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[2009年4月:公表]

電気ストーブ化学物質過敏症事件

本件は、高校一年生男子が、自宅自室で使用した電気ストーブから発生した有害化学物質により化学物質過敏症の後遺障害が生じたとして、同人およびその両親が、不法行為、債務不履行または製造物責任法3条に基づき、同ストーブを販売した販売店に対し損害賠償を求めた事案である。裁判所は、同ストーブから発生した化学物質と健康被害との間には因果関係があり、同被害発生も予見可能であったとして、販売店の責任を否定した一審判決を取り消し、販売店の不法行為責任を認めた(両親からの慰謝料請求は棄却している)。(東京高裁平成18年8月31日判決)

  • 『判例時報』1959号3ページ
  • 請求認容・上告棄却

事件の概要

X1:消費者(事故時高校1年生)
X2、3:X1の両親
Y:本件ストーブの販売店
A:X1を診断した病院

1. X2が、平成13年1月10日、Yにおいて、中国製の電気ストーブ(本件ストーブ)1台を購入した。X1がこれを同月27日頃から同年2月25日頃までの間、自宅の自室で使用していたが、X1は、使用して数日後鼻の粘膜に不快感を覚え、同年2月13日頃には、鼻の異常のほか、腹部、胃のむかつき、腹部全体の不快感や違和感を覚えるようになった。その後、眼科で急性結膜炎との診断を受けたが、結局結膜炎の原因が明らかにならず、手足や指にしびれを感じ、運動障害や顔面麻痺(まひ)を生じ、同月26日、授業中に呼吸困難となったり、階段を昇れない歩行障害となり、同月28日から同年3月16日まで入院した。同年12月20日、X1はA病院において、同病院の医師から、本件症状は本件ストーブの使用を原因とする中枢神経機能障害・自律神経機能障害と診断され、また、慢性症状としての化学物質の過敏症を獲得しているものと診断された。

2. Xらは、これらの障害を負ったのは本件ストーブから有害物質が発生したためであるとし、また、X2、X3はX1の上記発症により精神的損害を被ったとして、Yに対し、不法行為、債務不履行(不完全履行)または製造物責任法3条に基づき損害賠償の請求をした。原審は、X1に生じた症状と本件ストーブから発生した有害化学物質との間に因果関係は認められないとして、Xらの請求を棄却した。そこでXらは、これを不服として控訴をした。本件はその控訴審判決である。



理由

1. 本件の経過およびX1の発症の経緯、本件ストーブの形状、本件ストーブの稼働による化学物質の発生等についての認定事実、化学物質過敏症についてAの医師によるその診断基準や診断内容を検討すれば、次のことが認められる。

 X1は、それまで健康状態に特段の問題はなかったが、本件ストーブの使用を始めてから鼻に異変を感じ、後に腹部、胃部の異常、目の充血、手足のしびれ、運動障害、呼吸困難等が生じたこと、化学物質の影響を前提とせずに複数の医院、病院において診察を受けても確定診断ができなかったこと、本件同型のストーブは、ヒーターとガード部分との間隔が狭く、ガード部分は、稼働後2分で温度が280度程度にまで上昇する部分があること、ガード部分には有機塗料が塗布されており、高温に過熱されることによって化学物質が発生するものであったこと、発生する化学物質には人体にとって有害なものが多く含まれていたこと、使用説明書には換気等が必要であるとの記載はなく、X1も、使用中換気をしなかったこと、その使用状況も、1カ月近くの間、換気もしないで連日のように勉強しながら本件ストーブを使用し、しかも本件ストーブを足のすぐ近くに置いており、上記化学物質に直接暴露されやすい状況であったこと、X1は本件ストーブの使用を中止した後において、化学物質に過敏な反応を示すようになったこと、本件ストーブ使用後の同人の症状は化学物質によって生じる症状と矛盾がないこと等が認められ、本件症状が化学物質に基づく中枢神経機能障害および自律神経機能障害と診断された。以上より、化学物質過敏症に該当するかはともかく、X1は、化学物質に対する過敏症を獲得したものと認められる。

