独立行政法人国民生活センター

検索メニュー

×閉じる

現在の位置:トップページ > 相談事例・判例 > 消費者問題の判例集 > 振り込め詐欺の被害者に対し振込先口座の預金に対する債権者代位権の行使を認めた事例

ここから本文
[2006年6月:公表]

振り込め詐欺の被害者に対し振込先口座の預金に対する債権者代位権の行使を認めた事例

 本件は、いわゆる振り込め詐欺の被害者が、振込先口座から振込金相当額を取り戻すことを認めた事例である。振込先口座の預金者に対する不当利得返還請求権を被保全権利として、預金者の銀行に対する預金返還請求権を代位行使すると法律構成することにより、取り戻しを認めたものである。(東京地方裁判所平成17年3月30日判決)

  • 『判例時報』1895号44ページ
  • 確定

事件の概要

X1〜5(原告):消費者
Y1〜4(被告):都市銀行
A〜D:振込口座の預金者(氏名不詳)

 X1〜4は、それぞれ、「オレ、オレ」などと名乗る氏名不詳の者から電話を受け、その者が自分の子ないしは孫であると誤信し、「交通事故を起こしたから示談金を支払う必要がある」などとして、それぞれ20万円から約101万円を指定口座に振り込むように指示された。X5は、氏名不詳の者から電話で借金の返済をしてほしいと何度も語気鋭く申し向けられ、3万9000円を指定口座に振り込むよう指示され、自分がもともとしていた借金に関する電話であると誤信した。Xらは、このように誤信ないし畏怖した状態に陥ったうえ、それぞれ氏名不詳者の指示どおり、Yら銀行のそれぞれABCD名義の普通預金口座(指定口座)に現金を振込入金した。その後、これらの口座は、いずれも取引が凍結された。
 Xらは、それぞれ、電話をかけてきた氏名不詳者に対して、何らの債務を負っていないにもかかわらず、その氏名不詳者からの脅迫的言辞ないし欺罔行為に基づき、畏怖状態ないしは誤信状態に陥り、これにより氏名不詳者の指示した銀行口座に金銭を振り込んだものであって、それぞれ振込額と同額の不当利得返還請求権を有している。そして、当該氏名不詳者が振込先口座を有しているものであり、氏名不詳者の財産はほかには見当たらない。
 そこで、Xらは、Yらに対して、各口座の氏名不詳者の預金債権からXらがそれぞれ振り込んだ金額相当額についての返還をするよう求めて訴訟を提起した。支払いを求める根拠としては、銀行の不当利得になるとして不当利得返還請求権を主張するとともに、予備的に氏名不詳者に対する不当利得返還請求権を保全するための債権者代位権(注1)に基づく請求であることを主張した。

理由

1 銀行Yらに対する不当利得返還請求について

 Yらは、いずれも口座名義人に対して預金返還債務を負うものであるから、Yらには、いずれも利得はない。したがって、銀行に対する不当利得返還請求は、理由がないことは明らかである。

2 預金返還請求権の代位行使に基づく支払請求について

 Xらは電話をかけてきた氏名不詳者らに対して振込金と同額の不当利得返還請求権を有し、その氏名不詳者が振込先として指定した各銀行口座を所有しているものと認められるところ、所在も明らかでない氏名不詳者に対して直接債務名義を取得する方法は現行法制上存在しないし(注2)、当該氏名不詳者の財産と認められるものは上記各口座についての預金払戻請求権以外には見当たらないのであるから、Xらとしては、自己の不当利得返還請求権を保全するには当該預金払戻請求権を代位行使するほかなく、保全の必要性は優に認められる。
 以上によれば、Xらはそれぞれ口座名義人に対する不当利得返還請求権に基づいてYらに対する預金返還請求権を代位行使することができる。

