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[2010年11月:公表]

不当な債権回収につき、ヤミ金関係者に不法行為責任が認められた事例

 本件は、借金返済の過酷な取立てで借主が自殺に追い込まれたことにつき、借主の相続人らがヤミ金業者の関係者に対して、共同不法行為責任等に基づいて、損害賠償等の支払いを求めた事案である。

 裁判所は、実行班責任者らについて、本件ヤミ金融組織を形成し、違法な貸付け、取立行為を行ったのであるから、担当者の恐喝行為について、共同不法行為責任を負うとし、ヤミ金組織の統括者については、実行班責任者らとの間に指揮命令関係があったとして、使用者責任を負うとした。(大阪地裁平成21年1月30日判決)

  • 『判例時報』2035号91ページ
  • 一部認容、確定

事件の概要

原告:
Xら(Aの共同相続人)
被告:
Y1〜Y8(ヤミ金組織の関係者)
関係者:
A(借主)
B(Aの夫)
C(Aの兄)
*いずれも自殺により死亡

 Aは、以前、Y3の直接の顧客であったが、完済となっていたため、Y2は、Y3の案件を引き継ぎ、「アクセス」の屋号で平成15年4月8日昼過ぎ、Aに対し、融資の話を持ちかけた。

 Aは、当時、他の業者への弁済資金や生活費に困窮していたため、融資を依頼した。その内容は、Y2が、1万4580円を融資金として振り込み(名目上の貸付額は3万円であるが、1回目の利息分1万5000円を天引きし、振込手数料を控除した額が1万4580円)、これに対しAが1週間後に利息1万5000円を振り込み、さらにその1週間後に利息と完済金込みの3万円を振り込んで完済するというものであった。

 ところが、Y2は、Aが脅せばいくらでも金を振り込む客であると考え、「アクセス」の銀行口座へ、平成15年4月15日に3万円を振り込ませたのを始め、翌月20日までに合計13万5000円の利息を支払わせた。

 Y2は、Aが警察に相談したため、これに腹を立て、Aから電話がかかってきた平成15年5月21日、「何警察に行っとるんや。金借りてるやろ、返さんか」「絶対に完済させへんからな」などと脅し、Aに、同月27日、1万5000円を支払わせた。Y2は、同月30日、Aから電話を受けて、「もう払えません。今まで15万円払ったでしょ。もう許して下さい」と頼まれたが、「おばはん、ちゃんと振り込めよ。絶対完済させへんて言うたやろ」と怒鳴った。Y2は、同年6月3日、Aと同じ団地に居住する近隣住民方に電話をし、Aを呼び出して、「団地中に電話してAは金返さないから代わって払えやと電話しまくるぞ。金払われないのやったら死んでみろ」と脅し、同月4日、Aに更に2万円を支払わせた。

 Aは、Yらによる取立てから逃れるためには自殺するしかないと思い、AとB(Aの夫)およびC(Aの兄)は、平成15年6月14日、線路上にしゃがみ込み、走ってきた普通電車に跳ねられ死亡した。

 Aらの相続人であるXらは、Y1に対し共同不法行為責任ないし使用者責任に基づき、Y1を除くY2らに対し、共同不法行為責任に基づき、財産的損害および慰謝料等として、約7700万円の支払いを求めた。

理由

1.Y2〜Y8らの責任について

(1)Y2、Y4〜Y6について
 Y2およびY4は、Aに金員を貸し付けた後、Aに対して、大声で怒鳴りつけ、脅すだけでなく支払いをしなければ近隣住民に電話をかけて、嫌がらせをし、支払いを続けても完済と認めずに利息を払い続けさせ、時には因縁を付けて、根拠の無い迷惑料、延滞料をも支払わせていた。Y5およびY6は、Y2およびY4とともに取立てに当たっており、Y2およびY4らとともに共同して前記取立行為を援助、助長ないし積極的に加担していた。

(2)Y3について
 Y3は、Y4らの実行班の責任者として、Y4らに対して、顧客に対して過酷な支払要求をするよう厳しく指示・命令するなどし、各実行班に対する幹部会議における指示の伝達役であるにとどまらず、Y4ら実行班の構成員を監視、管理する立場にあったと認められ、Y2、Y4らを監視、管理して、前記恐喝行為に積極的に加担ないし促進していたと認めるべきである。

