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[2012年1月:公表]

家賃保証会社の従業員による取立行為が不法行為に当たるとされた事例

 本件は、賃借人が、家賃保証会社の従業員らによる更新保証委託手数料および立替家賃の取立行為は不法行為に当たると主張し、保証会社とその従業員らに対して損害賠償を求めた事例である。

 裁判所は、従業員らの取立行為について、心身の安全や生活の平穏を脅かすようなものであったと評価したうえで、不法行為が成立するとし、賃借人の請求を一部認めた。(福岡地裁平成21年12月3日判決)

  • 『消費者法ニュース』83号65ページ

事案の概要

原告・控訴人:
X(消費者・賃借人)
被告・被控訴人:
Y1(家賃保証会社)
Y2〜Y4(Y1の従業員)
関係者:
A(Xの同居人)
B(Xの母親)
C(賃貸人)

 Xは、Cとの賃貸借契約に基づく債務について、Y1と保証委託契約を締結した。

 この保証委託契約には、Xが1回でも賃料の支払いを滞納した場合には、X・Y1間の連帯保証委託契約は自動的に債務不履行解除されたうえ、同一条件で更新され、そのつど、XはY1に更新保証委託料1万円を支払う旨の条項があった。

 Y1は、Xとの保証委託契約に基づき、Cとの間で連帯保証契約を締結した。

 Xは、平成19年6月分以降の賃料を延滞したため、Y1はCに滞納賃料を立て替え払いした。

 Y2〜Y4(Y2ら)は、同年8月31日午後9時頃、7月分の更新保証委託料と8月分の賃料立替金の取立てのためX宅を訪れ、玄関において取立てを行った。

 これに対しXは3、4日待ってほしい旨を伝えたところ、Y2らはXに対し荷物の処分をするための委任状への記載・押印を要求し、さらには、Y4は、Xの承諾のもと部屋に上がり、部屋のようすを見て「この程度の荷物なら1回で搬出できる」旨述べた。また、Y4はXの承諾なく携帯電話内の電話帳を閲覧した。

 Xは、Y4の要求により、同僚、上司、妹に金を貸してくれるよう電話したが断られた。

 その後、XとAが部屋の奥に引っ込んだところ、無断でY4が部屋に入り込み財布を見つけるとその中を調べた。

 Xの金策が功を奏しなかったことから、午前1時頃、XとAは、Y2らの車でXの母親B宅に連れて行かれた。その際、X宅は玄関ドアの鍵にカバーをかけられ、開錠できなくされた。

 B宅到着後、Xは、Y4に要求されたため、Bに土下座し「お金をどうにかしてほしい」と頼んだが、Bは断った。

 その後、B宅を離れ、カラオケ店の駐車場に車を止め、Y2らは支払い要求を継続し、最終的に、Y4が「親族等が保証人になれば返済を待つことができる」と言ったため、Bを保証人にすべく再びB宅に向かった。

 Bを交えて取立行為が継続され、この間、Aが警察を呼ぼうとしたり、Y4がXに退去届の作成を強要したりする経緯があった末、結局、Bは連帯保証に関する覚書を作成した。また、提出させた家族構成を見て、Y2らは3日後に支払いがなければBの孫の小学校に行く旨を述べ、午前3時頃、Xらはようやく解放された。Xらが自宅に戻ったところ、玄関ドアのカバーは外されていた。