2. Yは、本件同型ストーブから異臭が発生するという問い合わせがあることを認識した平成12年末までに本件ストーブから化学物質が発生することを予見することができ、予見する義務があった。さらに、このような予見をしたならば安全性確保の見地から本件同型ストーブから発生する化学物質の有害性を検査確認する義務があった。そして、遅くとも平成12年中には、シックハウス症候群の報道などを通じ、家庭生活において、建材、塗装、接着剤等の使用により化学物質が発生し、健康被害が発生することが一般的に知られており、Yも平成13年1月10日までには本件同型ストーブから発生する化学物質により人に対する健康被害が生じ、人によっては化学物質に対する過敏症を生ずることもあることについて認識することが可能であり、認識すべきであった。

3. 本判決は、以上のように判断し、X1の請求については原判決を破棄し、これを認め、X2およびX3の請求については、同人らの精神的苦痛は慰謝料をもって慰謝すべき精神的損害と認めることは困難であるとして棄却した。これを受け、Yより上告および上告受理の申し立てがなされたが、最高裁は、X2およびX3に対しては全面的勝訴を得ているとして、これらの申し立てを却下し、X1に対してはその上告を棄却し、上告は受理しないことで確定している。



解説

 製造物責任法3条は、製品に欠陥があり、その欠陥によって身体を侵害されたときには、製造業者等に損害賠償を請求できる旨規定する。被害者は、製造業者等による過失を主張、立証しなくても製品に欠陥があったことを立証すればよいことになっており、その点では被害者の主張、立証責任は緩和されている。しかし、製造物責任法によっても、被害者は民法709条の場合と同じく、因果関係と損害については被害者が主張、立証しなければならない。

 ところで因果関係の立証は「一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然(がいぜん)性を証明することであり、その判定は、通常人が疑義を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。」(最高裁昭和50年10月24日判決・『民集』(最高裁判所民事判例集)29巻9号1417ページ、「判例時報」792号3ページ)とされている。しかし、食品や化学物質などによる身体侵害はさまざまな原因で発症し、その態様もさまざまなものがあるので、その因果関係の立証は必ずしも容易ではない。

 Xらは、一審から不法行為、債務不履行による責任のほか、製造物責任法3条による責任も主張していた。しかし、原審はAの医師により、本件ストーブから発生した有害物質の暴露がX1の症状の発症原因と考えられるとしているが、同医師による診断は、X1の発症から約10カ月が経過した段階でのものであること、化学物質過敏症の診断基準も暫定的なもので絶対的なものではないこと、問診表の回答では、化学物質に対してほとんど反応していないこと、X1が入院した病院では、最終的には脳幹脳炎であるとの診断がなされ、時期的にも真冬であることからウイルス感染による可能性も否定できないことなどから、同医師の診断があるからといってX1の症状が科学物質によるものであるとは即断できないとしたうえ、化学物質が発生してもそれが直ちに人体に影響を与えるものではないこと、X1以外に同様の症状を発症した者の存在が窺(うかが)われないことは、同型ストーブの販売台数に照らすと個人差を考慮しても不合理であることなど指摘し、X1の症状と本件ストーブの使用とは因果関係を認める証拠はないとしていた。

 本判決は、原審とは異なり、因果関係を認めたうえ、Yの予見可能性も肯定し、製造物責任法3条の責任ではなく、不法行為による損害賠償を認めたものである。



参考判例

 本件第一審判決として、東京地裁平成17年3月24日判決『判例時報』1921号96ページ。

 因果関係が争われた事例として、名古屋地裁平成16年4月9日判決『判例時報』1869号61ページ(漢方薬、肯定)、大阪高裁平成13年11月30日判決『判例タイムズ』1087号209ページ(ガスファンヒーター、否定)、東京地裁平成12年5月22日判決『判例時報』1718号3ページ(化粧品、否定)、東京地裁平成11年8月31日判決『判例時報』1687号39ページ(業務用冷凍庫、肯定)などがある。

 なお、同じ化学物質過敏症が問題となった殺虫剤事件として東京高裁平成6年7月6日判決『判例時報』1511号72ページ(控訴審、否定)がある。



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