者法ニュース』91号186ページ

事案の概要

原告・控訴人:
X(大学生のスポーツクラブ)
被告・被控訴人:
Y(宿泊所経営会社)
関係者:
A(Xの幹事)
B社(旅行会社)

 Xは大学の学生によるスポーツクラブチームであり、権利能力なき社団である。Xの旅行担当幹事であったAは、Xの名で、B社を通じてYとの間でY経営の旅館(以下「本件宿泊先」という)での2009年8月7日から12日までの5泊6日、宿泊客50名の手配旅行契約(以下「本件手配旅行契約」という)を締結した。

 8月5日夜、宿泊を予定していたXの部員の一部が新型インフルエンザに罹患した旨の連絡を受け、Aは同月6日、B社及びYに対し、宿泊を取りやめる旨伝えたところ、Yは、Aに対し、宿泊延べ人数209人の宿泊料金の合計約140万円の7割に相当する約97万円を取消料として支払うよう求めた。そのため、Aは、同月21日、Yに対し、上記取消料を支払った。

 その後Xは、10月21日付の書面で、Yに対し、上記の支払った金員の返還を催告(同月22日Yに到達)するとともに、以下の点を主張して不当利得の返還を訴求した。

(1)取消料の合意は成立していない

 Xは、本件手配旅行契約締結時に作成された旅行引受書には「Xの都合による取消しの場合、Yの定める取消料を支払う」旨の記載はあったが、具体的な取消料発生の条件や取消料の額は明確に記載されておらず、また、Yが、自己の管理するホームページで、宿泊前日に取り消した場合は宿泊料金の100%に相当する取消料が発生する旨を記載していたと主張するが、当該事実については知る余地もなかったとして、本件取消料については合意が成立していないと主張した。

(2)仮に合意が成立しているとしても、取消料発生の要件を満たしていない

 Xは、部員が新型インフルエンザに罹患したことはXの責めに帰すべきものではないうえ、当時、厚生労働省等は、致死率の高い新型インフルエンザの感染拡大を防ぐため、感染者の旅行自粛等を求めていたのであり、Xの都合により宿泊を取りやめたのではないと主張した。

(3)本件取消料の合意は消費者契約法により無効となる

 Xは、旅館営業を行っているYとの間には情報の質、量および交渉力に差があることから消費者契約法(以下「法」という)2条1項にいう「消費者」に該当し、XY間の契約は、「消費者契約」(法2条3項)に該当すると主張した。そのうえで、本件取消料合意は、解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であり、Yに生ずべき平均的な損害を超える取消料を定めるものといえるから、法9条1号により無効となると主張した。

 これに対して、Yは、権利能力なき社団であるXは「法人その他の団体」(法2条2項)であるから「消費者」には当たらないため、XY間の契約は「消費者契約」(法2条3項)には該当せず、また、本件取消料の額も平均的損害を超えるものではないと主張した。



理由

(1)本件取消料合意の成否について

 本件旅行引受書の「ご注意事項」欄には、「条件は裏面に記載されております。必ずお読み下さい」と記載されており、裏面の「6.取消費」欄には、「契約成立の後、(中略)お客様の都合により旅行の取消又は変更が生じたときは、取消料をお支払いいただきます」「取消料の額は、手配先の宿泊施設・利用施設及び運輸機関等の定める取消料に当社所定の取消・変更手続料金及び取扱料金を加えた額とします」と記載されている。

 また、Yのホームページには、宿泊前日に本件宿泊先の予約を取り消した場合、宿泊料金の100%に相当する取消料が発生する旨の記載があり、Xが当該記載を見ることが困難であったと考えられる事情は認められない。

 以上から、本件取消料の支払いについての合意が成立していたものと認めるのが相当である。

(2)取消料発生の要件を満たすか否か

 Xは、「お客様の都合」とは、旅行者側の帰責事由を要求する趣旨であると主張する。

 しかしながら、手配旅行契約に関する標準旅行業約款においては、旅行者が手配旅行契約を解除した場合、旅行者の帰責事由の有無を特に問題とせず、宿泊施設に対する取消料支払義務が発生する旨定められている(旅行業法2条5項、12条の3参照)。また、Yのホームページにおいても、取消時期以外には取消料に関する要件は定められていない。これらに照らすと、「お客様の都合」とは、旅行者に帰責事由がある場合に限定する趣旨ではなく、旅行者側の事情によって取り消した場合を広く含むものと解される。

 本件において、Xの部員が新型インフルエンザに罹患したことは専らX側の事情であり、Xの「都合」による取消しというべきである。

(3)「消費者契約」の該当性

 権利能力なき社団のように、一定の構成員により構成される組織であっても、消費者との関係で情報の質および量並びに交渉力において優位に立っていると評価できないものについては、「消費者」に該当するものと解するのが相当である。

 本件契約締結当時、Xの主要な構成員および旅行幹事のAは大学生であったことからすれば、XはYとの関係で情報の質および量並びに交渉力において優位に立っているとは評価できず、法2条1項の「消費者」に該当し、本件予約は「消費者契約」に該当する。

 以上のように判断したうえで、本件宿泊契約によりYが得られるはずであった金額について、宿泊料金およびグラウンド使用料の約127万円とし、宿泊費に含まれている光熱費等および2日目以降の食材費等の約47万円について、Yは支出を免れているとして、Yの損害額を約80万円であると認め、本件取消料合意のうち、当該金額を超える取消料を定める部分は法9条1号により無効となるとした。そして、Xの既払金97万円から前述の約80万円とB社への報酬分約10万円を差し引いた額である約7万円がYの不当利得であるとし、Xへの返還を命じた。



解説

 消費者契約法の規定が適用されるためには、「消費者」「事業者」間の「消費者契約」であることが必要である。

 「消費者」とは、「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)」(法2条1項)、「事業者」とは、「法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」(法2条2項)とそれぞれ定義されている。そのため、「個人」は事業として契約をしているか否かで区別されるが、「法人その他の団体」であれば事業を行っているか否かを問わず事業者とされることになる。

 現在はいわゆる一般法人法が制定され、OB会等の親睦団体も法人となれるようになっているが、依然として法人化していない親睦団体は数多くあり、これは事業を行っているわけではなく、個人の非事業活動を集団的に行っているに過ぎない。しかし、消費者契約法は「法人」だけでなく「その他の団体」を一切「事業者」と定義してしまっているため、親睦団体でも法人化の有無を問わず事業者になってしまうことになる。

 この点、本判決は親睦的「団体」(権利能力なき社団)について、これを「消費者」と認めた初めての判決である。本判決は、交渉力等が消費者と異ならないということを挙げているが、これが理由であれば本判決の判断枠組みが及ぶ範囲ははるかに広くなってしまう。したがって、本判決の判断枠組が及ぶ範囲は、本件と同様の親睦的団体に限定されるものと理解すべきである。

 ところで、ゼミ合宿等の特に組合でも権利能力なき社団でもない複数人による契約の場合には、契約当事者の点で問題は残されるが、消費者による契約であり消費者契約となることは疑いない。

 本件でも、参加者全員を契約当事者とできるならば、消費者が複数共同して契約をしているだけであり、消費者であることは疑いなく、このような解決もあり得たと考えられる。



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