[本文へ] 消費生活・消費者問題に関する事例や対処方法を紹介しています。

現在の位置 : トップページ > 相談事例・判例 > 消費者問題の判例集 > 建物の隣人との間にトラブルがあることについての不動産仲介業者の説明義務

[2006年9月:公表]

建物の隣人との間にトラブルがあることについての不動産仲介業者の説明義務

本件は、購入した建物について隣人との間にトラブルがあることを買い主に説明しなかった不動産仲介業者に、説明義務違反があったとして、不動産の価値下落分(売買代金の2割)の損害賠償が認められた事例である。(大阪高等裁判所平成16年12月2日判決)

  • 『金融・商事判例』1223号15ページ
  • 上告後和解

事件の概要

X(原告):建物の買い主(消費者)
Y(被告):不動産仲介業者
A(被告):建物の売り主(2人の個人)
B(関係者):不動産仲介業者
C(関係者):購入する土地の隣接地に住む者(個人)

 XとAとの間において、平成14年3月16日に、Aが所有する建物およびその敷地である土地を代金2280万円でXに売り渡す旨の契約が成立した。Xは、この建物を居住の目的で購入したものである。この売買契約は、いずれも宅地建物取引業者であるYおよびBの仲介で成立した。Yは、Aとの間の媒介契約に基づいてAのために売買の成立に尽力することとなったものであり、また、Bは、Xとの間の媒介契約に基づいてXのために売買の成立に尽力することとなったものである。

 Aは、平成11年10月に、この事件の土地と建物を購入した。その際、引っ越しの翌日に、隣地に住むCから、「子どもがうるさい」などと苦情があり、さらに洗濯物に水をかけられる被害があった。Xについても、売買契約締結後に、建物を訪れた際に、Cから、「あんたのガキうるさいんじゃ!」「Aみたいに追い出したるわ!」などと言われる事態となり、引っ越しを断念した。また、Yの従業員は、平成14年3月3日に、Xではない購入希望者とともに建物を内覧したことがあったが、やはりCが「うるさい!」と苦情を言い、購入話が流れていた。

 このような経緯から、Xが、Cとのトラブルがあるため建物が居住の用に耐えないとし、Yに対し、YのXに対する説明義務違反があったことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求として2800万円余の請求をしたのが、この事件である。第一審判決はXの請求を棄却した。これに対し、控訴審判決は、Yの説明義務違反により不法行為が成立することを認めた。ただし、Xの被った損害については、Cの存在による不動産の価格の低下を売買代金の2割相当であるものと認定し、その限度においてXの請求を認容している。



理由

 Yは、宅地建物取引業者として、売り主たるA両名の依頼により本件土地売買契約の仲介を行うに際し、買い主たるXに対して、本件売買契約における重要な事項について説明すべき義務を負う。そして、宅地建物取引業法35条1項は、一定の重要な事項につき、宅地建物取引業者に説明義務を課しているが、宅地建物取引業者が説明義務を負うのは同条所定の事項に限定されるものではなく、宅地建物取引業者は、購入希望者に重大な不利益をもたらす恐れがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される事項を認識している場合には、当該事項について説明義務を負うと解するのが相当である(宅地建物取引業法47条1項1号参照)。

 Xのように、土地建物を家族とともに居住する目的で購入しようとする者が、当該建物において平穏に居住することを願うことは当然であるから、当該建物の隣人から迷惑行為を受ける可能性が高く、その程度も著しいなど、当該建物において居住するのに支障を来す恐れのあるような事情がある場合には、そのような事情は当該建物を購入しようとする者に重大な不利益をもたらす恐れがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想されるというべきである。したがって、居住用不動産の売買の仲介を行おうとする宅地建物取引業者は、当該不動産の隣人について迷惑行為を行う可能性が高く、その程度も著しいなど、購入者が当該建物において居住するのに支障を来す恐れがあるような事情について客観的事実を認識した場合には、当該客観的事実について説明する義務を負うと解するのが相当である。



解説

 住宅の購入に際し、近隣の環境がどのようになっているか、ということは買い手にとっての関心事の一つであり、とりわけ隣接して居住する者が問題のある言動を繰り返すことで生活の平穏が脅かされることになるとすると、それは、法的な問題として取り上げなければならないものとなる。具体的には、不動産の取引に関与した宅地建物取引業者の説明義務違反の責任が、まず問題となる。

