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[2007年5月:公表]

連鎖販売取引とねずみ講の勧誘員の責任

本件は、学生らが、「割の良いアルバイトがある」と誘われた説明会で、「確実にもうかる」などと、実質的な「ねずみ講」に勧誘され、「オーナー契約金」と称する入会料等の支払いのために、消費者金融から多額の金員を借り入れさせられていた事案についての判決である。裁判所は、被告事業者の事業につき、通信販売事業には実体がなく、実質的には、無限連鎖講の防止に関する法律によって禁止された違法な金銭配当組織であるとして、会社、代表取締役、勧誘員の共同不法行為を認定し、支払い済みの契約金相当額、および弁護士費用について損害賠償を命じた。なお、事業者らは、学生らが入会後勧誘に成功して収入を得ていたことなどから、信義則違反ないし過失相殺を主張したが、判決は、学生らは勧誘員らに踊らされていた被害者というべきであるなどとして、この主張を退けている。(さいたま地方裁判所平成18年7月19日判決)

  • 判決文未登載・裁判所ホームページ掲載
  • 請求容認

事件の概要

X(原告):消費者(X1‐X4)
Y(被告):会社(Y1)、Y1の代表取締役(Y2)、勧誘員(Y3)

 Y1は、登記簿上、経営コンサルタント等を業(なりわい)とする株式会社であるが、実際には「カタロくじ事業」と称する事業を行っており、同事業への参加を募っていた。Y2は、Y1の代表取締役である。

 Xらはいずれも本件契約当時学生であったが、平成16年12月から翌年2月にかけて、知人から「割のいいアルバイトがある」と言われて説明会に参加し、Y1のオーナー契約を締結した。勧誘の際には、「オーナー登録をすれば、月収100万円も夢ではない」「必ずもうかる」などと説明され、通信販売により利益が上がっている会社であると信じたものの、お金を持っていないことから少し考えさせてほしいと言ったところ、「すぐこの場で決めないとだめだ」と言われ、お金を作る方法があると消費者金融を紹介されたうえ、「学生では借りられないので、正社員と偽ってお金を借りてこい」と言われた。そこで指示されたとおりにして借り入れ、Y1に34万8400円ないし51万8400円の金員を支払いオーナー契約を締結した。その際、契約書に署名したほか、学生はオーナー登録できないこと、クーリング・オフ条項等について説明を受け確認した旨記載された誓約書に署名した。契約書等の書類については、Y3らが預かっておくと言って持って帰ったので、交付を受けていない。オーナー登録後、X1は、Y3らの指示に従って友人であるX2を勧誘し、これによってY1からオーナー募集コミッションとして5万円を受領した。

 なお、Y1は、平成17年6月、経済産業省から、同社の勧誘者が主に大学生をターゲットとして「誰でもできる仕事、確実に稼げる、みんな月に50万円以上は稼ぐ」などと不実のことを告げ「20万円なんてすぐに返せる」「1年後には、月30万円位もうかる」などと利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供しており、さらに契約金等を直ちに支払えない者には消費者金融から金銭を借り入れさせて契約金等を支払わせ、契約をさせていたほか、連鎖販売取引に際して契約を締結するまでに交付を義務づけられている当該連鎖販売業の概要について記載した書面を契約の相手方に交付しておらず、契約を締結した際にもその契約内容を明らかにする書面を交付していないとして、特定商取引法により3カ月間の営業停止処分を受けている。



理由

1. 不法行為責任

 Y1の「カタロくじ」事業は、通信販売事業としては実体がなく、オーナー契約金で収益を上げている事業であり、その契約金額自体異常に高額ということができ、次々にオーナー契約を締結し続けなければ、自己の利益を確保することもできないことが明らかであるのに、この点について十分な説明を行っておらず、また、毎月月額システム利用料を支払わないとオーナー資格を喪失してしまい、多くの会員がオーナー契約金を支払った後中途で脱退していくことになるシステムであることをも考え合わせると、Yらは、利益が上がらず、実体があるとはいえない通信販売事業があたかも実体があり利益が上がっているように説明して、オーナー契約を締結させ、高額なオーナー登録料を支払わせていたほか、実質的には無限連鎖講の防止に関する法律によって禁止されている金銭配当組織と言い得るものであって、通信販売事業自体は、同法の適用を免れるための方便に過ぎず、オーナー契約自体公序良俗に反する違法な取引というべきである。

 また、Y2についても、組織的に違法な行為を指揮命令していたことが明らかであり、加害行為を行うことについて故意があったというべきである。

2. 勧誘員の責任

 Y3は、Y1の違法な行為を利用して収益を上げていた者であることを考えると、Y1と共同不法行為責任を負うものというべきである。なお、Y3は、X4に対して直接勧誘したか否かを問わず、X4に対する関係でも責任を免れない。

3. 過失相殺

 Xらは、学生でないことを前提とする記載のある誓約書に署名し、X3にあっては、誓約書に「私は学生でないので保護者の同意は必要ありません」「私は消費者金融等の紹介・あっせんを受けておりません」「契約の解除・中途解約、返品ルールの説明を受けました」などと直筆で記載しており、X3との契約の頃、インターネットの掲示板等で、消費生活支援センターに行って金融のあっせんをされたとか、学生であると言えば返金されるとのうわさが流れており、Y1側も、厳しく対処するようにとの話があったので、X3に言って上記の内容を記載させたことを認めることができる。

