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[2012年9月:公表]

害悪を告知し、祈とう等を受けさせ祈とう料等を支払わせることが不法行為に当たるとした事例

 本件は、「集い」という宗教的集会の参加者が、勧誘者から「祈とうをしなければ不幸から逃れられない」などと恐怖心を植え付けられたことにより、高額な祈とう料等を支払わざるを得なくなったとして、勧誘者に対し、不法行為を理由として損害賠償を請求した事例である。

 裁判所は、宗教的活動は信教の自由の一形態として保障されるが、社会的相当性を逸脱する場合、違法な行為となり得るとした。行事への勧誘や祈とうへの勧誘に際し、祈とうなどをしないことによる害悪を告知することにより、いたずらに参加者の不安や恐怖心を発生させたり、助長させたりし、被勧誘者の自由な意思決定を不当に阻害し、祈とう料などについて過大な支払いをさせた場合、その行為は、社会的相当性を逸脱し、違法な行為となると判断し、本件で、被告が原告らに対し祈とう料等を支払わせた行為は、この要件を充足し不法行為となるとして、原告らの請求を一部認めた。(京都地裁平成21年7月8日判決)

  • 『判例時報』2064号98ページ

事案の概要

原告:
Xら5名(消費者)
被告:
Y(祈とう師)
関係者:
A(Yの幇助(ほうじょ)者)

 Yは、偶然悩みの相談を受けるようになった近所の知人宅において、2001年頃から「集い」を行い始めた。当初は4人くらいであったが次第に人数が増え、2003年頃には、A宅において7〜8名くらいで月1回程度「集い」を行っていた。

 「集い」を行う中で、参加者から因縁を切ってもらいたいとの要望が出たため、2003年の秋頃からA宅において、「因縁切り」をするようになった。

 「因縁切り」は、Yがまず上座に座り、向かい側に霊媒師の役割を持つAが座り、その横に「因縁切り」の依頼者が座り、Yが霊能力者として問いかけ、Aが受霊し、恐ろしい形相と声で答えるというかたちで進んだ。霊媒師としてのAが、取り憑(つ)かれたようにさまざまな因縁が出てくるようすを話し、その後、「先生」であるYが、Aと同じ因縁や霊を見たと、「因縁切り」の最中のでき事について、「因縁切り」を受けた者に対して伝えるという段取りで行われた。

 2004年頃からYらは、本格的に、「集い」については参加料、「因縁切り」については祈とう料を参加者から集めるようになった。「集い」の参加料については1回3万円程度、「因縁切り」の祈とう料については1回16万円程度を集めていた。

 「因縁切り」の祈とう料および「集い」の参加料として、参加者であったXらは、平均して1人105万円ほど支払っていた。Xらは、このような支出をするに至ったのは、Yから「『集い』に参加して『因縁切り』をしなければ不幸な境遇から逃れられない」等の害悪を告知され、恐怖心を植え付けられたためであることから、Yらの行為は不法行為に該当するとして、支払い済みの祈とう料等、慰謝料ならびに弁護士費用等を損害として、Yに対して賠償請求をした。



理由

(1)宗教的行為の違法性

 YとAは、一体となって「集い」と「因縁切り」を行って害悪を告知し、参加者から徴収した参加料と祈とう料を2人の間で分配することを共謀していたものと推認できる。

 宗教的活動は、信教の自由の一形態として保障されるが、社会的相当性を逸脱する場合、違法な行為となり得る。行事への勧誘や祈とうへの勧誘について、祈とうなどをしないことによる害悪を告知することにより、いたずらに参加者の不安や恐怖心を発生させたり助長させたりして、被勧誘者の自由な意思決定を不当に阻害し、祈とう料などについて過大な支払いをさせた場合、その行為は、社会的相当性を逸脱し、違法な行為となるというべきである。

