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[2012年5月:公表]

携帯電話の未成年者契約につき、法定代理人の同意に錯誤があったとして未成年者取消しを認めた事例

 本件は、未成年者の携帯電話利用契約締結に際し、利用額上限を設定できる料金プランであるとの説明のもと、法定代理人が同意したが、現実には契約者による上限額変更が可能であったため、未成年者が増額して利用し、2カ月分約19万円の利用料金を電話会社が請求した事案である。

 裁判所は、法定代理人による上限額を超える部分の同意につき錯誤無効を認め、未成年者取消しを認めつつも、未成年者に現存利益があること、親権者が監護義務を尽くしたとはいえないこと等を理由に、限度額を超える利用額の3割の支払いを命じた。(札幌地裁平成20年8月28日判決)

  • 未登載
  • 控訴後和解

事案の概要

原告:
X(携帯電話会社)
被告:
Y1(未成年者・消費者)
Y2(Y1の母・法定代理人)

 Y1は本件契約当時15歳の未成年者、Y2はY1の母であり、法定代理人(親権者)である。

 Yらは二人暮らしで、Y2のパート収入で生活していた。

 二人はY1が使用する携帯電話の購入を検討していたが、Y2は、携帯電話の使い過ぎを心配していたところ、Yらは、Xでは未成年者の使い過ぎを防ぐ料金プラン(以下「本件プラン」)があることを知った。

 そこで、平成16年3月16日、Xの代理店を訪れ、子どもにパスワードを知らせなければ、勝手に上限額を増額できないから大丈夫であることなどの説明を受けた。Y2は、本件プランを選択すれば、携帯電話の利用限度額を自ら管理できるものと考え、Y1が契約当事者となって本件契約を締結することについて同意した。

 その後、Y1は、友人から、自分でパスワードを初期化し、上限額を増額できることを聞いた。そして、本件プランサービスセンターに電話し、契約者本人であることを告げ、パスワードを初期化、自らパスワードを設定し、同年6月以降8月16日まで、Y2に無断で上限額の増額を繰り返した。

 Y1は、同年8月16日、Y2に対し、利用料金の支払いがないため携帯電話の利用ができなくなるという通知が来たことから、7月分と8月分の請求書(合計約19万円)を見せ、自ら使用して高額請求になったと打ち明けた。

 予想外の高額な請求に驚いたY2は、翌17日、代理店に行き請求金額の確認をするとともに、本件の料金プランを基本使用料の最も低額のプランBに変更ししたうえで、利用中断の措置を取った。

 その後、本件携帯電話は利用されないまま、同年10月2日に本件契約は強制解約された。

 Xは、Y1に対し未払い利用料全額(約19万円)と遅延損害金の支払いを求め支払督促申立をし、Y2の異議申立により通常訴訟に移行した。

 Y1は、Y2の本件契約締結についての同意は錯誤によるもので無効である旨主張した。

 なお、Xは予備的に、未成年者取消しが認められた場合Y1には現存利益があり、これが不当利得に当たるとして返還請求をしている。



理由

1 錯誤について

 Y2は、本件プランを選択しパスワードを適切に管理する限り、無断で上限額が変更されないことを動機に本件契約を締結し、その動機はXに表示されている。

 しかし、実際の本件プランは、上限パスワードの管理を徹底しても契約者である未成年者本人が親権者に無断で上限額を増額変更することができるというものであった。

 未成年者による携帯電話の利用限度額を管理したいと考える親権者にとって、上限額の増額変更の可否を管理できるかどうかは重要な要素であるといえるから、Y2がした本件同意には要素に錯誤があったといわざるを得ない。

2 錯誤の範囲について

 上記錯誤は、Y1が本件契約において選択した本件プランを選択する限り、Y2が管理する上限額を超えては利用されることはないという点に錯誤があるに過ぎないから、本件同意に包括的に含まれる将来の増額変更部分に関する事前同意についてのみ錯誤無効とするのが相当である。

 Y1がした上記の上限額(8000円)を超える増額変更については親権者の同意を欠き、増額変更行為については未成年者取消しが認められるというべきである。

3 現存利益などについて

 Y1は、Y2に無断で上限額を増額変更したうえ、携帯電話を利用しているところ、これに対応する範囲の料金支払債務を免れているから、Y1には、これにより役務提供を受けた限度において利益が現存するものということができる。

 Y1が利用したサービスの客観的な価値については、Y1は本件契約に従って携帯電話を利用しているのであるから、本件契約の限度額を超える部分の利用料金額約16万円相当の利益を受けているものというほかない。

 しかしながら、未成年者の法律行為について親権者の同意を要するものとされた趣旨・目的等に照らせば、未成年Y1名義で契約した場合の危険性の説明義務がなされないまま、契約を締結し、Y1による上限額の無断増額変更を防ぐことが困難な状態であった点を重視すべきである。

 一方、Y2にも監護義務を十分に尽くしたとはいいがたい面もあることを考慮すると、信義則に照らし、XのY1に対する不当利得返還請求は、未成年者取消し相当額の3割に相当する約5万円の範囲で認めるのが相当である。



解説

 本件は、未成年者による携帯電話の高額利用に関する裁判例である。

 親権者である母親は、携帯電話の利用契約を締結する際に、未成年者である子どもの高額利用を防止するために、自分が利用金額の上限のコントロールができるような料金体系のプランを選択したいと考え、代理店で、本件プランがそのような料金プランであると説明され、未成年者である子どもが契約することに同意した。しかし、本件プランは、現実には、未成年者が契約者本人である場合には、契約締結時の同意の際に、未成年者単独で利用限度についての増額変更ができることについても同意をすることになってしまうしくみのプランであった。そのために、契約締結後に、利用限度額の増額方法を知った未成年者である子どもが、限度額増額の変更手続きを無断で行ったうえで、2カ月で約19万円にも上る利用をした。以上の点が本件事件の特徴である。

 本件では、本件プランを選択したのはパスワードを適切に管理する限り無断で上限額が変更されないからであるという動機は、Yらが代理店に出向いてやり取りした際には明示されていたこと、そして、本件契約においての重要な要素となっていたことから、利用限度額を超える増額手続きに関する同意については、要素の錯誤があったものと認め、消費者側(本件の場合には法定代理人)からの未成年者取消しを認めた。

 問題は、現存利益についての不当利得返還請求に関する判断の部分である。

 民法では、未成年者など制限行為能力者による契約を取り消した場合の効果に関し、「取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う(121条)」と定めている。

 ここで問題となるのは、「その行為によって現に利益を受けている限度」の判断である。

 本件判決では、携帯電話料金が、誰との、何を目的とする通話だったのか、あるいはメールだったのか、という具体的な内容については一切考慮することなく、電気通信サービスを受けていることをもって「利益が現存している」と判断している。

 確かに、情報通信サービスが、未成年者の生活において必要不可欠な利用であり、本件契約による情報通信サービスの利用ができなかったのであれば、別の方法で情報通信サービスを利用することとなったのであれば「現に利益を受けた」と評価できる。

 しかし、未成年者であるため、未熟な判断で浪費的な利用をした場合、「現存利益」はないと評価すべきと考えられる。

 そのように考えると、本判決の判断は、未成年者保護の制度趣旨に反するのではないかと思われる。

 なお、未成年者取消しにおいて現存利益を認めなかったものとして、茨木簡裁昭和60年12月20日判決(『判例時報』1198号143ページ)がある。



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