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[2012年12月:公表]

インターネットによるパック旅行販売の価格誤表示と契約の成否

 本件は、旅行業者がウェブサイト上で、誤って通常価格よりかなり安い価格を表示してパック旅行募集を行っていたところ、これに申し込んだ顧客に対し、旅行業者が一度は誤表示価格での契約の成立を認めるメールを送信したにもかかわらず、後に旅行業者が誤表示価格での代金受け取りおよび旅行参加を拒否したため、顧客は旅行業者が旅行に参加させる義務を怠ったとして、債務不履行に基づく損害賠償を請求した事例である。

 裁判所は、旅行業者と顧客の間には予約契約が成立しており、顧客がクレジットカード情報を通知した時点で本契約が成立しているとして、旅行業者の債務不履行責任を認めた。(東京地裁平成23年12月1日判決)

  • 『判例時報』2146号69ページ

事案の概要

原告:
X(顧客・消費者)
被告:
Y(旅行業者)
関係者:
A(Yの従業員)

 Yはウェブサイト上で旅行契約の誘引を行っており、2009年4月27日頃、「列車でめぐるイタリア2都市周遊8日間」と題する旅行契約(募集型企画旅行。以下「本件ツアー」という)の募集を行った。

 本件ツアーの基本旅行代金は、出発日、ホテルのグレードおよび1室の宿泊者数の違いによって異なり、ウェブサイト上では、出発日を示すカレンダー上に表記されたアルファベットと対照することによって、希望する内容の基本旅行代金が分かるようになっていた。

 当時、ウェブサイト上には全部で165コースが掲載されていたが、このうち本件ツアーを含む4コースについて料金が誤って安く表示されており、Xはこの料金に従って、インターネットで本件ツアーの申し込みをした。その経緯は次のとおりである。

  • 4月27日10時29分頃、Xが本件ツアー(10月1日出発)を申し込む。
  • 同日10時30分頃、YからXに申込内容を確認する自動メールを送信。
  • 同日20時12分頃、YネットセンターよりXに対し、「予約された契約については料金データが誤って掲載され、本来の旅行代金ではないが、XY間では誤表示金額(1人約8万円)で予約が成立している」という内容のメール(以下「本件メール」という)を送信。
  • 5月7日、XがYネットセンターに電話でクレジットカード情報を受け取ってもらえるか尋ねたところ、Y従業員Aに拒否された。
  • 8月4日、Xは内容証明郵便でクレジットカード情報を通知。
  • 8月6日、YはXに対し、旅行代金1人35万7千円であれば旅行契約を締結するが、Xの希望する旅行代金ではできない旨の書面を送付。
  • 8月21日、クレジットカード情報のYへの提供(連絡)期限が経過。

 Xは結局本件ツアーに参加できず、他社の同様のツアーに参加した。そのため他社ツアーとの差額(1人約13万円)を債務不履行による損害賠償として、また、Yの従業員Aについての使用者責任として、慰謝料(約58万円)をYに請求した。

 これに対し、Yは、予約契約の不成立、予約契約の錯誤無効(クレジットカードで既に支払っていると誤認し、契約は既に成立しているので承諾しなければならないとの錯誤に陥った)、本契約の不成立(カード情報の不受領、承諾の不存在)、約款23条5号による契約締結の拒否等を主張した(約款23条5号は、Yが契約締結を拒否できる事由として「会員の有するクレジットカードが無効等により、旅行代金等が提携会社のカード会員規約に従って決済できないとき」を定めている)。

 なお、本件契約における旅行業約款2条2項では、電話、郵送、ファクシミリその他の通信手段(インターネットも含まれると解される)による予約の申し込みを受け付ける場合、その時点では契約は成立せず、Yが予約の承諾の旨を通知した後、顧客がYに申込書と申込金を提出するか、またはクレジットカード情報等を通知した時点で本契約が成立するものと定めていた。



理由

(1)予約契約の成否について

 顧客からの申し込みに対してYが予約の承諾の旨を通知した時点で、予約契約(民法559条、556条)が成立する。本件では、Xが4月27日にウェブサイトから申し込みをし、同日20時12分頃、Yネットセンターから本件メールによってXに対して予約を承諾する旨の意思表示があったと認められる。

