[本文へ] 消費生活・消費者問題に関する事例や対処方法を紹介しています。

現在の位置 : トップページ > 相談事例・判例 > 消費者問題の判例集 > 商品先物取引会社の違法な勧誘に対して損害賠償請求が認められた事例

[2009年5月:更新]
[2008年10月:公表]

商品先物取引会社の違法な勧誘に対して損害賠償請求が認められた事例

本件は、商品先物取引において多額の損失を被った顧客が、損失の全額が商品先物取引会社の手数料であったとして商品先物取引会社に対して損害賠償責任を求めた事案である。裁判所は会社の外務員の勧誘とそれに基づく一連の取引が違法であるとして損害額全額と弁護士費用についての損害賠償請求を認容し、過失相殺を認めなかった。(神戸地裁平成18年5月12日判決)

  • 『判例タイムズ』1246号246ページ
  • 請求認容・控訴後和解

事件の概要

X(原告):顧客
Y(被告):商品先物取引会社
A(訴外):Yのグループ企業

 Xは、昭和35年生まれ(取引開始当時40歳)で、高校卒業後家業である漁業に従事し、妻と2人で漁業収入によって生活をしていた。従業員はおらず、天気がよければ、朝5時頃自己所有の漁船で海上に出かけ、午後2時頃まで鯛(たい)やイカナゴの底引き網漁をし、捕った魚を漁業協同組合に売りに行くという生活であった。Xの年間所得は、400万〜500万円程度である。自宅を所有し、金融資産としては合計1500万円程度の預金を有していたが、先物取引はもちろん、株式に対する投資経験もなく、株式市場や商品市場の動向に特別な関心を持ったこともなかった。

 Xは、平成13年9月17日から11月29日までの間、Aの勧誘でガソリン等の商品先物取引を行い、126万円余りの損失となった。その際の勧誘は、「ガソリンと灯油の価格差(値ざや)を利用して確実に稼ぐ方法がある」「任せてもらえば大丈夫」などというものであった。Aは、同年11月末で自主廃業となり、Xの担当外務員もこれに伴いYに移籍した。そこでXは、今度はYの勧誘で同年11月27日から平成15年12月22日までの間、ガソリン等の商品先物取引を行った。その取引で、Xは3532万6450円の損失となった。しかし、売買損益だけをみると、21万2900円の利益となっており、手数料の総額が3553万9350円にも上る結果、上記の多額な損失となったのである。そこでXは、Yに対し、Aとの取引の損害分とYの取引の損害分の合計3659万2665円と弁護士費用365万9266円(合計4025万1931円)の支払いを求める損害賠償請求訴訟を提起し、Yには共同不法行為ないし使用者責任ないし債務不履行責任があるとして、次のような違法があると主張した。

  1. (1)勧誘段階の違法行為(不当勧誘)
    適合性原則違反、説明義務違反、断定的判断の提供
  2. (2)取引継続段階の違法行為
    両建(りょうだて)の勧誘、過大取引、無意味な反復売買(特定売買)、一任売買、無断売買、断定的判断の提供
  3. (3)取引終了段階の違法性
    手仕舞(てじまい)の拒否

 これに対して、Yは本件取引に何ら違法性はないとして、Xの主張をことごとく争った。



理由

 本判決は、まず、Xが行った取引(以下「本件取引」)は、両建(注(1))、直し(注(2))、途転(どてん)(注(3))が非常に多く、その結果として、Xが先物取引に投じた資金の大部分は、売買差損で消えたのではなく、手数料の支払いによって消えたという特徴を有するとした。そして、このような取引は、先物取引の危険性等を自覚し、自己の責任で取引を行う姿勢の投資家が行った場合にはあまり起こりそうになく、業者の外務員が、手数料稼ぎのため、顧客に利点が乏しいのを承知のうえで手数料のかさむ取引を頻繁に勧め、顧客の側も、先物取引が手数料のかかる投機取引であることの自覚が乏しく、独力で取引の判断を行う自信や経験もなく、外務員の言いなりになって勧められるままに取引を継続している場合であるといえると判示している。すなわち、本件取引は、それ自体が、Xにおいて本件取引が手数料のかさむ取引であること の自覚も経験もないまま取引を継続していたこと、およびYの外務員もそのことを承知のうえで、手数料のかさむさまざまな取引を勧めていたことを如実に物語っていると判断している。

