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[2010年1月:公表]

過払金返還請求権の消滅時効の起算は継続的取引終了時点

 本件は、貸金業者との間で借入れと返済を繰り返してきた消費者(原告)が、利息制限法の定めを超えて支払った利息部分について、元本に充当すると過払金が発生していると主張し、不当利得返還請求権に基づき、貸金業者に対して過払金の返還を求めた事案である。

 これに対し、貸金業者は、不当利得返還請求権の一部は、過払金発生から10年の経過で、時効により消滅していると主張した。

 裁判所は、継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が、借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済によって過払金が発生したとき、弁済当時他の借入金債務が存在しなければ、上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合、上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効は、特段の事情がない限り、上記取引が終了した時から進行すると判断した。(最高裁平成21年1月22日判決)

  • 『金融・商事判例』1310号54ページ、1314号36ページ、『判例時報』2033号12ページ、『判例タイムズ』1289号77ページ
  • 上告棄却

事件の概要

X(原告):消費者
Y(被告):貸金業者

 貸金業者であるYと借主であるXは、1個の基本契約に基づいて、昭和57年8月10日から平成17年3月2日にかけて、継続的に借入れと返済を繰り返す金銭消費貸借取引を行った。借入れは、借入金の残元金が一定額となる限度で繰り返し行われ、また、返済は、借入金債務の残額の合計を基準として各回の最低返済額を設定して毎月行われるものであった。

 上記基本契約には、基本契約に基づく借入金債務につき、利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える利息の弁済により過払金が発生した場合、弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という)が含まれていた。

 Xは、Yに対し、利息制限法を超える利息の過払分について、不当利得に当たるとして返還を求め訴訟を提起したところ、Yは、不当利得返還請求権は、過払いごとに発生し、その時からその分の不当利得返還請求権について消滅時効が進行し、既に10年を経過した分について消滅時効が完成しており、時効により消滅していると主張した。

 原判決では、時効の完成を認めずXの請求を認容したために、Yから上告がされた。

 最高裁は、理由記載のように判示して時効完成を否定し、Yの上告を棄却した。



理由

 本件基本契約は、過払金充当合意を含むものであり、このような過払金充当合意においては、新たな借入金債務の発生が見込まれる限り、過払金を同債務に充当することとし、借主が過払金に係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という)を行使することは通常想定されていないものというべきである。

 したがって、一般に、過払金充当合意には、借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点、すなわち、基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していれば、その返還請求権を行使することとし、それまでは過払金が発生しても、その都度、返還を請求することはせず、そのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。

 過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては、同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり、過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。

 借主は、基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので、一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ、その時点において存在する過払金の返還を請求することができるが、それをもって過払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは、借主に対し、過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく、過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから、そのように解することはできない(最高裁平成19年4月24日判決、『最高裁判所民事判例集』61巻3号1073ページ、最高裁平成19年6月7日判決、『最高裁判所裁判集民事』224号479ページ参照・参考判例(4))

 したがって、過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては、同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は、過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り、同取引が終了した時点から進行するものと解すべきである。



解説

 利息制限法違反の過払金返還請求権の消滅時効期間は10年であり(民法167条1項)、時効の起算点は民法166条により権利行使可能時である。権利行使可能時とは、権利行使に法律上の障害がないことと理解されてきたが、近時は、権利行使を事実上期待できない場合にも、時効の起算が否定されるようになっている。

 この点、不当利得返還請求権の消滅時効の起算点は、期限の定めのない債権なので成立と同時ということになり、不当利得返還請求権者が債権の成立を知らなかったとしても、法律上の障害がなければ時効の進行は妨げられないとされている(大審院昭和12年9月17日判決、『大審院民事判例集』16巻21号1435ページ)。

 本判決は、参考判例(1)に倣(なら)い、「過払金充当合意」が基本契約には含まれているものと認定し、その充当合意を有効ということを前提とし、これにより取引が終了するまで不当利得返還請求権行使に法律上の障害があるとした。しかし、借主は、いつでも一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ過払金を請求することができるのであり、いつでも解約して取引関係を終了させることができる点をどう評価するかという問題が残される。

 この点、解約可能なので過払金発生と同時に返還請求権の消滅時効が進行すると解することは、借主に対し、過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく、過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから相当でないとした。権利行使可能性に、権利行使期待可能性を考慮する近時の判例の傾向からして是認されるべき判決である。

 参考判例(4)の自動継続特約付きの定期預金契約における預金払戻請求権の消滅時効の起算点についての判決が参考として掲げられており、「預金者による解約の申入れがされたことなどにより、それ以降自動継続の取扱いがされることのなくなった満期日が到来した時から進行する」という処理と、本判決と同趣旨の解決をするものである。自動継続特約付預金も、いつでも解約できたため、解約できる時が消滅時効の起算点となりそうであるが、参考判例(4)も、解約可能時を起算点とはせずに、解約時を起算点としているからである。



参考判例

  1. (1)過払金充当合意を認めた判例として、最高裁平成19年7月19日判決、『判例時報』1981号15ページ、『判例タイムズ』1251号145ページ
  2. (2)過払金発生時起算説の判例として、広島高裁松江支部平成19年9月5日判決、『金融法務事情』1837号58ページ
  3. (3)取引終了時説の判例として、名古屋高裁平成20年2月27日判決、『金融法務事情』1854号51ページ、最高裁平成21年3月3日判決、最高裁ホームページ(原判決は過払金発生時起算説を採用したのを破棄)、最高裁平成21年3月6日判決、最高裁ホームページ(原判決は過払金発生時起算説を採用したのを破棄)
  4. (4)自動継続特約付きの定期預金契約における預金払戻請求権の消滅時効の起算点についての判決として、最高裁平成19年4月24日判決、『判例時報』1979号56ページ、『判例タイムズ』1248号107ページ、最高裁平成19年6月7日判決、『判例時報』1979号61ページ、『判例タイムズ』1248号111ページ


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