 もっとも、宅地建物取引業者の責任といっても、いくつか注意をしておかなければならない問題がある。(1)宅地建物取引業法が必要としている重要事項説明の明示事項の中に隣人の言動などが掲げられてはおらず(宅地建物取引業法35条1項参照)、しかも(2)重要事項説明をするべきものとされているのは宅地建物取引業者自身ではなく、そこに置かれている宅地建物取引主任者であり、また、そもそも(3)重要事項説明を怠るという行政取締法規違反が直ちに民事責任を肯定する決め手となるものではなく(宅地建物取引業法35条の重要事項説明義務違反に基づく行政監督処分を受ける可能性について同法65条2項2号)、また、(4)業者が売り手と買い手のどちらをサポートする立場にあるか、も一応は検討を要する。

 これらの理論的な諸障害のうち、まず(1)は、宅地建物取引業法35条1項の柱書(注1)に「少なくとも」とあるから、法文に明白に掲げられていなくても当事者が重視をする事項であることが事案の経過に即して明らかであるならば、説明の義務が肯定されるべきである。

 (2)は、法律上は別のものであるにしても、宅地建物取引業者とそこに置かれている宅地建物取引主任者は、一体として考えるべきである。いちいち履行補助者とか使用者責任のような法律的構成を挟まなくても、両者を区別せずに論じられることは少なくない。

 (3)は、たしかに行政取締法規違反と民事責任は理屈のうえで別であるとしても、後者を判断するうえで、重要事項説明義務違反ということがもつ意味は重い。

 そして、そのことは、(4)の業者の関与の態様の論点にも関係する。売り手との間で媒介契約を結び売り手をサポートする業者を元付といい(この事件のY)、同じく買い手側の業者を客付という(この事件のB)が、問題は、重要事項説明をめぐるトラブルが、しばしば買い手からみて直接の契約関係にない元付との間で起こることである。そこでの不法行為責任を考えるに当たり、しかし判例は、この点について、専門家としての責任を加味した「業務上の一般的注意義務」(最高裁昭和36年5月26日判決(参考判例3)(注2) として、決して軽くはないものとしてとらえている。この事件もまた、専門家責任を認める方向での事例を一つ加えるものにほかならない。

 なお、本件は、売り主が事業者でないから、たとえ近隣事情が消費者契約法にいう重要事項に当たる場合であっても、同法に基づいて契約を取り消すことはできない。仮に売り主が事業者であった場合には、重要事項について、元付業者による不利益事実の不告知があり、これによって消費者が誤認して売買契約が締結されたならば、買い主たる消費者は、消費者契約法4条2項・5条に基づき売買契約を取り消すことができる(松本恒雄・畔柳達雄・高崎仁著『Q&A消費者契約法解説』(平成12年、三省堂)、21ページ松本恒雄氏のいう「不動産仲介業者が、分譲業者の委託を受けて、消費者に新築マンションの販売を媒介する場合」と同じ)。

 なお、この場合の元付業者・売り主間の媒介契約を買い主は取り消すことができないことが強調されることがあるが〔経済企画庁国民生活局消費者行政第一課編『逐次解説 消費者契約法』平成12年、商事法務研究会、121〜124ページ〕、むしろ重要であるのは、この事件でも問題とされている買い主から元付業者に対する損害賠償請求の可能性である。

注1
柱書:「号」がある条項のうち各号以外の部分
注2
参考判例(3)において、最高裁は、宅地建物取引業者につき、「直接の委託関係はなくても、業者の介入に信頼して取引をなすに至った第三者一般に対しても、信義誠実を旨とし、権利者の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務がある」と判示した。



参考判例

  1. (1)東京地方裁判所平成7年8月29日判決  『金融・商事判例』1012号27ページ
  2. (2)東京地方裁判所平成9年10月20日判決 『判例タイムズ』973号184ページ
  3. (3)最高裁昭和36年5月26日判決『最高裁判所民事判例集』15巻5号1440ページ


参照条文

*宅地建物取引業法35条1項(柱書)
「宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(略)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、取引主任者をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。」

*宅地建物取引業法47条1項1号
「宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一  重要な事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為 」



消費者問題の判例集トップページへ

ページトップへ