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[2006年2月:公表]

連鎖販売取引において書面不備を理由としたクーリング・オフが認められた事例

 本判決は、連鎖販売取引について、消費者へ交付した書面に研修参加費などの特定負担の記載がなかったため、特定商取引法37条2項の要件を満たさない書面であるとして、クーリング・オフを認めた初めての判断である。ただし、連鎖販売業者に、不実告知、断定的判断の提供、退去妨害などの違法な勧誘行為があったとの主張、およびクーリング・オフを申し出たにもかかわらず事業者がこれを拒絶したため、裁判で争うことにまでなったとの主張に基づく慰謝料請求までは認められなかった。(京都地方裁判所平成17年5月16日判決)

  • 判例集未登載

事件の概要

X1、X2(原告):消費者
Y(被告):連鎖販売業者
A、B:Yの代理店

 X1は、京都市内に勤務する公務員、X2はその母である。X1は、平成15年5月、合コンパーティーでAと知り合い、3日後に食事をした。その際に、Aが本業のピアノ教師の傍らサイドビジネスとして「ネットワークサービス」をしていることなどを聞かされ、「まだ世の中に出ていない新規事業だから、今のうちに入っていたほうがいいと思う」と誘われた。その後、「明日良い話があるから、ハンコと身分証明書を持ってきてほしい」と言われ、大阪市内のホテルで代理店と名乗るBを紹介された。1階ティーラウンジでYの事業内容、特にファクスを使ったクローズド・インターネットサービスをMというファクス機器によって広めることを目的としていること、これはマルチ商法ではなく「ネットワークビジネス」であってMを普及させることによって「21世紀の生協」を作ろうとしていること、Mはホストターミナル方式のインターネット端末で、そのインターネットを管理するホストコンピューターは大手電話会社がこれまで44億円をつぎ込んで開発し維持していること、2007年までに100万の代理店を獲得し、将来的には1000万世帯にMを普及させようと考えていること、Mはファクスベースなのでパソコンと違って誰でも簡単にインターネットができ、近い将来手書きしたものをそのままコンピューターが認識できるようになったり、必要な情報を簡単に引き出せるようになるなどと説明をして、Mの購入と入会、代理店登録を勧めた。

 X1は、費用が合計40万円以上になることや具体的にどうすれば資金の回収ができるか分からなかったため、「考えさせてほしい」と言ったが、「Mを使ってすごいことをしようとしている」「疑う余地はない」「今入っておかないと損だ」などと繰り返され、2時間半に渡る勧誘を受けて入会申込書と代理店登録申込書に署名捺印した。その後、X1は、Aに誘われて事業説明会、研修会などに参加し、それぞれ1000円を支払った。

 またX1は、代理店として勧誘活動をすることによって、公務員である自分が多額の報酬を得ることを防ぐために、親族をダミーにする方法があることを教えられ、X2を自己の系列の独立の代理店とするために「ファクスのように簡単に使えて、メールのやりとりやインターネットができる機械がある」と勧誘して、X2名義でM購入契約と入会契約、代理店契約を締結させた。

 その約6カ月後、Xらはクーリング・オフの申し出と消費者契約法による契約取消の意思表示をした。しかし、Yが応じなかったため、Xらは特定商取引法40条に基づく契約解除による原状回復、または消費者契約法4条に基づく契約取消による不当利得の返還として返金を求めたものである。



理由

 X1がYとの間で締結したM購入契約、入会契約および代理店契約のうち、購入契約と入会契約は、M自体が会員に対する通信情報サービスを利用するための専用の端末であり、M購入契約書も入会申込書と一体となっていることなどを考え合わせると、両者は一体の契約というべきである。さらに、会員資格と代理店資格とが原則として一致していること、代金の支払いは会員資格および代理店資格の継続のために必要とされているほか、代理店として各種報酬を得るための前提とされていることなどを総合すると、代理店契約もまたM購入契約および入会契約と一体の契約ということができる。つまり、これらは全体として連鎖販売取引と認められる。

 連鎖販売取引における特定負担とは、「その商品の購入若しくはその役務の対価の支払又は取引料の提供」(特定商取引法33条1項)であり、取引料とは「取引料、加盟料、保証金その他いかなる名目をもってするかを問わず、取引をするに際し、又は取引条件を変更するに際し提供される金品」(同3項)であるが、上記特定負担は、明示的に取引の条件とされているものに限らず、取引の実質に着目して、連鎖販売取引に伴い再販売等を行う者が負うあらゆる金銭的負担が含まれるというべきである。したがって、再販売等をするために必要な物品を購入する場合の代金や、研修参加費用等の金銭負担は、特定負担に当たると解するのが相当である。

