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[2011年11月:公表]

海外ツアー中、観光地に置き去りにされたことにつき、慰謝料請求が認められた事例

 本件は、添乗員同行の海外ツアーで添乗員が点呼・確認を怠ったため、観光地で専用バスに乗れず、一人置き去りにされたとして、参加者が旅行会社に対して、慰謝料を請求した事例である。

 裁判所は、添乗員に旅行者の生命、身体等の安全を確保するため、参加者らがバスに乗り込んだか否か確認すべき義務等があったとして、参加者の請求を一部認めた。(岐阜地裁平成21年9月16日判決)

  • 未登載
  • 控訴棄却(上告棄却)

事案の概要

原告・被控訴人:
X(ツアー参加者)
被告・控訴人:
Y(旅行会社)
関係者:
A(Yの添乗員)
B(現地ガイド)
C(本件旅行の現地手配会社)

 Xは、平成19年6月8日、Yとの間で目的国をトルコ共和国(以下、トルコ)とする募集型企画旅行契約を締結した(旅行代金32万8000円、諸費用等含めた合計額37万5650円、旅行期間平成19年6月19〜28日)。本件旅行では、Yの従業員Aが添乗員としてすべての旅行行程に同行し、トルコではさらに現地ガイドが同行した。

 本件旅行の参加者らは、6月19日に日本を出発し、20日にトルコのイスタンブールに到着した。翌21日、参加者らは、チャナッカレを専用バス(以下、バス)で出発し、トロイ遺跡を観光後、ベルガマ遺跡観光(アスクレピオン、アクロポリスの順に観光)をした。

 しかし、バスは、アスクレピオンを出発する際、Xを乗せずにアクロポリスに向かってしまい、Xは、アスクレピオンに置き去りとなった(本件事故)。

 アスクレピオン観光では、現地ガイドBが先頭に立ち、参加者らはBの説明を聞きながら付いて歩くという方法で行われ、Aは参加者らの後方に付いて歩いた。

 アスクレピオン観光終了にあたり、Bは参加者らにバスに向かう旨説明し、Aはこれを補足する形でBに付いてバスに戻るよう参加者らに指示し、観光時と同様にBが先頭、Aが後方という形で一団となって歩いてバスに向かった。Aは、アスクレピオンの出口付近で、トイレに寄りたい参加者数名を案内するため、一団をバスに向かわせたまま、一団から離れた。アスクレピオン観光中および観光終了後バス出発までの間、参加者らに自由行動を取ることは認められていなかったが、XはAの指示に反して参加者らの列から離れ、A、Bの許可を得ずに勝手に土産物屋で買い物をした。

 Aは、トイレに寄った参加者ら数名を連れてバスに乗り込むと、Bから「オーケー」という声を掛けられ、すでに人数確認が済んで参加者らが全員いると思いこみ、バスをアクロポリスへと発車させた。

 Xが買い物を終えて、バスに向かって歩き出したところ、バスが動き出した。Xは、バスが引き返すことを期待して10分程度その場で待機した後、近くにいた別の日本人旅行者の車に同乗し、アクロポリスに3分ほど遅れて到着した。

 Aは、Xがアクロポリスに到着するまで本件事故に気づかなかったため、全く何らの対応もしなかった。

 アスクレピオンとアクロポリスは、車でも20分、徒歩で1〜2時間程度かかる距離にある。

 アスクレピオン周辺には日本語が通じる者は少なく、Xも片言の英語を除き外国語に通じておらず、トルコ語は全く理解していなかった。

 Xは、事故当時、わずかなトルコリラ(トルコの通貨)、クレジットカードおよびデジタルカメラしか所持していなかった。

 以上の事実のもと、Xは、Aは点呼・確認を行い、参加者が欠けている場合には、待機、救援、保護を行うべきで、それを怠ったことは旅行契約に付随する義務の不履行にあたる等と主張して、民法715条(使用者責任)に基づいてYに対して、慰謝料20万円の支払いを求めた。



理由

添乗員の義務と損害賠償責任

 添乗員は、旅行業務取扱主任者または旅程管理主任者の資格をもって、業として団体旅行に付き添う者であり、社会通念上、旅行者の生命、身体、財産等の安全を確保するため、旅行日程中、その契約内容の実施に関して遭遇する危険を排除すべく合理的な措置をとる義務があるというべきである。

