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[2012年8月:公表]

マンションの屋上に携帯電話の基地局を設置する際に総会の普通決議で足りるとした事例

 本件は、電気通信会社が携帯電話の基地局等を設置するため、マンション管理組合との間で、10年間、マンション屋上の一部を賃借する契約を締結したが、マンションの居住者から設置工事を妨害されたため、賃借権の確認および設置工事の妨害禁止を求めて訴えを提起したものである。

 本件では、共用部分である屋上の一部を賃借して設置工事を行うための必要な要件が問題となった。

 第一審では、賃貸借期間が民法602条の期間(3年)を超える賃貸借については、共有者(区分所有者)の全員一致が必要であるとして賃借権の存在等を認めなかったが、控訴審では、マンション管理組合総会の普通決議を経ればよいとして、第一審を取消し、賃借権の存在等を認めた。 (札幌高裁平成21年2月27日判決)

  • 『判例タイムズ』1304号201ページ

事案の概要

原告・控訴人:
X(電気通信会社)
被告・被控訴人:
Y(甲マンション管理組合)

 Xは甲マンション付近で携帯電話の基地局の設置を計画し、甲の管理組合Yの理事と交渉を進めていたところ、2005年10月29日にYの臨時総会で上記基地局設置が提案され、議決権総数の4分の3以上の賛成多数で可決された。

 同年11月、XとY理事間で、賃借期限10年、賃料年額60万円で電気通信事業の設備設置(基地局等)を目的とする賃貸借契約書を作成した。アンテナは8m棒状。屋上コンクリートに約10cm深さの接着系アンカー(コンクリートに埋め込んで使用するボルト)を打ち、鉄筋・生コンンクリートで基礎を設置。機械収容箱はおよそ幅1.7m×奥行0.66m×高さ1.65m、アンテナとの総重量約1.5トン。地階電気室配電盤からの電力供給のため、供用部分のパイプシャフト(ケーブルや配管を通すため、各フロアに設置されている箇所)に穴を開け電気ケーブルを通すというもの。なお、Yが契約期間内に解除できるのは、Xの債務不履行などもっぱらX側に帰責事由がある場合のみとされていた。

 その後、電磁波への不安から甲マンションの住人の一部がXの工事を妨害するなどしたため、XがYに対して賃借権の確認と工事妨害の禁止を求めたのが本件である。

 Yの管理規約には、建物の専有部分以外は共用部分と定められており、屋上および電気室がこれに含まれる。また、次のような規定もある。

  • 管理組合は総会の決議を経て敷地および共用部分等の一部について、第三者に使用させることができる(16条2項)
  • 総会の議事は出席組合員の議決権の過半数で決する(46条2項)
  • 敷地及び共用部分等の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く)には、組合員総数及び議決権総数のそれぞれ4分の3以上の賛成がなければならない(46条3項2号「特別決議事項」)
  • その変更が、専有部分等の使用に特別の影響を及ぼすときは、その専有部分を所有する組合員等の承諾を得なければならない(46条7項)

 原審(札幌地裁平成20年5月30日判決、『金融・商事判例』1300号28ページ)は、管理組合が締結できる賃貸借契約の範囲を、管理行為の範囲、つまり民法602条に限定し、それを超える場合は民法の共有の原則に戻り全員の合意を必要とするとした。また、管理規約46条7項につき、電磁波の影響を問題視して設備等設置に反対する人間が一定数存在し、設備等の存在が区分所有建物の市場価格に影響を与える可能性も否定できないと評価し、Xの請求を棄却したためXが控訴した。



理由

 建物の区分所有等に関する法律(以下、「区分所有法」)は、区分所有関係が成立している建物の共用部分を対象とする限りにおいては、民法の特別法に当たるから、共用部分の賃貸借については民法602条の適用は排除され、同条に定める期間内でなければならないものではない。

