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[2005年10月:公表]

呉服のクレジット契約における名義貸し

 本件は、呉服のクレジット契約を締結した消費者に対して、販売業者が支払金額が安くなる変更手続きの書類である旨の虚偽の説明をして署名捺印させ、信販会社からの確認電話にも「はい」と回答するよう指示したが、実は、資金繰りのため新たな呉服のクレジット契約書での空売りであったケースについて、消費者は誤信して署名捺印したものであり、支払い義務はないとして信販会社の請求を棄却した事例である。(福岡高等裁判所判決平成16年7月6日)

  • 「消費者法ニュース」62号173ページ(要旨)
  • 控訴棄却(確定)

事件の概要

X(控訴人):信販会社
Y(被控訴人):消費者
A(関係者):Xの加盟店
B、C(関係者):ともにAの従業員

 Yは、昭和24年生まれの主婦であるが、平成9年頃、Aの従業員をしていたYの友人が、Aの営業担当者を連れてY宅を訪れた。その後、BとCが、月1回程度Y宅を訪れ、商品の購入を勧めるようになった。Yは、Cらに対して、まもなく退職するので退職金が入るとか、翌年娘が結婚するという話をしたところ、翌10年秋頃より、BとCは頻繁にY宅を訪れ、商品の購入を強く勧めるようになった。そこで、Yは退職金から呉服購入資金を出してくれるよう夫に頼み込み、現金で呉服を購入した。

 その後も、BとCはYが自宅に一人でいることを電話で確認のうえで訪問するようになり、Yが忙しいと断っても、半ば強引に上がり込んで居座り、商品を置いていったりして強引に商品の購入を勧めた。Yは執拗な勧誘に辟易して、断ろうとしたが、BとCは家族が帰宅する直前まで居座り、辞去しようとせず執拗に商品の購入を勧めた。根負けしたYが購入を承諾すると、次々と他の商品の購入も勧め、結局100万円を超えるクレジット契約を締結させられた。

 平成11年に、CはY宅を訪問し、金利が安くなるので契約を組み替えようと言い、白紙のクレジット契約書に署名捺印するよう求めた。「支払金額が安くなり得になる、何の問題もない、信用して契約書にサインだけするように」などと説明し、YはCの説明を信用して署名捺印した。Cは、前回購入した商品とは別の商品名を契約書に記載していたが、Cは組み替えの手続き上のことで後の処理はきちんとAがするので問題はない旨説明し、Yもその旨信用した。Cは、信販会社から組み替えの確認電話が入るので「はい」という返事だけするように、また、今後信販会社から問い合わせや通知が来たら、Aで処理するのですべてCに渡すようになどと指示し、Yはこれらの指示に従った。その後も、Cは同様にしてYに対しクレジット契約書への署名捺印を求めた。

 Yは、これらの契約書に記載された商品を受け取っていないし、引き渡しを求めたこともない。その後、Xから商品の引き渡しの有無、残金に関する文書による問い合わせがあったが、YはこれをCに告げ、Cの指示により商品は受け取った旨回答した。  Aは、平成13年12月頃音信不通となり、AからXに対する返済がされなくなったため、XはYに対し提訴したが、原審では「本件契約書は本件立替払契約締結の意思表示を認定する証拠とはいえない」としてXの請求を棄却したため、Xは控訴した。争点は、本件立替払契約の成否、本件売買契約の錯誤無効の成否、支払い停止の主張は権利の乱用に当たるかであった。



理由

 高裁でも、Xの本件請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がなくこれを棄却すべきものと判断された。

(1)立替払契約の成否について

 本件契約書の中に存するYの署名および捺印が真正なものであることは、当事者間に争いがないから、本件契約書のY作成名義部分は、真正に成立したものと推定される。このように真正に成立したものと推定される契約書によれば、本件立替払契約の成立が認められ、これに記入された商品に関する立替払いの委託を内容とするYの表示行為が存在することは明らかであるから、Yの「契約意思はなく本件立替払契約は成立していない」とする主張は採用できない。

(2)売買契約の錯誤無効について

 YとAとの間の売買契約については、YがAに従前のクレジットの組み替えのために必要であると告げられ、組み替えのために必要なものと誤信したのであり、本判決におけるYの本人尋問の結果からうかがえる契約内容についてのYの理解の程度からしても、その表示行為の意味内容に関し、表示上の効果意思と真意(内心的効果意思)との間に食い違いがあり、これが意思表示の重要な部分に相当する要素の錯誤に当たることは明らかである。したがって、本件売買契約は錯誤により無効であるというべきである。