 本件において、Aは、バスでアスクレピオンを出発しアクロポリスに向かうにあたり、旅行者である参加者らの身体、生命の安全を確保するため、参加者ら全員がバスに乗り込んだか否かを点呼するなどして自ら確認するか、これらの作業を現地ガイドBに行わせる場合には、その旨を確認すべき義務があったというべきである。

 しかし、Aは、バスに乗り込んだ際、BがAに対し「オーケー」と声を掛けたことを、Bが参加者らの人数を確認し、全員がそろっているという意味だと勝手に思いこみ、漫然とこれらを行わず、そのため、Xがバスに乗り込むまで待機したり、周囲を捜索するなど、Xに対して何ら保護、救援活動を行わず、本件事故が発生したことが認められる。このことからYはXに対して民法715条に基づく損害賠償義務がある(Yは、参加者ら全員に緊急連絡先を記したしおりを配布してあり、そこに連絡すれば、C社ガイドらが連絡を取り合うなどして、トラブルに直ちに対応する体制をとっていた。また、事故当時、C社ガイドらが両見学地間を多く行き来していたので、仮に乗り遅れたとしても、直ちにその参加者を観光に復帰させることが可能な状態であったことは認められる。しかし、周辺に日本語が通じる者が少なかったこと、Xの語学力、持ち物と照らして、上記事情をもってAに上記注意義務がなかったとまでは解されない)。

慰謝料

 (旅行後、YがXに対し、5000円分の商品券を交付したこと等、一切の事情を考慮して)慰謝料は3万円とするのが相当である。

過失相殺

 アスクレピオン観光では自由行動時間はなく、参加者らは、アスクレピオン観光中および観光終了後バスに乗車するまで、個人行動を慎む義務があったと認められる。

 それにもかかわらず、Xは、Aの指示に反して参加者らの列から離れ、AやBの許可なく勝手に土産物屋で買い物をしたために、本件事故が発生したと認められることから、Xにも事故発生につき過失があるといえる(Xの損害額から5割を減額するのが相当として賠償すべき損害額を1万5000円とした)。



解説

(1) 旅行契約については、観光庁が定めた標準旅行業約款があり、ほとんどの旅行会社が同様の約款を使用している。

 本件のように旅程や運送・宿泊サービス、代金などがあらかじめ定められて販売される旅行(いわゆるパッケージツアー)は、「募集型企画旅行」に分類され、日程や目的地、宿泊機関や運送機関、施設・等級等に変更が生じた場合、同約款29条によって一定限度まで補償金が支払われる(旅程保証)。生命・身体・携帯品についての損害も、同約款28条の特別補償によって一定程度カバーされる。

 また、旅行会社に債務不履行等があれば、これらの補償金支払いだけでなく損害賠償請求も可能である(補償金を受領していればその額は相殺される)。

(2) 本判決は、添乗員について、社会通念上、旅行者の生命、身体、財産等の安全確保のために、旅行日程中、契約内容の実施に関し、遭遇する危険排除のため合理的措置をとる義務を認め、結果として旅行会社の使用者責任を肯定しており妥当である。

 また、義務違反の認定に際して旅行者の語学力、置き去りにされた場所の状況(日本語使用の可否)、携帯品なども考慮されている点は注目してよい(Xが団体行動を順守しなかった点が過失相殺されているが、これはやむを得なかろう)。

 本件事故は、旅行会社従業員である添乗員のミスによって発生したとの認定であり、被用者の直接のミスであれば、使用者責任の肯定は容易であるといえる。

(3) 海外ツアーでは、実際にサービスを提供するのが旅行会社ではなく、現地のサービス提供会社等であり、旅行会社が間接的にしか支配できない現実をふまえ、判例でも旅行会社の責任が制限されている。

 本件で旅行会社の責任が肯定されたのは、旅行会社従業員のミスであったため、この制約がなかったことが影響している。

 本件は、海外ツアーで旅行会社の責任を認めた数少ない判例の一つといえる。



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