 次に、本判決は、以下のとおり判示して過失相殺を認めなかった。

 Xは、Yの外務員から先物取引に関するいくつかの冊子や書類の交付を受けているが、このことから、損害の発生・拡大についてXにも落ち度があるということはできない。また、Yの外務員の違法行為は、Xの無知・無理解に乗じ、故意にXに不利な取引を勧め、手仕舞の指示さえ無視し、会社ぐるみで手数料収入の拡大を図ろうとする悪質なものであり、しかも、Yの外務員は、一方で手仕舞を指示されながら他方において無断で建玉(たてぎょく)を建てるという大胆な違法行為まで平然と行うのであり、このような外務員の手練手管を前にしたとき、先物取引の経験もなく、細々と漁師生活を送っていただけのXが、それら違法な勧誘行為をはねつけ、早々に手仕舞をして損害の発生・拡大を食い止めることなどほとんど不可能であったとみられ、過失相殺を認め、一定の損害をXの負担とし、その分、Yに利益の保持を許容することは相当ではない。

 なお、本判決は、Aの勧誘による損害についても、両社に密接な資本関係があり、YがAの従業員や証拠金を引き継ぎ、同じ担当者がXの担当となって不公正な取引を継続したことなどから、YはAの不法行為を承継するかたちで共同してXに損害を加えたという関係にあるとして、民法719条、715条により責任を負うとしている。



解説

 商品先物取引被害についての損害賠償請求訴訟においては、基本契約を締結させるための勧誘段階の違法性(適合性原則違反、説明義務違反、断定的判断の提供、再勧誘の禁止違反、迷惑勧誘など)、取引を継続させる段階での個々の取引の勧誘や取引手法・取引内容の違法性(適合性原則違反、新規委託者保護義務違反、過当売買、無断売買・一任売買、両建などの特定売買、それらに基づく手数料稼ぎなど)、取引終了段階の違法性(手仕舞拒否など)を通じて、全体を評価する一連の不法行為論が採用されている。本判決も、一連の不法行為論を採用している。なお、断定的判断の提供を根拠として消費者契約法に基づく取消しを認めた判決として、関連判例2がある(控訴審で和解となった)。

 商品先物取引被害の損害賠償請求訴訟については、争点が違法性とともに過失相殺割合が重要になってきている。実務家の研究成果もあり(内橋一郎ほか『先物取引被害と過失相殺−過失相殺の抑制に向けた理論と実務−』民事法研究会・’06年)、過失相殺割合が以前に比較して少なくなる傾向にあると思われる。特に、本件のように損金に占める手数料割合が高い、いわゆる手数料稼ぎの事案については、顧客を犠牲にして業者の手数料収入を上げるための取引が繰り返されること、過失相殺すると業者に悪質な取引を繰り返すことによる利得を認めることになることなどから、過失相殺しない判断をしやすいと思われる。関連判例1の事案もそうである。関連判例1以降に過失相殺しなかった判決としては、関連判例3〜10がある。このうち、関連判例4、5は、過失相殺に関して手数料稼ぎを問題としている。

 しかし、日本商品先物取引協会のあっせん・調停による解決の場合においては、依然として委託者の過失割合がかなり認定されている。

 また、平成19年9月30日の金融商品取引法施行に合わせ、商品取引所法でも損失補てん禁止ルールが新設され、商品先物取引分野にも適用されることとなった。国民生活センターや消費生活センターでのあっせんによる和解の場合には事故確認は不要であるし、弁護士の場合には和解金が1000万円を超えない場合には弁護士の調査・確認書面を提出して事故確認なしの和解が可能であるが、業者が損害賠償するということは業者に法令違反があったことが前提となるので、行政処分の可能性が出てくるわけで、業者の対応も以前に比較してやや慎重(消極)な傾向がみられる。

注(1):両建…「買い」と「売り」の両方のポジション(証券の持ち高)を持つこと
注(2):直し…既存建玉(委託注文)を仕切るとともに、同一日内で新規に売り直し、または買い直しを行うこと
注(3):途転…それまでの保有しているポジションを仕切るとともに、反対のポジションを新規で建てること



関連判例

  1. 1.大阪地裁平成12年11月30日判決、「判例時報」1745号110ページ
  2. 2.名古屋地裁平成17年1月26日判決、同1939号85ページ
  3. 3.大阪高裁平成10年7月30日判決、「先物取引被害裁判例集」25号29ページ
  4. 4.神戸地裁姫路支部平成14年2月25日判決、同32号16ページ
  5. 5.大阪高裁平成15年9月25日判決、同35号133ページ
  6. 6.大阪地裁平成16年2月10日判決、同36号59ページ
  7. 7.仙台地裁平成16年2月27日判決、「判例時報」1875号112ページ
  8. 8.東京地裁平成16年3月29日判決、「先物取引被害裁判例集」37号90ページ
  9. 9.大阪地裁平成16年7月29日判決、同37号343ページ
  10. 10.大阪高裁平成16年8月31日判決、同38号355ページ


消費者問題の判例集トップページへ

ページトップへ