 本件では、YらのXらに対する行為は、いずれもいたずらに不安を発生・助長させ、自由な意思決定を阻害して高額な金銭の支払いをさせたものであり、違法であるといえる。

(2)参加料・祈とう料の徴収

 Yは、自身に霊能力があると確信しており、「因縁切り」における言葉は、霊能力によって見えた因縁や霊のようすについて、見たままを語ったのであるから、社会的相当性を有する宗教的活動をしたに過ぎず、違法性はないと主張するが、Yが自らの霊能力によって見えた因縁や霊のようすを、見たまま語ったという宗教的活動を行ったとの証拠はない。

(3)損害について

 Xらは、Yらの不法行為によって、財産的損害だけではなく、精神的苦痛を受けたものと認められるから、これを慰謝するため、相当額の慰謝料の支払いを命じるべきであり、また、本件を遂行するに当たっては、Xら訴訟代理人弁護士に依頼する必要があったため、認容額の1割程度の弁護士費用は相当因果関係がある損害であるとして、Xらおのおのに対し平均12万円の弁護士費用が損害と認められた(民法709条)。



解説

 寺社仏閣による地鎮祭や合格祈願の祈とうや祈願、イタコの口寄せ*1、占い師による占い等、心霊的サービスを目的とする契約も有効であり(民法399条)、その金額も暴利行為と思われるような巨額なものではない限り、有償契約として有効である。

 ただし、霊能力もないのにこれを有するものと信じさせ、客から報酬を受けるのは詐欺といえる。しかし、現実には霊能力がないことを知って行っているという詐欺の証明は困難である。

 いわゆる霊感商法といわれる、本人またはその身内の不幸の可能性を信じ込ませ、回避するために高額な壷(つぼ)などを購入させる行為が不法行為となるのは当然である。後記参考判例[2]および[3]の事例は組織的に行われていたものであり、比較的詐欺の証明は容易な事例であった。

 それ以外の事例としては、参考判例[4]があり、「易断に鑑定料の支払又は祈祷(きとう)その他の宗教的行為に付随して祈祷料の支払を求める行為は、その性格上、易断や祈祷の内容に合理性がないとか、成果が見られないなどの理由によって、直ちに違法となるものではない。しかしながら、それに伴う金銭要求が、相手方の窮迫、困惑等に乗じ、殊更(ことさら)にその不安、恐怖心を煽(あお)ったり、自分に特別な能力があるように装い、その旨信じさせるなどの不相当な方法で行われ、その結果、相手方の正常な判断が妨げられた状態で、過大な金員*2が支払われたような場合には、社会的に相当な範囲を逸脱した違法な行為として、不法行為が成立する」と述べ、本判決とほぼ同じである。

 本判決もそうであるが、詐欺を要件とはしないが、暴利行為的な基準に限定したのは適切である。安易に不法行為を認めてしまうと、これまで霊能力者等への祈とうなどの依頼も社会的に容認された存在であったため不都合であり、報酬があまりにも不適切で暴利行為に該当するような事例に限定する必要があるからである。逆に報酬が適切でも、詐欺の場合には不法行為になることを否定するものではないが、先に述べたようにその証明は難しい。

 暴利行為により無効(民法90条)として代金を返還請求する余地もある。不法行為を理由とすることにより、慰謝料や弁護士費用の賠償請求が可能になるという利点を指摘できる。なお、民法724条の消滅時効が完成しても、無効を理由とした返還請求は可能である。

  1. *1 イタコとは、東北地方に伝わる固有の巫女(みこ)の呼び名。霊を自身に呼び寄せ死者の言葉を伝える「口寄せ」を生業(なりわい)としている。
  2. *2 金銭のこと。


参考判例

  1. [1]大阪高裁平成11年6月29日判決(『判例タイムズ』1029号250ページ)
  2. [2]福岡地裁平成11年12月16日判決(『判例時報』1717号128ページ)
  3. [3]東京地裁平成20年1月15日判決(『判例タイムズ』1281号222ページ)
  4. [4]大阪高裁平成20年6月5日判決(兵庫県弁護士会ホームページ)

以上、いずれも不法行為肯定



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