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[2010年9月:公表]

絵画を高額な価格で販売する展示会商法

 本件は、キャッチセールスによって、展示会場に誘導され、高額な絵画を購入させられたことにつき、販売会社らに損害賠償を求めた事案である。

 裁判所は、販売目的隠匿(いんとく)、重要事項の不実告知、消費者が断っているにもかかわらず、取り合わず執拗(しつよう)に勧誘を続ける退去妨害など、特定商取引法および消費者契約法に反する行為が多数あったとし、これらは会社ぐるみで反復継続して行われているものであるとの認定のもと、版画制作会社と販売会社とに不法行為による損害賠償を、両社の取締役には取締役としての第三者責任を認めた。(東京高裁平成20年11月27日判決)

  • 未登載(上告不受理)

事件の概要

控訴人:
X(消費者)
被控訴人:
Y1(版画制作会社)
Y2・Y3(Y1の代表取締役)
Y4(版画販売会社)
Y5(Y4の代表取締役)
関係者:
A(販売員)
B(課長代理)

 26歳の独身男性であるXは、平成17年9月25日、友人と約束があったため、関西地区の繁華街へ待ち合わせに出かけたところ、Aに「ショールームで展示会をしているからちょっと見ていきませんか」と声をかけられ、待ち合わせまでの時間潰(つぶ)しによいと思い、展示会に同行した。Xが見終わって帰ろうとすると、Aは「この中で一番気に入った作品はどれですか。買うか買わないかは気にしなくていいので答えてください」と聞いてきたので、まったく興味はなかったが適当に1枚の絵を指さした。Aは、いすを持ってきてXを座らせ、自分もその横に座り、Y1、Y4の各社が優良企業であること、本件作家や版画の説明をした後に「この絵をもってみませんか」と勧誘してきた。Xは興味がないので断ったが、Aは「月1万円なら支払えるでしょう」「絵は一生の財産」「この絵はあなたのような人にぜひ所有してもらいたい」などと述べ、Xがもう帰りたい、嫌だと繰り返し、腰を上げて帰ろうとするとAは立ち上がり両手を上げて止めた。

 入店から約1時間を経過した頃、課長代理のBがAと交替し、買わないと言うXに対して、「今買わなかったら価格はどんどん上がる」などと言い、Xが「もう帰りたい」と言うと、「もうちょっと話を聞いて」「今日買わないと明日は確実に値上がりする」と事実と異なることを告げ、それでもXが断ると、「なんとしても今日買って」とXの言い分を聞き入れようとせず、一方的に「社長に価格の引き下げを頼んできてあげる」と席を外した。

 この頃には、Xは疲労と緊張が高まり、汗で手がベトベトし、動悸(どうき)も激しくなり、この状況を何とか穏便に済ませたいという気持ちでいっぱいとなり、結局48万円で契約させられた。

 Xは、契約に納得できず行政書士に相談してクーリング・オフの通知をしたが、Y4はこれを拒絶した。

 本件版画は、アメリカのアクリル画作家の原画に基づいてY1が国内の工房で作成したシルクスクリーンの複製版画であるが、作品説明書においては、輸入品であるとの、事実と異なる表示がされていた。

 また、同社のホームページでは、国内にはシルクスクリーン版画を制作できる工房はほとんどない旨の虚偽の説明をしていた。そして、本件版画の市場価格は5社の絵画買取業者の査定によれば5000円から1万2000円であった。

 以上のもとに、Xは、Yらに対して主位的に不法行為に基づく損害賠償を、予備的に錯誤無効、詐欺・強迫による取消し、消費者契約法および特定商取引法による取消しに基づいて不当利得の返還を求めた。一審は、Xが敗訴したのでXが控訴したのが本件事例である。