 しかしながら、Yらは、一面では、犯罪行為と把握することもできるほどの違法性の高い取引行為をXらに持ちかけて、不当な利益を得ようと企てたのであり、Yらの違法性に比してXらのそれは非常に軽微であることはもとより、Y1がもくろんでいた違法な契約自体が、Xら第三者に虚偽の事実を申し述べさせることを元々想定し、それを前提として仕組まれていたとも言えるのであって、そのようなことを前提とすると、過失相殺の結果、Yらの責任を軽減することはむしろ公平とは言い難いと考えられる。さらにこの取引においては、XらもY3と同様の立場となり得るのではないかとの点についても、XらとY3とは、役割においても格段に区別されており、Y3は、Y1のシステムを運営ないし拡大するためにY1と一体となって行動してきた者と評価できるが、Xらは、むしろ、Y3らに踊らされていた被害者というべきであり、過失相殺については消極に解さざるを得ない。



解説

 本件における主な論点は、第一に、Y1の商法が実質的に無限連鎖講の防止に関する法律に違反する違法なものであるか、第二に、入会後、知人などを勧誘して入会者を獲得した消費者をどのように扱うか、である。

 まず、第一の論点について。本件で問題となったY1は、平成12年頃から全国の大学などで爆発的に会員を増やした事業者である。Y1は、一般会員を集めてカタログを配布し、カタログによる通信販売事業を展開すると説明していたが、この事業の実態は不明であり、契約したオーナー収入は主としてリクルートに成功した入会者の契約金収入から支払われる歩合給によるものではないかと推測されていた。

 こうした状況において、Y1は平成17年6月に経済産業省により特定商取引法に基づき3カ月の業務停止処分を受け、さらに翌年7月4日(本件判決の15日前)には京都府警により無限連鎖講の防止に関する法律違反により幹部らが逮捕された。通信販売事業の実体はなく、単なる金銭配当組織の部分があり無限連鎖講に該当するとの判断がされたわけである。

 本件判決も、Y1の事業内容について詳細な事実認定をしたうえ、通信販売事業に実体はなく、実質的には無限連鎖講の防止に関する法律によって禁止されている金銭配当組織と言い得るものであるとして、会社だけでなく、代表取締役と勧誘員についても共同不法行為責任を認めた。単なる金銭配当組織に過ぎないねずみ講は無限連鎖講防止法により全面禁止とされており、勧誘員も刑事処罰の対象とされているが、連鎖販売取引は特定商取引法により行為規制は定められているものの商法自体は禁止されていないことから、ねずみ講であることを隠蔽(いんぺい)するために商品販売などがあるかのように装うケースは少なくない。本件も、通信販売事業があるかのように装っていたものの、業務内容について詳細に事実認定をしたうえで実体はないものと判断したものであり、類似の事例の参考になる。

 第二の論点につき、本件においては、原告の一人(X1)が他の原告(X2)を勧誘して入会させており、この事実を法的にどのように評価するかが問題となった。

 そもそも、マルチ商法やねずみ講では、統括者である事業者の従業員とは別に、契約をして会員になったうえで勧誘員として専門に勧誘行為を行う者の存在が必要不可欠である。さらに、これらの商法では、契約を締結して会員となった消費者が自分の親族や友人・知人などを勧誘して組織を広げていくしくみをとっており、こうした勧誘行為を行わなければ利益は得られず入会した意味がないという巧妙なしくみをとっている。そのために、契約を締結して会員となった者の多くは、自分にとって近しい友人などを勧誘していることがほとんどであり、勧誘してみたものの思うようにいかないことが分かってきて、勧誘の際の「確実にもうかる」などといったセールストークが事実に反するものであったことを知るに至ることとなる。

 こうしたしくみをとっていることから、入会後に知人などを勧誘して入会者を獲得した者は被害者として救済すべきであるか、加害者として責任追及の対象とすべきであるかは従来からも議論があり、消費生活センターなどでの取り扱いのうえでも問題とされてきたところであった。

 本件訴訟において、事業者側は、X2を勧誘し5万円の報酬を得ているX1につき、自らも勧誘を行い、入会者を一人でも獲得して利益を得ている以上、損害賠償請求は信義誠実の原則に反し認められない、仮に事業者側に責任があるとしても、過失相殺すべきであると主張した。しかし、判決は、職業的な勧誘者と言ってもよい立場にある者と、入会した後に知人などを勧誘して、たまたま入会者を獲得していたという者とでは、法的な評価は違うことを明確に指摘し、不法行為による損害賠償を命じ、過失相殺による減額も認めなかった。

 マルチ商法やねずみ講の本質的なしくみに着目した判断として評価することができ、同種の事例についての参考となろう。

 なお、損害額の認定につき、判決は、オーナー契約として支払った金員からオーナー募集コミッションとして得た金額を控除した金額と、本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用3万4000円から5万1000円の合計額を損害額と認めている。



参考判例

 連鎖販売契約につき公序良俗違反とした判決は数多い。無限連鎖講との類似性に言及して同違反が認定された判決としては、一連のベルギー・ダイヤモンド事件判決のほか、

  1. * 東京地方裁判所平成18年5月23日判決 『判例時報』1937号102ページ(八葉物流事件)
  2. * 名古屋高等裁判所金沢支部昭和62年8月31日判決 『判例時報』1254号76ページ(福井印鑑ネズミ講事件)
  3. * 大阪地方裁判所昭和55年2月29日判決 『判例時報』959号19ページ(白光マルチ事件)

などがある。

 なお、連鎖販売契約を締結し、家族を勧誘し入会させて収入を得ていた消費者につき、書面不備を理由としたクーリング・オフは、権利の乱用等に当たらないとした近時の判決として、

  1. * 京都地方裁判所平成19年1月26日判決判例集未登載

がある。



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