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[2006年11月:公表]

中古オートバイ発火事件

本件は、消費者が中古オートバイを購入し、その引き渡し翌日に、走行中、同オートバイから火災が発生し、同オートバイが全焼したという事案につき、発火の原因が、プラグキャップの亀裂か緩みのいずれかによるもので、他の可能性はすべて否定でき、そのいずれかが火災原因と認められる以上、同オートバイに隠れた瑕疵(かし)があったと判断できるとして、購入代金相当額について販売店の損害賠償責任が認められた事例である。(東京地方裁判所平成15年1月28日判決)

  • 『判例時報』1829号90ページ
  • 控訴棄却

事件の概要

X(原告):消費者
Y(被告):中古オートバイ販売業者

 Xは、平成13年3月初め頃、中古オートバイ1台(本件オートバイ)を代金101万5000円で買い受け、同年4月6日、Yからその引き渡しを受けた。なお、本件オートバイは、中古の「レーサーレプリカ」を注文者のオーダーに従って改造、整備して引き渡したものである。

 Xが引き渡しを受けた翌7日午前9時頃、都内中央区月島の交差点手前を走行中、本件オートバイから火災が発生した。Xは信号待ちのため停車した後、対面信号が青信号となったので、アクセルをひねり、交差点に進入する手前まで数メートル進んだところ、両膝の内側脇付近からボッとアルコールランプのような炎が生じた。Xは本件オートバイを止め、手で払うように火を消そうとしたが、両足の間から勢いのある火が出たので、降りて積荷を取り外したとき、同オートバイから火柱が上がり、街灯、電線まで達し、さらにタンクが爆発音を発して地面に落下し、タンクに残った燃料と流れ出した燃料からも火柱が上がった。同オートバイは、後部とタイヤ部分を除いて、ほぼ全焼した。

 キャブレターは特に焼損が強く、エンジン部から焼け落ちており、キャブレターを車体の右側から左側へ順に1番、2番、3番、4番とすると、1番の焼損は弱く、4番の出口のほうが強く焼損し、内部に煤(すす)が付着していた。同日Xが本件オートバイに乗車した時間は40〜50分で、走行距離は約20キロであった。

 Xは、本件中古オートバイの火災は、タンクないし、燃料パイプから漏れた燃料に、スパーク電圧による放電が引火したものである。この引火の原因は、4番プラグキャップが、本件売買および引き渡し時にすでに劣化し亀裂が生じていたか、または十分にプラグ本体に差し込まれていなかったかのいずれかであると考えられ、これは本件オートバイの隠れた瑕疵に当たるとして、その購入代金相当額の賠償を求めた。

 これに対し、Yは、事故後の本件オートバイにプラグキャップの亀裂がみられたことから、本件火災の原因はタンクからの燃料漏れにプラグキャップの亀裂から引火したものとし、この燃料漏れとプラグキャップの亀裂は、引き渡し後、Xが運転等している際に、転倒ないし「立ちごけ」(停止している状態でバイクが倒れること)により生じたものであるなどとして、隠れた瑕疵の存在を争った。



理由

 中古オートバイの火災原因について被告が主張するように、本件火災より前に燃料漏れが生じていたとは認められるが、これをもって、転倒等があったとみることは困難であるうえ、Xが本件火災現場に至るまで転倒等が生じたことはなかったとする供述は信用できることなどから、結局、Yの主張する転倒等はなかったといわざるを得ず、かえって、本件火災前に本件オートバイが転倒等した事実はなかったものと認められる。

 出火原因判定書は、4番プラグキャップからのリークの可能性を認めていること、Xは火災直後における供述以来一貫して、対面信号が青となったので本件オートバイを発進させようとスロットルを開いた際に発火した旨述べていて、信用性が高く、同事実は動かしがたい事実であること、本件オートバイに取り付けられたプラグおよびプラグキャップは新品ではなく、劣化していた可能性は否定できないこと、ほかに火種の発生原因として考え得るものがすべて否定できること、Y主張のような転倒等はなかったことなどの事情を総合すると、本件火災の原因は、Xが走行中に漏れ出した燃料に、4番プラグキャップからのリークによって火災が発生し、点火したものと認めるのが相当である。

 上記リークの原因は、4番プラグキャップに亀裂が認められること、プラグキャップが劣化している場合には、緩み等が生じる可能性があること等に照らせば、劣化により4番プラグキャップに亀裂が生じていたか、または緩みが生じていたことによる以外にない。

 4番プラグキャップが上記のようなリークを発生させるものであったことが、本件オートバイの隠れた瑕疵にあたることは明らかである。なお、本訴において、火災原因として確認できるのは、4番プラグキャップの亀裂または緩みという点であるが、事実認定として他のすべての可能性を否定でき、そのいずれかが本件火災の原因となったことを認めることができる以上、これをもって瑕疵があったものと判断することには、何ら問題はないというべきである。

 Xは、本件オートバイの全損による損害として、その購入代金101万5000円と同額の損害を被ったものと認められる。



解説

 本判決に対しては、Yが控訴したが、東京高裁は、一審判決の理由をほぼ全面的に引用し、一審判決を支持して、Yの控訴を棄却している。

 本件においては、本件中古オートバイの瑕疵の有無、特に出火原因が何かが問題となった。本件は、本件中古オートバイ自体がほぼ全焼したため、事後的に検証して瑕疵の有無を特定することが困難な事案であり、消防署の火災原因調査書、火災原因判定書によっても、確固たる原因の判断はできないとされたため、Xに主張立証責任のある隠れた瑕疵の存在について、明確にその原因を特定して、主張立証することが難しい事案であった。

 本判決は、火災原因として、4番プラグキャップの亀裂か緩みのいずれかが原因であって、他のすべての原因は否定できるとして、火災原因の択一的認定により、本件オートバイの隠れた瑕疵を認めた点に意義がある。

 瑕疵や欠陥の認定は、瑕疵担保責任だけでなく、製造物責任においても問題となるが、被害者側は、当該製品についての証拠や専門的知見を有していないことから欠陥の具体的メカニズムまで解明できない場合も多い。このような場合、例えば本件において、出火原因がプラグキャップからのリークによるものであることまでが解明できた場合、リークが4番プラグキャップに亀裂が生じたためかまたは緩みが生じていたためかどちらか特定できない場合であっても、どちらの場合も瑕疵であるとして択一的認定ないし概括的認定をなして、欠陥を認定することは、被害者の立証を緩和することであり、また合理的なことであって、製造物責任の欠陥の認定にも活用できる立証方法である。

 なお、択一的認定ないし概括的認定を行った最高裁判例としては、いずれも医療過誤に関する判例であるが参考判例1および2がある。本判決は瑕疵の認定に関する判例であり、類似先例の見当たらないケースに対するものとしても参考となる。



参考判例

  1. (1)最高裁判所昭和32年5月10日判決『最高裁判所民事判例集』11巻5号715ページ
  2. (2)最高裁判所昭和39年7月28日判決『最高裁判所民事判例集』18巻6号1241ページ(1, 2とも、医療過誤事件ではあるが択一的認定ないし概括的認定をした事例)
  3. (3)東京地方裁判所平成16年4月15日判決『判例時報』1909号55ページ(ネットオークションで安価で落札された中古自動車につき、自動車の走行それ自体に危険をもたらすガソリン漏れは民法570条の「隠れた瑕疵」に当たると判断した事例)


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