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[2010年8月:公表]

社債の勧誘に際しての説明義務

 本件は、上場会社の社債を購入した者が同社の経営破綻(はたん)により損失を被ったとして、証券会社らに対し、勧誘に際し説明義務違反などがあったとして、損害賠償を求めた事案である。

 裁判所は、証券会社の説明義務違反がなければ、社債購入という投資判断はしなかったと認定し、請求を一部認容した。(大阪高裁平成20年11月20日判決)

  • 『判例時報』2041号50ページ
  • 確定

事件の概要

原告(控訴人):Xら(一般投資家13名)
被告(被控訴人):Yら(証券会社)
関係者:A(大手スーパーマーケット)

 Aは、スーパー大手の東証一部上場企業で、かねてから社債発行による資金調達を行っていた。1999年2月期には連結ベースで355億円の赤字を計上し、再建資金の調達のため個人投資家向けに2000年の1月に26回債(発行総額400億円)を、10月に27回債(同500億円)の社債を発行した。

 しかし、経営不振により2001年9月に民事再生手続開始申立てを行って破綻し、同年11月には会社更生手続開始申立てが行われた。

 その結果、これらの社債はデフォルト(債務不履行)となり、2003年12月に約3割の弁済がなされるに留まった。そこで、弁護団が結成され2004年12月に社債を勧誘販売した証券会社に対して、東京、名古屋、大阪地裁に説明義務違反による不法行為を理由として損害賠償請求を提起した。

 その一審判決が参考判例(1)〜(3)で、いずれも請求棄却である。

 参考判例(1)(本件判決の原審)は、「社債は、発行体である企業が金員を借り入れて、その元金及び利息の返済をするものであるところ、そのような社債の仕組みや発行体が倒産すれば元金及び利息の返済を受けられなくなる可能性があることは、一般的に知られているものである。…特段の事情がない限り、社債の仕組み及びその仕組みに内在する上記の一般的な信用リスク(いわば抽象的な信用リスク)の説明義務まで認めることはできない」「発行体の経営状況や財務内容に照らして個々の社債が有する信用リスクの程度(いわば具体的な信用リスク)については、…当該格付が明らかに不合理で、それに依拠することが相当でない場合や、顧客の対応状況により、顧客が、一般的に投資適格があるとされているだけでは足りず、より高度の投資対象を求めていることが販売する証券会社にとって具体的に判明している場合などの事情がある場合を除き、顧客からの質問がないにもかかわらず、具体的な信用リスクに関する情報を積極的に提供しなければならない義務はないというべきである」などとしている。

 参考判例(2)は、個別の社債発行会社の経営状況に関する情報は膨大で、その信用性や情報価値を的確に分析、調査することは著しく困難であるとし、指定格付機関による格付けは投資家が当該社債取引における信用リスクを具体的に判断する上で有益な情報であり、証券会社が顧客に提供することが容易で、取得格付については新規社債発行の目論見書(もくろみしょ)に記載すべきとされている。そうすると、指定格付機関による格付け、とりわけ、当該格付が投資不適格であるときは、一般投資家である顧客に説明すべき義務があるとする。

 参考判例(3)も、ほぼ同様である。



理由

 本判決は、抽象的信用リスクの説明義務は特段の事情がない限り認められないとしたが、具体的信用リスクについては、次のとおり判断している。

 個々の社債については、発行体である企業の経営状況や財務内容を反映した具体的信用リスクを有するものである。当該社債のリスクの有無および程度といった具体的信用リスクに関する重要な情報について、証券会社は一般投資家に対して、その年齢、職業、知識、投資経験および投資傾向等当該投資家の属性に応じて、これを提供し、説明すべき義務を有する場合があると解するのが相当である。そして、このような説明義務の違反があったかどうかは、当該投資家の属性に照らして、そのような情報提供および説明が当該投資家の投資判断を左右するに足りるものであったかどうかが検討されるべきである。

 Yらは、Xらの属性に応じて、上記のような具体的信用リスクを示す重要な情報のうち、少なくとも格付けの存在および信用リスクの増大に関する情報を提供し、かつ説明すべき義務を有する場合があると解される。