 以上の事情のもと、Xは、Y1に対し、更新保証委託料支払債務が存在しないことの確認請求、および、Y2らに対し不法行為を理由として100万円の慰謝料を請求した。

 原審では、Y1が、更新保証委託料支払債務が存在しないことを認めたため、前者の点はXの請求が認められ、慰謝料請求については5万円が認容された。

 Xが控訴して、弁護士費用10万円を損害賠償請求に追加したものである。

理由

(1)一般論

 債権の取立行為であっても、その態様が社会通念上是認される限度を超え、相手方の心身の安全や生活の平穏を脅かすようなものである場合には、不法行為が成立する。

(2)本件について

(a)事実認定
 本件では、午後9時に訪問時間を指定したうえで、同時刻から翌日午前3時までの深夜長時間にわたって取立行為が継続され、その中で「この程度の荷物なら1回で搬出できる」旨の発言や、支払いがされなかった場合にはBの孫の小学校に行く旨の発言などの脅迫的言辞、荷物搬出の委任状および退去届の作成の要求、知人への金策や母親への土下座による金の無心の要求、Xの承諾なく携帯電話を閲覧したり、部屋に侵入して財布の中を見るなどの無承諾行為、車内に監禁状態に置いたうえでの強い口調による執拗(しつよう)な支払い要求、Bへの連帯保証の要求などがなされたものである。
 そして、深夜約6時間もの長時間にわたってこれらの行為が継続されていることや、警察を呼ぶといった話が出たこと、これに加え、Y4自身もカラオケ店の駐車場において「このままでは帰すことはできない」旨言ったと認めていることなどからすれば、一連の取立行為は、XやAにおいてそれを拒否すれば解放されないとの心理的強制のもとに行われていたものと推認できる。
(b)結論
 これらの事実を総合すれば、Y2〜Y4ら3名の本件取立行為は、身体に対する直接的な脅迫や暴行が行われたものではないものの、その態様が社会通念上是認される限度を超え、Xやその同居人等の心身の安全や生活の平穏を脅かすようなものであったと評価できる。

(3)責任の法的構成

 Y2〜Y4は「不法行為責任」に、Y1は使用者責任に基づき、後記損害額をそれぞれ連帯して賠償する責任を負う。

 Y1の「直接の不法行為責任」については、Y1が本件取立行為のような違法な取立行為を一般的な業務として行っていたとまでは認められず、Y1が直接の不法行為責任を負うとは評価できない。

(4)損害額

 本件取立行為は、身体に対する直接的な脅迫や暴行がなされたものではないものの、深夜長時間にわたって執拗な要求行為が継続された悪質なものであり、これに加えて、Xがその後も家賃を滞納したことなど諸般の事情を考慮すると、慰謝料20万円、弁護士費用2万円と算定するのが相当である。

解説

 貸金業法12条の5は「貸金業者は、暴力団員等をその業務に従事させ、又はその業務の補助者として使用してはならない」と規定する。

 また、同法21条1項は、「…貸付の契約に基づく債権の取立てをするに当たって、人を威迫し、又は…人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない」旨規定している。
そして、具体的に禁止行為が1〜10号に列挙されている。

 本法は、本件のような賃貸保証業者等それ以外の債権取立てには適用されないが、このような規定は確認規定であり、他の業種においても当てはまるものと考えられる。

 債権取立てが不法行為と認められた事例としては、金融業者の従業員が、夜間、債務者をその意に反し外に連れ出して、借金の返済を迫り、金がないなら借りて来いと面識のない第三者に借金を懇願させて債務者の名誉を侵害したうえ、さらにマンションの住民から借りるよう迫ったがこれを拒絶したため暴行を加えた事例で、違法な取立行為として、使用者責任に基づいて金融業者に30万円の慰謝料の支払いが認められた事例(大阪高裁平成11年10月26日判決)、夜8時過ぎに日掛け金融業者が連帯保証人宅に債権回収に行き、全額返済するか娘を保証人とするかを迫り、結局娘が保証人になることを承諾させ、9時半頃に帰った場合も、特に暴力的な行為はなかったものの、刑法上の不退去罪になるとともに貸金業規制法にも違反するとし、30万円の慰謝料が認められた事例(宮崎地裁平成14年2月15日判決)、闇金業者の組織員が共謀して取立てを行い、債務者夫妻を自殺に追い詰めた事例で、共同不法行為が肯定された事例がある(大阪地裁平成21年1月30日判決)。

 債権取立ての違法性判断は、貸金業者と本件とで差はないが、一つ注意すべきは、慰謝料額の点である。高金利での貸付利息名目で金員を巻き上げる悪質な事例とは異なり、賃貸借契約自体は正当なものであり、多少、保証委託契約の内容に問題があるとしても、賃料不払い自体は当然すべき債務の不履行であり、認定されている慰謝料の金額が貸金業者の事例よりも低くされている点である。