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[2011年6月:公表]

私立学校における教育内容の変更と損害賠償請求

 本件は、生徒募集の際に説明、宣伝された教育内容や指導方法の一部が入学後に変更されたことにつき、生徒の親が「学校選択の自由を侵害し、不法行為を構成する」等と主張して、学校に対して損害賠償等を求めた事案である。

  裁判所は、学校が生徒募集の際、本件授業等の内容を具体的に説明し、教育的効果を強調し、積極的に宣伝していたとしてもその授業等を廃止したことが親の期待、信頼を損なう違法なものとして不法行為を構成するとは認められないとした。(最高裁平成21年12月10日判決)

  • 『判例タイムズ』1318号94ページ
  • 『判例時報』2071号45ページ
  • 破棄自判

事件の概要

原告:
Xら31名(生徒の親)
被告:
Y(学校法人)
関係者:
A(前校長)
B(新校長)

 Y経営の中学校または高等学校(本件各学校という)の在学生徒の親であるXらが、Yに対し、本件各学校の生徒を募集する際、学校案内や学校説明会等において、論語に依拠した道徳教育の実施を約束したにもかかわらず、入学後に同教育を廃止したことについて、XY間の在学契約上の債務不履行に当たり、また、Xらの学校選択の自由を侵害し、不法行為を構成するなどと主張して、Yに慰謝料等の支払いを求めた。

 本件各学校は「心の教育」「情操教育」等をその教育理念として掲げ、これらの教育理念を実践するものとして、Aが在任中、中心となって、論語に依拠した道徳授業、道徳教育(本件道徳授業等という)を行っていた。

 Yは、本件各学校の生徒を募集する際、入学希望者に配布した学校案内や入学希望者向けの学校説明会等において、本件道徳授業等の内容を具体的に説明していた。特に、論語に依拠した道徳教育について、それが他校に類をみない独特の指導方法で実施され、本件各学校における教育の基礎となっており、「集中力」「書く力」「考える力」を養成し、すべての教科の土台として学力の向上に大きな効果をもたらすとともに、仲間づくりの機会としても重要な教育的効果を持っている旨紹介し、これらを具体的に述べた在校生や保護者の文章を学校案内に掲載するなどして、その教育的効果を強調し、積極的にこれを宣伝していた。

 事情により平成16年7月にAは解任され、後任としてBが校長に選任されたが、Bは、論語に依拠した道徳授業を廃止した。しかし、本件各学校の総授業時間数および授業項目に変更はなく、道徳教育の内容も学習指導要領に沿うものであった。

 本件について、原審は、XらのYに対する不法行為に基づく慰謝料請求を一部認容したため、Yが上告をした。



理由

(1)親の学校選択の自由の侵害

 親が子を入学させる学校を選択する際に考慮した当該学校の教育内容や指導方法(教育内容等という)が入学後に変更されたとしても、学校が教育内容等の変更を予定しながら、生徒募集の際にそのことを秘して従来どおりの教育を行う旨説明、宣伝したなどの特段の事情がない限り、親の学校選択の自由が侵害されたということはできない。本件において、特段の事情についての主張立証はなく、Xらの学校選択の自由が侵害されたものとは認められない。

(2)宣伝どおりの教育が施されるとの期待、信頼の侵害

 学校が生徒募集の際に行った教育内容等についての説明、宣伝どおりの教育が施されると期待、信頼を抱いて子を当該学校に入学させたにもかかわらず、その後学校がその教育内容等を変更し、説明、宣伝どおりの教育が実施されなくなった。その結果、親の上記期待、信頼が損なわれた場合において、上記期待、信頼は、およそ法律上保護される利益に当たらないとして直ちに不法行為の成立を否定することは、上記期待、信頼の形成が学校側の行為に直接起因することからすると、相当ではない。

 しかし、信頼が損なわれたと感じるか否かは、親によりさまざまで、必ずしも一様とはいえず、教育内容等の変更により、自己の抱いていた期待、信頼が損なわれたと感じたからといって、それだけで直ちに上記変更が当該親に対する不法行為を構成するものということはできない。