 販売店であるAは、Xのみでなく他の信販会社との間でも多数の空売り契約問題を起こし、本件各契約もその一環であること、BとCは、Aが信販会社から立替金を不正に取得する目的の下、Yに対し、執拗に商品の購入方を勧め、勧誘を断り難い状態に追い込み、かつ、Yを十分に信用させたうえで、一連の取引の中で、本件立替払契約がクレジットの「組み替え」のための手続きであると偽ったこと、が認められ、YがXの資金繰りに協力したり、BとCの上記不正な目的を認識していたことはうかがえない。

 これらの事実に照らすと、Yの抗弁の主張を権利乱用ないしは信義に反する行為と評価することはできず、ほかにこのように評価できる証拠はないから、Xの権利乱用の主張は理由がない。よってYは割賦販売法30条の4により、本件売買契約の錯誤による無効をXに対抗できるというべきである。



解説

 本件は、商品を購入する意思のない消費者に対して、クレジット契約の組み替えのための書類であると偽って呉服購入のためのクレジット申込書に署名捺印させた事例に関するものである。この種のケースは、消費者には商品を購入する意思がないにもかかわらずクレジット申込書に署名捺印しているという観点から「名義貸し」と呼ばれることがあり、また商品を販売していないにもかかわらず売買契約があったかのように偽ってクレジット契約の外形を装っているという視点から「空売り」と呼ばれることもある。消費者が売買契約を締結する意思がないのにクレジット申込書に署名捺印するケースには、加盟店の勧誘の仕方や消費者の関与の仕方などによってさまざまなタイプのものがある。

 本件の特徴は、執拗な勧誘にもかかわらず、それ以上購入しない消費者に対し、消費者が従来から締結していたクレジット契約の支払い条件を楽にする組み替えのための書類であると加盟店が偽って署名捺印させているという事情がある点で、このような経過によるケースは従来の裁判例の中では他にあまり見受けられなかったタイプのものである。消費者は、加盟店が資金繰りに困りクレジット会社から立替金を引き出す目的を持っていたことはまったく知らず、クレジット会社に損失を与える危険性があることも知らなかった。

 原審判決は、加盟店従業員による勧誘の執拗性、組み替えのための契約書であると虚偽の事実を申し向けその旨誤信させて署名捺印させたものであるという事実から、消費者の署名捺印がある契約書であっても立替払契約の締結の意思表示を認定する証拠とはいえないとして、契約の成立を認めなかった。本件判決は、署名捺印が消費者本人のものであるから本件契約書は真正に成立したものと認められること、契約書の様式自体、Xとの間での立替払契約の趣旨であることが明らかであること、消費者自身が署名捺印後に消費者の了解の下に商品名等を業者が記入していることなどから、消費者の表示行為およびこれから推断される表示上の効果意思が存在することは明らかで、契約不成立との消費者の主張は採用できないと判断した。

 ただし、加盟店の組み替えとの虚偽の説明を信じて署名捺印したという事情から錯誤無効の主張は認め、さらに消費者が加盟店の資金繰りに協力したり、加盟店従業員の不正な目的を認識していたことはうかがえないことから、支払い停止の抗弁の対抗ができると判断して消費者への請求はすべて棄却した。類似のケースの相談処理において参考になると思われる。



参考判例

  1. (1)福岡地裁平成15年10月31日判決 判例集未登載(原審)
  2. (2)釧路簡裁平成12年3月23日判決 判例集未登載、釧路地裁平成11年12月28日判決 判例集未登載(ともにいわゆる三善屋事件。信販会社には消費者に対する契約意思確認および加盟店に対する信用調査等をなすべき付随義務があるにもかかわらず、これを怠った過失があるとして契約した年により3割から5割5分の過失相殺をした)
  3. (3)福岡地裁昭和61年9月9日判決 『判例時報』1259号79ページ(いわゆる日本ビデコン事件。消費者に1割の支払いを命じた)
  4. (4)東京地裁平成2年10月25日判決 『判例タイムズ』752号184ページ(いわゆる日本自動車ナック事件。消費者に1割の支払いを命じた)
  5. (5)大阪地裁平成11年1月28日判決 判例集未登載(過去3回にわたり消費者に名義貸しをさせた事案で、信販会社は加盟店を契約締結に当たり手足として使っていたものであるとして6割の過失相殺をした)


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