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[2013年1月:公表]

生命保険契約約款の保険料不払失効条項と消費者契約法10条

 本件は、保険会社との間で保険契約を締結した保険加入者が、当該保険契約における失効約款(月払の保険料が残高不足で期限内に引き落されない場合には保険契約は失効する)は消費者契約法10条に該当するため無効であるとして、保険契約の存在確認を請求した事例である。

 最高裁は、本件失効約款は消費者契約法10条後段に該当しないとして東京高裁判決を破棄し、差し戻した(最高裁平成24年3月16日判決)

  • 『判例時報』2149号135ページ
  • 『金融・商事判例』1389号14ページなど

事案の概要

原告・控訴人・被上告人:
X(消費者)
被告・被控訴人・上告人:
Y(生命保険会社)

 Xは、Yとの間で、2004年8月に医療保険契約を、2005年3月に生命保険契約を締結した。それら保険料の支払は月払・口座振替の方法がとられた。医療保険契約については解約返戻金の定めはなく、生命保険契約についてはその定めはあったが、契約締結後経過2年の時点での解約返戻金は0円であった。

 本件各保険の約款には、保険契約の失効について次のような定めがあった。

  1. (1)月払の場合、保険料は契約応当日の属する月の初日から末日まで(以下、「払込期月」)の間に払い込む。
  2. (2)払込期月の翌月の初日から末日までを「猶予期間」とする。
  3. (3)猶予期間内に保険料の払込みがないときは、保険契約は猶予期間満了日の翌日から効力を失う。

 なお、同約款には、保険料の払込みがないまま猶予期間が過ぎた場合でも、一定条件のもと、保険会社が保険契約者に保険料相当額をその時点の解約返戻金の額を上限として自動的に貸し付け、保険契約を有効に存続させる保険料自動貸付条項、所定期間内であれば保険会社の承諾を得て保険契約を復活させることができる復活条項があった。

 Xは、2006年7月頃、特発性大腿骨頭壊死症と診断され、同年11月頃から月に2、3回ほど電気治療を受けていた。一方、保険料については、2007年1月分および2月分の保険料が振替口座の残高不足により振り替えできなかった。翌3月上旬、XはYに対し、3カ月分の保険料を支払い、復活の申し込みをしたが、Yは健康状態を主たる理由として承諾しなかった。

 Yは2007年2月末日の経過により本件保険契約は失効したと主張したため、Xは保険料を供託し、Yに対し、失効約款は公序良俗違反、信義則違反、消費者契約法(以下「法」)10条違反などを主張して、XとYとの間に本件各保険契約が存在することの確認を求めて提訴した。

 第1審判決(参考判例[1])は、Xの主張を認めず、請求を棄却した。Xが不服として控訴し、その控訴審判決(参考判例[2])は、本件約款の失効条項は法10条違反であるとして無効とした。これに対して、Yが上告・上告受理申立てをした。



理由

 本件失効条項の法10条該当性について、本判決は、本件失効条項が履行の催告なしに保険契約が失効する旨を定めるものであるから、民法の任意規定(541条)の適用による場合に比して消費者である保険契約者の権利を制限するものであるとして、法10条前段に該当するとした。そのうえで、次のように判示して法10条後段(民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの)には該当しないとして、破棄差戻しとした。

  1. (1)本件各保険契約においては、保険料は払込期月内に払い込むべきものとされ、遅滞しても直ちに保険契約が失効するものではなく、債務不履行の状態が一定期間内に解消されない場合に、初めて失効する旨が明確に定められているうえ、上記一定期間は、民法541条により求められる催告期間よりも長い1カ月とされている。加えて、払い込むべき保険料等の額が解約返戻金の額を超えないときは、自動的にYが保険契約者に保険料相当額を貸し付けて保険契約を有効に存続させる旨の本件自動貸付条項が定められていて、保険契約が1回の保険料の不払により簡単に失効しないようにされているなど、保険料不払の場合にも、権利保護を図るために一定の配慮がされている。
  2. (2)Yは、保険料支払債務の不履行があった場合には、契約失効前に保険契約者に対し、保険料払込みの督促を行うこと等が前提となっていると主張する。仮に、Yにおいて、本件各保険契約の締結当時、保険料支払債務の不履行があった場合に、契約失効前に保険料払込みの督促を行う態勢を整え、そのような実務上の運用が確実にされていたとすれば、通常、保険契約者は保険料支払債務の不履行があったことに気づくことができると考えられる。