 また、教育的効果等の評価、検討が不断に行われるべきであり、従前の教育内容等に対する評価の変化に応じてこれを変更することについて、学校設置者や教師に裁量が認められるべきものと考えられる。

 したがって、生徒募集の際に説明、宣伝された教育内容等の一部が変更され、これが実施されなくなったことが、親の期待、信頼を損なう違法なものとして不法行為を構成するかどうかについては、学校において生徒が受ける教育全体の中での教育内容等の位置づけ、変更の程度、必要性、合理性等の事情に照らし、学校設置者や教師に上記のような裁量が認められることを考慮してもなお、変更が社会通念上是認することができないものと認められる場合に限られるというべきであり、本件はこれに該当しない。



解説

(1)これまでの判例

 教育サービスをめぐるトラブルについては、既に複数の下級審裁判例がある。

 参考判例[3]〜[6]の四つが賠償請求を認めており、参考判例[1]・[2]の二つが賠償請求を否定している。

 肯定判例の責任根拠をみると、債務不履行を理由とするもの(参考判例[6])、不法行為を理由とするもの(参考判例[4])、債務不履行または不法行為を理由とするもの(参考判例[3]・[5])とに分かれている。

 本判決は、初めての最高裁判決である。

(2)責任根拠の法的構成について

 約束された教育サービスが提供されていない場合、債務不履行が問題になるはずであるが、不法行為に基づいて損害賠償請求がされることが多い。

  その理由は、契約当事者ではない親(親が当事者の場合には子)の損害賠償請求が問題になるため、学校等が法人である場合に、その経営者や教師に対して損害賠償請求をするため、宣伝、募集行為に問題があるため、単なる債務不履行を超えて違法性が高いことを認めてもらいたいため等が考えられる。

(3)教育における自由裁量論

 教育内容は、社会通念上許される範囲内で現場の学校側または教師・講師の自由裁量に任されており、質の問題についても許容限度内であれば不完全履行とならない。どのような講師を用いるかも、歌手のコンサート等とは異なり、学校側の裁量に任されているといえる。

 しかし、重要な教育内容については生徒の同意なしに変更は許されず、契約内容になるかどうかは、契約書が交わされている場合でも、その記載事項に限らず、募集に際しての広告、パンフレットなども考慮されなければならない(参考判例[6]はこのことを肯定)。

(4)不法行為となる要件

 権利を侵害するか、または、不法行為と認められるだけの違法な形態での法益侵害がなければ、不法行為とはならない(民法709条)。

 本判決は親の教育についての期待、信頼を法益として認めつつ、それが違法に侵害されたかどうかにつき、自由裁量論を原則とし「社会通念上是認することができないものと認められる」ことが必要であるとした。結論としても不法行為を否定しており、学校側に大きな裁量権を認めたことになり、同様に、債務不履行についても否定されることになる。道徳教育が他の教科と異なる特別の重要性を持つともいえず、「教育内容等の中核、根幹を変更」するものではないという基準は参考とされよう。



参考判例

  1. [1]神戸地裁平成5年3月29日判決、『判例時報』1498号106ページ・『判例タイムズ』841号173ページ(トリミングスクール)
  2. [2]大阪地裁平成8年9月11日判決、『判例タイムズ』998号203ページ(留学斡旋)
  3. [3]大阪高裁平成10年6月12日判決、『判例時報』1668号74ページ・『判例タイムズ』998号196ページ([2]の控訴審)
  4. [4]神戸地裁平成14年3月19日判決、裁判所ホームページ(音楽塾)
  5. [5]大阪地裁平成15年5月9日判決、『判例時報』1828号68ページ・『判例タイムズ』1139号134ページ(野球専門学校)
  6. [6]東京地裁平成15年11月5日判決、『判例時報』1847号34ページ(声優養成学校)


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