 Yは、Xが既に旅行代金をクレジットカードで支払っているものと誤信し、契約が成立している以上、予約の承諾を通知しなければならないとの錯誤に陥ったと主張するが、本件メールには「2009年08月21日(金)15:00までにご利用されますクレジットカード情報をネットセンター宛てにご連絡下さい」との記載があること、誤表示金額で旅行をさせなければならないかどうかはYにとって相当重大な問題であったはずであり、また、本件申し込みから本件メールの送信までには相当の時間が経過していることからすれば、Yにおいて錯誤があったと認めることはできない。

 よって、XとYの間で本件ツアーに関する予約契約が成立していたと認定できる。

(2)本契約の成立について

 本件約款2条2項は、予約完結権を顧客に与えており、顧客が申込書と申込金の提供またはクレジットカード番号を通知した時点で、本契約が成立するものと解される。

 本件で、XはYに対し、5月7日に電話でクレジットカード番号を提供し、8月4日には内容証明郵便で通知している。

 なお、本件約款23条5項はYが承諾を拒否できる場合を定めるが、本件ではYが承諾を拒否できるような事情は認められず、遅くとも同年8月4日には本件契約は成立しているものと認められる。

 以上のように判断し、Yの債務不履行による損害賠償については認容し、使用者責任についての慰謝料請求は棄却した。



解説

 インターネット通販等において価格の誤表示は時折存在する。

 例えば、誤表示価格に従った顧客の購入申し込みに対してサイト開設業者からの受注確認メールが届いたが、翌日売主が誤表示を主張して契約の締結を拒否する旨通知した事案(東京地裁平成17年9月2日判決(『判例時報』1922号105ページ))では、受注確認メールは承諾には当たらないとして、契約の不成立を理由に購入者の請求を認めていない。

 本件の特徴は、旅行業者側から誤表示を認めたうえでその価格での契約の成立を認めるメールが送信されていること、商品がツアー旅行であるため約款が存在すること、である。

 一般論として、誤表示を認識したうえで誤表示価格での契約成立を認める通知をした以上は、その内容で承諾があったものと考えてよい。一方、単なる受注確認のための自動送信メールだけで承諾があったとみなすのは難しいこともあろう。自動送信メールには、後刻確認メールを送付する旨、あるいは、確認メールをもって契約成立とする旨を明示するものもある。

 本件は上記の承諾のメールがあったが、約款により、インターネットによるXの申し込みとY側の承諾だけでは契約は成立せず、申込金等の提供、またはクレジットカード情報の提供があって、契約が成立するとされている。そこで、本判決では、インターネットによる申し込みとそれに対する承諾を予約契約(民法556条)ととらえ、クレジットカード情報の提供を予約完結権の行使ととらえている。そしてYは、クレジットカードによる決済が既に済んでいる(契約が成立している)と誤信して、予約契約を承諾しなければならないとの錯誤に陥ったという。この主張が法的に無理があるかどうかはさておき、価格の誤表示があれば、旅行業者は通常、価格の誤表示自体を理由に錯誤主張すると思われる。一方、本件は上述の承諾と予約契約が存在することによって、単なる価格表示自体の錯誤の場合とは錯誤の内容が異なっている点に注意が必要である。そのため、価格表示自体の錯誤主張の場合に問題となりうる、顧客の価格誤表示に対する悪意または重過失(当該表示価格が誤表示であるとの認識または認識可能性。ほかと比較して極端に価格が低い場合などで考慮される可能性がある)は判断されなかった。もっとも、インターネット通販では中古品や激安商品等もあり、値付けについて一概に判断できるともいえない。本件の場合は、165コースのうち4コースのみが4分の1から7分の1程度の価格となっており、顧客が当然に気づくべきである場合と考える可能性はあったが、旅行業者が誤表示を認識した旨明示しつつ、誤表示価格での契約を認めたのであるから、旅行業者がリスクを引き受けたとみてよいだろう。

 なお、本件では、約款23条の消費者契約法10条違反の主張がなされたが、これについては否定されている。



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