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[2007年6月:公表]

大学に対する入学辞退者による学納金返還請求

 本件は、大学に合格し入学手続きをしたが結局入学を辞退した者が、入学金および授業料の返還を大学側に求めた事案である。判決は、入学金は入学し得る地位を取得する対価であり返還を要しないが、授業料は返還を要するとした。また、入学を辞退しても授業料を返還しないというのは損害賠償額の予定または違約金の定めの性質を有するが、この点、消費者契約法9条1号が適用され、学生が当該大学に入学することが客観的に高い蓋然(がいぜん)性をもって予測される時点よりも前の時期における在学契約の解除については、原則として大学に生ずべき平均的損害は存在せず、授業料の全額を返還すべきであると認定した。(最高裁判所平成18年11月27日判決)

  • 裁判所時報1424号17ページ、裁判所ホームページにも掲載

事件の概要

原告:X1〜X6(消費者)
被告:Y1、Y2(大学)

 X1はY1大学に入学手続き後、平成14年4月2日に電話で入学を辞退した。X2〜X4は、Y2大学に入学手続き後、同年3月22日までに必要書類を提出せず、X5およびX6は、Y2大学に入学手続き後、同年4月2日の入学式に出席しなかった。3月22日までに必要書類を出さない場合、入学式に無断欠席した場合には入学資格を失う旨の要項の記載があることから、入学資格を失ったとXらは主張して、Yらに学納金の返還を求めた。しかし、YらはXらの学納金の返還請求に対して応じないため、XらからYらに対して学納金の返還を求める訴訟が提起された。

 原審判決は、X1〜X3については、授業料相当額の一部の返還請求のみを認容し、X4〜X6については請求を全部棄却した。X1については、4月2日に入学辞退を通知したことにより、在学契約が解除され、X2〜X6については、3月22日までに必要書類を提出しなかったこと、または入学式に無断欠席したことによって在学契約を解除したとは考えられず、学納金の返還請求をしたことによって在学契約を解除したものと認めた。すなわち、X2とX3については平成14年6月7日、X4〜X6については同年8月28日に在学契約が解除されたとした。そして、いずれについても入学金の返還は請求できないとした。

 授業料については、4月1日以降の入学辞退の場合には、平均的損害をY1大学については30万円、Y2大学については20万円と認め、納付した授業料を春学期の日数で日割り計算し、入学辞退日の翌日から春学期最終日までの日数を乗じた金額からこの平均的損害の額を控除した残額について、返還を求めることができるとした。結論として、4月2日辞退のX1は33万円余、6月7日辞退のX2は15万円余、X3については21万円余について返還を認めたが、8月28日辞退のX4〜X6については0円となり返還を認めなかった。

理由

1 在学契約

 在学契約は、有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約であり、特段の事情がない限り、学生が入学手続き期間内に学生納付金の納付を含む入学手続きを完了することによって成立する。ただし、学生の身分を取得するのは、入学時期、通常は入学年度の4月1日である。

2 入学金

 入学金は、学生が当該大学に入学し得る地位を取得するための対価としての性格を有し、また、合格者を学生として受け入れるための事務手続き等に要する費用にも充てられるものである。そのため、入学金については、その納付により入学し得る地位を取得したのであり、その後に在学契約が解除されても、大学は返還義務を負う理由はない。

3 在学契約の解除

 入学辞退は在学契約の解除の意思表示であり、辞退を書面によるべき旨が要項で定められていても、書面によらなければならないものではない。そして、入学式に無断で欠席した場合には、入学を辞退したものとみなすという記載がある場合には、学生が無断で入学式を欠席することは、黙示の在学契約の解除の意思表示をしたものと解するのが相当である。

4 授業料の不返還特約

 消費者契約法は在学契約にも適用される。入学辞退の場合の授業料の不返還特約は損害賠償額の予定または違約金の定めである。消費者契約法9条1号により、不返還特約は平均的損害を超えて無効であると主張する学生側がその主張立証責任を負う。そして、学生が当該大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測される時点よりも前の時期における解除については、原則として、当該大学に生ずべき平均的損害は存せず、支払った授業料などは全額が平均的損害を超えることになる。これに対して、解除がこの時点以後のものである場合には、学生が納付した初年度に納付すべき授業料等および諸会費等について、平均的損害を超える部分は存しない。この時期は原則として4月1日であるが、入学式を無断欠席することにより入学しなかったものと取り扱っている場合には、学生が入学式に無断欠席して黙示に解除をすることは予測の範囲内であり、その翌日が客観的に高い蓋然性をもって入学が予測されることになるというべきである。

解説

1 結論

 本判決は、X1はY1に対して4月2日に契約を解除したので、授業料等がすべてY1の平均的損害と認定し、授業料返還を認めた原審判決を破棄し、X1の請求を否定している。逆に、X2〜X6については、4月2日の入学式の無断欠席により黙示的に解除の意思表示がされたものと認め、不返還特約は全部無効であるとして、一部しか返還が認められなかったX2・X3、一切返還が認められなかったX4〜X6について、原審判決を破棄するなどしている。

2 入学金

 入学金については、多数の下級審判決もその返還を否定しており、最高裁判決が出たことによって、入学金は(1)学生たり得る地位を取得したことの対価、および、(2)入学準備のための事務費用の対価であり、既にそのような地位を受けており履行済みとなるため、返還請求はできないことで確立したといってよい。ただし、余りにも高額な入学金は公序良俗違反になる可能性があることは、最高裁も認めており、濫(らん)用には歯止めがかけられている。これは同日に出された参考判例の最高裁判決も同様である。

3 入学辞退

 原審判決は、書面により明確に解除の意思表示がされる必要があるとして、返還を請求した7月ないし8月に解除がされたとしたが、本判決は、入学式の欠席をもって黙示の解除の意思表示と認めた。入学辞退の意思表示の要件また認定については、下級審判決が分かれていた問題を解決したことになる。

4 消費者契約法の一般論

 在学契約に消費者契約法が適用されることは今まで異論がなく、最高裁もこれを確認した。同法9条1号の平均的損害の証明責任については議論があるところであるが、最高裁が消費者に一般論として証明責任を負わせており、本件のような事例以外では平均的損害の認定が困難な場合も少なくないので、最高裁の判決のこの点の影響はかなり大きい。

5 授業料等の不返還特約

 授業料等の不返還特約については、これを損害賠償額の予定ないし違約金の約束と考えることに異論がなく、最高裁もこれを確認した。そして、学生が当該大学に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予測される時点を基準とし、それ以前の辞退では平均的損害がなく全額の返還を請求でき、その後の辞退では授業料などが一切平均的損害になり、一切返還請求できないとしており、日割り計算はせずオールオアナッシングの処理がされている。なお、消費者契約法が適用される前の事例について、関連判例(2)が、不返還特約は公序良俗に違反して無効となることはないとしている。

参考判例

  1. (1)最高裁判所平成18年11月27日判決(平成18(受)1130)
  2. (2)最高裁判所平成18年11月27日判決(平成16(受)2117)
  3. (3)最高裁判所平成18年11月27日判決(平成17(受)1158)
  4. (4)最高裁判所平成18年12月22日(平17(受)1762)
  5. (5)大阪地方裁判所平成15年10月6日(『国民生活』’04年4月号46ページ以下)

などがある。