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[2007年3月:公表]

MBA受験講座の受講契約に関する消費者契約法の取り消しと特定商取引法の中途解除

本件は、MBA受験講座の受講契約につき、不実告知のあった部分について消費者契約法4条に基づく取り消しが認められ、また、TOEFL受講講座につき、特定継続的役務提供に該当するものとして特定商取引法49条による中途解約が認められた事例である。(東京地方裁判所平成17年1月31日判決)

  • 判例集未登載

事件の概要

X:原告(消費者)
Y:被告(予備校)

 Xは、大学卒業後、不動産鑑定等を事業目的等とする会社に勤務していたが、アメリカのビジネススクールの課程を履修してMBA(経営学修士)の資格を取得することを希望していた。しかし、そのためにはビジネススクールに共通する入学適性テスト(GMAT)において、希望する大学院に相応するレベルの成績を上げることが必要であり、その基礎として英語の学力を身に着けたいと考えていた。

 そこで、Xは、雑誌の広告で知ったYに架電して、平成15年2月9日頃横浜本校において「カウンセリング」を受けた。Xは、カウンセリングの際「平成16年の秋にはアメリカに留学してMBA資格を取得したいと考えているが、関門となるGMATテストの点数が独学では上がりそうもないので悩んでいる」と相談したところ、「9人以下の少人数クラスにおいて個別指導するから、各自の受験のタイミングを把握することができる。大手予備校とは違う個別指導をする。あなたの英語のレベルがGMATで高得点をねらえるようになった段階で受験を指導するから大丈夫である」との説明を受けた。

 また、Yから渡された募集要項には「試験対策では、留学の要となるTOEFL/IELTS、SATに加え、大学受験に必要なGRE、GMAT、LSAT等すべての試験に対応している」「留学に必要なすべては、総合Aコースの履修により確実となる」ことが記載されていたことから、Xは、その旨信頼し、「総合A、本科1」コースが自分の希望に合致していると考えた。

 そこで、Xは、平成15年2月12日、Yが同年3月から開講する「MBAコース(総合A、本科1)」を年間受講料282万2400円(TOEFLコース(61万6875円)、GMATコース(145万5825円)および留学準備・手続きコース(74万9700円)(いずれも税込み))で受講する旨の申込書を返送し、契約を締結し、同月24日に代金282万2400円を振り込みの方法で支払った。

 しかし、TOEFLコースは少人数の個別方式で継続的に授業を提供するものであったが、GMATコースおよび留学準備・手続きコースには継続的なサービスが予定されておらず、GMATコースについて交付された教材はGMATの過去問題集のみであり、その内容は3634円で市販されている模範解答付きのオフィシャルガイドの抜粋に過ぎなかった。

 そこで、Xは、Yに対して同年9月16日に本件受講契約を消費者契約法4条により取り消す旨の意思表示をした。

理由

1 受講契約の取り消しの可否

 GMATコース(税込み145万5825円)および留学準備・手続きコース(税込み74万9700円)については、継続的な授業が予定されておらず、留学に必要なすべてが確実になるような内容のものではなかったし、個別指導方式とはほど遠い内容のものであったから、消費者契約法4条にいう重要事項について事実と異なることの告知がされたものというべきである。

 Yの募集要項には「MBAコース(総合A、本科1)」というコースについてその受講料が264万7000円(2002年度版)または300万円(2003年度版)であると明記されているから(税抜き)、契約の個数としては「MBAコース(総合A、本科1)」という一つのコースについて1個の受講契約が締結されたものというべきである。「MBAコース(総合A、本科1)」の具体的内容であるTOEFLコース、GMATコースおよび留学準備・手続きコースの三つの受講契約が同時に締結されたものとは解されない。

 もっとも、Xは、上記「MBAコース(総合A、本科1)」を構成するTOEFLコース(税込み61万6875円)、GMATコース(税込み145万5825円)および留学準備・手続きコース(税込み74万9700円)の三つのコースごとに受講申込書を作成して本件受講契約を申し込んでおり、各コースの受講契約とその受講料が個別に示されていたため可分であるという本件受講契約の特質にかんがみると、消費者契約法4条による取り消しは、契約の重要事項について事実と異なることの告知がされた可分な部分、すなわちGMATコースおよび留学準備・手続きコースに限られるものと解するのが相当である。

 消費者契約法4条の不実告知による取り消しを理由とする不当利得返還請求権に基づくXの請求は本件受講契約のうち、GMATコースおよび留学準備・手続きコースの支払済み合計金220万5525円と遅延損害金の限度で理由がある。

2 特定商取引法49条の中途解約

 TOEFLコースが特定商取引法49条にいう特定継続的役務提供に当たることは、当事者間に争いがない。そして、Xが平成15年9月6日にYに対してした消費者契約法に基づく本件受講契約の取り消しの意思表示は、本件受講契約の中途解約の意思表示を含んでいるものと解されるから、本件受講契約の性質上可分であると認められるTOEFLコースについては、特定商取引法49条に基づく中途解約がされたものと認めることができる。

解説

 本件は、MBA(経営学修士)の資格を取得することを希望していた消費者が、「MBAコース(総合A、本科1)」の受講契約を締結したところ、勧誘の時点の役務の内容と現実とが異なっていたことから、サービスの内容と質に関する説明が事実と異なっていたことを理由に消費者契約法4条に基づいて取り消した事例に関するものである。

 二つのコースについては継続的なサービスが予定されておらず、GMATコースについて交付した教材は過去問題集のみで、3634円で市販されている模範解答付きのオフィシャルガイドの問題の一部抜粋に過ぎず、指導内容も○×(まるばつ)式の機械的採点とA4版一枚の簡単な講評のみで、留学に必要なすべてが確実になるような内容のものではなく、個別指導方式とはほど遠いものであり、145万余円の受講料に見合うものではなかったことから、消費者契約法4条の不実の告知に該当するとされた。

 本件の特徴は、消費者は、全体で「MBAコース(総合A、本科1)」一つの契約との認識で契約し、契約全体を取り消す通知をしたが、契約の申し込みの際には、TOEFLコース、GMATコース、留学準備・手続きコースの三つのコースごとに受講申込書を作成して申し込んでいたことから、裁判所は、可分な三つの契約によって構成されたものであり、個別の契約ごとに取消事由を判断すべきであると認定した点にある。ただし、裁判所は、重要事項の不実告知が認められなかったTOEFLコースについては、特定商取引法49条による中途解約の意思表示がなされたものと判断して中途解約による清算を命じた。

 なお、勧誘に不実の告知があったとするXの主張に対して事業者は、「仮にXの認識とYの提供するサービスとの間に不一致があったならば、Xは直ちに契約を解除しているはずであるのに、実際は受講終了間際になってから解約したのであるから、不一致のなかったことが推認される」と反論したが、裁判所は「Yの提供するサービス内容が当初の説明内容に沿ったものかどうかを見極めるために相当期間にわたって受講を継続したということは不相当であるとはいえない」として、事業者の上記主張は採用できないと判断した。事業者からのこのような反論は、相談実務において日常的に見られるものであるが、裁判所の判断は常識的な判断であるといえるものであり、相談実務においても参考となる。

参考判例

東京高等裁判所平成18年1月31日判決(判例集未登載 学習教材の訪問販売につき重要事項の不実告知を認定した事例)