 多数の保険契約者を対象とする保険契約の特質をも踏まえると、保険契約者が保険料の不払をした場合にも、その権利保護を図るために一定の配慮をした上記(1)のような定めに加え、Yにおいて上記のような運用を確実にしたうえで本件失効約款を適用していることが認められるのであれば、本件失効条項は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものに当たらないものと解される。

 なお、本判決には、反対意見が付されている。

 その骨子は、本判決が考慮している猶予期間の定めや自動貸付条項などの定めは、催告の代償措置とはいえず、また、督促通知という実務上の運用が確実であることもあくまで事実上のものであって、約款上に規定されているわけでもないから法的な義務とはならず、催告を不要とする保険契約者の不利益がカバーされるとはいえないというものである。



解説

 保険料が銀行口座から引き落とされず、保険契約が失効した事案については、これまでも信義則違反等を理由に裁判で争われてきた。しかし、保険契約は失効したとする判決が多く、ほとんどが救済されていない。そのような背景において、本件では、法10条に該当するかどうかが争点となった。

 本判決は、原判決(参考判例[2])とは異なり、法10条後段に該当しないとした。その判断に際しては、約款外の事情を考慮するかどうかで大きな違いがある。

 第1に、保険実務においては、保険料の払込みを遅延した者に対して保険会社が督促通知を行っている点について、原判決は失効約款自体が法10条によって無効となるかどうかが問題であり、約款外の実務における措置は考慮すべきでないとしている。そのような運用は保険契約上の義務として行っているものでなく、恩恵的なものに過ぎないとも、原判決は指摘している。

 第2に、原判決は、不払について担当者がXに注意したとか、Yが通知書やコンビニ用の払込票も合わせて送付したことなどの個別当事者間の事情は捨象*し、条項を抽象的に検討して判断すべきであるとし、その理由として、適格消費者団体による差止め請求が可能であるのも条項を抽象的に判断するからであるとしている。

 これに対して本判決は、第1の点について、契約締結時において「上記のような運用を確実にした上で本件約款を適用していることが認められるのであれば」、法10条後段要件に該当しないとしている。しかし、本判決は、第2の点については言及していない。したがって、保険契約約款のような多数契約者に適用される約款についても、個別事情を考慮できると判示しているわけではない(この点、賃貸借契約における更新料条項の法10条該当性が問題となった参考判例[3]とは同一視できないと解される)。

 仮に、保険契約約款のような事案においても個別事情を考慮すべきという見解による場合には、適格消費者団体による差止訴訟の場合と個人一般の訴訟による場合とで大きな相違が出てくる(原判決ではこの点を指摘している)。

 また、第1の点については、実際に不払が起こったときではなく契約締結時の運用が問題とされているので、当該契約者の不払に実際にどう対応したかの問題とは別と解されている。この結果、約款が有効とされる場合でも、当該事案では督促の通知がされていないとか、到達していないということもあり得る。また、保険契約が長期間にわたる性質を持つ契約であることからすると、運用自体が変化していることもあり得る。その場合は、信義則違反の問題ということになる。

 なお、本判決の差戻審(参考判例[4])は本件最高裁の判断枠組みに従って精査し、本件では、各保険契約締結当時、保険契約者が保険料の支払を怠った場合についての権利保護のための配慮がされているうえ、保険料の払込み督促の態勢が整えられており、かつ、実務上の運用が確実にされていたと判断して、法10条該当性が否定されている。

  • *必要ではない要素を捨て去ること


参考判例

  1. [1]横浜地裁平成20年12月4日判決
    (『金融・商事判例』1327号19ページ、『金融法務事情』1882号91ページ)
  2. [2]東京高裁平成21年9月30日判決
    (『判例タイムズ』1317号72ページ、『金融・商事判例』1327号10ページ)
  3. [3]最高裁平成23年7月15日判決
    (『判例タイムズ』1361号89ページ、『金融・商事判例』1372号7ページ)
  4. [4]東京高裁平成24年10月25日判決
    【本件差戻審】(『金融・商事判例』1404号16ページ)


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