(3)Y7およびY8について
 Y7は、貸付けの審査等を行っており、毎月末、Y1に対し、各実行班の貸付実績および回収状況を報告するなど、本件ヤミ金融組織を経済的に維持するために必 要不可欠の役目を果たしていた。

 また、Y8は、顧客への振込役、顧客が支払った金員を回収する出金役だけでなく、実行班がヤミ金融行為を行うに当たって必要な物品を準備するなど、本件ヤミ金融組織の中で重要な役割を果たしており、いずれも前記恐喝行為に積極的に加担ないし促進していたと認められる。

2.Y1の責任

 Y1は、実行班の脅迫による支払要求を容認していただけでなく、本件ヤミ金融組織の拠点の移転やヤミ金融組織の各役割の担当者等を決定し、貸付金、回収金を最終的に管理していたほか、本件ヤミ金融組織の収益を最終的に掌握し、収益を分配していたのであり、Y1とY3らとの間には使用者と被用者の関係があるといえる。

3.Yらの加害行為とAらの自殺との因果関係について

 Yらの恐喝行為は、顧客を精神的に追いつめていく過酷な行為であり、通常人であれば、上記恐喝行為から逃れる手段は死のみであると思うこともやむを得ないものであった。他方、YらがCの自殺を予見し得たとまでは認めるに足りず、Yらの恐喝行為とCの自殺との間の相当因果関係は認められない。

解説

 ヤミ金の貸付け、取立行為を不法行為と認める判決は数多くあり(参考判例(1)、(2))、また、受領した元本を損益相殺により損害から減じる必要がないことは最高裁判決があるため(参考判例(2))、本判決の意義として注目されるのは、ヤミ金組織の関係者の共同不法行為および使用者責任を認めた点、そして、賠償範囲について相当因果関係による制限を厳格に貫いた点である。

(1)共同不法行為など
 組織的に共同して行っているヤミ金による犯罪行為につき、関与した者が共同不法行為者として損害賠償責任を負うことは疑いないが、その組織を統率する者の責任が注目される。

 ピラミッド的に支配構造が構築されている暴力団組織において、末端の暴力団の組員の行った不法行為について頂点に立つ暴力団の組長の使用者責任が肯定されており(参考判例(3))、それと比較しても、本判決が、具体的な不法行為自体について指示をしていなくても末端の実行部隊を統率する者に責任を認めたことは適切である。

(2)相当因果関係による賠償範囲の制限
 不法行為の被害者の自殺については、いじめを受けた者がいじめを苦にして自殺した事例につき、参考判例(4)は、東京都および中野区の責任について自殺までは予見できなかったとして、死亡による損害についての責任は否定している。他方、参考判例(5)は、交通事故の被害者が比較的軽い傷害であったが、事故による精神的衝撃、補償交渉が思うように進展しなかったこと等の要因が重なり、事故後3年7カ月後に自殺した事例で、自殺についても相当因果関係を認めながら、民法722条2項の類推適用により賠償額を減額している。

 消費者被害の事例としては、デート商法の被害者(知的発達に遅れがある)の自殺について、宝石店経営者等に、被害者の自殺は予見可能であったとして責任を認めている(参考判例(6))。

 本判決は、民法416条を不法行為にも類推適用することを前提として、予見可能性を問題とし、AとBの自殺については予見可能性そして相当因果関係を認めつつ、Cの自殺についてはこれを否定した。また、Xが鉄道会社に支払った列車遅延による損害金合計26万8419円についても、予見可能性が否定されており、賠償が認められなかった(認容額は、約4804万円)。

 しかし、かなり悪質な故意的不法行為であり、本件不法行為についてこのような制限は疑問が残される。

参考判例

  1. (1)東京地裁平成14年9月30日判決、『判例時報』1815号111ページ
  2. (2)最高裁平成20年6月10日判決、『判例時報』2011号3ページ
  3. (3)最高裁平成16年11月12日判決、『判例時報』1882号21ページ
  4. (4)東京高裁平成6年5月20日判決、『判例時報』1495号42ページ
  5. (5)最高裁平成5年9月9日判決、『判例時報』1477号42ページ
  6. (6)仙台地裁平成16年10月14日判決、『判例時報』1873号143ページ