 区分所有法17条1項は「共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)」が特別決議事項であると定めているが、ここにいう「共用部分の変更」はその文言から明らかなように、「形状又は効用の著しい変更を伴」うものである。したがって、本件管理規約46条3項2号の「敷地及び共用部分の変更」も区分所有法17条1項と同じく、「形状又は効用の著しい変更を伴」うものであると解される。さらに、本件管理規約においては「形状又は効用の著しい変更を伴」うものであっても、「改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないもの」については、特別決議事項から除外されていると解すべきである。

 以上によれば、共用部分を第三者に賃貸して使用させる場合に必要な決議は、第三者に使用させることにより「敷地及び共用部分の変更(改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く。)」をもたらすときは特別決議、これをもたらさないときは普通決議であると解される。

 これを本件についてみると、管理規約には、本件建物により電波障害を受ける近隣居住者が受信設備を設置するためにマンション共用部分を使用する場合は、総会決議を不要とする旨の定めがある(16条1項)。この場合と比較して、本件アンテナの大きさは異なるが固定方法は類似すると推認される。

 また接着系アンカーを打ち込んだ部分の復旧も容易であるから、基地局を設置しても「形状又は効用の著しい変更」が生じるとは認められない。したがって、本件で共用部分をXに使用させるに当たり必要な決議は、普通決議で足りるとした。

 また、電磁波の影響については、付近の住戸の居住者に健康被害が生ずると認めるに足りる証拠はなく、漠然とした不安感に過ぎないとして46条7項の承諾も不要とした。



解説

 本件第一審は、マンション管理組合が締結できる敷地および共用部分の一部の第三者への賃貸借契約の範囲を、管理行為の範囲、具体的には民法602条所定期間内に限定し、住民の要請を認めた。

 しかし、本判決では区分所有法は民法の特別法であるとして、民法602条による制限を認めない。そのためマンション管理規約自体の解釈に踏み込むこととなる。

 区分所有法17条1項が特別決議事項として共用部分の変更を定めつつ、「形状又は効用の著しい変更を伴わない」場合を除外していること、さらに規約46条3項2号が「改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く」としているため、本判決は特別決議(4分の3の賛成)が必要な事項を「形状又は効用の著しい変更を伴い」、しかも「改良を目的としないか、または著しく多額の費用を要する」共用部分の変更に限定している。

 一方、具体的な規約適用に際しては、近隣住民の電波障害対策として通常の受信用アンテナおよび受信設備の設置を規約が容認していることから、携帯基地局について、アンテナの大きさは異なるものの固定方法は類似しているなどとして、「形状又は効用の著しい変更」は生じないとしている。

 しかし、近隣住民とのトラブル回避のために容認せざるを得ない事項と、契約を介して積極的に変更を加えることは、同列に論じられないのではないか。さらに、通常の受信アンテナは数kg、大きさも家庭用アンテナを若干上回る程度で済む模様である。形状の違いは歴然としている。

 また、電磁波の人体への影響について、科学的な見解は一致をみていないが、電磁波に対する不安感は社会的には大きな存在といえるのではないか。

 原審は「電磁波による人体への影響が科学的に裏付けられているかどうかはともかくとして」と断りつつ、「区分所有建物の市場価格に影響を与える可能性も否定できない」として経済的価値の低減を正面から捉えた。しかし、控訴審はこの問題を規約46条7項の専有部分所有者等の承諾の要否の判断の局面で捉え、付近住戸の健康被害に限定し、しかも立証責任を承諾の必要性を主張する側(住民側)に課し、「電磁波の発生による漠然とした不安感にすぎず」としている。健康被害はともかく、少なくとも経済的価値の減少は現時点でも生じ得ると考えられる。



参考判例

マンション管理と賃貸借に関し、総会決議を無効としたものとして

  1. [1]那覇地裁平成16年3月25日判決、『判例タイムズ』1160号265ページ

電磁波の影響に関して

  1. [2]福岡高裁平成21年9月14日判決、『判例タイムズ』1337号166ページ
  2. [3]福岡高裁平成21年9月14日判決、『判例タイムズ』1332号121ページ


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