 社債には格付けがあり、その信用度のランクは投資適格級から投機適格級まで数種類に格付分類される。本件各社債にも、指定格付機関4社による格付けがされており、各格付機関によって投資適格級とするものから投機適格級とするものまでランク付けが異なっていた。このことは、一般投資家が自己責任のもとに投資判断をするに当たり極めて重要な情報であるというべきであり、一般投資家の属性を無視して、取得格付(依頼格付)による格付けについてだけ情報提供すれば足りるとするYらの主張は採用することができない。

 社債の信用リスクは、リターンは数%の利息であるのに対し、リスクは投資元本の全喪失あるいは大幅な喪失というものであって、わずかなリターンを目論みながら大きなリスクを被ることがありうることは否定できないのであるから、信用リスクの増大についての情報も、一般投資家が自己責任のもとに投資判断をするに当たり、重要な情報であることはいうまでもない。

 また、信用リスクの増大について説明義務を課したとしても、同種商品や類似の商品についてまで個別調査を要求することになるものではなく、証券会社にこのような情報について説明義務を課すことが、過大な負担となり、市場における有価証券取引が著しく困難になるとまで断ずることはできない。

 こうした観点から、13名のうち3名について5〜6割の過失相殺の上、請求を認容した。



解説

 本判決は、退職金による中期国債ファンドしか投資経験がなく、格付告知のない男性(過失相殺5割)、不動産会社の営業員で投資経験がなく、投資適格の格付けだけ告知された男性(過失相殺5割)、投資経験が乏しく投資適格の格付けのみ告知された会社員の男性(過失相殺6割)の3名につき、説明義務違反を認めた。

 これまでは、社債の発行規制やメインバンクによる事実上の投資家保護による安全神話があったため、社債の信用リスクの重要性の意識が希薄で、訴訟でも社債の信用リスクの説明義務違反は否定されてきた。

 本判決は、上場企業の公募社債について、正面から具体的信用リスクを問題として、説明義務違反を認めたもので、大きな前進である。

 本判決後の参考判例(4)は、社債の説明義務は認めているものの、説明の内容としては、依頼格付(発行会社から有償で依頼を受けた格付機関が行うもの。本件では最も優良な格付け)だけを告げれば十分であるとしている。そして、個別事案についても、公表された気配値(日本証券業協会の公表する参考価格)と乖離(かいり)した金額で販売されたケースにおいて、気配値の説明義務違反事案(気配値と購入代金の差額だけを損害とした上で過失相殺3割)、Aの状況が著しく悪化して重要な経営状態の変更があった後に、その情報の説明を受けずに買い増したという事案(過失相殺7割)についてのみ説明義務違反を認めた。

 参考判例(5)は、社債は安全な商品と理解されることが多いが、投資家は「安全ということの意味、内容、真偽、社債の償還期前の市場での換金の可否、その価格、利率(流通利回り)等の具体的仕組み等について、必ずしも知っているわけではない」との判示の下に説明義務の存在を認めた。そして、不可欠の説明事項として、発行会社が倒産すれば償還されない点で必ずしも安全な商品ではないことや、社債発行会社の信用リスクを知るための方法および信用リスクの回避方法を挙げている。さらに、発行会社の経営状態や格付けおよび流通利回りの問題についても、個別の投資家との関係で特別の事情があれば説明を要する情報になるとしている。そのうえで、投資経験がなく社債の仕組みが全く分からなかった投資家と、元本の安全性を重視したいとの希望を表明していた投資家のケースについて説明義務違反を認めている。(前者は4割、後者は6割の過失相殺がされた)

 3つの高裁判決(本件・参考判例(4)・(5))は、それぞれ判示内容が異なるが、安全性が高いと思われている社債の取引について、原判決を取り消して説明義務を認めたことは大きい。



参考判例

  1. (1)大阪地裁平成19年6月20日判決、『証券取引被害判例セレクト』32号159ページ
  2. (2)名古屋地裁平成19年9月25日判決、同書35号157ページ
  3. (3)東京地裁平成20年1月22日判決、同書34号263ページ
  4. (4)東京高裁平成21年4月16日判決、同書34号417ページ・(3)の控訴審
  5. (5)名古屋高裁平成21年5月28日判決、同書35号323ページ・(2)の控訴審


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