理由

 特定商取引法の目的および同法3条、6条1項、7条等の規定ならびに消費者契約法の目的および同法4条3項2号の規定に照らすと、販売業者、その代表者または使用人が勧誘する相手方に対し商品を販売する過程で特定商取引法3条もしくは6条1項に違反する行為をし、または消費者契約法4条3項2号に該当する行為をした場合において、次の(1)〜(8)を総合考慮し、違反行為等を要素とする一連の販売行為を全体としてみて特定商取引法および消費者契約法が実現し保護しようとする法秩序に実質的に反し、消費者の法律上保護される利益を侵害した時は、販売業者等は、消費者に対し、不法行為責任に基づいて損害を賠償すべき義務を負う。

  1. (1)これらの違反行為または該当行為がたまたま当該勧誘において行われたものか、あるいは事業者において繰り返し違反行為等が行われているか。
  2. (2)違反行為等が単一であるか、あるいは複数の違反行為等が組み合わされて勧誘が行われているか。
  3. (3)違反行為等の違反の程度が軽微であるか、あるいは重大であるか。
  4. (4)消費者が販売される商品を購入するかどうかを決めるために必要な知識をあらかじめ有していたか、否か。
  5. (5)消費者が販売される商品を購入する意思をあらかじめ有していたか、否か。
  6. (6)違反行為等により消費者のおかれた状況(違反行為等によって生じた認識や心身の状況を含む)
  7. (7)販売された商品の価値(市場価値等の客観的価値や主観的価値)と販売価格との合致の有無、あるいは乖離(かいり)の程度
  8. (8)特定商取引法9条1項所定の撤回等が行われ、または消費者契約法4条3項所定の意思表示の取消しが行われた場合の販売業者の対応等

 本件では、Xの意思決定に違法な介入が行われ、本来ならば意図しない金銭の支出を強いられたことにほかならないのであり、違法な販売に基づき実際に支出させられた金銭を損害と認めるべきであるから、Xは財産的損害として本件版画の購入代金相当額48万円の損害を受けたものと認められる。

 また、Xが消費者契約法4条3項2号に基づく承諾の意思表示の取消しをしたのに対し、Y4はこれに応じずに代金返還に応じないでいるのであるから、この事実に照らしてもXは代金相当額の損害を受けている。弁護士費用については、5万円の限度で相当因果関係が認められる。(なお、絵画の客観的価値1万2000円の損益相殺を認めた)



解説

 本件は、典型的な展示会商法による絵画の高額販売に関する事例である。

 もともとY1は、海外の画家が描いた原画を下絵としてシルクスクリーンの技法で複製版画を国内の工房で制作し、販売していたが、平成15年に販売店を地域ごとに分社化しており、Y4は、関西地域の販売会社である。商品はすべてY1が供給し、販売価格もすべてY1が指示するという関係にあった。

 訴訟の対象となった契約は関西で締結したものであるが、自宅のある東京に戻った後にもBから展示会に来るように電話で呼び出され、まったく同様の販売方法によって2件目の契約を締結させられているが、2件目の契約相手は東京地区を対象とする別の販売会社となっている。なお、2件目の契約についてはクーリング・オフに応じたため訴訟の対象にはされていない。

 本件事件のポイントは、消費者は、主位的に不法行為に基づく損害賠償請求を、予備的に契約の無効・取消しに基づく不当利得返還請求を求めたが、判決では、不法行為に該当すると判断をして損害賠償を認めた点にある。不法行為を認定したため、売買契約の相手方だけでなく、制作会社であり、グループを統括している会社と各社の代表取締役(Y2・Y3・Y5)に対しても損害賠償を命じたほか、弁護士費用5万円が認められた。

 単に契約の無効・取消しによる精算を認めた場合には、売買契約の相手方に対して支払い済みの代金の返還を不当利得として認める限度に留まることになる。

 不法行為を認定するに当たり、特定商取引法および消費者契約法の制度趣旨に基づいて、これらの法律によって保護すべきであるとされる消費者の利益が守られるべき利益として認められること、不法行為が認められるための違法性の判断基準として、8項目を指摘した点が注目できる。

 契約関係であっても、違法に消費者の権利を侵害したと認められる場合には、不法行為が成立するが、本件判決では、不法行為が認められる場合のメルクマールを特定商取引法や消費者契約法に基づいて整理し、明確化した点が類似のケースにおける実務についても参考となる。



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