 また、当該販売組織に入会する時点で負担させられるものに限らず、組織に入会後、実際に商売を始めるために別途何らかの金銭的負担をすることが前提となった契約である場合には、その負担も特定負担に該当するというべきであり、さらに、特定負担が、その名称を問わず現実の取引に伴う負担か否かという実質面に着目した概念であることからすれば、形式的には参加者の任意の金銭負担とされているものであっても、現実の取引実態からみて、当該連鎖販売取引に参加した場合に拒むことのできない金銭負担は、特定負担に当たるというべきである。

 本件契約書面は、特定負担の記載を欠き、特定商取引法37条2項の要件を満たさないから、Xらが契約解除の意思表示をした当時、いまだクーリング・オフ期間は経過していなかったものというべきであり、上記解除はいずれも有効と認められる。



解説

 本件は、ファクスなどの機能を持つ情報通信機器の販売、これと一体となった情報提供サービスに関する会員契約を締結させることによって代理店になるように勧誘をし、代理店となった者は、その後も有料の事業説明会や研修会に参加しながら勧誘活動を行い、勧誘した者が自分の系列の代理店となった場合には報酬が得られる、というしくみの取引に関する事例である。

 本件判決では、これらの実態を把握し、これは連鎖販売取引に該当すると認定したうえで、入会後に有料で受講しなければならない事業説明会や研修の費用も特定負担に当たるものであるから、概要書面や契約書面に記載しなければならないと義務づけられている法定記載事項であると判断。消費者に交付されていた契約書面には、入会後の研修費用などの費用負担について記載されていなかったことから、特定負担についての記載が不備であり、クーリング・オフ期間は経過していないとして、契約締結後、それぞれ7カ月後と6カ月後に行った契約解除の申し入れについて、クーリング・オフの効果を認め、XらがYに支払った金員全額の返還を命じた。

 特定負担についての判断と、すべての特定負担の記載がない場合にはクーリング・オフ期間の起算日が到来していないとする指摘は、連鎖販売取引に関する事例の処理に参考となるであろう。

 なお、Xらは、Y代理店であるAおよびBから違法な勧誘を受けたこと、また、Yが速やかに既払金の返還に応じなかったため、訴訟において全面的に争うことになったことにより、精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償も請求しているが、いずれも認められていない。

 まず、Xらが、勧誘行為に、不実告知、断定的判断の提供、退去妨害、および重要事項説明義務違反等の違法行為があったとの主張については、裁判所は、Xらが主張するYらの行為については抽象的な言明であり断定的判断とは認められないとし、不実告知や重要事項説明義務違反とX1の契約締結との因果関係も否定。退去妨害の主張も認めがたいとし、報酬等に関する事実の不告知を根拠とする不法行為の主張も採用できないとした。

 また、Yらが、Xらのクーリング・オフの請求を受けてこれを拒絶し、裁判で争った行為については、「クーリング・オフの請求を受けてこれを拒絶し、提訴後もこれを争って応訴する行為に違法性が認められるためには、当該行為が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くことが認められる場合であることを要すると解するべき」であると指摘しつつ、本件では「裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くことを基礎づける事実を認めるには足りない」と判断した。

 なお、同一業者による同じ連鎖販売取引事案についての判決である、津地方裁判所松阪支部の判例(参考判例)では、(1)Mの価格が相場の10倍以上と高額、(2)勧誘が誇大、(3)報酬のしくみが著しく射幸心をあおるしくみである、(4)説明内容や説明資料が理解困難であり、多数の契約関係が複雑で難解であるにもかかわらず、対象者は主婦・学生などであって適合性に欠ける、(5)保険業法違反の疑い、(6)書面交付義務違反、(7)重要事項説明義務違反、(8)断定的情報の提供、(9)違法な勧誘について各地で苦情申し立てがなされている、などの事実を総合して、取引自体を公序良俗違反と認定しており注目に値する。ただしこの参考判例は、クレジット会社からの請求に対して、契約の無効を理由に請求を認めない根拠として、公序良俗違反を認定しているのであって、不法行為に基づく損害賠償責任を求めた事例ではないので、注意が必要である。



参考判例

津地裁松阪支部平成17年7月15日判決(判例集未登載)



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