解説

 本件はいわゆる振り込め詐欺に関する事案である。振り込め詐欺とは、氏名不詳者が、消費者の親族を装い交通事故などを起こしたため示談金が必要になったなどの虚偽の事情を説明して、現金の振り込みを要請するいわゆる「おれおれ詐欺」、もともと存在しない債権があるかのように主張して債権者を装って弁済名目に金銭の支払いを強要する「架空請求」等の総称である。振り込め詐欺の特徴は、相手を特定することが困難である点にある。
 振り込め詐欺は、本来支払うべき根拠がないにもかかわらず、誤信させたり畏怖させたりして支払わせるので、不法行為による損害賠償請求や非債弁済(債務が存在しないにもかかわらず存在すると考えて弁済してしまうこと)として不当利得返還請求の対象となる。ただし、加害者の特定ができない場合には、被害救済は困難であるのが一般的である。
 しかし、消費者が振り込むよう指定された銀行口座に預金が残っている場合には、預金口座から払い戻すよう請求することによって被害を回復することができる余地がある。こうした場合には、預金口座の名義人に対して支払請求を行う方法が原則的なものである。具体的には、銀行に対して当該預金口座の開設者についての開示を求めたうえで、口座名義人に対して請求する。ところが、預金開設者が開設手続きの際に偽名を用いるなどしているために特定することができず、実在するかどうかも明確ではない場合には、口座名義人に対する訴訟を提起することも困難となる。
 本件は、そのようなケースについて、銀行自体に対する不当利得返還請求については、銀行は預金者に対して払い戻す債務を負担しているとして否定したが、預金名義人に対する不当利得返還請求権を被保全債権として預金名義人の銀行に対する預金返還請求権に対する債権者代位権の行使を認め、消費者の請求を全額認容することによって、救済した事例である。もともと債権者代位権においては、第三債務者である銀行を被告とすることができるために、振り込め詐欺のように加害者である相手方の特定が困難な事例であっても、振込先銀行の特定が可能であれば訴訟を提起することができ、救済が可能となるわけである。
 なお、債権者代位権を行使するためには、債務者がほかには無資力であることが必要と考えられている。本件の振り込め詐欺に関する事案では、加害者が不明であるために現行法制度上では債務名義取得の方法がないなど損害を回復する方法がないケースについて、加害者の財産と認められるものは証拠上振込口座についての預金払戻請求権以外の財産は見当たらないという事情に着目して保全の必要性を認めた点に特殊性がある。
 消費生活センター等の相談業務においては、消費者が振込直後に振り込め詐欺であることに気づいた場合には、銀行と警察に連絡して口座を凍結するよう助言する必要がある。ただし、凍結できたとしても、銀行が振り込みをした消費者にそのまま返還しないケースもある。その場合には、速やかに訴訟などの手続きを検討するよう助言する必要があるであろう。

注1
 債権者代位権
  債権者が債務者の権利を債務者に代わって行使する権利のこと。
 民法423条
  「債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる」

注2
 本判決は、「所在も明らかでない氏名不詳者に対して直接債務名義を取得する方法は現行法制上存在しない」ことを前提とするが、口座名義人を住所・漢字氏名不詳のまま提訴し、債務名義を得た判決として、長野地方裁判所松本支部平成16年12月9日判決(『消費者法ニュース』66号195ページ)等がある。

 なお、住所・漢字氏名不詳者を提訴することに関し、銀行が弁護士法23条の2に基づく照会に対して口座名義人の氏名および住所の報告を拒否し、それゆえ訴状に被告の住所・氏名を記載することができなかった場合にも、裁判所が、これを理由として訴状却下することは許されず、調査嘱託を行う義務を負うとした決定(名古屋高裁金沢支部平成16年12月28日決定、判例集未登載)、一定の要件を満たす場合には、銀行は口座名義人の氏名および住所を報告すべき法的義務があるとした判決(大阪地裁平成18年2月22日最高裁ホームページ)がある。

 弁護士法23条の2
 「弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。」

参考判例

本件と同じく債権者代位権の行使による取り戻しを認めた事例として、

  • 東京地方裁判所平成17年3月29日判決(『金融法務事情』1760号40ページ)。


 口座名義人に対する不当利得返還請求として取り戻しを認めた事例として、

がある。